表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/91

続36 野菜よ舞い散れ

土曜は火祭とデート、日曜は春日とデート。こう並べてみると、なんかとてつもないモテ男に見える。というか普通に凄い。二年生を代表する二大美女それぞれと二日続けてデートするなんて他の男子が聞いたら発狂するレベルの快挙じゃないだろうか。しかしまあ実際のところどちらのデートも一筋縄ではいかない事件やハプニングに見舞われて大変だったのも事実。そのことを親友に話して俺の気持ちも分かってもらおうと、そんなことを考えた次第でして。


「……将也よ」


週末の二日連続でのデートそれぞれで起きた事件を話し終えると、目の前の男子生徒はバイブレーションのようなリズム良い微震動で体を震わせてきた。頭は俯いて表情が見えず、曇った唸り声が机に跳ね返ってこちらへと届く。唸った後、僅かに沈黙。そして微かな揺れは徐々に大きさを増していき机と椅子と床を軋む音が出るほどに激しく震えて暴れだしたではないか。その動きの大きさに比例して体から熱が発生し、辺りの空気を渇いたものへと変えていく。その姿はまるで我を忘れた闘牛、まるで飢えに苦しむ衰弱した老婆、まるで憐れな野菜太郎のようだ。


「何をそんな怒っているんだよ、確かにノロケ話したのは悪いと思うけどさ」

「そこじゃねぇ。いや、そこもだけど今はそれよりも大事なことがあるんだよ!」


ついに揺れは最大になって机を押し倒しやがった。あーあー、机に置いてあった君の漬物タッパーが落ちましたよ? 俺もメロンソーダを置いていたが素早く手に取って救出し今は口元へ運んでいる。この爽快感が気持ち良す。


「何爽やかな笑み浮かべているんだバカヤロー! いいか、ここ最近の俺の出番の少なさは何だったんだよ! ふざけんな一体どれだけ登場してないと思ってやがる!」


怒りが頂点へ達したのか米太郎の口はマシンガンのように次々と不満が連射されていく。なんて顔しているんだよ。ブサイクな鬼がキレている顔みたいだぞ。ブサイクな鬼の形相ですか?


「前編ではレギュラーメンバーとしてほぼ毎回登場していた天下の米太郎だぞ!? それが何だこの扱いはよぉ。やい将也、俺が前回登場した時の最後の台詞を覚えているか?」


いや覚えてないけど。つーかタブー発言ばっかりかよ。それはちょっと止めてくれません? あんましメタなこと言うと感想欄にて悪い点で指摘されるからさー。あと米太郎が前回登場した時がいつかさえ忘れてしまったんだけど。ああ、それくらい登場が久しぶりってことか。まあ俺にはどうでもいいことだけどなー、括弧笑い。しかしそんな俺のヘラヘラした態度が気に入らなかったようで米太郎の顔がより一層酷く歪んでしまった。モザイクかけたいレベルに荒れまくりだな。そしてマシンガンを一度閉じたかと思いきや大きく息を吸い込んで、


「じゃあなる、だぞ! そんなクソみたいな台詞を最後に出番が消えたんだよ。分かるかこの気持ちが! この最悪なる気持ちがよぉ。何だよ、じゃあなるって!? ただの下ネタじゃねーかよ!」

「知るか。てゆーかデカイ声で下ネタ叫ぶなよ、俺まで変な目で見られちゃうから!」


クラスの皆さーん、お願いですのでこいつと俺を同類の目で見ないでください。そうか、そういえば米太郎と話すのは久しい気がする。いやいつも学校に来れば一度は必ず会話をしているが……なんというか、その場面はピックアップされていないというか。上手く説明出来ないが、要するにタブーを犯すなってことだ。


「もぉ~、ふざけんなよぉ。下ネタを最後に17話も放置されたんだぞ。いつも以上にテンション上げていくからそこんとこシクヨロ!」


シクヨロって何だよ、死語だろそれ。こっちからすれば米太郎の出番のなさは羨ましいくらいなのに。平日は春日による暴力と火祭との特訓で体力は疲弊し、週末は二連続のデート。肉体面と精神面共に限界まで削られてまた今日から通常授業に耐えなくてはならない気持ちも分かってくれ。贅沢な悩みかもしれないが俺も疲れているわけだしお相子としましょうよ。今日は月曜日、週末の激闘を生き抜いた俺を待っていたのは授業という名の嫌がらせ。こちとら湯水の如く金を使って今日の昼飯はパン一つ買うのがギリギリなほど切羽詰まっているんだよ。なのにいつも通りの授業が朝から夕方まで今日から金曜日まで続くと考えると鬱になりそうだ。もう嫌だ授業なんて。全部体育か保健でいいと思うよ。この二つでいいんじゃね?


「いやー、やっぱり野菜は美味しいよね!」

「そうだな」

「……適当だな」


だって米太郎の野菜好きな話なんてどうでいいというか聞き飽きたもん。休み時間にお前と交わす会話のうち半分以上が野菜は美味しいだの自然の恵みに感謝だの婆ちゃんの作ったお米は美味しい等々……もっと高校生らしい話題はないのかって呆れてしまう。だからこそ俺は高校生らしく、さらに言えばリア充高校生らしくデートの自慢をしたってわけだよ。うんうん、もし俺が米太郎の立場だったら間違いなく俺を殴っているな。他人の自慢話よりつまらないものは野菜の話ぐらいしかないくらいだぜ。その点を踏まえると米太郎は意外と良い奴かもな。さすが俺のマイフレンド。ん? 俺のマイフレンドって訳すと俺の俺の友達ってなるじゃん。馬鹿だなー、あははっ。


