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続3 最初にして最大で最悪の問題

今までに何度か味わったことがある。座った心地のしないような感覚、自分の生気が掻き消えてその中心核となる魂が微妙な位置に浮いているような。例えるならガラスのように割れやすいものを丸い手すりのところに置いているような不安で恐くて、死を感じている状態。それがここに来てからずっとずっとず~っと続いている。ヤバイ、その一言で片付けられるならそうであってほしい。しかし現実はそんなヤワじゃない。死に際の叫びなんて無に等しいのだ。なので俺は何も言わず、吐き気に耐えつつ痙攣する心臓を押さえて死の恐怖と戦いながら戦々恐々と目の前に用意された料理を口に運び続けている。うん、美味しいよ。そりゃとてもとても。最後の晩餐だと考えると、この料理をゆっくりと噛みしめたくなる……。


「どう兎月君? 美味しい?」

「……涙が出るほど美味しいです」


感動というか恐怖で泣いてますが。簡単に今の状況を説明するなら、俺は春日家に来ています。普通に遊びに来たよー、な感じではなく僭越ながら訪問させてもらいます、とかなり畏まった尋常ではない決意と覚悟を持ってここに来ているのだ。目の前に広がる多くの料理、なんと春日のお母さんが腕を振るって俺をもてなしてくれている。なんと嬉しいことやら。つまり、俺は春日家に来てディナーを楽しんでいるってわけです。……ただのディナーならこんなにも萎縮しないよ。ナニか、恐ろしいものも存在しているから。それは、


「当然だ。もし冗談でも不味いと言ったら貴様の命もマズイと思え」


この馬鹿、春日のお父さんだ。こちらを睨んでくるその双眸は殺気に満ち満ちており、下手したら視線だけで命が削り取られるかと思ってしまうほどだ。この人は春日進一さん。とある会社の社長、そりゃ相当に偉い人だ。この立派なお家も春日父の権力の大きさを表している。お金持ちで権力もあって、さらには美人な奥さんと娘もいる。まるで絵に描いたような富豪っぷりだ。この春日父は社長であると言ったが、そこに問題が生じている……。普通な俺の父さんは普通の会社員だ。とある会社に勤める平社員である。……その会社の社長こそが、この目の前にいる春日父そのものだ。なんという偶然。そして唖然。この関係を分かりやすく図解すると……いや図解は無理か。えっと、分かりやすく説明すると、春日父は平社員の父さんなんて簡単にクビに出来るってことだ。父さんがクビ=兎月家は終わり。なんと分かりやすい、そして残酷過ぎる! 要は春日の父親を怒らせると我が兎月家は樹海へ行かざるを得なくなるのだ。それだけでも大変なのに、事態はさらに悪化している。断言しよう、この春日父は相当の、超がつくほどの、もうどうしようもないくらいの、親バカ、である。憶断でもなく過度な表現でもなく、事実だ。娘のためなら会社を早退して、簡単に人を射殺しようとするような親バカぶりだ。以前ちょっとした事故で春日に怪我を負わせてしまったことがある。その時は法律なんざ知ったこっちゃない、と言わんばかりに刀を抜いていたな……。あの時も死を覚悟したよ。つまり図解……じゃなくて簡単に言えば、この親バカを怒らせると命はないってこと。それほどに娘を溺愛している春日の親父さん。俺は今現在、その愛娘さんとお付き合いさせてもらっている。勿論、交際していることは言っていない。言えば殺されるからだ。いやマジで。


「あの……一つよろしいでしょうか?」

「あぁん?」


怖い。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい怖い怖い怖い怖い怖い米太郎怖い怖い怖い怖い。質問しようとしただけで半ギレだよ。こんな短気で気性の荒い親バカ野郎に口を滑らしてしまうと……考えただけでゾッとする。


