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続17 トマト喜劇家

そして週は巡り、


「一週間が経った……」


髪が抜け、肌の色素は薄れ、眼球は渇き、肉は削げ落ちた。はいはいオーバー表現ですよすいませんね。それくらい精神的に辛いってことなんですよ。聞いてください、もうかれこれ一週間が経過したんですよ。一週間だよ、一週間! ええぇ、おい! どうなってんのマジで、いい加減にしないとさすがにヤバイって。月火水木金土日と来て再び月となったわけで、つまりは七日間ってことですよ。七日間だよ、七日間! ええぇ、おい! さっきからテンションがおかしな方向へ全力疾走してる感が否めないが、訳を聞いてほしいっす。もう限界です、もう倒れそうです、もう……っ、もう! MOW! 何が一週間経ったのかと言うと、春日と話さなくなって一週間ってことです。先週末の別荘からそれ以来、七日間が過ぎたけど俺と春日は言葉を交わすどころか、まともに目を合わせることすら危うい状態になっている。いやいや、もう口が酸っぱくなるくらい言ってきたけど決して喧嘩しているわけじゃないからね。別荘でイチャイチャし過ぎたせいで、なんか春日がその反動で俺と距離を置くようになったんだよ。それもまぁすぐに収まるだろーなー、と軽い気持ちで放置していたら……この様だよ! ええぇ、おい! 話しかけるタイミングが分かんないよ、どう接したらいいか分かんないよ! 些細なすれ違いだった……それが二人の仲をここまで遠ざける要因になろうとは。誰か助けてください……。


「おっはよー、将っ也きゅーん!」

「……」

「おいおい、親友の挨拶を無視かよ~」

「……」


はぁ、なんとかしないとなぁ。とは言っても難しいんだよ、春日ってば俺から話しかけようとしたら逃げるんだもん。会話をする暇すら与えてくれない。そのくせ自分からは声をかけてきてさー、んでまた逃げるんだよ。何これ、一体全体俺にどーしろって言うんですかい。はぐれメタルを相手にしている感覚に近いぞこれ。


「そんなテンション低くてどうしたんだーい? また今日から学校ライフをエンジョイしよーぜ!」

「……」

「なぁ将也ってば~」

「……」


なんとか話す機会を見つけないと……。


「お、おい。なぁ、おいってば。なんか反応してくれよ」

「……」

「ねぇ将也君? 将也君ってば聞こえてる!? 俺の存在、認知してる!?」

「……」

「か、完膚無きまでの無視かよ。こうなったら……」

「……」


俺もなぁ、美保梨ちゃんくらい堂々と積極的に行動出来たらいいのに。あのアクティブさには見習うものがあるよね。まさか小学生に教えられることがあるなんて……いやはや、人生とは深いものだな。けれど人の一生とは浅い。おっ。今のってなんとなく名言っぽくね? 国語の教科書に載ったりして?


「……ん?」


あれ……なんだろ。なんとなく、どことなく、微妙に変な感触がする。制服と肌の間に何か異物が乱入して、背中に……なんか、濡れた物体がくっついているような……あれ? 今、ぐしゃって音がして……あれれ、変な液が背中から垂れてね?


「……米太郎」

「おおぉぉ、やっと反応してくれたか将也ー! 俺もう寂しくてついトマトを投げ入れてしまったよぉ」


この感覚、前にも食らったことあるぞ。汁だらけの気持ち悪い不快感が背中を這いずり回って、液体がスーッと線を作って背中をなぞり落ちていく感触。それはもう背筋が震えて鳥肌が立って自然と拳はグーの形になって、すぐ近くでほくそ笑む現行犯に向けて渾身のパンチをお見舞いしたくなる。


「やっぱテメーかっ!」


半呼吸を据える間にターゲットを捕捉、破壊を求め暴れる拳を制御しつつ、腕を大きく振りかぶって憎き米野郎の顔面を睨みつける。この野郎っ!


「おっと、貴様のパンチは見切ってるぜ。トマトシールド!」


そう言って米太郎は素早くトマトを取り出した。プリプリの真っ赤に光る赤き果実。そう、トマトだ。米太郎はトマトをこちらに向けて突きつけるようにして防御の構えを取っている。なるほど、このまま勢い良く殴りかかればトマトによって防がれ、さらにはトマトの液汁がぶっかけられるってわけね。防御と嫌がらせの二手をトマトのみで行う、か。さすが野菜太郎だな。常人ならばそのトマトシールドの脅威に気づかず攻撃してしまうだろうし、まして気づいたところで先行した拳を止めることも出来まい。だがな、俺はこの刹那で全てを把握し冷静に分析した。その上で敢えて、この拳の勢いを止めることはせぬ! トマトシールド? 笑わせるな、要するにただのトマトだ。その脆弱な盾など貫いてくれるわ!






