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続12 ただいま追跡中

学校の正門が最も賑わう時間帯は放課後、生徒の下校時だと思う。朝の登校でも同じくらい人は通るが朝と夕方ではテンションに大きな差がある。やっぱ帰り道の方は勉強から解放されたということもあって皆さんワイワイとしていらっしゃるようで。よって放課後の正門付近は賑わっている。つまり何が言いたいのかというと、


「こちらライス、ターゲットが正門を通過しました。オーバー」

「こちらヘタレ、ターゲットを確認。後方から追跡します。オーバー」


俺と米太郎が水川をストーキングしているってことなんです。え、意味が分からない? 大丈夫、俺もよく分かってない。なぜ同級生で同じクラスで同じ部活仲間の友達をストーカーせなあかんのだ。悲しいというか申し訳ない気持ちでいっぱいです。正門を抜けてコソコソと水川の後を追う。特に変わった様子はなく普段通りの水川さんだ。


「こちらライス、ターゲットが眼鏡をかけた女子生徒と会話を始めた。解説頼む。オーバー」

「こちらヘタレ、あれは部活の後輩の女の子で、途中まで一緒に帰るみたいだ。オーバー」


なんだ矢野も部活休むのか。まあ特に活動しないから全然問題ないけどね。


「了解。……ゴホン、まあ一応参考として名前を教えてほしい。オーバー」

「却下だ。オーバー」


つーか矢野とは何度も会っていると思うぞ。米太郎はたまにボランティア活動に参加してたし。

まあそれはいいとして……ったく、ホント俺らは何をやっているんだ? 最近水川の様子がおかしいとか今からデートするみたいとか米太郎が言いだして、そして唆されて水川の後をつけることになったが、やっぱ気が引ける。他人の秘密を探っているようで罪悪感が重くのしかかるし、友達とはいえ水川は女の子だ。女子をストーカーするとか犯罪スレスレじゃん。つか軽くアウトな気がしてきた。


「なあ米太郎」

「おいコードネームヘタレ、テイストを崩すな」

「……えー、こちらヘタレ、やっぱ追跡はやめませんか? オーバー」

「こちらライス、ざけんな。盛り上がってきたんだ、真相に辿り着くまでやるからな。オーバー」


こりゃ言っても無駄だな。仕方ない、ある程度やったら無理矢理でも止めよう。それこそ水川の彼氏が見つかった瞬間に帰るつもりで。


「つーか俺ら隣同士じゃん。いちいち無線風に会話する必要ないだろ」

「馬鹿もん、こういうのは雰囲気が大事なんでぇ」


はいはいそーですか。前方十メートル先を歩く水川と矢野。何やら楽しげに話していて俺と米太郎がコソコソ追跡しているのはバレてないみたい。下校する生徒の集団や物陰に隠れながら一定の距離を保って水川を見張る。傍から見たらただの変人コンビだよな、警察沙汰にはなりたくないっす。


「こちらライス、ターゲットは電車に乗るつもりだ。オーバー」

「そらぁ電車通学だから電車に乗るだろ」

「的確な揚げ足取りどうも。オーバー!」

「痛っ」


ああウザイ、オーバーのところで肩パンしてくんな。水川に限らずほとんどの人が電車通だろ。うちの学校ってチャリ通はあまりいないんだよな。俺もチャリ通とバス通の合わせ技だし。


「こちらライス、水…ターゲットが駅へと入っていった。オーバー」

「こちらヘタレ、見りゃ分かります。オーバー」

「ちゃんとやれヘタレ」

「やってますよ。オーバー」


なんかダルイなぁ。ストーキングってもっと緊張感とワクワク感でスリルを味わってるぜぇ~的な興奮があると思ったけど今の俺は面倒くさいのと申し訳ない気持ちの方が数段勝っているようでこのストーカーごっこがあまり楽しくない。早く家に帰ってゲームしたいわぁ。


