続44 空気の読める人達
時は近世、世知辛い社会に嫌気がさしたチャックはトレジャーハンターとして自由が広がる世界へと飛び込む。けれど無茶ばかりして上手くいかず生傷が絶えない日々。そんな彼の元へ弟子入りしたいと子供達が尋ねてくる。チャックは伝説のハンター扱いされていた。どこから変な噂が流れたのやら、チャックは断りきれずに子供達と未知の領域へと旅立つ。先輩として子供達の期待に応えるべく新人ハンターは引退を覚悟した最後の冒険に向かう……。
「いやー、なかなかスリリングだった」
「そうですわね」
3Dメガネを外して乗り物から降りる。未知のフィールドで待ち構えていたのは絶滅したはずの恐竜。襲いかかる猛獣から逃れつつ謎の宮殿へと入ったチャック達が見た光景は今の科学では説明不可能な超発達文明の数々。レーザー砲やロボット兵のトラップをかい潜り、石版に記された古代文字を頼りに先へ進む。まるで過去と未来が入り混じったような空間でチャックは子供達を守りつつ奥へと向かい、そして最後には……。というストーリーでした。乗り物は上下左右に激しく揺れて時たまドライアイスの煙が顔に噴射したり、突然真下へ急降下。加えて3D映像の迫力は圧巻で思わず身を引いてしまうほど。乗り終えた後も興奮冷めやらぬ高揚感、ルフィよろしく胸躍る冒険心、大変満足しました! やっぱすごいなここの遊園地、やっべ超楽しい。
「年甲斐もなく純粋に楽しんでしまったなー」
「まだ私達は十代なのですから年甲斐もなくと言うのはまだ早いと思いますわ」
土守さんとの会話に困りそうになったが意外に二人きりだとスムーズに話せて良かった。これからもよろしくねとなったところでアトラクションが始まり、チャックと一緒に冒険したってわけさ。車から降りて出口を抜ければ既に皆待っていた。
「将也、俺決めたよ。将来トレジャーハンターになる」
農家の夢はどうした。人類お米補完計画がどうのこうのとこの前昼休みに言っていただろ。ペア決めから除外されて一人寂しくアトラクションに乗った米太郎だが意外と普通に堪能したらしく、ウットリとした表情で目をキラキラと輝かせている。十代の男子ってのは見たドラマや漫画に影響を受けやすい年頃だからな。中学校の頃、俺も話題の映画を見た直後は新聞紙丸めてライトセーバーと称してチャンバラしていたよ。
「将也、あれって最後どうなったの? なんでチャックさんは伝説扱いされてたわけ?」
「あれだよ、チャック達が行ったフィールドは過去と現在と未来が混ざり合った謎の世界だったんだよ。んでチャック達は未来で冒険してその活躍は過去に伝承されたって話だったような」
詳しいことはよく分からないけど簡単に言ってしまうと未知のワクワク冒険アトラクションだってことだな。大変楽しかったですぅ、絶叫マシーン以外でここまで興奮したのは初めてかも。強いて言えば春日と一緒に回ったお化け屋敷も同等にスリリングだった。殴られ過ぎて意識が戦々恐々としたわー。今回はそうならないよう注意したい。春日と一緒にお化け屋敷に入ることだけは避けたいものだ。
「兎月、次どれに乗るー?」
「はいはい水川! 俺あれに乗りたいでっす」
「いや佐々木には聞いてないから。ウザイから割と長時間黙っていてよ」
「わ、割と長時間!? 将也~」
水川にあしらわれた米大変が涙声で後ろから抱きついてきた。うおおぉぉい、くっつくなよ。BLのレッテルを貼りつける気かテメー。お前には守るべき愛しの彼女なんていないのだろうけど俺にはいるからさ、ちゃーんといるから! ホモ疑惑をかけないでくれ。てことで背中にしがみつくお米に肘打ちを放つ。さっきから米太郎はやたらとダメージ食らっているなぁ。悪いのはこいつだから別に同情はしないけどね。
「兎月さんっ、私メリーゴーランドに乗りたいです。一緒に乗りましょうよ~」
「美保梨ちゃんっば小学生らしい乗り物チョイスして可愛いねぇ……高校生の俺があれに乗るとかただの公開処刑じゃね?」
幼少の頃は超楽しかったよメリーゴーランド。何度もリピートするほど気に入ったこともあったがそれは昔の話。十代の後半になった今ではメリーゴーランドに乗ることに勇気が必要となっている。考えてもみてよ、子供達しかいないメルヘンな空間で360度の完全包囲された状態で周りから見られるんだぜ? あんな羞恥プレイ耐えれません。なんとかして美保梨ちゃんの意識を違う方向へ持っていかなければ。
「ところで美保梨ちゃん、なんか飲み物とか欲しくない? おじちゃんが買ってあげるよー」
「ホントですかっ!? じゃあ、えーと……一番高いやつのLサイズでお願いします」
財布の中の野口さん一枚が悲鳴を上げた気がした。
「テメ、水川ゴラァ! お前だろ、純粋無垢な美保梨ちゃんに変なこと教えたのは!」
男子から奢ってもらえそうな時は出来るだけ一番高いのを選びなさいとか言ってそうだもん。この小悪魔女子高生日本代表め!
