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続47 軽装勇者は髪の毛に挑む

しばらくして米太郎達が戻ってきた。皆さんどことなく気まずげな顔して恐る恐るといった感じに部屋の中に入ってくる。それに対して俺と春日は、


「おーす、おかえり」

「……仲良いなお前ら」


ソファーに二人並んで座ってテレビを鑑賞中、ダラダラとしています。米太郎よ、これが俺達だ。多少のことで喧嘩したりしないんだよ、ちょっと時間があればすぐに仲直りさ。まあそのちょっとの時間で背中は傷だらけで両頬は赤く腫れてしまうが。春日も落ち着いてくれたようで今は無言でテレビをじぃーっと見ている。ちなみに見ている番組は『追跡中』という芸能人が鬼となって逃げ足の速い子供やアスリートや猫、犬を追いかけて捕まえるというパロディな企画モノ。まだ人間は捕まえやすそうだが、猫や犬なんて動物を捕まえるのは至難の業だな。番組のどこに琴線が触れたのか知らないが春日は何も発さずにテレビに釘付けだ。


「おかげ様でね、よくも逃げやがったな」

「だって修羅場になりそうだったじゃーん」


何を言いやがる、原因はあなたの決めたテーマのせいでしょうよ。下の名前で呼んであげるという最終手段を使って春日の機嫌を損ねずに済んだが、あまりこの子を刺激しないでもらいたい。ジト目で睨みつけてみるが、水川はテヘペロとウインクするだけで反省の色なし。くっ、こいつ……いつか同じ目に遭わせてやるからな。と言いたいが言葉による暴力は水川の得意分野、そのフィールドで満足に毒舌も使えないんじゃ勝てっこない。生兵法は大怪我のもと、カウンター食らって終わりなのが関の山。はぁ、もういいよ。結果的には春日とイチャイチャ出来たから。これは絶対に言わないけど。


「そういえばまー君は中学校の頃、付き合っていた人がいたんだよね。ずっと前家にお邪魔した時そんな形跡を見たの忘れていたよ」

「そういえば火祭は俺の部屋を荒らしたことがあったな」


はいはい元カノのことはもういいじゃないですか。あまりその辺追究しようとしないでもらえます? その人とは中学卒業と同時に別れてそれっきり会ってもいないのだから。……そっか、あれからもうすぐ二年か。元気してるかなー、あいつ。


「じゃ気を取り直して、兎月もう一回サイコロ振って」

「えっ、まだするの?」


嫌がる素振りをアピールしたが水川はそれを無視して再びサイコロを投げつけてきた。今度はちゃんと空気読んでまともな話題振れよ。と言っても振るのはサイコロで運任せなんだけどなー、っと。仕切り直しということでサイコロを床へと落とす。せめて話しやすいお題になってくれ。


『初めてキスした話』


「よっしゃ、皆風呂入りいこーぜ!」

「兎月声大きい、というか今何の目だった?」


うるさい、いいからお風呂入ろうや。なんだよそのテーマ、さっきの『初めて○○した話』と傾向一緒じゃねーか。さっき以上に話せない内容だわ。あぁっ? 今でも覚えている、というか一生忘れることの出来ない出来事だよファーストキスは。相手は元カノじゃない、だが春日でもない。今俺の目の前で顔を真っ赤にしている火祭だ。春日に告白する十分ほど前に火祭から告白されて断るのを躊躇っていたら業を煮やした火祭によって唇を奪われたのが俺の初めてキスした話だ。それを今ここで話せってか、ふざけちゃいけないよおい! 幸い水川に出た面を見せる前にサイコロを蹴り飛ばしたので強制的に話されることはないと思う。……火祭は見たみたいだけど。そりゃあなたは顔赤くするよね、俺だって気まずくてそちらの方直視出来ないし。春日にもバレていない、というか春日はテレビに夢中だ。


