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続18 目も合わないすれ違いメール通信

よく分からないタイトルですいません(汗)


『お元気ですか?』

『うん』

『最近話せてないね』

『うん』

『もし良かったら今日は一緒にお昼食べない?』

『うん』

『じゃあ、昼休み待ってる』

『うん』


てことで昼休み。


「おい将也」

「どした米太郎」

「何そのメールのやり取り。返信全て『うん』だけじゃん!」

「うん」

「う、ウゼェ……!」


俺もビックリしたけど相手はあの春日さんだ。予想の範囲内と言えば範囲内。これくらいはやってくるよ彼女は。それにしても、なかなか圧巻だよね。受信メールをスクロールさせても全部『うん』だけ。絵文字もなければ顔文字もない質素で簡潔でとても恋人に送るような文章じゃない。まあ俺自身もかなり簡素なメールだけど。やっぱデコメとか無理っす、なんか恥ずかしくなった。今は学校にいるわけだし、教師に見つかるわけにゃいかない。素早く牽制を入れて速やかにお昼のお誘いメールを送る。春日も教師にバレないよう二文字だけ入力して送信してきたって感じだろう。にしても存外、スームズに会話出来たな。このメールでの応答が会話に含まれるのかはさておき、こうやって昼食を一緒に食べようって約束をこじつけたんだ、上出来だと自らに拍手と賛辞を送りたい。セルフ頭なでなでして誉めたいよ。……ごめん、それはキモイよね。なんだよセルフ頭なでなでって。ただ頭皮を気にしてるオッサンじゃん。

よし、話を戻そうっ。要するに昼休みは久しぶりに春日とランチ出来るってわけだよ! 教師にバレないようマナーモードにしてポケットの中で握りしめる携帯。ブルブルと震えているのはバイブレーション機能のせいではなく、ただ単純に俺が震えているから。お、落ち着け俺、大丈夫だって。いつもみたいに他愛ない話をして和気靄然と昼休みを過ごしたらいいんだ。だ、大丈夫だってっ、変に緊張しないでいいんだから。


「……兎月」


来た……っ! 全身が激しく荒立ち、毛先まで電流が走り、心蔵のポンプは通常の十倍の速さで起動して、緊張と不安で今にも内臓全部を嘔吐してしまいそうだ。うっぷ、落ち着け俺。冷静になるんだ。声を聞いただけで昇天しかけるとか相当危ないぞ。リラックスしろ、お前なら出来る。昼休みの五十分、開始のホイッスルは鳴ったんだ。さあ、キザな挨拶ぶちかまそうぜ!


「よ、よぉっすぅ春日ぇ」

「……」


尋常じゃないほど震えた声が出たぞ。ブルドックとかの小型犬がクシャミしたみたいな声が出た……ちょ、どしたの俺!? 何をそんなに緊張しているんだよ、落ち着こうべやぁ! なんだこの方言、どこの国だべぇ!?


「……あ、ははっ」

「……」


そして春日は静かに目の前の席に座る。一つの机に向い合せで座る俺と春日。ワイワイと賑わう教室、けどここだけ異常に空気が違う。西洋レストランで侍が団子食ってるみたいな場違いな異質だぞ。な、なんか……気まずい。ど、どどどどうしよう? 春日はこちらと目も合わせずにお弁当箱を開いて昼食の準備をしている。あわわわわ、俺も急いで準備しないと。まあ俺はパンなんで、ただ鞄から取り出せばいいんだけどね。……あと、周りがコソコソと何やら喋っている。主に男子だ、春日の方をチラ見してやがる。ちっ、相変わらず春日の人気は凄まじいな。黒髪の優美な長髪はサラサラと宙を舞い、つり目気味の潤った瞳は不機嫌そうに見えるけどなんか可愛らしく、小顔で整った顔はまさに美少女といった感じ。二年生トップクラスの美女、春日を見てザワザワと男どもが浮かれるのはまあ分かる。けど春日をそんな風に見ていただかないでほしい。だって俺の彼女なんだからっ。そして大半の奴らはあんまり関心がないようで、俺と春日が昼食の準備をしていても気にしてない。まあね、俺と春日って付き合う前からずっと二人でランチしていたからクラスの皆はもう慣れたって感じなんだろう。以前、春日が俺のために弁当を作ってきた時はさすがにクラスの皆がザワワッと騒いだけど。嗚呼、また春日の手作り弁当食べたい。