「えー、私はただ女子があるべき姿を教えただけだよぉ」
「その結果が今俺の腰辺りに抱きついて上目遣いで甘えてきているんだよ可愛いなチクショーおい」
なかなか出費が痛いが自分の発言に責任を持たなくてはならない。口だけの男ほどカッコ悪いってのは池内君の姿から教わったからな。それにメリーゴーランド>野口ソロの不等号は揺るがない、千円払って辱めを受けずに済むなら安いくらいだ。買ってやるさ。
「ホントに買うんだ。兎月は優しいねぇ」
「はいはいそーですよ、また水川姉妹から金を搾り取られたよ。ところで水川は何飲みたい?」
「え?」
「せっかくだし姉妹揃って奢りますよ。高くない普通のジュースだけど」
この際だし水川の分も買ってやるさ。こうやって皆で旅行に来たんだからパーッとお金使うのもいいかなと思ったりしたわけです。お年玉前借りした分際で何を偉そうに言っているんだよとツッコミが入りそうだな……。いや俺だって自分で稼いだお金で堂々と奢りたいよ。そのうちバイト始めようかなー。
「私もいいの?」
「気にするなよ水川部長ちゃん、日頃の感謝も兼ねてさ奢らせてよ」
「……兎月はホントに優しいね」
……むむっ、ま~た小悪魔スマイルですか水川さん。あなたの笑顔には騙されませんぞ。そうやって俺を小悪魔風に小馬鹿にしようとして……ん、水川? なんか、いつもはニヤニヤとした感じで笑うのに今はどことなく表情が柔らかいような……。
「お姉ちゃん? なんか一年前のあの時みたいな顔してるよ?」
「っ……は、はぁ゛!? 何言ってるの美保梨ぃ、ホント何を言ってるのかな! そんな変なこと言う子に育てた覚えはないよぉ、もしかして兎月に何かされた? 兎月、人の妹に間違った教えないで。テキーラ一気飲みさせてさっきのジェットコースターに乗せてあげようか?」
すげぇ毒吐かれたよ今!? 突然なぜか怒り狂った水川による言葉の猛攻。テキーラ飲んでジェットコースターとか死んじゃうから。それにしてもかなり雑な毒舌だったな。何を焦っているのやら、人がせっかく奢ってやると言っているのに水川の機嫌が悪くなった。これも女心ってやつなのか。だとしたらいよいよ女心というものが完全理解不能の領域になってきたな。春日と付き合うようになってからはなんとなーく分かってきたつもりでいたけど、本当に女心は分からない。とりあえずまた無意味に水川の毒が襲ってきそうなので早くジュースを買いに行こうと思う。
「春日、一緒についてきてくれる?」
「……」
「んじゃ行こう」
無言は肯定の表れ、春日の無表情から返事を受け取るために俺が考案した春日独自の法則。これに従ってイエスノーを判別していた時期がありましたよ。今となっては無表情無視の状態でもなんとなく何を伝えたいのか分かるようになったからなー。春日の返事はイエスかノーの二別化していたが今では無言から昨日の晩ご飯は何だったかさえ分かる……時もあるよ。煮魚っぽい顔している時は煮魚だったのかなーみたいな。
「相変わらずイチャラブな関係だなお前達」
米太郎が茶化してきよった。ウゼェ、別にいいだろうがイチャついても。というかこれはイチャラブな行動になるのか? ただ会話しただけじゃん、無言の春日と。お前とだってアイコンタクトのみで饒舌な会話が出来るのだから春日の表情だけで何を伝えたいのか手に取るように分かっても別段不思議じゃないだろ。春日はついてきてくれるそうなので、二人でジュースを買いに行く。俺一人で買いに行ってもいいのだけど、やっぱこう、あれですやん?