「春日さん知ってる? あの猫って番組が用意したサクラなんだよ」

「……桜?」

「いや火祭のことじゃなくて」


米太郎と一緒にテレビを見てくれていたおかげでこちらには目も向けていなかったみたい。春日に『初めてキスした話』をしようものならまた泣かれて今度は全身が真っ赤になるくらい殴られそうだよ。……あの時は本当に心臓が潰れたなぁ、自分のヘタレが心底嫌になった瞬間でもあった。とにかくそんな甘酸っぱいお話をしたくはありません。


「えぇー、どんな○○話だったのよ。変なのは書いてないはずなんだけどぉ」

「変ではないけど俺の顔面が変になるのが書いてあったわ。いいから一旦終わろうぜ、また後で話すとして入浴タイムにしましょうよ」


良い具合に夜も更けてきたことだし、そろそろお風呂入りましょうや。今日は移動して一日中遊園地で遊んだわけだし皆さん疲れたでしょ。一旦リフレッシュして深夜のトークの為に気力を温存してさ、そんな感じでいいっしょ? 個人的にそろそろお風呂に浸かりたい気持ちが増してきたので普通に入浴タイムにしたいです。


「じゃあまー君、また後でね」

「仕方ない、美保梨行くよ。あ、土守さんまだ電話しているんだった、呼びに行かないと」

「兎月さん、バイバイ!」


火祭が先導して部屋を出てくれた。あ、ありがとう火祭ぃ、良いお湯を~。さて、女性陣はお風呂入り行ったし、俺と米太郎も風呂の準備しようと思うが……あっ、まだ一人残っていたわ。


「……またCM」

「最近のテレビはこんなものさ、のんびり見よ~」


皆は部屋を出たというのに春日はそれに気づかずにテレビに夢中、米太郎と仲良くダラダラしている。おいおい、あなたもお風呂行くんですよ。また後で見ればいいって、どうせCMばかりでお風呂入った後でもまだやっているって。


「ほら春日、皆もうお風呂行ったよ。行きなさい」

「……うん」


素直に言うことを聞いてくれたお嬢様はスッと立ち上がって部屋から出ていった。こんな風にサラッと応答してくれることもあれば何言っても振り向いてくれない時もある。なかなか気難しいお嬢様だ、おまけに無表情で考えてることも読めない。ま、そこに惚れたんですけどねっ! うっわ、ノロケ気持ち悪っ。それはそうと米太郎くぅん?


「どうした将也、そんな怖い顔して」

「何テメー人の彼女に馴れ馴れしく話しかけているんだよコノヤロー」

「ひでぶ!? べ、別に話すくらいはいいだろ」


うるせー、こっちが必死になって作り上げたほんわか空気にズカズカと入り込んでさらには春日の近くで一緒にテレビ見るなんて許してたまるか。お米はお米らしく無視されて腐ればいいんだよ、それがお前らしさだろアイデンティティーだろ。こう見るとやっぱり米太郎は春日の中で他の男子よりランクが上だな、一応は彼氏の親友ポジションにいることだけある。な~にが話すくらいはいいだろ、だ。ワタクシみたいな汚ねぇお米に慈悲深いお言葉ありがとうございます、だろ。お前みたいな農民が人生の勝ち組であられるお嬢様の半径十メートル以内で会話させてもらえること自体ありえないんだよ。それ言うと庶民の俺がお嬢様と付き合っていることも十分にありえない話だけどさ。運命の歯車って凄いよね!


