続42 ジェットコースター×3
チケットは事前に買っていたのでスムーズに入場。ゲートを抜けた先に広がっていたのは、
「おぉ!」
「すげーな!」
そこはまさに夢の国、右を見ても左を見ても下を見ても空を見上げても、どこを見てもアトラクションとキャラクターでいっぱいの別世界となっていた。そして人が多い。なんですかこの人口密度のえげつなさは。すっごい数ですなおい。さすがは日本が誇る最高レベルの遊園地、休日になれば来客人数が増えるのは当然のことか。人が多いこともあって場内は異常なほどに賑わっていた。俺が体験してきたどの場所よりも騒がしい。なんだよぉ、すげー楽しそうな雰囲気なんですけど! 奇妙な外見のお菓子売り屋があれば、独特の香り漂わせる謎のレストランもあって、さらに視野に収まりきれないほどの興奮させてくるアトラクションの数々。極めつけはこの遊園地内に響き渡る痛快な絶叫と楽しそうな喧噪。これぞ遊園地だ。テレビで見たことしかなかった夢のテーマパークを今この体全身で感じ取っているぞー! なんかテンション上がってきたぁ!
「というか兎月と佐々木は来たことないの? 一度はあるでしょ」
「ふっ、マミーさんよ。庶民の儚さを舐めるな」
「マミー言うな」
こちとら庶民代表を自負する人間だっての。寿司なんてものはたまにしか食えないし、外食すら少ない。ましてや家族旅行なんて年に一度行く程度。それも祖父母の実家に遊び行くか、ちょっとした温泉街に日帰りするとかそんな感じなのだよ。こんな日本を代表する大人気遊園地に来たことなんて一度もありませんな。堂々と言ってやるぜ。
「そうそう、俺みたいな農家の子供には家の畑が立派なアミューズメントパークだったからさ。いやー、すげーですな!」
「さすがにそれは惨め過ぎないか米太郎よ」
いくら農家の子供とはいえ、その考えはかなり病んでいると思うぞ。米太郎の野菜ジャンキーな精神のルーツに歪みを感じた瞬間であった。
「それなら二人は来たのが初めてってことね。私と美保梨は一度来たことあるから多少なら案内出来るよ」
「兎月さん、一緒に乗りましょうね!」
ふむ、水川姉妹は来たことがあるようだ。というか車で三時間ほどの距離だから普通に行ける場所だよな。ある程度潤った家庭なら近くのホテルに泊まることも可能。ここにきて兎月家と他の家庭の差を思い知ることになろうとは。くそっ、でも父さんは悪くない! 立派に俺をここまで育ててくれたんだ、別に貧乏なことを恥じていないぞ。父さんいつも会社勤めご苦労様です! ちなみに父さんの働く会社の社長は春日父。なんということでしょう、春日父の一言で兎月家の命運が決まるのだ。四月の頃、俺が春日の下僕を嫌がらずにやったのはその為でもある。春日の機嫌を損ねると父さんがクビにされそうだったから。なんて悲しい運命の出会いでしょう、ぐすん。てことで春日家は当然の如くお金持ちなわけでして、つまりこんな遊園地なんて数えきれないほど来ているってことでオーケー?