「皆は先に他のアトラクション乗っていていいよ」
「おっし、水川次はあれ乗ろうぜ」
「割と黙れ」
「ま、まだ!?」
今思ったんだけどこういう遊園地とかで買う商品って理不尽に値段が高い場合が多いよね。ちょっと普段のノリでコンビニ行った感覚でお菓子とか選んでレジ持っていくと「……はぇ!?」みたいなことになる。良い風に言うとその場での雰囲気をお金で買っているらしい。これは夏のお祭りでも同様のことが言える、気前の良いおっちゃん達も働きながら「ぼったくるでござるよフフフ」と内心小躍りしているだろう。くそぅ、同じ庶民として異議を申したい。……そういえば今年の夏祭りでも水川達に信じられないくらい奢った覚えがある。なんだよ俺、振り返ればただの奢り魔だったのか? 女子から金ヅルとして利用されていた憐れな男子だったのか!?
「……」
「痛い痛い、歩くから抓らないで」
俺の意識がどこか遠くへ飛んでいたのを察知した春日が背中の肉を抓ってきた。こちらのリアクションはかなりライトに返しているが、実際のところ春日の抓りに慣れたからだ。不機嫌だったり不満があったり怒っていない状態での抓り程度なら耐えれますよ。昔の俺なら普通の抓りでも阿鼻叫喚の地獄かっつーくらい泣き叫んでいたのも今となっては良い思い出だ。……いや良い思い出ではないよねホント。
「まー君……気をつけてね」
「ん? あぁ、まあ絡まれないように変なアクションだけは起こさないから大丈夫だよ」
「……」
ん……火祭?
「どしたの?」
「行ってらっしゃい……」
「んむ、すぐ戻ってくるよ」
なんとなく火祭の顔色が優れなかったような気がする。む……あれか、もしや火祭もジュース買ってほしかったのかな? い、いやぁ、さすがに水川姉妹用の二人分で俺の財布は大打撃を受けます故ちょっと火祭の分も買ってあげようという甲斐性を見せる余裕は……ん、んんんんっ、よし……頑張ろう。なんか火祭ちょっと元気なかったぽいからジュース買ってあげたくなったぞ。どうせ奢るなら二人だろうと三人だろうと微々たる差だと大声で言えるのが男気ってもんだろ。か、買ってやるよぉ。
「米太郎、俺がいないからってセクハラするなよ」
「火祭がいる前でセクハラとか自殺行為だろ。つーかせっかく気遣って空気読んでくれた火祭にそんな真似は絶対にしない、というか出来ないって」
ん? 気遣い?
「火祭がいつお前なんかに気を遣ったよ。自惚れも大概にしなさい」
「はぁ……俺にじゃねぇよ」
「え?」
「あー、いいから将也達はさっさとジュース買ってきなさい。こっちはこっちで色々とあるから」
ヘラヘラとしたいつもの調子で米太郎が俺に牽制するかのようにジャブを打ってくる。早く行けということだろうか、はいはい行けばいいんだろ。砕けた調子だったが一瞬だけ強張ったように見えたんだが……米太郎もどうしたのさ?
「……兎月、来て」
「う、うん」
よく分からないが、春日がすごい力で腕を引っ張ってきたのでなすがままに足を動かす。というか俺から行こうって言ったのに春日が先導しちゃってるよ。情けないぞ俺。なんかさっきから色々と皆それぞれ考えを巡らせているように見えたな。水川は焦っていたし、火祭はどことなく寂しそうだったし、米太郎はよく分からんし。……俺が考えても仕方ないか、とにかくジュースを買おうと。えーと、一番高いジュースってなんだろう? キャビアとか入っているやつとか?