「いいからテメーはさっさと風呂入ってこい」

「将也、そこは『先にシャワー浴びてこいよ』って言えよ」

「なぜお前相手に言わなくちゃいけないんだ、いいから早く行け」

「へーい」


そう言って米太郎はその場で服を脱ぎ捨てて浴室へと向かっていった、全裸で。やめろやめろ、そんな汚い愚息を見せるな。ここは見た目通りの高級なホテルだが、どうやら大浴場といった温泉設備はないようです。なので部屋にあるシャワールームで疲れを癒そうではないかーってわけですよ。先ほど春日と一緒にテレビを見る前にお湯は沸かしてあるので問題ない、宿題は忘れても自分のしたいことはしっかりするのが俺のジャスティス。今日は何かと疲れたからな、湯船に浸かって癒されたいよ。欲を言えば金田別荘みたく大浴場で盛大に風呂を満喫したいが贅沢を言える立場じゃないし十分に贅沢させてもらっている。ちなみに余談だが、春日達の泊まるスイートルームには遊園地の夜景が見える屋外ジャクジー付きで、天と地の星を眺めながら入浴の出来るようになっている。……超羨ましい。恐らく土守一家はいつもスイートに泊まっているのだろう。スイートには専用の広い浴室があるから別にわざわざ大浴場の施設があるホテルを選ぶ必要がない、その結果がこれである。スタンダートの部屋に屋外ジャクジーなんてついているはずもない、セレブが知りようのないこと。うむ、やっぱお金持ちって住んでいる世界が違うわ。最近こればっかり言っている気がするなぁ。まあこれでも庶民には身に余る高級浴室を楽しむとしましょう。米太郎の後に入るのが少し嫌だが。ああ、お湯捨ててもう一回沸かせばいいのか。なんて贅沢~。


「ふーぃ、良いお湯でござんした」


ぼんやりとテレビを見ていると米太郎が上がってきた。頭からホクホクと湯気を出しながら純白のバスローブに身を包んでいる。似合ってないぞそれ。どこぞのダンディなセレブがワイングラス持って着ると最高に似合うような真っ白のバスローブ、農民に着こなせるはずがない。というかイラッとくる、なぜか胸元を開けているのにイラッとくる。セクシーじゃねぇよ、苛立ちしか覚えねぇわ。


「マジヤベェよここのホテル、なんか英語で書かれたシャンプーとかあって専用の入浴剤とかあるぜ。すげぇよ」


へぇ、それは楽しみだな。まずは、


「とりあえずお湯捨てるわ」

「なんでだよ!?」

「おいおい、お米研ぐ時だって何度か水入れ替えるだろ? それと一緒だよ」

「ぐぅううぅ、なんか言い返せない……」


そーゆーことだお米君、論破されて悔しいだろう。別にそこまでしなくてもいいけどせっかくなのでお湯を入れ直す。自分の家でやると母さんがキレてジャーマンスープレックスを決めてくるがここはホテルなのでその心配はない。スイートルームの屋外ジャクジーを満喫する女子達への些細な抵抗だ。抵抗にもなっていないが。とにかくお湯を入れ直して湯船に浸かる。あ~、幸せだ。米太郎の言う通り浴室も豪華だった。スタンダートな部屋とはいえ高級ホテルの一部屋、素晴らしい設備。なんかボタンがやたらとついているし画面もある……恐らくテレビを見れたりその他色々な機能があるのだろうけど使い方が分からないので放置。もしかすると自爆スイッチがあるかもしれない。ありえないけど用心に越したことはない。こうやって入浴剤入れてのんびりと出来るだけで最高なんだ、余計なことはせずゆっくりと浸かろう。ふぅ、気持ち良す~。風呂上がったらどうしよっかな、米太郎みたいにバスローブ着ようかな? あんなの似合わない自信しかないが、せっかくなので着たい気持ちもある。ああでもやっぱやめておこう。一応持ってきたジャージがあるし、普段着慣れているものが一番。じっくりとお湯に浸かった後はテキトーに髪の毛を乾かしてジャージを着る。うん、やっぱりジャージが一番だ。動きやすいし、通気性も◎。もし俺が異世界に召喚されて勇者として旅立つことになっても服装は是非このジャージで旅したい。マントとかブーツのようなゴツイ装備はやめてほしいね。大剣じゃなくて短剣やナイフを駆使するスタイルの勇者に憧れているので服装も軽装が好ましい。もし異世界に召喚されたらの話だけど。


「米太郎、上がったぞー。アイス持ってこい」


しかし米太郎からの返事はない。その代わりキャッキャと女子が騒ぐような声は聞こえる。音だけじゃ様子は分からないので浴室から出て部屋の中へと戻る。……入口のすぐ近くで米太郎が鼻血を両穴から垂らしながら倒れていた。白目を剥いて口裂け女みたいに口角を上げて鬼が笑っているような顔をして床に倒れているではないか。……え、どうしたのライス君?