「ところで将也」

「ちゃんとやれライス」

「今更だけど春日さんはよかったの? 一緒に帰んなくて」

「……」

「なあ」

「うーん……なんかさぁ、昨日もだったけど目を合わせてくれないんだ」

「え、まだ照れてる感じ?」


そうなのかな……? 別荘から戻ってきて以降、春日とまともに話していない。甘えた反動なのか、より無口になって目も一瞬しか合わせてくれない。喧嘩してるわけじゃないけど、なんか春日は照れているらしい。今日は一緒にバス通学だったがこれといって会話はなし。昼飯も別々に食べた。まあ毎日一緒に食べてるわけじゃないしぃ、そんな気にすることじゃないしぃ、寂しくないしぃ……。


「……」

「そんな落ち込むなって。オーバー」

「……オーバー」

「弱々しいオーバーだな。で、帰りはいいのか?」

「米太郎と帰るってメールした」

「んじゃ、ストーカー続行な」


はいはい。ま、どうせ春日は無視するし、こうやって距離を置くのもアリかもね。あまり近過ぎずバランスの良い距離感を保つのが長続きする上手い付き合い方って聞いたことある。別荘であんだけ密着したからしばらく距離置いてみっか。寂しいけど……。


「こちらヘタレ、なんとか我慢してみようと思います。オーバー!」

「い、いきなりどした?」


溢れる涙を拭いつつ前にいる水川を……あれ、水川どこ行った? 駅へと到着し、ホームに入ったはずだが……見失った、だと?


「こちらライス、水…ターゲットがロストした。すぐに捜索頼む。オーバー」

「こちらヘタレ、見りゃ分かる。とりまターゲットの帰る方面がどっちか教えてくれ。オーバー」

「こちらライス、それだと駄目だ。水か…ターゲットが家方面に行くとは限らない。デートに行くならどちら方面か分からないぞ。オーバー」

「ああ、そうだったな。それと何回も水川って言いかけんなよ。オーバー」


さて、こっからどうしたものか。まあどちらかのホームに行ってホーム内全てを見渡せばいいか。至極簡単なことだったよ。


「こちらライス、ヘタレは定期持ってないし切符は一番安いのを買ってこい。後で下車駅で支払えばいいし。オーバー」

「こちらヘタレ、了解した。あと今更だがヘタレというコードネームを変えたいんだけど。オーバー」

「こちらライス、駄目だ。任務中での変更は味方内で混乱が生じる。オーバー」

「こちらヘタレ、渋々だが了解した。ところでターゲットはどこに向かうつもりだと思う? オーバー」

「こちらライス、水か…ターゲット次第だな。候補は絞れるが、どこかは難しい。オーバー」

「こちらヘタレ、了解した。オーバー」

「こちらメガネ、水川先輩は普通に家に帰りますよ。オーバー」

「こちらヘタレ、了解した。オー……ん?」


オーバーじゃねぇ。誰だ今の声。コードネームメガネだなんて作戦部隊にいたっけ? ふと声のした後ろを振り返ると、


「兎月先輩、何しているんですか?」

「矢野……」


さっきまで水川と一緒にいた矢野が立っていた。眼鏡をかけた女子生徒、うちの学校の一年生であり、同じボランティア部に所属する後輩だ。そんな眼鏡っ娘な矢野が背後から声をかけてきたのだ。しまった、後ろを取られるとは不覚っ。


「で、何しているんですか? 先輩はどうせ自転車通学でしょ」

「なんだよ、どうせって言い方」


ちなみに言うと矢野は俺に対してすごく失礼な態度で接してきやがる。こちとら一つ上の先輩だってのに、小馬鹿にした台詞を言ってきたり水川には向ける尊敬の眼差しを俺にはしてくれなかったり。なんて無礼な奴だ、お灸を据えてやりたいぜ。まあ俺が先輩らしくないってことなんだろうか、水川にはちゃんとまともな先輩扱いしているし。あれ、結論俺が悪いの!?


