続38 米大活躍
「今からボランティア部大反省会を行いまーす」
「イエー」
「兎月ふざけたから腕立て五十回ね」
「マジかよ!? つーかペナルティあるんだ」
そして地味に回数多くないか!?
なんてことはさておき、今日はボランティア部の活動日となっております。いつもの部室に集合して今日の活動は反省会というわけだ。今年も部員が増え、活動の幅を広げた我がボランティア部。朝の挨拶活動や放課後の清掃活動を行い、夏には地域の皆様と共同で河川敷のゴミ拾い、最近では地域の子供達と工作で触れ合ったりした。意外とボランティア部はアクティブに活動していたりする。これだけ精力的に善意ある活動をしたのだから内申書には色々と書いてもらいたいものだ。馬鹿な俺がまともな大学に進学するには推薦以外に道はないと思う。まあ受験なんて来年だから来年になってから考えればいいんじゃね? とりあえず今年を振り返ろうということで今日は今年行った活動を思い返しつつ反省すべき点を挙げ、改善し、来年はもっと素晴らしい部にしようではないかという次第。だからこそ俺はこうやって、
「に、二十七……二十八ぃ」
腕立て伏せをしているのだ。あれ、なんか違うか。とにかく急いで五十回終わらせよう。
「筋トレ中の副部長は放置するとして、何か意見ある人ー?」
放置するなよ。別に好きで筋トレしているわけじゃない。部長の水川に粗暴な扱いを受けながらも懸命に腕を酷使する健気な姿を見てもらいたいものだ。水川部長はホワイトボードの前に立って反省会の進行をしている。クラスの人気者の水川ちゃんは部活でも皆のリーダーとして優秀なわけです。長机に着席する部員達、同学年の山倉や一年生の矢野に他男子二名とボランティア部全員が集結している。部員数は少ないかもしれないがまだ部が発足して三年目、これから部を大きくしていこうとする段階だ。そのためにも今後に活かすための反省会を行うのは非常に良いことだろう。それを茶化した俺は罰を受ける……なんだ当然のことだったのか。
「はい水川先輩」
真っ先に手を挙げたのは矢野。小柄で眼鏡ガールな矢野、俺にだけ対して傲慢な態度を取るがそれでも自慢の後輩だ。最近では水川による影響も受けて女子力をメキメキとつけているみたいだ。うんうん、率先して意見を言うのは良いことだよ。
「はいどーぞ矢野ちゃん」
「うちの部って活動する時はちゃんとしていますが何もない時は部室でダラダラしているイメージがあります」
ああ、確かにそうかもな。主に野外での活動が多く、その時は皆しっかりと働いておりキビキビしている。けど何もない日、特にやることがない時は部室でのんびりしているよな。男子はゲームして女子はお喋りして。なんだかスケット団みたいだ。ここにもベッドとか置きたい。あ、それだとダラダラしているのに拍車がかかってしまうか。
「なのでもっとしっかりしてほしいです」
「矢野ちゃんナイス意見っ、プラス10ポイント」
え、これってポイント制なの? 何のポイントだよ。
「確かにそうだよね。特に男子はいつもゲームばかりしているし、もしバレたらどうするの。部室使えなくなるよ」
手痛い意見だな。水川の言う通り、基本的に男子はゲームに熱中している。主にモンスターをハントするゲームを皆でしておりぎゃあぎゃあと叫んでいる。先生が見回りに来たら見つかること間違いなし、反省文を書かされるだろう。
「意義あり!」
異論を唱えたのは山倉。声がデカイって何度言えば分かるのやら。山倉は机を叩いて立ち上がると声を特大にして吠えている。こいつが中心となってゲームしているからな。山倉にしてみればゲーム禁止の事態を阻止したいのだろう。ちなみに山倉のよく使う武器は太刀だ。
「確かに俺らは狩りに夢中だ! 暇さえあれば部室のコンセントを独占して狩りばかりしている! でも! それは! 俺達なりにコミュニケーションを取ろうと頑張っているからなんだよ!」
うん、なるほど。結論、お前うるせーよ。声がデカイわ。
「山倉ホントにうるさいからマイナス49ポイントね。それから今後意見言う時は紙に書いて他の人に代弁してもらって」