「恵ちゃんと来るの久しぶりだね」
「うん」
「え、有紗お嬢様と一緒に来たことあるの?」
「……」
とりあえず春日のグーパンチが鳩尾にクリーンヒット。ぐはぁ!? あ、あぁ、そういうこと。土守さんのことお嬢様って呼んだから怒ったのね。色々と理由があってのことだが簡単に説明するとアンタは私に仕えている(付き合っている)のだから有紗ちゃんのことをお嬢様って言うな、てことだ。はーぁ、腹が痛いよ。なるほどね、お二人は一緒に来たことがあると。幼少の頃に来たのかな、まだ春日父と土守父の馬鹿二人が喧嘩する前だと考えるなら。なんとも微笑ましいね。そして宿泊したホテルは間違いなく最高級のスイートルームだろう。ライトアップされた豪華絢爛な遊園地の夜景を眺めながらシャンパンをガブ飲みする父親二人の姿が容易に想像出来る。これぞセレブと庶民の差というわけか。俺が小学生の頃、祖父母の家で犬の糞に爆竹を仕込んでゲラゲラ笑っていた時にセレブお嬢様の春日はスイートルームで優雅な夜を過ごしていたと。なんてことだ、幼少の時から貧富の差があったとは。悲しき庶民のしょぼさとアホさ! 泣きながら川で全身を洗った苦い思い出が蘇るぅー。
「私も一度来たことがあるよ」
「へぇ、家族旅行で?」
「うん。だからまー君、一緒に回ろうね」
そう言って火祭は右手を握ってくる。すんごいナチュラルに手握ってきたけどさ、うん普通にツッコミ入れさせていただきます……おっかしいよね!? そのポジションにいるべきなのは彼女である春日のはずなんだけどなー! 何さらっと当然のように手掴んできたの? ちょ、それは本格的にアウトだから、いやマジで。ほ、ほら……その、本当の彼女がすぐ近くにいるから、ひぃ!?
「……」
この楽しげな遊園地内にどす黒いオーラが濁り混ざっている。その発生源は考えるまでもない、春日からだ。顔から血の気が引くのが分かる、そして眼球が渇いていく。恐る恐る首を九十度ほど回転させれば、そこには不機嫌オーラと殺気オーラと鬼オーラを纏った最愛の人が君臨していた。つり目に宿りし黒炎の激しさは俺の心臓を萎縮させるのに十分な威力だった。あかん、殺される。
「ちょ、落ち着いて春日ぁ。これは違くて……」
「えぇー! 火祭さん駄目です、兎月さんは私と一緒に回るんですー」
美保梨ちゅああぁぁんん!? なーんで油を注ぐ真似をするのぉ! おかげ様で漆黒の怒り狂う炎がさらに勢いを増したぞおい。イフリートも真っ青になるくらい燃え上がる地獄の灼熱が殺気となって俺の身を焼き尽くしてくるんですけど。ちょ、ちょ、ちょちょっと待ってください。早急にスタートボタンを押してポーズかけさせてもらいます! な、何この状況? え、今から皆で仲良くアトラクションに乗って楽しく遊ぶんだよね? なんで修羅場になっているの!? しかも付き合う前ならいざ知らず、俺と春日は付き合っているから。なんで火祭と美保梨ちゃんは俺の手を握ってくるのよ。何その浮気真っ向勝負な姿勢、心臓縮んで寿命も縮みそうなんですけど!
「それじゃあ俺は水川と土守さんと一緒に回ろうかな」
「黙れよライス太郎」
「絶対に嫌です」
「……うぅ」
……いや、なんで悲しげな顔してるのさ。お前なんかでその二人を落とせるわけがないだろ。有紗お嬢様は米太郎に苦手意識持っているってのに。フォロー入れるべきなのだろうけど米太郎の方に気をかける余裕なんてありません。目の前に蹂躙するマイスイートハニーをどうにかしないと。お、落ち着いて春日さん。リラックスしよう、せっかくの旅行だよ。もっと気持ちを寛大にして楽しもうよ。
「とりあえず移動しよー。桜も美保梨も兎月を解放してあげて。どこにも逃げないからさ」
「分かった」
「はーい」
この時、水川がマジで天使に見えた。うぅ、なんてナイスな気遣いだろうか。あと一歩のところで子供達のネバーランドが血の飛沫と断末魔の叫びで潰されるところだった。春日も徐々に怒りを鎮めていき(たぶんまだ怒ってるけど)、火祭と美保梨ちゃんも離れてくれた。米太郎は落ち込んだまま。よしオールオッケー。さあさあ心行くまで楽しみましょうや。
