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続37 修学旅行は行く前が一番盛り上がる

またしても春日と変な距離が発生しているが、そこまで心配することじゃないと思う。前回みたいにタイミングを計って慎重になろうとせず今回は素早く話しかけてしまえばオッケーってことだ。なので心配ご無用ー、米太郎と大人しく二人で昼食を頬張っています。


「ぐおぉ、マジで痛い……」

「そうですか」

「お前、人のきゅうり蹴っておいてそれはないだろ! 同じ男ならこの苦しみが分かるはずだべ!」


だべ、ってなんだよ。方言使うな。苛立たせる下ネタを言ってきやがったので思いきり蹴ってやったわけだが、かなりダメージが深刻なようだ。まあ気持ちは分かる、急所を蹴られた痛みなんて考えるだけでこっちまで痛くなる。だから何も考えず黙々とモグモグとパンを食べます。もう財布には小銭すら残っていない、パン一つじゃ食い足りないなぁ……。


「何しれっと会話中断してんだよ、俺の耐え難いペインに構えよ!」

「黙れ野菜太郎が。クリスマスに予定のない奴のことなんか知らねぇよ」

「ひ、ひどぅい!」


ちなみに今の俺の発言が聞こえてしまったようでクラス内の男子半数以上がこちらを振り返って舌打ちをしてきた。皆さん目が恐いですよ? ホントこのクラスの野郎共は……そんなに他人の幸せが憎いのかよ。この前もクラス裁判沙汰にして全員で俺を粛清しようとしやがるし、何だろうねまったく。そんな風に人の不幸を願っても自分自身への幸福はやって来ないぞ。他人の幸せを自分の幸せと同等くらいに願わないといけないって昔誰か偉い人が言っていた気がする。そんなこんなで惣菜パンを完食、昨日の春日の手作り弁当と比べたらいけないのだろうけどやっぱり物足りない。


「ふぅ、やっと痛みが収まった」

「それは良かったな」

「誰のせいだよコノヤロー」


やっと痛みが和らいだようで米太郎はいつもの調子で漬物タッパーを開けて漬け物を頬張っている。それさっき落としただろ。そしてタッパーとは別に弁当箱を取り出して……おぉ、相変わらずのおかずラインナップ。弁当箱のうち半分は白米で占められて残りのおかずコーナーには野菜、野菜、野菜、漬物、野菜が敷き詰められている。安定の野菜ジャンキー弁当だな。それを嬉しそうに食べる米太郎。草食動物の食事風景と何ら変わりのないぞおい。さすが農家の子供だな、俺だったらこんな弁当出された日には家帰ってキレ顔で母親に向かってババアふざけろ発言してしまうよ。このクソBBA!とか言ってしまってお小遣い全ストップの未来まで読めた、それはマズイよね。つーか母さん弁当作ってくれないし。こうやって母親の味を知らない子供が育っていって家族愛を軽視する冷めた日本が出来上がっていくのかな。悲しいね。


「くはー、やっぱうちで作った野菜はどれも最高だぜ。今年もうちの畑は豊作ですよ将也君!」

「テメーのぶら下げているきゅうりは不作だけどな」

「なんてこと言いやがる!」


そのままの意味だよライス太郎くぅん。


「ふんっ、つーか将也も下ネタ言ってるし。それだと修学旅行の部屋では下ネタのオンパレードになりそうだな俺ら」

「は? なんで俺と米太郎が修学旅行で同じ班みたいなこと言っているんだよ」

「……え、違うの!?」


途端に焦ったように米を吹き出す米。テメ、この野郎っ、さっきから汚いんだよ。下品な食い方して食べ物粗末にしてるくせに何が農家の息子だ。何度となく米太郎菌を顔面に食らって正気でいられるほど俺の心は寛大ではない、もう一回その粗末なきゅうり真っ二つに折ってやるぞコラァ。


「ちょ、そんなのあんまりだよ将也ぁ。俺達親友じゃないか、修学旅行も一緒の班で仲良くしようぜ」


そう言ってこちらを見つめながら手招きしてくる米太郎。やめろ、野菜畑に引きずり込もうとするな。ふふん、悪いが修学旅行も春日と一緒に……って、あぁそうか。一組の春日と二組の俺じゃ同じ班にはなれないよな。……うん、そりゃそうだ。いやまあ……うん、そうだよね。


「というか修学旅行とかまだ先の話だろ」


確かうちの高校の修学旅行は一月の中頃に行っているはずだ。去年、部活の先輩の駒野先輩から一月頃にお土産もらった覚えがある。まだ十二月にもなっていないし、そんな先のこと意気揚々と話しても気が早いだけだって。


「何を言うか、クリスマスが終わって新年を迎えたらあっという間だぞ。今のうちにアタックしまくってクラスの可愛い女子と一緒の班になろうではないか! てことで将也は俺と一緒の班ってわけさー」

