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続4 野菜太郎

春日家と言えばお金持ち。お金持ちと言えば別荘。馬鹿な庶民の頭が考えた推測だ。そして正解、春日家には別荘があるらしい。春日のお母さんの話によれば、夏になると少なくても一度は行っているそうだ。しかし今年は何かと都合が合わず行けてないらしい。せっかくの別荘だし毎年行きたいよね。そうだ、今度の週末に行きましょう。兎月君も一緒にどう? こんな感じで春日の母親が話す内容に頷いているうちに庶民の俺が春日家の休暇に参加決定したというわけだ。


「ふーん……それで?」


春日家での食事、修羅場くぐり、正拳突き、別荘について……先週の土曜に起きた出来事を話し終えると目の前の男子生徒は至極どーでもよさそうに生野菜を食べていた。生死を懸けた壮絶で緊張感ある死闘を饒舌に語ったつもりだったが、この野菜馬鹿はあまり良いリアクションをしてくれなかった。それだけでこいつを殴る理由には十分だ。


「ごぼべぇ!?」


土曜日に春日父相手に放った人生ベスト5に入る見事な正拳突きに比べたら精度もダメージも格段に低いパンチだが、こいつの汚い口から咀嚼され気味の野菜を吐き出させるのには申し分ない威力だったようだ。殴られた男子生徒は耳障りな奇声と上げながら頬を膨らませてこちらを睨んできた。その姿にイラッときた。殴った本人の俺が言うのはなんとも自分勝手だが、この顔を見ると不快に感じる。こいつの膨れっ面はそれほどに気持ち悪い。その顔で「もう痛いじゃないプンプンっ」とか言われた瞬間には再び人生ベスト5の拳が唸ることになるだろうな。


「もう……痛かったじゃないの! まーくんの馬鹿、プンプンっ」


訂正しよう、この場にて俺は生涯最高の一撃を打ち込んでみせる。キモイんだよ米太郎がぁ! こいつ、予想していたやつのもう一段階上をいきやがった。自然と握られる拳、さあ唸ろうぜ!


「なっ、音を置き去りにしぶべらへぉ!?」

「そのネタは先週やったからもういいんだよ!」


ちっ、二発目は上手くヒットしなかったか。あまり心地好くない感触が手の甲をうごめく。さすがに二発も受けるとダメージはあるようで、少しばかり上体が揺れて崩れるように椅子へと着席した……米太郎。


「痛いなー……将也は手加減を知らないのかよ」


この男子生徒の名前は佐々木米太郎(ささきこめたろう)。細身で長身……と言ったら聞こえが良いので見た目の紹介は省略。顔は普通だ。本人曰くイケメンだそうだが断じてそんなことはない。もう一度言う、断じて違う。普通にフツメンだ。そして性格、とてもウザイ。これに尽きる。会話をすれば間に何度もボケを挟んでくる。マジで面倒くさい。好きなものは野菜とお米と可愛い女子。最後のは共感出来るが野菜とお米を崇拝している点は他の男子とは異質の部分だ。家が農家ということもあり米太郎は野菜とお米が大好きなのだ。どれくらい好きかと言うと、野菜タッパーと命名した漬け物やら野菜を大量に詰め込んだタッパーを常備しているくらい。冬になると袖にきゅうりを忍びこませたりする。河童もびっくりのきゅうり大好き男、もとい野菜ジャンキーだ。野菜に関して彼の右に出る者はいない。つーか隣に立ちたくない。


「米太郎も自分の気持ち悪さを加減しろよ。国が国なら裁かれるかもしれないぞ」

「そんなに気持ち悪かった!?」


絶叫する米太郎。こんな奴でも俺にとっては親友となっている。……いやいや俺どんだけ友達いないの? みたいな感じになるかもしれないが、一応こんな米太郎でもいざという時はすげー頼りになるのだ。ぶっちゃけ今の俺がいるのもこいつのおかげ……とか言ったらなんか恥ずかしいので絶対に言わないっす。俺と春日が付き合えたのはこいつが陰でサポートしてくれたからとか、素直になれない俺を殴って説教してくれたとか、そーゆー熱い友情エピソードはまたシリアスの時になれば見られると思う。ま、当分はコメディーですがね。………何言ってるの俺? 今タブーに触れた気がする……。


「おーい、どしたー? 停止してるぞ」

「ん……ああ、ごめん。それで何だっけ?」

「いかに野菜が大事かって話だよ」

「ああ、別荘についてだったな」

「タフネス!?」


どんなツッコミだ、意味分からん。途中ちょっと米太郎の紹介とかあったけど最初の話題に戻ろう。そう、今度の週末は春日家の方々にご一緒して別荘に遊びに行くのだ。それはそれはきっと楽しい休暇になるだろう。春日父が牙を剥かなければ。