「……」
「春日も何か飲む? アイスとかでもいいよ」
激しく腕を引っ張っていた春日もしばらくすると力を弱めて俺と肩を並べるようにスピードを落としてくれて、お互い手を繋ぐ形でゆっくり歩く。こうやって並べば俺らもカップルに見えるのだろうか、正直春日が綺麗過ぎて俺なんかじゃ釣り合わなくていつも申し訳ない気持ちになっている。遊園地内は家族連れや友達数人で回っている人達が多いが、もちろんカップルの姿も多少なりと見かける。遊園地だもの、デートの定番だよねー。俺達だって先月一緒に地元の遊園地に行ったばかりだ。まあ今日は皆で来ているからデート気分ってわけにはいかないけど。
「へぇ、パレードとかあるんだ」
美保梨ちゃんが満足しそうなジュースを売っているお店を探していると本日行われるパレードについて着ぐるみ来た従業員が大きな声で説明しているのを見つけた。パレードとかあるのか、すごいな。地元の遊園地ではそんなイベントないぞ。さすがは日本を代表する遊園地なだけある。よくテレビで見たあの有名なパレードを今日この目で見ることが出来るのかな……ヤバイ、ちょっとカメラ買っていいかなっ。
「今日は夕方にあるみたいだな。ホテルに向かう前に見て行こうぜ」
「……」
「春日?」
「……ん」
春日が恋人つなぎで手を繋いできた。俺の五指の隙間に自身の指をすべり込ませて肌を重ねるように優しく体温と重さが乗る。……もし俺が火祭との偽デートで恋人つなぎを体験していなかったら間違いなく今この場で意識が飛んでいただろう。だって急にしてくるんだもん!
「ど、どうかした?」
焦りはあるがテンパりはしない。こちとら水川の悪意ある偽デートプランでメンタルは鍛えられたんだ、恋人つなぎされても超嬉しいぜとしか思わないからな! いや……というかなぜ急に恋人つなぎ? いや、まあ、俺達付き合っているから全然構わないけどさ。ほら今日は皆で来ているし、皆に見られる中イチャイチャするのは恥ずかしいじゃん。普段なら嬉しいけど、ちょっと今はやめて……ん、いや? 今、春日と二人きりだから別にいいのか。そっか、米太郎達は見ていないし、カップルらしくイチャイチャしてオッケーなんだよな。オッケー、ウフフ。
「……桜のおかげ」
「火祭?」
「……桜、きっと兎月と一緒にジュース買いに行きたかったのだろうけど、私に気を遣ってくれた」
「あ……」
あの時火祭が俺に声をかけようとしたのはそれだったのか。ジュース買いに行くのについてきたかった、けど俺と春日が二人きりになれるよう遠慮してくれたのか……っ、なんてことだ。さっき米太郎が言っていた気を遣うというのは、火祭が俺にってことだった。……俺と春日が二人きりになれるように。
「……」
「そっかー……変な気を遣わせたかもね」
確かに俺と春日は付き合っている。そりゃもう絶賛付き合っている、ノリノリで交際中だ。それは周りも当然知っている。今日は皆で遊びに来たとはいえ、グループの中にカップル一組いたらそれは気を遣うよね。俺だってグループの中に付き合っている男女がいたら二人でどこか見てこいよと言うに決まっている。そう考えてしまうものだ、実際火祭もそうした。けど……ぅ、火祭は……俺のこと好きらしいのに……よくそんなこと出来たな。俺なら無理だ、そこまで善人になって気を遣おうだなんて思わない。だって例えるなら米太郎と春日が付き合っていて、俺は春日のこと好きだけど春日は米太郎と付き合っている、だから皆で遊園地に来たから米太郎と春日を二人きりにさせようとあれこれする気にはならない。というか全力で米太郎ぶん殴る、つーか絶交だコノヤロー! ……どんだけ俺は春日に執着しているんだよっ。
「……兎月」
「まあ、せっかく二人きりになれたから一緒に軽く見て回ろう」
……いや、
「とは思わないよな」
「……」
「今日は皆で来ているんだし、俺達だけ自由行動するよーとか空気読めなさ過ぎる。俺が逆の立場だったら、なら最初から二人だけで来いよってツッコミを入れるよ」
春日とはまたいつか二人で来よう。今は皆で楽しく遊ぶ為に来たんだ。これはデートじゃないんだ、修学旅行前旅行なのだから。
「早く買って皆のところに戻ろっか」
「うん……でも」
ん?
「……もう少しだけ、このまま」
「ん、了解。少しだけゆっくり歩こっか」
「うん」
その後結局春日と土守さんの分のジュースも買うことになり、俺の財布から野口さんは姿を消した。……マジでバイト始めないと。