「なんでだよ」


俺と米太郎が一緒になっても女子からは「うわぁ、野菜コンビだよ」とか「あいつらいつも一緒にいるけど、まさかホ…」とか言われるのがオチだ。そう考えると米太郎と一緒の班になるメリットが微塵もない。尚更こいつと同じグループになるのが嫌になってきたぐらいだ。


「将也は意外とカッコイイからなー、きっと女子受けもいいだろうよ。おまけに春日さんと付き合っている」

「それってプラスポイントなのか?」

「大いにプラスだ。あの春日さんと付き合っている将也のことを男子は毛嫌いしているが女子からすれば興味津々といった感じなのだよ。ちょいイケメンの将也と最高にイケメンな俺が組めば女子が群がること間違いなしだぜ」


最後の一文だけは納得出来ないな。お前如きがイケメンならチョウチンアンコウだってイケメンの部類に入ることになるぞ。全国のチョウチンアンコウファンの皆さん、決してチョウチンアンコウがブサイクだとか批判しているわけではないので手に提灯持って振りかぶるのはやめてくださいね。


「修学旅行か……ってどこに行くんだっけ?」

「おいおい将也君マジかね。それを知らないとか君はどれだけ先生の話を聞いていなんだよ、もっと気を引き締めないと。ついでにたるんだウエストも引き締めろよ、アハハッ」


呆れたようにオーバーなリアクションで両手を上げてアメリカンなジョークを飛ばす米太郎。ごく自然とイラッとした。なんだろう、このウザイ奴を殴れと本能が騒いでいる気がする。あぁムカつく。


「いいから教えろよ」

「しょーがないなー、チェリーボーイ」


誰がチェリーボーイだ。お前もだろうが。


「いいか、修学旅行の行き先は……この中のどれかだ」


『北海道』

『沖縄』

『京都』

『>>25』


「なんで安価があるんだよ!」


うっわ、寒い。なんだそのくだらない選択肢は。つーかこの中選ぶのか。なんか昔のときメモみたいな感じになっているぞ。ふざけんなよライス、今の中学生がときメモとか知るわけがないだろ。


「くだらないボケはいいからさっさと言え馬鹿」

「はいはい分かった分かった。おほん、修学旅行の行き先は……なんと、北海道だ! どうだ!」


なるほど北海道か。寒いイメージしかないんだけど……なんか吹雪で天候が荒れていて凍てつく山がそびえ立っている。そんな映像しか思い浮かばない。RPGでの極寒なイメージが印象深いせいだろうな。なるほど、ちょっと楽しみになってきた。飛行機とか乗るのだろうか。生まれて飛行機に乗ったことがないので是非乗ってみたい。Gを体験したいよ。


「おい将也、もっとリアクション取れよ。というか、あれだな。修学旅行の行き先が北海道という時点で俺達の住んでいる場所が北海道ではないことが分かったな」

「だからメタな発言は控えろって」


その辺はやんわりとしていればいいんだよ。細かいことは考えるな。


「北海道でスキーするらしいぜ。スキー楽しみだよなぁ」

「そうだな。そしてご飯も楽しみだ」


やっぱあれでしょ、北海道と言えば、


「野菜だろ?」

「違ぇよ!」


お前だけだろ野菜に思い馳せているのは。普通に考えて蟹とかだろうが。よくグルメ番組で見るだろ、蟹の鍋を美味しそうに食べている光景を。さぞかし美味しいのだろう。兎月家は普通の家庭なので蟹を食う機会など滅多にない。残念だがそれが庶民の限界というもの。いつか俺も春日家のような大金持ちになって毎日蟹を食い散らかしてみたいものだ。たぶん春日にローキックされて注意されるだろうけど。


「何言っているんだよ将也、やはりその土地ならではの野菜があるでしょうが。あぁん、今から楽しみで仕方がないよ僕は!」

「うん、やっぱりお前と同じ班は遠慮しとくわ」

「えぇ!? そ、そんなこと言うなって。将也以外に俺のことしっかりと構ってくれる人なんていないんだからさ~」


どうやら米太郎は俺がいない時はぼっちライフを送っているようだ。野菜の話か下ネタしか言わない奴の末路はこれということか、なるほどね。


「おい何だその哀れみの目は。俺だって友達はいるっちゅーに」

「それは野菜達だろ?」

「それも間違っていないけども、いや違くて! 普通に友達いるから!」

「まあそれはどうでもいいんだけど」

「さっきから俺への返事雑じゃね!?」


とにかくも、とりあえずもうすぐ十二月へと変わり、その翌月は修学旅行。俺、兎月将也の高校生活も半分が過ぎた。これからも楽しく学校生活を満喫していこうと思う。




……まずは春日の機嫌を取ることから始めないとな。

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