「俺と将也は真実を確かめようとしていたのさっ」

「え、誰ですか?」

「コードネームライスだ。よろしくだぜ」


横から会話に殴り込んできた米太郎を見て矢野が驚いたように小さく飛び跳ねる。だから矢野と米太郎は何度も会っているって。挨拶活動とか夏の清掃活動の時とか。なんで二人とも覚えてないんだよ。


「兎月先輩、この人なんか怪しいです」

「そうだな」

「テメ将也っ!? 親友のお前が肯定するとかありえねぇよ!」

「そういえば兎月先輩のコードネームはヘタレなんですね。お似合いですよ」

「おいメガネ、いらぬ世辞はよせ」

「二人揃って無視かよっ」


ちなみに矢野は水川のキャラを受け継ぐ者だと勝手に思ってる。いつも部活で仲良くしているから性格が影響されたのかな? 今みたいな悪意ある無視とかちょっとした毒吐きは水川さんに近いものを感じる。それに今だって米太郎を見た瞬間に怪しい人扱いした。水川と同じく米太郎から何かよからぬ不穏さを感じ取ったのだろう、もしくはただ生理的に受けつけなかったかだ。生理的に無理とか一番ひどい言葉じゃないだろうか。俺なら学校休むレベルのショックだよ。


「つまりお二人は水川先輩をストーキングしていたんですね。最低です」

「確かにそうだな。俺達に弁解の余地はない。でも聞いてくれ矢野、全てはそこのライスに言われてやったことでな」

「兎月先輩はそうやって他人に責任を押しつけるんですか? そんなことする人だとは思いませんでした。見損ないました」


おいいいぃ、マジで俺は悪くないと思うよ!?


「あー、はいはいごめんなさい。俺も悪かったよ、今すぐ犯罪行為から手を引きます」

「いや駄目だヘタレ」

「黙れよライス」

「まだ何も手がかりを掴んでいないんだ。このまま終われるかよっ」


もういいじゃん。矢野にバレたし、あまり深追いはしたくないって。つーかお前はどれだけストーカーごっこに熱中してんだよ。


「えっと、ライスさんでしたっけ? やめてください、水川先輩を穢さないでください」

「ならお嬢ちゃんを穢そうかな~。ぐへへっ」

「と、兎月先輩っ」


普段の米太郎のキモさを相対値1で表すとしたら、今の米太郎は4.5くらいの気持ち悪さだった。不気味に大口を開いてそこから汚らしく唾液まみれの舌を覗かせる。目は爬虫類のようにギョロギョロと気味悪く動いて矢野の全身を舐めずり回すように観察している。両手をワキワキさせる動きなんか男の俺でも身の毛がよだったわ。あー、気持ち悪い。レーシック手術の動画くらいグロイ姿だ、閲覧注意のタグを貼りつけたい。そら気持ち悪過ぎて矢野も俺に抱きついてくるよな。俺の後ろに回りこんでしがみついてくる矢野の手は震えていて弱々しく俺の名前を何度も何度も呼ぶ。ここまで拒絶されるとは、米太郎もたまったもんじゃないな。こんな反応、俺なら一週間部屋で引き籠るレベルだよ。


