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続19 放課後になって

「クラスの男子が言っていた、将也がとてつもなく強かったと」


へぇ。


「そして将也の様子が朝から変だったと」


朝に関してはお前のせいでもあるけどな。今後はトマトシールドは禁じ手にしような。あの後、春日が一組へ帰ってしまい俺は一人ポツン状態。そんな中、クラスメイトの男子数人がヒソヒソと気に障ることほざいていたので軽く制裁を加えてやった。殴り蹴散らし、それはもう無双しまくった。いやー、あれだよね、人間怒りで頭が熱くなると実力以上の力を発揮するみたいだ。火事場のなんとか力ってやつだな。いやホント俺ってば相当強くなってね? 以前の俺なら男子数人に戦いを挑んだところで返り討ちされるのがオチだったのに今では圧倒してしまっている。マジか……いつの間にこんな戦闘力が上がったんだよ。髪は金色じゃないし、怒りで秘めた力が解放されたってわけじゃなさそうなのに。つーかヤサイ人は米太郎一人で十分だ。まあ戦闘力についてはそれほど重要視する問題ではない。問題は、明らかに、今後の春日との接し方についてだ。なんつーか、よく分かった気がする。春日は完全に俺を避けている。正確には俺と直接言葉を交わしてのコミュニケーションを照れているみたい。メールでは会話出来たことを考えれば、恐らく目を合わせたりとかのお互いの意識、想い、気持ちが空気を媒介にして直に伝わるのを極度に避けている傾向にある。つまり、だ。もう今後、春日とは直接話すことは出来ないってことだ。


………えっ!? いやいや、ちょっと待ちなさい将也ボーイ。それはマジですか!? いやいや、さすがにそれはマズイって。付き合っているのに直接コミュニケーション取れないって……お好み焼きをお好み焼きソースなしで食べるくらい愚かな状態じゃないか。例え分かりにくっ。いやいや、冷静に考えると非常にヤバイって。いやいや、こうなったら無理矢理でも話しかけるしかあるまい。嫌々、な春日を抱きしめてやるくらいの甲斐性を俺が見せない限り、この終わり見えないモヤモヤ微妙シリアス雰囲気は解消されない。甲斐性で解消してみせる、みたいな? ダジャレみたいなっ? ……だからぁ、そんなこと言っている場合じゃないだろ!


「はぁ、いつまで喧嘩続くんだよ。お前らは我が校ナンバー1のベストカップルじゃないか」

「は? いつの間に俺ら公認カップルになったんだよ?」


全校生徒に知られるほど校内でイチャイチャした覚えはない。せいぜい学校の屋上でキスとお姫様抱っこしたくらいだ。……あれ、結構なことしてるかも?


「将也はそこそこカッコイイ程度の微妙な知名度だが、貴様の彼女はあの春日さんだぞ。二年生でトップクラスの可愛さを誇る春日さんが他の学年からはノーマークだったと思ったか、この馬鹿め!」


確かにそう言われたらそうかもしれない。いや決して俺のスペックについて納得したわけじゃなくて、春日の人気ぶりに納得しただけだ。誰が微妙やっちゅーねん、最近なんか小学生が好き好き言ってくれるんだぞ。まあ、そんなことは後回しにして、本格的に春日とどうやって話せばいいか考えるべきだ。メールなら話は出来る。しかし、それだとあまり意味がない。しかーし、直接話すと逃げられる。しかししかーし、このままじゃ埒が明かないのも事実。ならどうするべきか。それが分かれば苦労はしません。結局あのまま逃げられてしまったので何も出来ずにこうして放課後になってしまった。もー、嫌。いい加減そろそろ前みたいな関係に戻りたいよ。いや決して主従と下僕の関係ってわけじゃないから、恋人同士の関係に戻りたいって意味。オーケー、アハン?