「それにしても将也は意外とドライなんだな」
「あ、何が?」
「てっきり遊園地に入った途端『じゃあ俺と春日は別行動ってことで』とか言って二人で颯爽と消えると思っていたぞ」
おいおい米太郎さんよ、そんな空気の読めない行動をするとお思いで? 確かに春日と二人きりでこの壮大な遊園地でデートしたい気持ちを幾分かあるが、でもそれをしちゃあ駄目でしょう。今回は皆で、つまり仲良しグループの友達達と来たんだ。付き合っているとはいえ別行動するなんて空気の読めないことはしません。ちゃんとプライベートと仕事は分けているタイプなんで、俺も春日も。つーか絶対に人前でイチャイチャすることはしないから。なんで米太郎や水川にイチャラブシーンを見せつけなあかんのだ、恥ずかし過ぎます。
「ねえ兎月、あれ乗ろうよ」
水川の差した方向、そこにあったのはジェットコースター。いきなり遊園地の目玉を狙うとは水川もなかなか序盤から飛ばすじゃないか。しかもこのジェットコースター、ただのジェスコではない。テレビで見たことがある。日本で最高にスリリングなジェットコースターの一つとして取り上げられていた。その初速は驚きの~、とか最高到達地点から急角度で落ちる~、だの。この有名な遊園地の中でもさらに有名なアトラクションだ。絶叫マシーンの最高峰と呼ばれ恐れられるこの乗り物を最初に制覇しようと言うのか水川よ。その図太い精神に感服です。
「いいぜ~、地元のイマイチなジェットコースターには飽き飽きしていたんだ。これくらい激しいのじゃないと俺のソウルは響かないぜ」
水川と有紗お嬢様にフラれて傷心だった米太郎もこれを見た途端キラキラと顔を輝かせて鼻息を荒くしだした。その気持ちは分かる、俺達男子ってのはよりスリリングなものを求める渇いた戦士なのだ。現状に甘えるな、常に刺激を求めよ、走ることを躊躇わず止まることを何よりも恐れよ。飢えた心に一時的な快楽を与えそれを糧にさらなる欲求を満たせ。うおぉ、今の台詞超カッコ良くないですか? 破道の詠唱みたいな感じでオシャレだわー。つまりジェットコースターは男の浪漫ってことです。正直な話、ここの遊園地に来たらこれは絶対に乗るつもりでしたよ。絶叫系マシーンの頂点に君臨すると称せられるほどだ、ワクワク感とドキドキ感で胸一杯だ。
「水川も絶叫系は好きだったな」
「そうだよ~。美保梨も乗る?」
「う、うー……恐そう」
小学生の美保梨ちゃんはあまり乗り気ではないみたい。まあね、小学生にはちょっとばかしヘビーな乗り物だよな。大人ですら恐怖に慄くと言われているのだ。美保梨ちゃんはまだ小学生、無理もないよ。
「で、でも兎月さんが一緒に乗ってくれたら大丈夫かも」
「なら美保梨は兎月と一緒に乗るといいよ。兎月もいいよね?」
「まあ別にいいけど」
とりあえず並びましょうか。さすがにこの遊園地の看板アトラクションなだけあって待ち時間は長いんじゃないのかな。地元の遊園地ならちょっと並べば大抵乗れるが、ここは超人気の巨大規模の遊園地。そりゃ待ち時間も比例して長いのは当然のことだ。ジェットコースターの待ち時間はなんと十五分だ。うわー、やっぱり長い……ん? 別にそうでもないぞ?
「あれ? テレビだと二時間強も待たないといけないって言っていたような気がするのに。どういうことだ米太郎」
「今はこんなもんじゃないの? 夏休みや冬休みじゃないからそれほど混雑しているわけでもないし」
え、これでもまだ全然人いない感じ? 個人的にはこれほど大多数の人間を見たのは初めてなのですが。長期休暇の時はもっと人が来るのかよ。一体全体日本にはどんだけ人が住んでいるのやら。こういう時に世界は広いなぁって実感するよね。
「ま、そんなことは気にせずどんどん乗っていこうぜ!」
「そうだな。んじゃ行こう」
よっしゃ、まずはこのジェスコから制覇してやるぜ。かかってこいや!
