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続11 水川さん

「水川の様子がおかしい。何か臭うぜ」


学校に来るやすぐに米太郎がそんなことを言ってきた。おいおい、俺達の親友兼天使である水川のことを臭いとか言うなんて頭イカれてんのか。テメーの方が臭いわ、便器で顔洗って来世から出直してこい。


「……将也、心の中で毒舌吐いてる?」

「いや」

「その顔を見る限りそうは思えないんだけど……」


そろそろ冬の到来を肌に感じるようになってきた今日この頃、授業はだるくて部活は暇になってきた、そんなすごく平凡な日々を過ごしています。んー、先週は別荘でかなり刺激的な時間を過ごせたが最近は特に面白いイベントがないんだよなぁ……あるとしたら期末テストとか。ははっ、テストなんてクソ食らえなイベントのことはまだ考えたくないや。こちとら中間は諸事情で受けてないから今度の期末は割と真剣に取り組まないと留年する恐れがある。そんな脅し文句を担任から言われたけど知らねーって感じです。この平凡な日々を満喫したい年頃なわけですよ、高校二年生だもの。……ん? 俺って刺激を求めているのか平穏を求めているのかどっちなんだ? まあどっちでもいっか。てことで今日ものほほんと過ごしていきましょー。


「そうだ米太郎、昨日部屋掃除していたら昔のゲームが出てきてさー。今度一緒にやろうぜ」

「お、いいな。何のゲームだ?」

「モンスターをファームするやつ。2の方な」

「これまた古くて微妙なラインのやつだなおい。けど2は名作だよなっ」


だろぉ? 昨日の夜ちょっとプレイしたけど熱中しちゃったよ。やっぱ俺ライガー種が好きだわぁ。なんか忠実な感じが微笑ましいというか育成していて楽しい。ニックネームは『へたれいぬ』にした。


「おい将也」

「ん、どした? CD再生なら任せろって」

「ゲームの話じゃねぇよ! つーかなんでいきなりゲームの話? 最初マミーの話だっただろうがぁ!」


そうだっけ? んー……いや、違うな。油草育成について話していた気がするぞ俺は。


「また違うこと考えている顔してるな将也あぁぁん?」

「マミー言うな」


気持ち悪い声で俺の名前呼ぶなって言おうとしたら代わりに違う人が米太郎を殴ってくれた。ショートカットのゆるふわな黒髪を揺らしてジロリと米太郎を睨む、水川真美さんの登場である。元気で明るくてクラスの人気者、おまけに可愛いときた女子高校生さんだ。略すとJK。つまりマミーJK。……なんかプロレスラーみたいな名前になった?


「兎月も、マミー言うな」

「いや言ってないっす」

「顔が言ってる」


顔が言ってるってなんですか。顔面のみで自身の心情を描写する技術を会得した記憶はないですよ。まあアレか、水川ともアイコンタクト出来るようになったからなぁ。アイコンタクト、それは目線で相手と何かしらのメッセージを受信送信することをいう。常人なら簡単なことしか伝えられないが、俺と米太郎の熟練者は目線だけで饒舌に好きな女優を語り合うことが可能になるくらい洗練される。これは強化系の能力だ。いや操作系……特質か? まあそもそも念能力じゃないよね……話逸れてすみません。つまり、俺は水川とも少しばかりのアイコンを行えるようになったから水川に表情を読まれたのか。これからはもっと顔を引き締めなくては。


「痛っ~、おいマミー! いきなり殴るなよ」

「だからマミー言うな。佐々木だけには言われたくない」

「マミーって言うの俺と将也ぐらいだし。てことは将也にしか許されない呼び方なのか」

「佐々木以外の人だったら誰にでも呼ばれていいよ」

「なんて辛辣!」


あと水川は可愛い顔して意外とえげつないことを言ってくる。直接的なことは言わないがこちらが傷つく一歩手前の際どい毒を吐いてくる。なんとまあ恐ろしい人だ。……ん? 米太郎がのっそりとこちらに近づいてきて耳元で囁いてきた。気持ち悪いわ~。


「どうだ、なんか水川の様子おかしいだろ」

「別にいつも通りだし」


いつもの流れじゃないか。別におかしくないです。


「いやマミーはもっと優しかったはずなんだ」

「おい佐々木、だからマミー言うな」


水川が米太郎をズバッと指差して不快そうに声をぶつけてくる。


「いや言ってないよぅ。顔でも言ってないからね」

「顔が逝ってる」

「ものすごい直球ぶち込んできやがった!?」


ちょっと訂正、水川は毒舌なら強弱関係なく言ってくるみたい。俺の時は優しい毒だけど米太郎に対しては強力な猛毒の悪口を放つようだ。こういった感じで水川は米太郎に厳しいから、もしや米太郎のことが……とかいった考察を幾度なく思ってきたが違うんだろうなぁ。実際のところはよく分からないし、俺は鈍感らしいので俺が二人の心情を読むのは無理だろう。アイコン出来る仲でも出来ないことはあるのだ。今の、なんか良い台詞を言ったようで言ってないからね!