ルーズリーフとペンを渡された山倉。マイナス50ポイントになったら駒野先輩からシメてもらうから、と水川に告げられて以降一言も発しなくなった。なんかドンマイだな。哀れだよ、太刀厨乙。
「で、兎月はどう思う。あとまだ四回残ってるよ」
くそっ、ちゃんと数カウントしていたのかよ。誤魔化せなかったか、キツイんですけど。乳酸が腕に溜まるー。
「確かに矢野の言う通り、ゲームばかりしているのは良くないよな」
一応俺も副部長の役職に就いている身としてふざけたり腕立てだけをしているわけにもいかない。多少なりとも真面目な意見を発言する義務がある。ゲームをこよなく愛する俺個人としては男子サイドを味方したいが立場上それは出来ない。すまない山倉。
「おいおい兎月!? お前だって一緒にゲームしてるだろ!?」
「たまにな。それと最近は全然してなかった」
「そもそも兎月先輩は部活にも来てなかったです」
これまた厳しい意見だな矢野ちゃーん。とりあえず山倉が懲りもせず大声で発言したのでマイナス50ポイント越えは確定。今度駒野先輩にアイアンクローでもしてもらいなさい。俺が部活に来てなかったのは事実だけど、それに合わせて特に活動することもなかったことも事実。何かやることがあれば顔を出しはするが、部室に行っても山倉達とゲームするしかないのは分かっていたことだ。ならば大人しく春日と一緒に帰る方を優先するのは当然のことではないだろうか。今日だって仕方なくこっちに来ている部分がある。本来なら無理矢理にでも春日と一緒に帰って微妙な距離を解消したいのに断腸の思いでこっちに来たんだ。後でメールしなくては。
「まあまあ。つまり矢野はゲームなんかしないでもっと部活らしいことしましょうよ、と。そーゆーことが言いたいんだろ?」
「その通りです駄目な兎月先輩」
気に食わない言葉が名前の前に聞こえたような気もするが流しておこう。矢野はこういう奴なんだ、例え俺が部長であったとしても今と変わらず舐めきった態度で嫌味な敬語をぶつけてくるだろう。もっと先輩らしく威厳ある態度で接すれば良かったのかなと後悔してしまう。水川が言うには俺は尊敬されるというよりは親しみやすい友達みたいな先輩なんだと。威厳も何もあったもんじゃない。こう考えると駒野先輩はすごい人だったなと引退された今になって思い知らされる。皆をまとめつつ威厳もあり暴力もあり面倒見も良くて……偉大な人だったよ。今頃は居残って受験勉強に身を投じているのだろう。センター試験まで残り二ヶ月を切ったらしいっすよ。夜遅くまで学校に残って勉強している先輩方がいるそうです。マジ受験パネェ、二年生の俺にとってはまだ一年も先の話なので受験なんて言葉耳も貸したくないですな。今を楽しく生きるっ。
「逆に聞くが矢野や水川だって部室でお喋りしているだろ。ゲームしている山倉達とガールズトークしている水川達、双方に違いはないと思うぞ」
「お喋りはいいのよ部員同士のコミュニケーションを高めるために重要だから」
なんか水川に良い風に言い包められたような……。
「だったらゲームだって!」
「山倉うるさい。はいはい分かった、要するにゲームは駄目だと。で、お喋りはしてもいいと。これでいいですかマミー部長」
「マミー言うな」
ゲームは教師にバレると色々と面倒なのは確かだ。その点お喋りは普通にオッケー。発言の自由を禁止した学校及び社会組織はありえないのだから。つまり、これからの部活は特に活動がなくても皆でこれから何するか会議しつつ雑談も交えて楽しくやっていこうではないかー、と。そんな風にしていきましょーというわけですね。そこら辺、今から水川が上手くまとめて言ってくれるだろう。
「ということで部活中のゲームは禁止とします。これからは皆で楽しく活動の方針を話し合いましょう。そして兎月はもっと部活に来るように、たまには矢野ちゃんの相手もしなさい」
「へーい」
「ふざけんなよぉ!」
「別に私は兎月先輩に相手してもらわなくても平気ですっ」
山倉よ、まだ粘るつもりか。てゆーかうるさい。なんだよもう、お前が発言する度にうるさいとツッコミを入れるこっちの身にもなってくれよ。その声帯引き千切ってやろうか。それに何も水川はゲーム全面禁止に申したわけではない。ちゃんと聞いていなかったのか。