「……兎月」
「がぁ痛……っ、あ、あの~? なぜ腕を抓るのさ?」
刺激と爽快感を求めてさあ一歩、ってところで春日に腕を抓られた。腕の一部分に痛みという名の刺激が走る。涙目になること必至、つーか普通に激痛だ。な、なんすか。今日会ってからまともなコミュニケーションしてないぞ。後ろを振り向けば春日がこちらを睨んでおり、そしてその後ろには火祭の姿も。ん、ん?
「……」
「ど、どしたの?」
「……一緒に乗って」
そう言って絶賛肉を抓る指先の力を弱めて、その指先はなぞるように俺の腕を下っていって手へと到達、そのままぎゅっと握ってきた。正確にはギリギリッ!と骨が軋むぐらい強い力で握ってきた。なんだこの握力は、五指の骨が折れそうだけども!?
「ちょ、痛い痛い! マジやめて、俺が絶叫マシーンになっちゃうよ!?」
「……一緒に乗りなさい」
「……え、えーと。このジェットコースター? 俺と一緒に?」
「そ」
あぁ、もしかして春日恐いのか? そういえばこの前一緒に地元の遊園地に遊びに行った時もジェットコースターに乗ったら思いきり腕抓られたっけ。あれ痛かったなー。たぶん乗るのが恐いから一緒に乗ってほしいと。なかなか可愛いところあるじゃないか~ぐへへぇ、とか口に出して言うと骨が砕けるだろうから言いません。まあ一緒に乗るのは全然オッケーだけど……ってそうだった、美保梨ちゃんと一緒に乗るって約束したんだったわ。
「あー、美保梨ちゃんが恐いらしいから一緒に乗ってほしいって。だから春日とは一緒に乗れ……あ、いや違う待って、足を振り上げないで!」
「……乗って」
と言われても……うーむ、困った。そりゃあ一緒に乗ってあげたい、というか一緒に乗りたいのは山々なのだが美保梨ちゃんをほって置くおくわけにもいかない。今も腰らへんにしがみついてこちらを上目遣いで見つめてきている。その目は反則だぁ、小動物みたいな愛くるしい瞳はやめてちょうだい。完全に姉直伝の技だな。水川め、自分の妹に何とんでもないテクニック伝授してやがる。この子も将来水川のようになってしまったら駄目だって。どわぁ、でも可愛いな。
「兎月さん、一緒に乗ってください」
「……私と一緒に乗りなさい」
あの……またさっきみたいな展開になっているのですが。結局こうなるのかよ、あははー。……笑いごとじゃないよね。えぇ、じゃあどうしたらいいんだ? 美保梨ちゃんも春日も俺と一緒に乗りたいって……俺はどこのハーレム主人公だよ。一級フラグ建築士の資格を取った覚えはない。このままではマズイ。痺れを切らして春日が蹴りを放ってくるに違いない。これ以上体力を削るわけにはいかない。ヘルプを求めるのが吉と見た!