「兎月、私今日は用事あるから部活行けない」

「あー、別にいいんじゃね? 今日もどうせ部室でダラダラするだけでしょ」


ちなみに俺と水川はボランティア部という部に所属している。その名の通りボランティア活動をする部活だ。挨拶活動とか清掃活動とか色々やってます。この前は、地域の子供達に工作の楽しさを教えよう的なイベントに参加したりしたけど最近は特にやることもなく部室で雑談に勤しんでいる。ゲームとかしているけどバレたら没収だから気をつけないと。


「じゃ、そゆことで。バイバイ兎月」

「俺の存在は!?」


シャウトする米太郎を置き去りに水川は女子グループの方へと行ってしまった。うん、これまた何度も思ってきたけど米太郎は純粋に嫌われているだけだな。扱いが酷過ぎる、俺も言えた義理じゃないけど。ま、米太郎はそういった扱いをするのが一番楽でいいもんね。


「おい将也、また失礼なこと考えてるだろ」

「顔が逝ってる」

「その台詞は俺の……つーか漢字違うし逝ってないし!」


テンションを上げないでください。鬱陶しいから。


「あとさ、ボランティア部って今何してるの?」

「何も。強いて言えばモンスターをハントかな」

「学校ではモンスター狩って家では育成してるのかよ!」

「あっ、そうそう! プールパグって裏技があってだな」

「だからそっちの話題はいいって! ごめんなさい、謝るから俺に話の主導権を握らせて!」


沸点に到達したようで遂に米太郎は真っ赤な顔で地団駄を踏み出した。ちょ、やめてそんな子供みたいなキレ方。一緒にいる俺まで恥ずかしいから。


「分かった分かった話聞くから。で、何だっけ?」

「だぁかぁらぁ、水川の様子がおかしいって話だよ!」

「声デカイわ。本人に聞かれるぞ」


そう思って女子グループのいる方に目を向ければ案の定、水川さんがこっちを見ていた。「どうかした?」とアイコンしてくるので「別に、米太郎がキモイだけ」と送信したら納得したようで水川はまた向こうでガールズトークへと戻った。これホント便利だな、テストの時にも使えないかな?


「で、水川の様子がおかしい? 俺はそう思わなかったけど」

「あらあら、これだから将也は困るぜ。推理力の欠片もないね」


拳に力が入ったがまだ我慢しよう。寛大な心を持とうではないか。


「さっきの台詞を思い出せよ。『私今日は用事あるから部活行けない』だ。ここで述べられた『用事』とは一体何だと思う?」


知らないですー。


「恐らく、デートだ」

「でぇと?」

「そうだ、水川にも春が訪れたってわけだよ」


永遠の冬眠を過ごす米太郎にいつ春はやって来るのか……それはまあいいとして。水川がデートかぁ……うーん、そうなの?


「てことは水川は付き合っているの?」

「いや、俺の勘だとそれはまだだな。時間の問題ではあるけどな」


偉そうな物言いだなこいつ。お前何様だよ、とか言うと「お米様だよ」とかウザイ返しがきそうだから敢えて何もツッコミは入れない。


「ふーん」

「はあ? おい将也、お前それだけかよ!」

「はあ? いや、水川に彼氏いても普通でしょ。あんだけ可愛いし明るいし」

「はあ? お前はそれでいいのか? 俺達の親友を落とした相手を一目見ようと思わないのかそいつを見定めようとは思わないのか?」

「はあ……」


確かに気にはなるけど、それは野暮なことだと思うぜ。いくら自称親友を銘打っても知られたくないことの一つくらいあるでしょうよ。それに水川ならいつか話してくれると俺は信じているし。今はもしかしたら際どい時期かもしれないじゃん? だったらそっとしておくのが一番だよ。そもそもデートって推測自体も怪しいし。


「つーわけだ。放課後は水川の後を追うぞ」

「それただのストーキングだって」

「いいから行くぞ。幸い俺は今日部活が休みなんだ、今日行かないでいつ行く!?」

「おっ、部活休みなら一緒にモンスターファ」

「ストーキングするのっ!」

「声うるせ! あー、もう分かったよ。行けばいいんだろ行けば」


かくして放課後の予定は水川の追跡になった。これって刺激的なイベントなのかな? どう見ても違う気がするよね。



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