「将也はもっとベストカップルとしての自覚をだな……」

「はぁ、もういい。帰る」


ここで米太郎とグダグダしても仕方ない。どーせそのうちまたくだらない雑談へ突入するんだ。そうなる前に帰ろう。ボランティア部に顔を出すってのもアリだと思いたいがそうではない。先週とか美保梨ちゃんと矢野が暴れたり山倉がうるさくて、とても落ち着ける雰囲気じゃなかった。こっちは癒しを求めて部室に足を運んでいるというのに奴らは嫌がらせのように休ませてくれない。特に山倉、あいつの大声は耳に悪い以上に心臓にも悪い。だから今日は部室には行かず真っ直ぐ帰ろうと思います。帰って家でゲームしている方が断然落ち着けるしね。さて、帰るか。


「じゃあな米太郎」

「じゃあなる将也」


サラッと最低な別れの挨拶をしてきやがったクソライス野郎だが、もう怒る気力も残ってないので無視して教室を去る。そういえば……無視と言ったら春日の専売特許だったなぁ。はぁ、帰るのはいいけどここからどうしたいいのやら。春日に今日は一緒帰ろうよと誘ったが、イエスノー以前に逃げられた。春日の法則として無言は肯定の表れ、というのがある。詳しくはWikiに掲載しているので見てください。……嘘です、ごめんなさい掲載されてないのでここで簡単に説明すると、この法則とは春日が基本喋らず質問しても無視するため春日が何を考えているか分からない、返事がもらえない。だから勝手に無言はイエスってことにした、ってことだ。もし嫌だったら「嫌」と言うし、言わないということは「嫌じゃない」つまりイエスだ。この法則を踏まえて冒頭の話に戻るが、春日に今日一緒帰ろうと誘った。すると春日は何も言わず逃げてしまった。この場合これは無視、つまり無言ってことになるのだろうか。そうなのであれば無言は肯定の表れという法則に従って一緒に帰ろう、ってことになる。しかしあの逃走を無言として処理していいのか、それも微妙なところである。あの態度が肯定か否定か、その決定が今から一緒に帰れるかどうかを決定づけるのだ。けど……まともに話せないのだから一緒に帰るなんて無理だろうなあ。だから春日は何も言わず去ってしまったんだよ。単純なことだ、どうせまた一言も交わせずにエスケープされるのが目に見えている。ならもう無駄なことはしない、大人しく一人で帰宅しよ。


「兎月さーん!」

「ぐぼあぁ」


と思ったら正門を通ったあたりで大砲を食らった。なんか最近やたらと腹に攻撃を受けている気がするけど……ぐふっ、痛い。春日から蹴られまくったおかげで足はかなり耐久値が上がったものの、その他の防御力は平均でしかない。ろくに運動もしてないから不意打ちで腹にダメージってのは相当キツイんですよ。一瞬、両の黒目がグルリと上へ昇天しそうになったがなんとか気合いで持ち堪えて懐に抱きついてきた人を受け止める。つーか、ホント元気ですね、あなたは。


「美保梨ちゃん……」

「どぅへへ~」


もし米太郎が言ったら気持ち悪い台詞も、このピュアで可愛らしい小学生の美保梨ちゃんが言うと普通に可愛く聞こえる。腹の底から出したような低い声で美保梨ちゃんは俺に抱きついてきた。抱きついてくるのは別にいいんだけど、もうちょっとスピードを落としてもらいたい。


「で、またここまで来たの?」


先週もだったけど、このアクティブさは異常だと思う。小学生が一人で電車に乗って道を間違えずに高校生を恐れずにここまで姉に会いにやって来るなんて、普通にすごくないですか? やっぱ水川の妹は違うな~。姉妹揃ってハイスペックとは恐れ入りました。願わくば、お姉さんみたいな小悪魔チックな女性にはなってほしくない。ちょっとだけ美保梨ちゃんの将来が心配だよ。ま、俺も将来どうなっているか分からないけどさー……ちゃんと就職出来るのかなぁ。いかんいかん、現実見たくない。まだ高校生なんだし、就職なんて先の話だ。もっと学生ライフをエンジョイしたいです!