「こ、米太郎助けてくれ」
「ねぇ春日さぁん、一緒に乗ろうぜ。恐くないさ、俺が傍にいてやるぜ」
「嫌」
「はい予想通りーお疲れ様でした! もう嫌だよこんな役回り!」
ちっ、米太郎じゃ駄目か。よくよく考えたら春日と米太郎を一緒に乗せるなんて絶対に許せねぇわ。春日は男子が苦手だからなー、米太郎ならギリ許していると思ったけど隣に座らせるほどではないと。男子が苦手らしく、四月からの付き合いだが春日が他の男子と話しているところはほとんど見たことない。そんなんでよく俺に下僕宣言出来たものだ。
「……兎月じゃないと嫌」
ぐお……それ禁止。そんなこと言われちゃうとこちらとしても何もしないわけにはいかないじゃん。こそばゆいけどニヤニヤしてしまう台詞を言ってもらえて期待に応えないわけにはいかねぇぞ将也よ。で、でも美保梨ちゃんを裏切る真似も出来ないし……あぁん、どうしたらいいんだよ。
「とりあえず一回目は美保梨と乗って、二回目は恵と一緒に乗ってあげたらいいじゃん」
「二回乗るってこと?」
水川よ、果たしてそれは良いアイデアなのか? 確かにそれなら二人の要望に応えることが出来る。けど俺はこのジェットコースターに二回乗ることになるぞ。む、待てよ……余裕でオッケーじゃん。いや全然良いよ、寧ろ二回乗りたいくらいだよ。なんだ簡単なことじゃないか。さっすがは水川ちゃん、頼りになります。
「じゃあ一回目は俺と美保梨ちゃんで乗ってくるわ。悪いけど春日は待っていて」
「……」
「そんな顔しないでよ、すぐ戻ってくるから」
「……うん」
まだ不満そうに睨んでくるから頭をナデナデする。春日を落ち着かせるのに有効な手段として最近発見した頭ナデナデだ。相変わらず髪の毛サラサラだなぁ、指の間から零れ落ちるくらいサラサラなのに触り心地は柔らかいってすごいな。頭を撫でてあげると春日はしぶしぶながらも顔を俯かせて了承してくれた。すぐ帰ってくるから少しだけ待っていてね。
「へへっ、まだかなまだかな~♪ テンション上がるぜぇ」
「佐々木うるさい、田舎者みたいで恥ずかしいから」
「兎月さん、ちゃんと手繋いでいてくださいねっ」
「へいへい」
春日達にはベンチで待っていてもらい、俺と美保梨ちゃんと水川と米太郎でジェットコースターの列へと並ぶ。待ち時間はそれほどなく、あと数分で乗れそうだ。春日と火祭と会有紗お嬢様は待っている。はっきり言ってあの三人を置いていくのは男として最低かもしれない。あの女子三人だけにしておくと確実にナンパされるだろう。春日なんて幾度となくナンパされている。前川さんに頼まれたんだ、春日を守るようにと。それなのに俺は春日を置いてジェスコに乗ろうとしている。遊園地に来て早々約束を破る形になってしまったが、ちょっとだけ言わせてください。ちゃんと他の人物に春日の護衛は任せていますよ。しかも俺より優秀な方だ。そう、火祭がいるなら絶対大丈夫。あの子は俺の師匠みたいな人だよ? ナンパ野郎なんて瞬殺してくれることだろう。それでも俺自身が離れるのは大変遺憾なのは確か。何が守ってみせるだ、いきなり人に任せちゃって。……あとでちゃんと謝ろう。
「おいおい将也ぁ、そんな暗い顔するなって。火祭がいるから春日さんは大丈夫だって。今日は皆で来ているんだぞ、なら信頼して任せても全然問題ないだろ」
「そんな感じでいいのかな?」
「いいんだよ、一人で全部背負い込むなよ。今日は変に気張らずヘラヘラと楽しめばいいんだって。ほら順番来たぜ、いくぞ!」
米太郎の元気溌剌な声に背中を押されて前へと進む。そうだよな……火祭になら任せられると思って春日を置いてきたんだ。なのに俺は自分が守りたい自分が守りたいと……変に責任感を背負っていたのかも。前川さんに言われたことを勝手に重く受け取っていたかもしれない。はぁ……春日なら大丈夫だって。ちゃんと火祭が見ていてくれる。俺は俺で今この時を楽しめばいいんだよ。また米太郎に教えられた。なんだこいつ、どうして良い台詞を吐けるんだよ。銀さんの影響受け過ぎだろ。……よし、楽しみますか!