「い、いやー、あのー……どうして今日、僕なんかをお呼びになられたのですか?」


今までにこれほど引きつった笑みを浮かべたことはない。恐怖心と礼儀が入り混じった表情で恐る恐る丁寧かつ慎重に言葉を並べてみた。春日父はこちらを睨みながら暫し無言。料理を口に運んで咀嚼して飲みこんだ後、ゆっくりと口を開く。遅せぇよ。


「不本意だが貴様には幾度か助けてもらったからな。一度きちんと礼を言わねばならないと話していたのだ」

「は、はあ」

「だから今日は遠慮なく食べるといい」

「え、そんな。いえいえ、僕なんか」

「いいな?」

「は、はぃ……」


いちいち怖いなおい! 感謝する気持ちを微塵も感じないのですが……。いや、むしろこれで良かった。もしかしたら春日と付き合っているのがバレたかと思ったよ。これでもノリと流れで誘拐犯から春日を助けたり、土守家と春日家の因縁を解消する手助けになったりと活躍したことがあった。それのお礼を今回この場をもってさせてくれ、春日進一さんはそう言いたいのだろう。なんだ、そうとなればこの豪華な食事を楽しむことに専念しようではないか。あとは口を滑らさないことに注意しとけば……


「あともう一つ話すことがあるのだが……ん? 恵、どうしたんだい?」

「パパ、あのね……」


とても美味しそうな黄金色のポテトサラダに手を伸ばしかけていた手に汗が滲む。……ちょっと待て将也。ポテトサラダを食べたい気持ちは分かる、だがその前に……この嫌な予感をスルーしていいわけがないだろ。俺自身から口を滑らしてバラすなんてことはしない。だが、春日が同じように考えているとは限らない。むしろ春日自身は父親に対して何も抵抗はないのだ。俺にとっては命に関わる問題、しかし春日にとっては多少の恥ずかしさはあるものの両親に自分が付き合い始めたことを告げる良い機会ではないのか。春日はそう考えているのではないか。だとしたら……今から春日は何を言うつもりだ……? ま、まさ…か……!?


「私、兎月のことが好き」

「スキンヘッド!」


……


「……兎月、貴様は何をしているんだ?」

「は、はははっ……」


あぶねー……。いや軽くアウトだけど。咄嗟に前髪を上げてデコを見せつけるというギャグを発動、それにより春日の声を掻き消すことに成功。ぐふぅ……春日父の視線が痛い。けどこうしないと俺の命が危なかったんだ。俺と春日が交際していることが、この超絶・大・極・親バカの春日父に知られる……つまり死を意味する。なんということでしょう、そりゃ即興で一発芸も思いつきますよ。バレたら殺される。この食事会が最後の晩餐になるか否かの命運は口を閉ざすことにかかっているのだ。なのに……なのに春日さぁん!? そりゃねーでしょーよぉ~! なんでノータイムの瞬発力抜群でネタバレしようとしてんのさ。思わず口を滑らしちゃったテヘッ、の域を越えてますって。アクセル全開で谷底に向かっているから。や、やはり春日はこの場で両親に報告するつもりみたいだ。まだお母様の方は大丈夫だろう、とっても優しい人だから。しかし父親の方は間違いなく許さない。それどころか今すぐ俺を殺しにかかる。ですから春日、お願いだから真実を公にしないでください。剣呑に怯えながら祈りを捧げていたが、


「パパ……私達、付き合」

「月明かり、澄みて和みし、夜天小屋~!」


……


「……兎月、なんだ今のは」

「い、いやー、なんとなく一句思い浮かんだものでつい言っちゃいました~。今の、澄みと住みを掛けているんですよ~、はははっ」

「……あ?」

「は、はは……」


怖い。あらゆる穴から液体が漏れそうなくらい怖い。般若顔の春日父。ちょっと待って、なんかもう死にそうだ。この殺伐と緊迫した空間の中で圧死寸前なんですけど。だ、か、ら、春日ぁ。付き合っているとか絶対言っちゃ駄目なんだって。またも春日のカミングアウトを防ぐべく声を張って五七五! 我ながら良い句を詠めた気がする。はぁあうぁあ~、ホントやめてください。なんでご飯食べるだけなのにこんな思いをしなくちゃならんのだ。誰か助けて。