「兎月さんに会いに来ました!」


お姉さんに会いに来たついでに、この台詞を忘れていると思うよ。何はともあれ、どうやら美保梨ちゃんは今日もお姉ちゃんを迎えに来たついでに俺にも会おうとしたらしい。上機嫌に俺の腹辺りで頬をスリスリして「どぅふへへぇん~」と奇声染みた鳴き声を上げている。俺に会えてそんな嬉しいのかねぇ、というか俺のどこがそんなに良いのやら。さっき米太郎も言っていたけど俺なんて所詮は中の中レベルのフツメン程度の顔面偏差値なわけだし、運動系の部活で大層な成績を出しているわけでもなく、勉強なんざ優秀って言われる以前に留年するかもしれないと言われているくらいヤバイし、おまけにヘタレ体質を持つ、決して他人が好んで歩み寄ってくるスペックではない。……自分で言うと本当に惨めになるな……い、いや待て、俺にだって良いところの一つや二つあるはずだ。例えば……あの、その、っ………な、なん……ぁ、と………と、とにかく何かあるから! それを見つめるために俺と話すってのもいいんじゃないの!? なんか投げやりになってきてごめんなさいっ。まあ、俺にはもう一生の彼女さんがいるので他の人と付き合うのは無理ですけどね。……つーか、そうだよ。美保梨ちゃんは何やら俺に好意を持っているようだけど、こー見えて俺には彼女がいるんだよ(今はろくに会話も出来ない状態だけど) そのことを美保梨ちゃんは知っているのだろうか? 小学生が年上に興味を持っているだけの一時的な好意だとしても人が一対一で向き合う以上、年なんて関係なく真剣に事情を言うべきだ。俺には彼女がいるから君とこんな風にイチャイチャしちゃいけないんだ、とはっきりと言うべきなんだよ。ヤベ、俺ってば超紳士じゃん超ジェントルマンじゃん。俺の良いところが一つ見つかったことですし、お腹にしがみつく美保梨ちゃんを引き離す。正門のところでずっと美保梨ちゃんに抱きつかれていると周りの目とか辛いものがあるので。下校する生徒とかこっち見てるからっ。


「どうしたんですか兎月さん?」

「あのね、美保梨ちゃん」


しゃがみこんで美保梨ちゃんと目線を合わせる。真摯な眼差しを崩すことなく、じっと見つめながら言葉を紡ぐ。


「俺にはね、好きで好きでどうしようもないくらい好きな人がいるんだ。そんでその人と付き合っているんだよ。だから美保梨ちゃんの気持ちに応えることは出来ないんだ」

「……うんっ!」


……あれ、今……ちゃんと伝わったよね? これ以上ないくらいはっきりと説明したつもりなんですけど……美保梨ちゃんもこれ以上ないくらいはっきりと頷いたけど……意味分かって頷いてくれた?


「え、えっと……分かってくれた?」

「はい、私は兎月さんのこと大好きですっ」


意味伝わってないし! なんで、なんでなんでなんで!? ここまではっきりと言ったのに、どーして分からないの? いやいや、小学生って怖っ! 丁寧に言ったつもりなのに全く違う意味で頷いているし意志疎通が出来てない気がする。あれー? 何これ? 俺が悪いのかな!? もっとはっきりと言えば良かったのかなっ!?


「み、美保梨ちゃん? もう一回言うけどね、俺には付き合っている人がいるの」

「それは美保梨のことですよね」


違うし!


「あ、あの……っ、う、ゴホン。うっ、ゴホン! ……はっっっっきりと言わせてもらうけどね!」

「はい!」

「俺には春日恵さんという愛する彼女がいるの! だから美保梨ちゃんとは付き合えないの!」

「えぇぇえぇ!?」


伝わった、やっと伝わったよ! 驚きと言わんばかりの顔でこっちを見てくる美保梨ちゃん。やっぱ知らなかったんだ、俺に彼女がいること。つーか水川は言っとけよ、そこそこ大事なことだと思うぞ。俺にとっては一大事なことですけどね! とにかく、ようやく美保梨ちゃんにも伝わったことだし、これでいきなり抱きついてくることもないだろう。一時的な年上がカッコ良く見える症候群の影響とはいえ、好意を持ってくれた女の子を拒絶するのは心苦しいな……。いやこうやって小学生は成長して大人になっていくんだよ。うんうん、俺ってば良いことした。


「そ、そんな……兎月さんに別の彼女がいるなんて」


悲しげな表情を浮かべる美保梨ちゃん。うっ、そんな顔しないで。なんとなく火祭のことを思い出してしまってこっちまで悲しくなるから。と若干シリアス的な切ない思いになりかけていたが、


「じゃあ私、愛人でもいいです!」

「マジかよ!?」


小学生の口から愛人ってワードが出てきちゃったよ! おい水川ぁ、自分の妹にとんでもないこと教えてんじゃねぇよ! キラキラした目で嬉しげに愛人発言する美保梨ちゃん。マジでこの子の将来が心配になってきた……。


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