「……」

「……」

「……あのさぁ、将也」

「……何?」

「なんか……俺が悪かったわ」

「いや、俺も……ホントごめん」


まあね、冷静に考えたらトマトを全力で殴るわけで。それを米太郎は手に持っているわけで。つまり二つの障害に挟まれた熟れたトマトは衝撃を分散されることが出来ず結果、中身が盛大に飛び散るわけで、そんなことは少し頭を使って考えれば分かることってわけで~。何が刹那だよ、何が分析しただよ。それより常識的に考えろ俺。見事にトマトを粉砕、そして薄赤色の液汁が溢れて飛び出た。爆破地点周辺にいた俺と米太郎はモロにトマト液を浴びたってわけだ。目の前でトマトの液まみれでテンション下がりまくりの友を見るに、きっと自分自身も同じ姿をしているのだろうな。朝の教室にて超小規模のラ・トマティーナが開催されたのを見て、クラスメイトの皆さんは普通に引いてらっしゃる。「うわぁ、さすが野菜コンビ……」といった声がコソコソと聞こえてくるのが地味にキツイ。つーか俺は別に野菜好きとかそんなんじゃないから、この野菜馬鹿とコンビ扱いされるのは勘弁してほしいんですけど。


「にしても将也、パンチの威力上がったよな」

「まあ食義を極めたからな」

「トマト殴った奴が何言ってやがる!」


クワッと目を見開いてツッコミを入れてくる米太郎。クワッとするなクワッと。なんかキモイから。食義じゃないけど、こう見えて最近は結構訓練しているからな、おかげで戦闘力はワゴンさん以上に上がったよ。訓練については……まあ、そのうち分かると思うんで今は特に説明しないです。……あれ、誰に言っているんだ俺? いかん、またメタな発言をした気がする。


「はぁ、もういいよ。で、ぼーっとしてたけど何? また春日さん関連かよ」


タオルで顔を拭きながら呆れ口調でモガモガと聞き取りにくい声で米太郎はそう言ってきた。またとは何だ、俺にとっては深刻な問題なんだよ。あの人のことを思うと夜も寝れないんだい。一挙手一投足に気を配っていつも気にかけているのだから……って、なんだこれ。ただの過保護なだけじゃね? い、いやいや違うぞ将也! これは愛があるからこそ出来る行動なんだよ。春日のことを考えて、第一に思っているからこそ深刻に悩めるんだ。愛が深いからこそなのだ。けれど人の一生は浅い。おっ、またも名言の登場だな。


「おーい将也、意識飛んでるぞ。またトマト爆弾投下されたいのか?」

「黙れケッチャプライス太郎」

「おいなんだケッチャプライスって! 今のトマトまみれの俺に対する罵倒なよな!?」


あー、うるさい。今はそれどころじゃないんだよ。いちいち大声でツッコミしてくんな、耳と精神に良くない。春日……どうしたらコンタクトを取れるだろうか? 話しかけても逃走、目を合わせようとしても回避……本当にお手上げだよ。


「そんなへこむなよー。メールとかしてるんだろ?」


……………………メール、だと……!?


「……米太郎」

「あい?」

「お前は天才か?」

「安心しろ将也、お前は馬鹿だ」


そうだ、そうだよ、そうじゃないですか! メールというものがあるじゃないですやんかぁー! メール、英語で言うとメール。発音良く言うとメェイルゥ! 今は便利な世の中じゃないか、携帯機器一つでメールや電話は当然のこと、地図や時刻表、ネットも見れる超ハイテクなスーパーテクノロジーが進む現代なんだよ。猫型ロボットの製作プロジェクトもあるとかないとか!? とにかく、春日と直接話せないならメェイルゥを使ってコンタクトを取ればいいんだよ。なんという発想、今世紀のノーベルを見つけた気分だぜ。


「というか、今までメールとかしなかったのかよ」

「しなかった!」

「そんな声を大にして言わなくても……」


再び呆れ顔になったケッチャプライス野郎のことなんざもう視界からフェードアウトさせ、視野に収めしは携帯電話のディスプレイのみ。ささっ、なんて文章を送ろっかな~。これまで春日とメールしたことは幾度とあった。付き合う前もだし付き合った今もだけど、春日って電話はほとんどしないでメールを送ってくることが多い。そして普段は無口な彼女もメールだと会話が良い感じに弾む。ちょっと絵文字を混ぜてくる辺りも可愛らしい! てことで早速、絵文字どころかデコメも使って派手な文章を送ろうっと。