「おいこら兎月」

「は、はい?」

「貴様さっきから恵が喋っている最中に邪魔ばかりしよって……。何を調子乗ったことをしていやがるんだ、あん?」


ひぃ!? 春日の方に注意が散漫していてこっちの怪物を手放しだった。春日父は見た目もう完全に不機嫌だと分かるほどにイライラしている。その睨みっぷりは泣く子もさらに泣いて失神するであろう。怖い、怖過ぎる。さすがは親バカ野郎だ、娘の話を遮っただけで激昂間近。だがしかし春日へのフォローを疎かには出来ぬ。バレたら一発即アウトなのだから。


「恵が『パパ大好き♪』って言うところだろうが、遮るな」

「すいません……」


いや、春日がそんな台詞を言うとは思えない。


「それで恵、何を言いかけていたんだいっ?」

「うん、私……その、け…結婚」

「せいっ!」


瞬時に犬歯で下唇を噛む。かなり勢いよく噛んだので出血は間違いないだろう。口中に広がる痛みを吐き出すように唾液混じりの血をテーブルへ落とす。赤色に染まるテーブルを指差しボリューム最大にまで上げる。


「あぁー! ごめんなさい血痕がついてしまいました!」

「……は?」

「いやですから血痕ですよ血痕! すいません、持病のなんかアレが出ちゃいましてテーブルに血痕がついてしまいましたぁ。ははは、すいませんでしたっ」


口の中を血が侵食しながらも懸命に口を動かし言葉を紡いで強引に話を進める。高級感溢れるテーブルに赤い血が……これ以上は残酷な描写になるのでテーブルを拭く! そして春日の方へ視線を向ける!


「ごめん春日、洗面所ってどこかな? 案内してくれる?」

「え……」


そのまま春日を押しやるように部屋の外へと追い出す。もちろんその間も春日父、母へ愛想笑いを絶やさずにいた。勢いよく噛んだせいか予想以上に血が溢れてきたがそんなの気にかけている状態ではない。鏡を見たら真っ青な自分が鮮血を垂らしているだろうが今は急いで退室したい。最後にニコリと笑みを浮かべて扉を閉めて廊下へと出た。


「……兎月?」

「んぬぁに、しちゃってくれてんですかぁ~い!?」


安堵の息をつきたいところではあるが、とりあえずシャウト! まずはこのお嬢様にぶつけたい文句があります。もう一度確認しておきますがねぇ、あなたの父親は世界トップクラスの親バカなんですよ。この世の常識や理なんざ通用しない野郎なんです。そんな人に俺達が付き合っているだなんてバレたら抹殺確定なんですよ。そりゃえらいこっちゃー……ってこと分かってますか!? それでも認めてもらうために頑張って正直に告げてみるよっ……そんなものはただの蛮勇でしかない。しかも最後とか結婚って言ったよな? そ、それ一番言っちゃ駄目なやつですからね! た、確かに……け、結婚を前提に付き合おうって告白したけども……そ、それは言わなくていいよ。というか付き合っていることも言わなくていいから!


「……なんで」


いや、なんでって……俺達が付き合っているのがバレると即死! これに尽きるんですって。というか………あの、春日? なんか……不満そうな顔をしていますが……? ムスッとしているというか、視線を少し下に落として口をきゅっと結んでいるその表情はどことなく悲しげで淡く輪郭がぼやけて見えた。春日……?