「……い、いただきまぁす」

「……」


そして昼食を食べる二人。ちなみに米太郎には退席してもらいました。二人だけで食べたいと思って米は邪魔だから教室から追い払ったのだ。今頃はトイレで一人寂しく漬け物を食べているんじゃないかな? いや米太郎のことなんざどうでもいいんだ。それよりも! この……この、とっても気まずい雰囲気をなんとかしないと!


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


う、うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ? 何一つとして会話が生まれない。え、え、えぇぇ? ただご飯食べているだけじゃん。何これ、なんですかこれ!?


「……」

「……」

「あ、あの……春日?」

「……っ」


俺と目を合わせてくれず俯いてずっとご飯を食べている春日。なんか可愛い、とか言ってる場合じゃねぇ! やっぱ直接口で会話出来ないよ! すげーギクシャクしてるしぃ、何が他愛のない話だよ。それが出来たら苦労はしないわっ。あ、あれ? いつも俺達ってどんな感じでお昼してたっけ? 思い出せない……。


「……」

「ん?」

「っ……」


そしてたまにチラッと俺の方を見てくる春日。こちらも見つめ返すとすぐに視線を逸らしてしまう。……うぅ、一体どうしたらいいんだ。メールで呼び出したけど、これじゃあ状況は何も変わらな……ん? メール……メー…あぁぁぁぁ! そうだ、そうだよメールだよ! 俺には、この、文明の利器があるじゃないか。発音良く言うとメェイルゥ! はいこのネタもう飽きたよねっ、もう言いません!


『お弁当美味しい?』


絵文字もつけて送信、と。すぐに春日に変化が見られた。スッと携帯を取り出して、机の下で何やらやっている。カコカコと小気味良い音がした後、今度は俺の手に持つ携帯が震える。今度は俺の緊張による震えじゃなくて普通にバイブレーションが機能したからだ。


『美味しい』


春日から返信が来た。そして簡素な返信。強いて言えば文末に猫の絵文字が入っている。可愛い、すげー癒された。絵文字も加えてくれるとはかなり好感触だよ、春日もノッてきたかな。おおぉ、やっぱメール最強説だよ。こんなにも簡単に会話が出来た。おしっ、この調子でどんどんメールで通じ合っていこう!


『少し頂戴』

『卵焼きあげる』

『ありがと。すげー美味しい』

『ママが作った』

『さすが~。また春日の家に遊びに行っていい?』

『うん』

『楽しみにしておくよ』

『うんっ』


ああぁぁ……なんか、ほのぼのして良いわぁ~。二人、黙々と食べながら片手に携帯を持って画面をずっと見続ける。一分を切る高速でのメールの送受信の応酬。なんとも間接的な会話なのは仕方ないが、意外と楽しいよこれ。けれど周りの状況を知らない皆さんは、


「お、おい……あれ大丈夫か?」

「全然話してないぞ」

「お互いそれぞれ携帯見てるし」

「もう別れるんじゃね?」

「ま、マジか!? 春日さんにアタックしてみよっと」


とか言いたい放題だ。何を勝手に盛り上がっているんだよ。つーか誰だ、春日狙ってる奴。後で八つ裂きにしてやるから覚悟しておけよ! はぁ、春日の人気っぷりに嫉妬する俺も情けないなぁ……。でもさぁ、春日ってば超人気なんだもん。街を歩いている時ちょっと目を離すと知らない男に絡まれたりするし、ホントもうあっぱれとしか言えないっす。それだけ春日が魅力的ってことなんだろうけど……やっぱ妬いてしまう自分がいる。はぁ、みっともないぞ俺。そんな自虐的になるなって、もっと彼氏として自信持とうぜ。俺はそんな天使の彼氏なんだから、ずっと傍にいるって誓ったんだから。これでもお互い婚約を約束した仲じゃないか、そう易々と別れることにはならないって。たぶん……うん、きっと大丈夫だって。ちょっと、いやかなり不安だけど……うぅ。