「おい将也、何一人でニヤニヤ笑っているんだよ。俺の野菜の話は流して自分は昨日のデートでも思い返しているのか、あぁん?」


制服の袖に収納していたきゅうりを食らいながら米太郎がにらみつけてきた。でたよ、米太郎お得意の野菜キャラ。全国の高校中を探しても制服の袖にきゅうりを忍ばせている奴なんてこいつ一人しかいないだろう。しかもマヨネーズや味噌をつけずそのまま食べるのだから、ある意味凄いと思う。俺ならマヨネーズだな、うん。家で食べる時はマヨネーズで、もし春日と一緒に食べることになったら胡麻ダレにしてちょっとオシャレ感を出したい。……ってなんで俺まで野菜語りしているんだよ。米太郎のアホに毒されたか、駄目だって俺はこいつと違ってリア充なんだから。もっとリアっぽい話をしなくては。


「そう怒るなよ米太郎君、君にもこの幸せを分けてあげたいくらいだよ」

「黙りやがれ! ただの嫌味にしか聞こえないぞ! クリスマスを目前にして何も予定の決まっていない男子の心を抉るつもりか!」


そう言って米太郎は反対の袖から二本目を取り出すと俺に向けて突き出してきた。緑色のライドセーバーが一直線に向かってくる……それを手で受け止めて奪い取る。「あぁ!?」と叫ぶ馬鹿を無視してライトセーバー改めきゅうりを空中へと投げ捨てー。「うあぁぁ!?」とレベルアップした絶叫に共鳴してきゅうりは弧を描いて床へと落ち、そして真っ二つに折れた。ごめんねきゅうり農家の皆さん、こんなことしてしまって。


「な、何しやがる!? 俺の相棒になんてことを!」


相棒を武器代わりに突きつけてきたくせに何を言っている。こちとら火祭との特訓で動体視力も向上しているんだ、その程度の速度なら簡単に凌げるぜ。落ちたきゅうりを米太郎は素早く回収、そのスピードは中々のものだった。三秒以内だったから大丈夫でしょ。そして良い子の皆は真似したらいけないよ!


「そういやもうすぐクリスマスだな」

「くそっ……なんつー余裕っぷりだ……!」


来週にはもう十二月に突入するではないか。もうそんな季節なのか……時が流れるのは本当に早い。クリスマスが今年もやって来る~、って感じですね。


「どーせ将也は春日さんと過ごすんだろ。いいねー、彼女持ちは! 昨日のデートの様子だと今年中に別れることもないだろうし!」

「そうだな一生別れることはないぞ」

「うるせーよ!」


きゅうりを食べながら叫ぶなよ気持ち悪い。唾と咀嚼されたきゅうりがこっちまで飛んできやがる。まあ、ね? クリスマスは春日と一緒に過ごしたいなぁとか考えるよね普通に。昨日だってデート自体は最高だった。確かにデート前の部屋での大事件には驚いたが、そこからは落ち着きを取り戻した最高のデートでしたよ。一緒に出かけて遠くの方まで電車で行って、湖の周りを歩いて春日の作ってくれたお弁当を食べて、手を繋いでまた散歩してベンチで二人寄り添ってぬくぬくとしながら夕日を眺めて……ヤバイよね、すっげー癒されたわ。もう一度言おう、最高でした!


「はぁぁあああぁ……なんで将也はこんなにも幸せそうなのに俺は虚しいんだ。俺達親友だろ? こんな格差はおかしいよ」

「そう落ち込むなよ。ほら一緒にお昼ご飯食べようぜ」

「……そんなこと言って、どーせいつもみたく春日さんと食べるんだろ」


不快そうに目を細めて米太郎が低い声で唸る。いつもは春日と食べているが、おいおいさっき自分で言ったじゃないか。俺達親友だと。たまには昔みたいに一緒に食べようぜ。


「そんなことないって一緒に三人で食べようぜ」

「え、いいのか?」

「当たり前だろライス君。三人で仲良くランチしよう」


主に話題はクリスマスの過ごし方についてだけどな。さぁて、春日来ないかなー。


「ありがとう将也、やっぱ君は良い奴だ。人の彼女とはいえ春日さんレベルの美女とお昼を一緒に出来るのは嬉しいからなぁ……っと、噂をすれば彼女の登場だぜ」


米太郎のニヤニヤした目線を辿るように後ろを振り向けばそこにいたのは春日。今日も可愛い、非常に可愛い。あのつり目が可愛い、無表情なのも逆に可愛い。そんな俺のマイガールフレンドがこちらへと歩いてきている。手にはお弁当箱を持って。いいねー、ちょっとおかずをおすそ分けしてもらいたいなっ。


「春日、こっちこっち」

「……」


しかし春日は俺の方をチラッと見たと思いきや、そのまま俺達の横を通過。スタスタを歩いていって水川の方へと行ってしまった。向こうの方で水川の「あっ、恵も一緒に食べようよー!」の声が聞こえてくる……。あれ………こんなこと前にもあったような。……あれれ?


「なぁ将也……」

「……なんだ」

「お前達、別れるのか?」

「うるせーよ!」


あぁあぁああぁマジかよ! そういう法則なのね、はいはい! 春日が甘えたがりのデレデレ状態になった翌日以降は変な距離が生まれるってわけか。はははっ、なんだよチクショー! またあの辛い日々を送るってか! は、はははっ……もう嫌だよ………。


「そう落ち込むなって。ほらとっておきの三本目のきゅうりがここに……」

「黙れきゅうり太郎が」

「ぐああぁぁぁっ!?」


イラついたので米太郎の股間のきゅうりを全力で蹴りつけてやった。そして最後は下ネタかよ。ホント米太郎はブレないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