「だって、私達……付き合っているの………本当のこと、だもん……」

「あ、ああ、そうだけどさ……」

「……付き合ってるのっ」


じっと潤んだ瞳でこちらを見上げてくる春日。無口で物静かな彼女がこの時はいつもより声を張り上げて精一杯に主張してきた。瞳から今にも涙が零れそうで、切なげで悲痛な表情で消えそうな彼女。その姿に、自分自身が大きく揺れるのが分かった。……そうだよ。俺達は付き合っている。それは紛れもない事実だ。今の俺は春日父に怯えるあまり、それすらも否定しようとしていた。それは違う、絶対に違う。俺だって……俺だって春日のことが好きだ。どうしようもないくらい好きで結婚したいって思っている! この気持ちに嘘はない。ああ、そうだ、俺は何をびびっているんだ。この程度のことで怖がってどうする。覚悟したはずだ、それにこんなことで折れるような半端な気持ちじゃないだろ。


「私と、兎月は……付き…合って、いるのっ……」


途切れ途切れに懸命に必死に言葉を繋げる春日。そうだよ春日。それで間違っていない。だから俺も伝えようと思う。春日父なんかじゃなくて、まず君に。


「春日」

「ぁ……」


涙が零れ、頬を流れて床に落ちる。それよりも先に彼女の華奢な体を抱きしめる。両腕をぎゅっと背中に回して逃がさないくらい強く、強く抱きしめた。胸元で春日が小さく声を上げて、春日も自分の手を俺の背中に回してくれた。気持ちを伝えるように、逃げていた自分を掻き消すように、大切なこの人のことを想いながら抱きしめ、右手を春日の頭へと乗せる。いつものように綺麗でサラサラな髪の毛を優しく撫でて、ずっとずっと……ひたすら春日の温もりを感じていた。


「んっ……兎月ぃ」

「そうだよね……春日の言う通りだよ」


さらにぎゅう~と抱きついてきた春日。その耳元に声をかける。春日父が怖い? そんなこと関係ないだろ。俺はこの人とずっと一緒にいたいから、そう願って、春日も同じように想っていて、ずっとずっと傍にいたいから。それこそ結婚したいって思うほどに。それぐらい俺達はお互いのことを想っているのだから。その気持ちを誤魔化そうだなんてしたらいけない。やっと素直になれたんだ。ここでまたグダグダと逃げたりしたら絶対に後悔する。自分の気持ちと向き合うって決めたんだ。春日に告白したあの時から。


「俺は春日のことが好きだ」

「わ、私も……っ」

「そうだ。だから俺達は付き合って………ん?」


ものすごく良い雰囲気だった。告白した時と同等くらいの甘々ムードだった。それだけは間違いない。けど崩れた。なぜかって?


「な……今、な、なんて……!?」


扉がなぜか開いており、なぜかそこに春日父が立っていたからだ。最高に良い雰囲気だったよ。しかし壊れた。春日父が部屋から出てきたから。スライムが簡単に変形するように春日父の顔面もR-15指定レベルのグロさで変形していった。痛切で禍々しく、今にも血の涙が出るんじゃないのか。それほどまでにすごい形相で春日父は呆然と立ち尽くしていた。春日父の眼球に映る、抱き合った二人の姿。弾幕のように「愛娘が……!」の文字が頭の中を横切っているのだろう。そして俺自身も死を覚悟した。発汗が過剰にまで作用し、血流が全て停止したように全身は硬直、息を呑むことすら出来ない。死神の吐息を浴びせられたかの如く体は一気に冷えて感覚全てが凍った。あ……これ、お…わった……。死、死、シ、死ぬ………も、う駄目だ……。一体、どうすれば……?