「落ち着け山倉、水川は部活中のゲームを禁止すると言ったんだ。活動中は駄目なだけで部活終わった後に残って部室でゲームするのはオッケーなんだろ?」
「そうだよ」
「そうなのか!?」
今日一番の叫び声を上げるとさっきまでとは打って変わって山倉は嬉しそうに椅子から立ち上がった。そして狂ったように乱舞している……き、キモイっ! そんなにゲームしたいのかよ。もうすぐクリスマスだというのに、ゲーム内でモンスター狩る暇があったら現実で彼女ハントしてこいと言ってやりたい。ああ言ってやりたいけど、言ったら高確率で山倉が怒り狂って暴走しそうなので何も言わずに水川の方へ視線を流す。水川部長は呆れたように首を横に振っていたが、まあ別にどうでもいいわーと言った感じで場が落ち着くのを待っている。なかなか部のリーダーというのも大変なものなんですね。場合によっては俺が部長になっていたことを考えると今は副部長で良かったなと思う。俺みたいな奴は副部長という中途半端なポジションでヘラヘラしているのが似合っているよね。
「……ん?」
マナーモードにした携帯が揺れ動く。どうやらメールのようだ。相手は……春日。……おおぉぉっ。
『今部活?』
『そうだよ』
『待ってる』
『どこにいるの?』
『正門』
『寒いでしょ。すぐ行く』
やっぱメールだとスムーズに会話が進む。いいね携帯電話、発明してくれた人に感謝。これがなければ春日と付き合うこともなかったと思うと……いや違う、携帯なくても春日とは付き合っている。というか付き合ってやる。運命舐めんな。
「兎月、会議中に携帯見てると減点するよ」
携帯いじっているのを水川に目撃された。ヤバイ、これはマイナス何ポイントになるんだ? 50を超えるとアイアンクロー、それだけは避けたい。つーか今すぐここから出たい。
「ごめん皆、ちょっと用事出来たので帰ります」
鞄を取り席を立つ。部活中に堂々と抜け出そうとするなんて非常に不真面目で駄目な副部長である。本当に申し訳ないと思っております。けど急がないといけないんです、走らなければならない用事があるのですよ。
「兎月先輩っ、まだ会議の途中ですよ!」
「ごめん矢野、また今度ゆっくり話そうな」
「だ、だから私は別に兎月先輩と話したくないですからっ」
声を荒げる矢野、さっきからずっと大声を荒げる山倉、そして水川の「マイナス100ポイントだから」の声を背中に受けつつ部室の扉を閉めた。ふう……彼女に会いたいから部活をサボるとか最悪の奴じゃねーか。ホントごめんね皆、今度会ったら何か奢るから……いや今は奢るほど金持ってないわ。じゃあ俺に何が出来るのだろう? いやぁ、本当に駄目先輩ですいません。これからは人一倍働くので今日だけは見逃してください。お願いします。さて、急がないと春日が……
「いいんですか水川先輩っ?」
「んー、まあ兎月は一学期前半の真面目だった業績があるからそれでチャラってことで。どーせ恵のことなんだろうなぁ、なんか兎月も変わったねぇ」
「水川先輩? なんだか嬉しそうですけど……」
「ちょっとね。今の兎月が余計にカッコ良く見えるからさー。……恵が羨ましいよね」
「イヤッハー!」
「だから山倉うるさい」
つーか今思うと水川のマイナス100ポイントって要するにアイアンクロー二回を意味してないか? うわぁ、頭蓋骨終了のお知らせ。近い未来アイアンクローの痛みで喘ぎ死ぬ自分のビジョンが浮かんで思わず寒気が、そして外に出れば普通に外気の寒さで体が震える。やっぱこの時期は寒いな。まだまだ雪は降りそうにはないが、それでも風の冷たさは例年にも増してキツイように感じる。なんだこれ、寒過ぎる……っ。吹きつける冷風は突き刺さるように顔面を襲い、学ランの隙間から容赦なく侵入してきて体温を下げる。本格的な寒さ対策が必要になってくるなぁこれ、マフラーと手袋準備しないと。昨日春日と湖に散歩した時はまだなんとなくポカポカしていたのに一日過ぎただけでこんなにも気温は下がるものなのかね。太陽があるかないかで気温が大きく変わるようだ。春日は正門で待っているらしいが、こんな寒い中待たせるわけにもいかない。迅速に上履きを脱ぎ捨て靴に履き替えてダッシュ。あああぁぁあ、寒い。