「……こちらライス、俺ってそんなにヤバイか? オーバー」

「こちらヘタレ、まあキモさなら余裕で人間の限界をオーバーしているぜ。オーバー」

「オーバー!?」


うるせー。


「ところで矢野、そろそろ離して。なんか恥ずかしくなってきた」

「嫌です。そこにいるライスさんをどこかに飛ばしたら離れます」

「悪い、ルーラはまだ習得していないんだ。てことで米太郎よ、どこかに消えてくれ」

「さっきから俺に対して酷くないか!?」


そんなもんだろ、米太郎なんて。


「はあ、なんか疲れた。で、コードネームメガネさん、もしかして水川は普通に家に帰ったりするのか?」

「はい水川先輩はご自宅に帰られるそうです。私も晩ご飯の買い出しがなければ遊びに行きたかったんですけど」

「へー」


ほらね、やっぱ何もなかった。恐らく家庭の用事とかで帰ったんだよ。残念ながら米太郎のデート説は外れたな。


「おっかしいなぁ……水川の奴、何か隠しているっぽいんだが」

「ライスさんは意外と鋭いんですね……」

「ん……あれれ、メガネちゃん? 今のって、やっぱ水川には何かあるんだな」

「……こちらメガネ、しくじりました。オーバー」


さっき聞いたばかりのことをもう喋ってしまいました、とこれまた口を滑らせて矢野は俯いてしまった。ニヤリと笑う米太郎が白状せいと言わんばかりに詰め寄ってくるから矢野はさらに力を込めて俺にしがみついてくる。やめてぇ、俺には心に決めた人がいるからぁ。

……にしても、まさか本当に水川に隠し事があるなんて。そこに気づく米太郎はさすがと言うべきなのだろう。ここ最近は変態キャラでしかないが、いざという時の米太郎は頼りがいがあるからな。何度救われたことやら。それに普段からも意外と観察眼は高いようで……ま、それも気持ち悪いキャラクターのせいで全て台無しだけどね。


「さあ吐いてもらおうか矢野ちゃ~ん? さもないとおじさんが君に向かって何かを吐き出しちゃうよ~?」

「と、兎月先輩怖いです!」

「安心しろ、いざという時は火祭を呼ぶから」

「それはさすがにやめて! 死んじゃうから!」


死に値するようなウザイ行動をお前がしなければ呼ばないよ。火祭だって忙しんだよ、お米の処刑なんかのために呼びたくないわ。


「ま、とにかく矢野はいい加減に俺から離れて」

「嫌です。ずっとこうしてます」

「それは困るぞ。えっと……それで水川は家に帰るんだったな。家庭での複雑な事情なら俺達も首は突っ込まないけど」

「まあ家庭の事情を言えば事情です。特に兎月先輩には言えない事情です」


は? なんで俺? 水川ん家の事情に俺が絡む要素とかなくね?


「私からはもう何も言えません。だからもう帰りましょう」


んー、俺は最初から究明するつもりはなかったけど、俺の名前が出てきたから急に興味が沸いちゃったよ。すげー知りたいけど、どうやら家庭の事情らしいし矢野も言うつもりはないみたい。なら諦めるしかないでしょ。


「それなら仕方ない。悪いな、こんなところで引き止めちゃって。バイバイ」


そう言って強引に矢野を引き離す。もしこんなところを春日に見られたりでもしたら浮気とか誤解されてマジでヤバイことになるかもしれん。ローキック程度で済むならいいけど、春日が泣いたりしたら俺もう慌てふためくよ。そーいった誤解は生み出さないようにしなくては。


「いえ、晩ご飯の準備はもういいです」

「なんで?」

「私、両親が旅行でいないから晩ご飯の準備をするために部活休みましたけど、こうして兎月先輩に会えたので。せっかくだからご飯奢ってもらおうと思います」


なんつー図々しい後輩だ。と思ったが、


「ストーカーしていたこと水川先輩や火祭先輩にバラしますよ?」


とか脅されたので、


「分かった、先輩として奢ってやろう」


と言うしかなかった。ホント俺ってなめられているなぁ……。


「こちらヘタレ、メガネと食事に行こうと思う。オーバー」

「こちらメガネ、了解しました。オーバー」

「こちらライス、俺も行きたいです! オーバー」

「こちらメガネ、渋々ですが了解しました。ヘタレさん、ちゃんと守ってくださいね。オーバー」

「こちらヘタレ、了解した。オーバー」


なんてやり取りをしているうちに電車が到着。さて、


「じゃあ行きますか」

「「行きましょうっ」」


最後はスパイごっこもやめて俺達三人は電車へと乗りこんでいった。



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