『兎月?』

「ん?」


気づけば春日からメールが来ていた。画面を見る前に一瞬だけ春日本人の心配そうな表情が見えて……けど目が合った時にはもう顔を逸らされてしまった。おっと、春日に心配させてしまったようだ。せっかく再び二人でランチタイムを楽しんでいるのだし、これを機に元の自然な関係に戻るチャンスだろ。嫉妬したり不安になっている暇があったら仲直りすることを最優先にメールどんどん打っていこうぜ。


『ごめんごめん、気にしないで。ちょっと考え事』

『そ』


たった一文字だけの返信。それくらいなら言葉にして言えばいいのに。にしても本当、変な距離感だな~。目の前に相手がいるというのに言葉では対話せずメールという電子媒体を通してコミュニケーションを取るとは……これがゆとりってやつなのだろうか。うん、なんか違うよね。とにかく、だ。いくらメールでのキャッチボールが心地好いからってこれに甘んじてはいけない。俺達は恋人同士、本来はこんなことせずにお互い声をかけ合って仲良くウフフ~、キャハハ~するべきなんだよ。現代っ子とはいえ、いつまでもメールに頼ってばかりじゃいけません。逡巡するな、臆せず気持ちを伝えるんだ。さあ言おう、この気持ちを、声に出して、勇気と愛を乗せて、君に伝えるよ―――


「春日、今日一緒に帰ろう」

「……ぁ、ぅ」


瞬時に顔を真っ赤にした春日はすぐさま弁当箱を片付けると脱兎の如く神速で教室から去っていった。なんという速さ、こちらが次の一手を打つ暇も与えてくれなかった……。え……あれ、れ? 勇気を出して次のステップに進もうとしたら、こんなことになるなんて……うぇ? あ……あっれええぇぇえええぇ? え、何、何なの、俺が間違えたのか!? 俺が焦ったからなのか、嘘っ、マジで? いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや! 俺は断じて失敗してないはずだ。だってそうでしょ、メールで会話してある程度話せるようになったんだから、お次はお口でお話じゃん! 今日は一緒に帰ろうよ、と誘っただけで逃げられたとかマジっすか……ぐふっ。なんというスピードだ、サファリパークのラッキーくらい逃げるの速かったぞ今の。……はぁ、やっと仲直りしてまた一緒にいれると思ったのに……まだまだ先は長そうだ。そんなに俺と直接話すのが嫌なのかなぁ……。メールでは普通だし、昼食も一緒にいてくれたのに、ちょっと話しかけただけですぐ逃げてしまう。もしかして……俺のこと、嫌いになったのかな……。あぁ、ヤバイ。そんなこと考えてしまうだけで身も心も焼け死にそうだ。少し想像しただけで魂が枯れてしまう……嫌だ、絶対に嫌だよぉ。えええぇぇぇー……そんな別荘での一件がヤバかったの? 俺だって快楽を求める本能の狼を抑えて、米太郎チョイスのプレゼントは使わず、ちょっと抱きしめる程度で我慢したのに……少しイチャイチャしただけじゃーん。それをまだ恥ずかしがっているってこと? それとも、別荘で俺に飽きて嫌いになったとか………駄目だ、そんなの、ホント死にそう。誰かぁ、助けてください……。


「お、おい……あれ大丈夫か?」

「春日さん逃げたぞ」

「全然会話してないし」

「もう別れるんじゃね?」

「ま、マジか!? 春日さんにアタックしてみよっと」


とりあえず騒がしい外野の男子どもの掃除から始めよう。今の俺はかなりキテるぜ! パンを食らい、席を立ち、やり場のない負の感情を糧に拳を握りしめ、俺は宙を舞った。


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