「ねえねえ、もっと一緒にお話しようよー。というかもっと笑ってよー」
正門へと近づくと人影が二つ見えた。一つは春日、これは見間違うことはない。春日は正門の壁にもたれかかって俯いている。……そのすぐ近くで誰かが話しかけている。男子生徒……? 春日に向かって何か言っている、というか近い。なんだその距離、近過ぎるだろうが。ここから見ても分かる、春日が嫌がっているのが。こちとら下僕期間合わせて長い時間春日の傍にいたんだ、一瞬で分かるさ春日が困っていることに。俯いたまま動かない春日、そのす~ぐ近くで口をペラペラと動かす男子生徒。はい許すまじ。走っていた速度が跳ね上がり、狙いを定めて、
「ちょっと野菜につい、てぶらぁぁぁっ!?」
「おらぁ死にさらせぇ!」
男との距離数メートル手前で派手にジャンプ。そのまま回転を加えながらドロップキックを放つ。我ながら見事なフォームだったな。火祭との特訓の成果が現れてきたようだ。前までのヘタレな俺だったら中途半端にジャンプして微妙なキックになっていただろう。まあそれでも誘拐犯Aを撃退するには十分な威力だったけど。
「ごめん春日、遅れた。大丈夫? 怪我ない?」
「……私は平気。だけど」
春日は視線を横へと向ける。その先には男子生徒。惨めな悲鳴を上げて地面に倒れているではないか。そっか俺が蹴ったからだよな。だけどなぁ、春日に近づこうとする野郎は何があっても許さないから! ……って、
「米太郎じゃないか」
「そうだよオラ米太郎だぞ!」
その男子生徒とは親友の米太郎君であった。今日久しぶりに登場して浮かれまくっていたライス君がそこにいた。……はっ、米太郎? まさかお前……
「テメェ何春日に近づいているんだよあぁん? 友達だからとはいえ容赦しないぞ」
「もれなくドロップキック放ってきた奴が何言ってやがる。寧ろ感謝してほしんだけど!?」
感謝? どういうことだ?
「……ここで待っていたら佐々木が来たの。一人だと他の男子に声かけられるから一緒に兎月待ってくれるって」
「春日さん弁解ありがとう! とゆーわけだよ将也。分かったらその握りこぶしをこっちに向けないでぇ」
あぁ、そういうことだったのか。つまり米太郎は春日を守っていてくれたのか。お、おおっ……まさかの米太郎が良い仕事をしてくれていたなんて。そういえば俺が学校を退学していた時も春日を守ってくれていたらしい。……米太郎、やっぱり良い奴だったんだな。ありがとう。
「でも俺がいくら野菜の話をしても春日さん全然反応してくれないんだよ。話しかけても無視するし……」
「誰だって野菜の話されたら無視するだろうよ。二度と春日に変な話吹き込むな」
「それが待ってあげた親友に対する言葉かよ!?」
とにかく春日が無事で良かった。過保護なところもあるかもしれないが一度目の前で誘拐事件を目撃したこちらとしては一人で正門前に待たせるなど気が気ではないのだ。ただでさえ春日は可愛いのだからそれだけで狙われてもおかしくない……今回は米太郎がいてくれて本当に良かった。
「だからもう帰っていいよ米太郎」
「え、何言っているの? 三人で一緒に帰ろうぜ」
おいおいマジかよ米太郎君。
「ははっ、空気読もうぜ。……分かるだろ?」
「……チクショー、どーせ俺はクリスマスも一人ですよーだ! うおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉん!」
山倉にも負けない大絶叫で泣き叫びながら米太郎は坂道を転げ落ちっていった。なんか可哀想だなぁ、なんであいつモテないんだろ? 野菜の話やめたらちょっとはモテるだろうに。まあ野菜の話をしない米太郎なんてアイデンティティーが消失してもはや米太郎ではないけどね。ただの太郎になってしまう。
「……兎月」
「分かってるよ。ちゃんと米太郎には礼を言っておくよ」
「……うん」
「帰ろっか」
「うん」
そのまま普通に春日と帰宅。変な空気? そんなのはさっきの騒動で消えました。いやぁホント米太郎様様だな。