「ぐお……想像以上だった」
ジェットコースターを降りてまず一言。いやー……これはすごいな。地元のジェットコースターとは格が違ったよ。まさかここまで精神を削られるなんて思いもしなかった。無事乗り終えて春日達の待つベンチへと戻ってきたが、どうも足がふらつく。な、なんてことだ。まさかこの俺がジェットコースターでここまで参るとは。
「お疲れ様まー君。どうだった?」
「な、なかなか良かったよ。なぁ米太郎」
「……死ぬ」
米太郎にもかなりキテるらしくベンチに座りこんでしまった。舌を出して必死に新鮮な空気を吸おうとしている。うー、さすが最高最恐と評される絶叫マシーン。まず初速が速かった、「空中滑走の世界へレッツゴー」と言って手を振るスタッフの顔がブレたかと思ったら数秒後には地上から何十メートルと離れた空へと打ち上げられていて、そこからほぼ垂直に落下して……そこから回転が加わりながら左右へ高速高低移動して……うぷ、思い出すだけで精神にくる。や、やるじゃないか。確かに爽快感がすごかったけどもう一回乗るのはキツイかも。
「うーん! 気持ち良かったね~」
「えへへ、兎月さんが隣にいたから平気だったよ」
この姉妹は化け物か。特に姉の方、ケロッとしてやがる。普通こういうのは女子の方が苦手だったり恐がったりするのが定石だろーが。なんであなたツヤツヤ顔で満足げなのさ。美保梨ちゃんも全然平気そうだ。末恐ろしいよこの姉妹。
「……兎月」
春日がすぐ傍へやって来た。ごめんね待ってもらって。ここからはなるべく傍にいるから安心してくださいな。はぁ、いやーでも楽しかった。もう一度乗るのはキツぃ……あれ、そういえば……
「……一緒に乗る」
「え……マジ?」
あー、そうだった。春日とも乗るんだった。あー……は、ははっ……マジ?
「春日、これ相当恐いからやめておいた方がいいと思うぞ?」
「……乗りたい」
あ、あぁ。そ、そーですか。はは……なら仕方ないよねぇ。
「……おええぇぇぇ」
「おーい将也、生きてるかー?」
「なんとかな……」
一回目を終えた後すぐに春日と一緒に再びジェットコースターへ。二回目でも慣れないものでして、そりゃーまた身体にズシッとくるものがある。Gの圧力と縦横無尽に振り回されたことによる酔いが蓄積されて今になって頭を襲ってくる。おまけに春日は案の定、恐くなったら俺の腕を掴んできた。ただ普通に掴むなら何も問題ないよ? でもこのお嬢様とんでもない力で抓ってくるんだって。前の遊園地デートでもそうだったけどさ、なーんで俺の腕を抓るのさ! もっと優しく手を握るとか、ほら、可愛い仕種ってのがあるじゃん。痛みしか感じないから。
「……恐かった」
「だったら乗るとか言うなよ」
「でも兎月と一緒に乗りたかった」
「っ……そんなことも言うな。顔赤くなるから、俺の」
く、くそっ。しんどかったのに今の一言で全て吹き飛んだぞ。これだから困るんだよ彼女がいるってのは。あー幸せだあぁ! でもさすがに二回はヤバかったな。これで三回目とかあったらジエンドだよなー、ははっ。
「あの、まー君」
「ん、どうしたの火祭」
「わ、私もまー君と一緒に乗りたい」
……………………。
「こ、米太郎じゃ駄目?」
「うん絶対に駄目」
「絶対って言葉必要だった!?」
米太郎うるさい。へ、へぇー…………はははははっ、ははっ……は……マジで?
「ぐおおえぇぇ……!?」
「将也、お前は男だよ」
遊園地に入って一番最初のアトラクションでライフはゼロになりました。