「もしかして火祭に殴られた?」

「そんなことしていないよっ」


ベッドへ視線を移せば先ほどみたいに女子達が占領していた。さも当然のように皆さんお揃いですが、そこは俺と米太郎のベッドだからね。それ奪われたら俺らはどこで寝ればいいのですかい。せっかくお風呂入ってリフレッシュした気持ちになったのに溜め息が出そうだよ。

さっきと違う点はいくつかある。まず土守さんが加わっていること。父親との長電話を終えてこっちに合流したようです。二つ目に女子皆パジャマを着ている。水川姉妹は水色のフリフリした可愛いパジャマで火祭はムスッとした顔で桃色の水玉パジャマ、土守さんは黄色のなぜか宝石が袖についているパジャマだ。なんで宝石がついているんだよ、土守さん趣味悪いよそれ。あーね、大体分かった。お風呂上がりの女子がパジャマ着てやって来たのを見て米太郎は鼻血を流して失神ってオチだな。確かに風呂上がりの女子は異様に色気を感じる、なんかすっごい興奮する。さらに言えばここにいる女子は皆レベルが高い、クラスのマドンナを名乗れる美少女ばかりだ。そりゃ米太郎も鼻血スプラッシュするのも納得。しかし俺には効かないぜ、桁違いにヤバイ姿を見せられたことがあるからな。あれは下半期心臓止まりかけた事件堂々のベスト1にランクインする出来事、春日のノー下着による制服シャツ一枚の姿だ。あれは本当に凄かった、理性が吹き飛んでパンツも吹き飛ぶところだったよ。それに比べたらこれくらい耐えれ……ん? そういえば春日は? ベッドの上にいないけど。


「おい米太郎起きろ、春日はどこだ?」

「……う、後ろ」

「後ろ?」


指先を痙攣させながら米が指し示す方向、後ろの方を振り向けば…………ベスト1の姿が再降臨していた。春日がカッターシャツ一枚でそこに立っていたのだ。……………ヤベェ、鼻血出そうだ!


「か、かかかかか春日あああぁぁ、その姿は駄目だってぇ!」

「……」


まさかの再登場だよまさかもう一度拝めようとは! そして今回はさらにヤヴァイっ、前回は普通に着替えてカッターシャツ一枚だったが今は風呂上がりという条件が加わっている。ただでさえ女子の風呂上がりは色気ムンムンなのに……こ、これはアカン! 理性の壁が音を立てて崩れていくよぉ!?


「皆でパジャマパーティーしようと思ったら恵ちゃんそれ着るって聞かなくて」

「それって兎月のカッターシャツだよね。恵にあげたの?」


春日にカッターシャツをあげた覚えはない。だとすると、この子……勝手に持ち帰ったのか? 一枚なくなったところで全然気づかなかったけど……いやそんなのはどうでもいい。今はこの子をどうにかしないと! あぁん、でも直視出来ない。いや直視するけどね! あれ、これ以前も言ったような。


「ま、将也ヤベェよ。男子の夢『自分のシャツを彼女が着ている』が目の前に実体化しているよぉ、エロイわぁ」

「テメーの彼女じゃねぇよ。そして今すぐ立ち上がれ! その角度だと見えるだろうがっ!」


米太郎は春日の目の前で倒れている。前回と同じならば春日はカッターシャツ一枚のみ。その下からのアングルだと……見えちゃうだろうが! 俺だってまだ見たことのないエデンをお米野郎なんかに見せたくない、今すぐ早急に目を潰すか死んでくれえ! 食らえ夜天・真空極拳流!