「め、恵がつ、付き合っ」

「突き合っています!!!!」

「おぶぇ!?」


……いやぁ、人間テンパると予想外の行動を起こしてしまうんだね。窮鼠猫を噛む、そんな故事成句が思い浮かんだ。


春日父に目撃された→殺される→記憶を消すしかない→春日父を殴る


えげつないことをしてしまったと自分でも思う。上の計算式が出来上がってからコンマ数秒で体が反応。神速のインパルスの如く驚異的な速さで腕がしなって標的をロックオン。見事な正拳突きが整った口髭ごと顎を捉えてぶち抜いた。音すらも置き去りにして。って少年漫画の読み過ぎた俺。ハッと意識が戻った時には春日父が奇声を上げて宙を舞い、そして床へと墜落していった。さらにはジャストな位置で後頭部がテーブルの端にぶつかり、激しい轟音とともにテーブルが揺れてポテトサラダの容器が落ちて、床に臨終した春日父の顔面に着陸。なんとまあシュールな光景。それと同時にポテトサラダを食べれなかった悲しさが襲い、その後になって……


「や、やってしまったああぁぁ!」


自分が犯してしまった惨劇に吐き気がしてきた。ヤッベ、ヤッバ、これはガチでヤバイ! 春日と付き合っていたのがバレただけでなく春日父を殴ってしまった! 何コレ、え? 俺がやったの? は、ははっ、あっれー?


「……あ、あの~、お義父さん?」


声をかけてみたが反応がない。あの恐怖の大魔王、キングオブ親バカの春日父が大の字になって倒れているのだ。しかも顔はポテトサラダまみれで。自分が招いた事態とはいえ思わず吹きそうになった。ま、待て。さすがに笑うのは最低過ぎるぞ俺……っ、ぷっ。


「あーあ、ポテトサラダが。ほらあなた、片付けるからそこどいて」


そして夫よりポテトサラダを気にする妻、春日のお母さん。これがまた綺麗な奥さんなんですよ。上品な笑みはちょっとドキッとしちゃうくらい。そんな春日母はサッカーボールを蹴るように春日父を端へと移動させていく。ひ、ひどい……。正拳突き食らわせた俺が言うのもアレだが、これはひどい。


「大丈夫よ兎月君。この人、気絶しているだけだから」

「ぁ、いや……その、すいませんでしたあぁ!」


屈託のない笑みでケロッとしている春日のお母さん。いやいや、仮にもこの人の夫であり、そして父さんの会社の社長であり、恋人である春日の父親、そんな偉大なるお方を渾身の一撃をもって沈めてしまったのだから土下座くらいはしなくちゃならん。てことで土下座を披露。出来の悪い頭を執拗に何度も床に叩きつける。マジすいませんでしたっ!


「いやぁ、兎月君もこの人にバレるのが怖かっただけでしょ? 大丈夫、きっと今ので忘れたと思うよ」


そ、そんな上手い具合に記憶って吹き飛ぶんですかね? 


「それにしても……二人は付き合っていたんだねぇ」


そしてこの人にバレた! はぁうぁ!? い、いや大丈夫なはず。お義母様の方は寛大で優しくて綺麗な方だからきっと許してくれるはず。というかそうに違いない。だってすごいニヤニヤしてるからっ。え、なんですかその面白い物を喜々として見つめる目は!? なんか恥ずかしいっ。


「前からそんな気はしていたけど……恵~、ちゃんと報告しなさいよ」

「……」

「痛い! なぜ俺を殴る!?」


どうやら春日母には見透かされていたようだ。まるで水川がからかう時と同じようなニヤニヤ顔で笑っている。そして春日は俺を蹴ってくる。痛い痛い、そんな照れなくてもいいじゃん。尚も蹴り続ける春日さんはちょっと放置して春日父の方に視線を落とす。……ホントに大丈夫かな。怪我がどうこうとかじゃなくて記憶のことで。ちゃんと記憶消去が出来ていればいいんだけど……。もう一発殴っておくか?


「それなら尚更ね。兎月君なら任せられそう」

「え、何がです?」


後ろからの蹴り連打に耐えつつ春日母と向き合う。なんとも気品ある微笑みに思考が少し鈍くなったりしたが、次の瞬間の、この人の一言だけはちゃんと聞き取れた。そして思考が停止した。






「今度、恵と二人で別荘に行ってきて」

「………………………………はい?」


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