「本来は家族水入らずの恒例行事なのに俺が呼ばれたのには二つ理由がある。まずは感謝の意を込めて。これはまあ色々あって春日家の皆さんが俺にお礼がしたいってこと」

「ほうほう」

「もう一つはお手伝い。別荘に行くんだけど春日のお父さんが仕事の都合上どうしても夕方くらいにしか行けないらしい。そこで春日母は春日父を自宅で待ち、春日と俺は先に別荘に行って別荘の掃除や夕食の準備をしてリラックスのんびりイチャイチャする」

「……最後のは聞かなかったことにするわ」


ということで俺にも別荘に来てほしいと春日母はそう言って締めくくった。父親の方は敵意満々だが母親の方は逆に友好的だ。それどころか俺達の交際を応援してくれている。別荘に俺を呼んだのも俺と春日が付き合っていることを知っていた上で……そんな気がする。よくドラマである展開だな。「娘は絶対にやらん」と無愛想な頑固親父と、「あらあら、私は賛成ですよ」と優しい母親。それによく似ている。違う点と言えば父親の手に刀が握られていることくらいだ。確実に春日父は俺を別荘に呼ぶのを反対だったに違いない。だから怖いんだよな~、今度の週末。春日の両親が合流してからは大人しくしていよう。それまでは俺のターンだ!


「おい将也、ニヤニヤするな」

「黙れ米太郎、この独り身が」

「き、貴様! 今の発言は宣戦布告とみなすぞ!」


野菜を食らっていた米太郎の目が変わった。憎悪に満ちた悲しい色をしている……。


「そ、そんな哀れみの目を向けるなぁ! お前に俺の何が分かるってんだ!」


彼女いないって話題になると米太郎は豹変するよな。あー、面白い。


「俺だってその気になれば可愛い女の子と付き合えるんだぞ! ある雨の日、誰も来ないような神社で雨宿りする女の子。そこに偶然、まるで導かれるようにやってきた俺。目線は重なり合い、そして彼女は俯く。俺は黙って自分の傘を差しだす」

「ただの勘太じゃん」

「や~い、お前ん家おっばけ屋敷~、ってか。いいから黙って最後まで聞いて頂戴っ!」


はいはい。


「驚く少女の淡く濡れた美しい姿に心が激しく揺れながらも俺は傘をそっと置いて立ち去る。止まずに降り続ける雨、しかしそれは熱くなった頬を冷やすのには丁度良かった」


なんかムカつく表現しやがるなこいつ。


「そして翌日、クラスは転校生が来るという話題で持ちきりだった。昨日の雨で風邪気味な俺は机に沈んでいたよ。担任の声と騒ぐクラス。俺も気怠げに顔を上げたよ。そしたらそこにいたのは……」






「あの子だったんだ……」


……。


「『昨日はありがとうございました』『別にいいよ』『あ、あの……良かったら私と付き合ってくれませんか?』……そうして二人は」

「おい待て、始まりと終わりが背中合わせだったぞ。なんで出会ってすぐに付き合うんだよ」


びっくりするくらいの速さでハッピーエンドに入ったよ。最後の方テキトー過ぎるだろ。


「馬鹿だな~、将也は。運命的な出会いをする、俺が優しくする、私と付き合ってください、こうなるだろ?」

「それは詭弁だ。つーか夢見過ぎ。だからモテないんだよ」

「な、なんだとおおおおぉお!?」


凄まじい形相で米太郎は吠えて口から野菜を飛び散らす。なんとまあ醜い。


「今のは許せないなぁ、さすが彼女持ちは余裕あるな。ふっ……その余裕、いつまで持つかな?」


両手を上げてファイティングポーズをとる米太郎。どうやら戦いたいらしい。小生意気にステップを刻んで接近してきやがる。いや、余裕があるというか……お前に余裕がなさ過ぎるというか。はぁ……これが友達とか思いたくないな……。いざという時は頼りになる良い奴なのにな~、普段がこれだから残念で仕方ない。なぜモテないのかって思う時もあったけど、こんなところが駄目なんだろうな~。


「さあかかって来い将也。今の俺に勝てるかな? ふふっ、さて……ちょっとアレを使ってみるか。実践で使うのは初めてだがな」


なんか雑魚キャラが言いそうな台詞だな。


「さあいくぜ……これが俺の新技だぁ! 次回に続くぜ!」

「えっ、この話まだ続くの!?」


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