「ぎゃはぁぁ!? お、おパンツは見えないよ。春日さん短パン穿いているし」

「え?」


鼻に続いて口からも吐血して米太郎は本当に気絶した。怒りと焦りのあまり全力で顔面を踏んづけてしまったせいだ。それはともかくお米の遺言によると……短パンを穿いているだと? そんな馬鹿な、春日はノーブラノーパンでシャツ一枚になるほどの奴だぞ。あ、でも今日は皆いるからさすがに恥ずかしくて短パンを穿いているってことか。確認しておこう。


「……あ、ホントだぶぇ!?」


しゃがみこんで下のアングルからマジマジと観察。スラッと細くてプリッとした肌色魅惑の両足。しゃぶりつきたくなるような肉付きの良さが伺える。おまけにお風呂上がりでどこかしっとりと水気があってとんでもなくエロイ。舐めたい、吸いつきたい。なんて欲望が脳内を全力疾走しながらも視線を上へと移していけば前回なら未知のエデンが見えたであろう位置にピンク色の短パンがあった。エデンどころかパンツもしっかりとガードしている。あぁ良かったぁ、さすがに春日も恥ずかしかったみたい。何より米太郎に見られなくて良かった、マジで。安堵でホッとするのも束の間、春日のローキックが顔面にヒット。メキメキッと聞こえてはならない鈍い音が頭の内部から響く。客観的に見れば俺はしゃがみこんで女子の股の下を覗くような形になっており、そりゃ普通にアウトなわけでして。鼻血がスプラッシュ! 蹴りによる威力で体は宙に浮いて米太郎の上に着地。ぐ、ぐぇ……鼻がぁ! 両頬は腫れて鼻は折れたかもしれん。なんだこの怪我の酷さ、病院に直行するレベルの重傷だろ!


「か、春日……痛い」

「……兎月、髪の毛拭いて」

「無視かよ!」


バスローブ着なくて良かった。着ていたら米太郎みたいに自分の血で真っ赤に染まっているところだ。鼻血は止まらないし激痛も止まらない。痛みに悶えながらティッシュを鼻の両穴に挿入、出血を防ぐ。にしても痛い、鼻痛い! 回復の時間が小一時間ほど欲しいが、カッターシャツのお嬢様がゲシゲシと足で蹴ってきて催促してくるので急いで立ち上がる必要がる。な、なんつー扱いの酷さ。レーニンも真っ青の扱い。これならまだ下僕時代の方が幾分かマシだったような……はいはい動きます動きますので蹴らないでください!


「はぁ、髪乾かしたらいいの?」

「そ」

「んじゃあソファーに座って」

「……」


…………あと、皆すげーこっち見てる。水川や土守さんはニヤニヤと嬉しそうに笑っているし、美保梨ちゃんは羨ましげな瞳で凝視してるし、火祭は悔しそうに膨れっ面をしていて、なんかもう皆さんお願いだからこっち見ないで。そ、そっとしてくれないっすか? うわぁこれ超恥ずかしい。これでも春日とは場所を弁えた付き合い方をしてきたんだって。学校じゃ極力イチャつかないよう善処したよ、友達の前でイチャイチャするのは恥ずかしいとお互いそう思っての決まりだ。今日だって遊園地に来て恋人気分で浮かれたい気持ちは抑えて皆で仲良くしていたのに。ここへ来て春日がまさかの暴走だ、第三次春日暴走事件発生の予感。とりあえずベッドの方から痛いくらい感じる視線の数々は無視するとして急いで春日の髪を乾かしてあげないと。ソファーに誘導して座らせる。