「全員、席に着け。ホームルーム始めるぞ」


……毎日同じ台詞をほざいて担任が教室に入ってきた。ルンルン気分は携帯と共に折りたたんで机の中へと押しこんだ。こ、の、クソ、担任がぁ……! いつもながら最悪のタイミングで入室しやがって。へいへい、ちょっとは空気読もうぜ。


『ピロリロリーン』


そして携帯さぁーん!? アナタも空気を呼んでくださいよ! メロディ音が机の中から聞こえちゃったよおい。途端にいつも以上に静穏な空気になる教室。あれだよね、授業中とかに携帯の着信音とか鳴るとクラスの空気がピシッと固まるよね。自分の携帯じゃないけどドキッとするよね。でも今の俺は自分の携帯が鳴ったから普段以上にドキドキッとしてるよ! うあああぁぁあ、ちょっと待ってタイムタイム、ターイム! ここでの没収は勘弁してください。今からデリシャスにデコメしまくった愛のメールを送信するところなんで、マジ今からやっと仲直り出来るチャンスなんで! ホント、携帯没収だけはやめてください。あと普通に反省文とか書きたくないですっ。


「……今の音は」


ヤバイ、担任も探知しやがった。たまにクラスの皆には聞こえたけど教師には聞こえなくて、なんとかやり過ごせるってことがあるけど……今の台詞を聞く限りじゃその望みは薄い。それどころか、完全に犯人探しをやりかねない。くそっ、皆もワイワイ騒ぎまくったらいいのに! なんでピタリとお通夜みたいに黙っちゃうんだよ。こんなにも空気が固まると言い逃れも出来ないじゃんか。あ、あぁぁあぁ……俺の超ハイテク携帯機器が奪われちゃう。俺と、春日を、繋ぐ、愛の糸が………


「ピロロロロォ~!」


その時、俺は今世紀のチャップリンを見た。なんという喜劇、教室全ての注目は彼へと注がれた。黙す静止空間で、彼は奇声を上げ、おどろおどろしいほど開かれた眼球を四方八方に彷徨わせ、狂ったように手足を曲げていた。そんな奇天烈なことを出来る男なんて一人しかいない。赤き果実の液を浴びたケッチャプライス太郎こと、米太郎だ。固まった空気がさらに石化したのは言うまでもない。


「ど、どうした佐々木」


さすがに担任も米太郎の狂気染みた動きと声に数歩引き下がった。というかクラス全体が引いた。俺だって引くわ。何だ今の声、まともな人間の出す音じゃないだろ。しかし米太郎の奇行は驚くべき効果をもたらしていた。携帯が鳴ったことなんて置き去りにして、そんな小さなことはどこかに消えてしまったのだ。こ、米太郎……お前、まさか!?


「すいません先生、なんか気分が悪いので保健室行っていいですか?」

「保健室というか病院に行った方が……ま、まあいい。今すぐ行ってこい。あと佐々木、なんでそんな全身赤いんだ?」


そりゃさっき俺と二人でプチトマト祭りしたからです。あ、今のプチってのはプチトマトのプチじゃなくて、小さいって意味でのプチだから。小トマト祭りって感じに捉えてください……って、どうでもいい補足だなこれ。てかこれ誰に言っているんだよ。これメタ発言だから控えろってさっきも自分自身で注意しただろ!


「あ、将也も一緒に行っていいですよね?」

「……そ、そうだな。兎月も同じように汚れているし。兎月まであんな風に暴れられたら敵わないし、二人とも行ってこい」


もうお前ら怖いからさっさと保健室へ行け、担任はそう言っているようだった。引きつった顔でシッシと手をバタつかせている。実際、俺と米太郎は追い出されるように教室を後にした。なんとかバレないで済んだな。さっき米太郎が奇声を上げたのは俺を助けるために……?


「ふぅ。全く、携帯はマナーモードにしとけよ」

「こ、米太郎……お前、やっぱり……!」

「当たり前だろ。俺があんな廃れた声出すかよ」


……それは、うん、えっと……なんか出しそうだよね。お前なら。


「テメ、なんだその顔! 人が恥を捨てて守ってやったのに。いいから早くメールしやがれ」

「こ、米太郎……っ」


お、お前って奴は……!


「続編に入って初めて良い仕事したな」

「だからそのメタな発言はやめろって!」

「おい兎月と佐々木! 廊下で騒がず早く保健室へ行っ…」

「「ピロロロロォ~!」」

「ぎゃあああぁぁぁ!?」


今度ばかりは教室中がパニックになった。

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