続27 レベル上げは大事
河川敷で殴り合う。これだけ聞くと大抵の人が、
『へへっ、お前やるじゃないか』
『そっちこそ、良いパンチだったぜ』
といった感じで熱い青年二人がボロボロで寝そべっているのを思い浮かべるに違いない。拳で語り合った両者は倒れたまま互いを称賛し、徐々に溢れ出す笑いに耐え切れず最後は大笑いしてその時に二人は親友になった……。なんて熱い展開だろう、これぞ青春って感じだ。けれどしかーし、そうならないのが現実ってわけでして、
「……げほ」
「……」
現実、喧嘩をした二人は気合いと拳入り混じり激しく燃える大接戦を繰り広げることもなく、わたくし兎月の圧勝で一分と経たないうちに決着がついてしまった。動けないくらい暴れたわけでもなければ、『空ってこんなに広かったっけ……』みたいな台詞を呟くことも出来なかったのだが、それは今そこの芝生でぶっ倒れて咳が止まらない鉄拳君(仮名)のせいである。喧嘩を売ってきたくせに鉄拳君は目を疑いたくなるほどの圧倒的な弱さでして、そらもうこっちはポカーン状態だ。どこか遠くで鳴くカラス、暗くなり始めた河川敷、手持ち無沙汰な俺と地面にうずくまる鉄拳君、なんて酸っぱい青春だろうか。こいつと俺のテンションの違いがあり過ぎてどうしたらいいか分からないよ。何これ、何この空気、どうしてこうなった。火祭を守るため自分は傷ついてもいいという、やられる覚悟で特攻したのにまさかの勝利だよ、ビクトリーだよ。あ、どうでもいいけど少年野球のチーム名で『○○ビクトリー』みたいな名前をよく見かけるよね。うん、今なんとなく思ったことです特に意味はありません!
「で、鉄拳君?」
「な、なんだ」
まだその口調で通すつもりか。それもうやめた方がいいと思うぞ。そりゃ君が強いなら似合っているが、弱い奴が言うとさらに小物臭が漂って見ていられない。「あまり強い言葉を遣うなよ。弱く見えるぞ」とかどこかの隊長も言っていたじゃん、まさにあれだよ。そんな鉄拳君にさらなる事実を伝えようではないか。
「火祭は俺の五百倍は強いから」
「何…だと…!?」
あ、それ言うと思ったわ。
そんなこんなで場所は変わらず、河川敷。いやなんかこいつのために場所を移すのも嫌だし、こんな痛い人とファミレス入りたくねーし。こいつのために時間を浪費したくないもん。俺だって用事ってものがあるのです。主にレベル上げだけど。河川敷に座って対面する俺達、この子も回復したようで大人しく正座してくれている。最初の威勢の良さはどこにいったのやら、もう彼に見せ場はないのだろう。
「池内君はどこの高校?」
「お、おい。勝手に名前をつけるな」
だって鉄拳とかダサイじゃん。呼ぶ側の人も考えて欲しいね。なんとなく雰囲気から命名してみたが、意外としっくりくるのでここからは鉄拳君は池内君と呼ぶことにします。池内鉄拳……うーん、フルネームはしっくりこないな。まあどうでもいっか。
「……貴様は何者だ」
そして池内君は相変わらずの武士っぽい口調で質問してきた。どうやら自分のテイストは崩さないタイプの中二のようだな、あれだけ惨敗したのにまだキャラを押し通す精神力の高さだけは評価してあげたい。何やら警戒しているようで、こちらをジロジロと見てくる。火祭の知り合いでありさらに自分を打ち負かした相手のことが気になる気持ちは分かる。悪いけど俺ただの普通の男子だから。ヘタレ下僕といった役職はあるものの本質は君と変わらない高校生だって。
「まあ俺のことはいいじゃん。それより池内君はパーティのレベルを均等に上げる派? それとも主人公のレベルだけ高くする派?」
「何の話だ!?」
「RPGの話だコラァ!」
わけの分からないところでキレる俺。友達にこんな奴いたら面倒臭いんだろうなぁ、でも俺と池内君は友達じゃないので遠慮なく逆ギレしてやります。ご一緒にセットでビンタもいかがすかー?