「……む」

「な、何か不満でも?」

「……別荘の時は一緒に座ってくれた」


春日家の別荘に泊まった時も髪の毛を拭いてあげたことがあった。あれは第一次春日暴走の時、二人きりの別荘で春日も俺も気が動転して言動も行動もおかしなものになってしまい春日に至っては普段からは考えられないデレっぷりを発揮。甘えまくりのキュンキュンな子になってしまってソファーに座る俺の上に座って体をすり寄せながら髪の毛を拭けと命令。春日を膝の上に乗せながら髪を乾かしてあげた。……あれを今この場でしろと? MURIDAYO! こーんな観衆の目がキラキラ光っているところでそんな真似が出来るかよっ、明日からイジられてしまう。不満そうに頬を膨らませているがここは我慢してくださいよ~。俺なんかあなた以上に頬赤く腫れているし、火祭なんか……ほら、俺の方見て瞬き一つしていないぞ。ちょ、なんかメッセージ受信した。まさかのアイコンタクト、米太郎と水川としか出来ないはずの目と目による会話が火祭とも出来ようとは。真に恐ろしいのはこちら俺の意志とは関係なく、火祭からの一方的な送信が無数に来ていること。すげー執念、もとい嫉妬。『次私にもやってね。あとカッターシャツ頂戴』といったメールが脳内に何十通と送り込まれている。だ、駄目だ、あっちの方見ていると恥ずかしさのあまり失神しそうになる。ここは髪の毛を乾かすことだけに集中しろ、何も考えずに全力で春日のヘアーを梳くことに全意識を注げ。前にやったようにドライヤーとタオルを準備、優しくそっと髪の毛に触れて丁寧に乾かしていく。毎度のことだがこの子の髪はサラサラで触っているだけで気持ちいいな~。なんでここまでサラサラになるの? 指先を流水のように流れ落ちる長髪はサラサラなのに柔らかくて触り心地の良さはおっぱいを越えている気がする。いやおっぱい触ったことないから全く分からんけど。


「ん……」

「お、お客様おかゆいところはありませんかー?」


ヤバイ、髪の毛超サラサラ。根本から毛先まで指がスーッと真っ直ぐ通る。何このストレートヘアー、日本中のくせ毛の皆さんにお見せしてあげたい。駄目、やっぱ見せたくない。この髪は俺だけのものだぁ。二回目なので乾かすこと自体はそう難しいことじゃない。……問題はメンタルの方。ただでさえ視線が気になるのに春日が喘ぎ声みたいの出すから、こう……気持ちが高ぶる。そうなってくると自分自身の制御が困難になる、なんとか意識だけは保たないといけない。なので美容院のスタッフになりきってコントしている気分で髪を拭く。コメディーにしないと頭がクラクラしそうだ……。


「はい、お終いー」

「ありがと」


ぷはぁ……なんとか終わった。よく理性よ壊れなかった、ありがとう。今年のベストオブディフェンスの賞を君に送りたい。精神が蕩けて思考停止になりかけたが最後までブレることなく髪を乾かしきった。ソファーに深く座って体育座りする春日も満足そうだ。良かった、短パン穿いていてくれて本当に良かった。これまでは米太郎のキモイ顔と発言でR指定の危機があったが、今回エロ方面でR指定入る恐れがあったよ。よく耐えた理性、よく頑張った将也、ヘタレで情けない自分に嫌気がさしていたが今日ばかりは自分で自分を誉めたい。さーて、テレビの続き見ようか。


「まー君」

「……火祭、どうしてシャワー浴び直してきたの?」


春日の髪を拭いている途中、火祭が部屋から出たのだが今になって帰ってきた。なぜか髪がびしょ濡れだ……そして喜々とした目でアイコンを送信。……分かる、火祭が何を言いたいのか手に取るように分かる。それを拒否したい自分がいる! いや髪の毛拭くのは全然良いよ。寧ろ「あざすっ」って感謝したいくらい。火祭の髪も負けず劣らずの長髪でサラサラでふんわりしている、十分に乾かし甲斐のあるヘアーだ。だ、だけどさぁ……もう気力がもたないというか、さっきで精神ポイント全て使い切ったんだよ。なので今日の美容院は閉店ってことに……出来ないよね。


「まー君、お願い……」


はいそんなこと言われて断れるはずがありませーん。は、はぁ……頑張れ将也。というか春日はいいのかよ、彼氏が違う女子の髪を触っているんだぞ。


「……サクラってそういうことか」


テレビを見ていた。『追跡中』に夢中だった。……さ、さぁて頑張ろう将也!


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