「あうっ」
頬を叩くと情けない声を出して倒れる池内君。あ、駄目だこいつ。本当に弱いぞ。
「まあ池内君は自分のこと主人公と思っている系の人だから間違いなく主人公キャラだけレベル高い派だな。そして自分の名前とかつけてそう」
「わ、悪かったな」
「別にいいさ、ゲームだし。けどイケウチって名前はどうかと思うぞ」
「それは貴様がつけた名前だろうが!?」
そうだったね、なんか割とスムーズに池内で定着したな。ちなみに俺はRPGの主人公の名前はデフォルトで楽しむ派だ。いちいち名前変えるのダルイし。
「まあ軽い質問コーナーはこれで終わるとして……池内、ここからは真面目な話だからよく聞けよ」
こっちがいつまでもヘラヘラしていると思うなよ。こちとら最初から怒っているんだからな。……火祭のこと悪く言いやがって。地面に横たわる池内君を見下ろす形で立ち上がり、思いきり睨みつけてやる。どこぞのプリン頭の不良みたいに怖い顔をしているわけでもない俺なんかが睨みつけても効果がないが、今さっきこいつをボコしたばかりだから多少なりと恐怖を与えることは出来る。はず。実際、こいつビビッているし。
「な、なな、なんだよ」
「噂だけで人を判断するな。そして火祭に迷惑をかけるようなことを言うんじゃねー」
こんな奴がまだいるのかと舌打ちが出てしまうが、それは仕方のないことだと妥協するしかない。悪いイメージで塗り固められた火祭だったが、今はそれも大体は消えて皆のアイドル! ……そう、大体だ。完璧に悪い噂を払拭出来たわけじゃない。それは本当にどうしようもない。完全に過去を消すことなんて出来ないさ。でも、それでも、うやむやにすることは可能だ。もうそれでいいんだよ、だって火祭の周りにはたくさんの友達と慕ってくれる人がいるんだ。ファンクラブだってある。ちなみに俺はファンクラブの会員から嫌われている。とんだとばっちりだよ。火祭を受け入れてくれる人がいる、だからもう安心……とはいかない要因が池内君だ。お前みたいな昔のくだらない噂に流されて何も知らず空気も読まないでやってくる輩がいると安心出来ないんだよ。火祭はもう暴力を振るわないと言ったが、火祭は優しいからな。もし俺や水川や春日が誰かに襲われたりしたら間違いなく激昂して『血祭りの火祭』に戻ってそいつを天誅するに決まっている。そしたら……もしかしたら……っ、そんなことになるかもしれない。それは駄目だ、もう火祭が苦しむ必要はないんだから。何も知らない馬鹿のせいで悲しむことになるなんて絶対あってはいけない。だから池内、テメーは今すぐ中二を卒業して二度と現れるな。
「お前が火祭に挑もうとしたのも、どうせそのくだらないキャラ設定のためだろ。何が最強の道だ、恥ずかしいと思わないのか」
「ば、馬鹿にするな。貴様に何が分かる!」
いや何も分からないです。そして分かろうとも思わない。テメーの言い分なんか知るか、こっちは火祭さえ良ければ他のことなんてどーでもいいから。ただの興味本位で火祭に近づこうなんて許さない。そういうわけだから、
「うるせ、いいから火祭に近づくな! 分かったらさっさと家に帰ってパーティ全員のレベル均等に上げやがれ!」
「ひぐぅ!?」
意味不明な叫びを怒涛に巻き上げて、おまけにローキックをぶちかましてやった。ガードも出来ずモロに食らって再度地面に叩きつけられる池内君。はっ、その程度でよく火祭と戦えると思えたな。現実世界でもレベルを上げて出直してきやがれ。いや出直してくるな、もう二度と来るんじゃねー。それと、
「あと、今のより五百倍強いローキックを放つからな」
「な、何…だと…!?」
まあそれは火祭じゃなくてうちの彼女さんだけど。




