ラブ☆コミュニケーション
「ちょ、ちょッと!! いい加減に起きなさいよ!! 学校遅刻しちゃうんだからねッ!!!!」
激しく揺すぶられ何事かと目覚めてしまうのだが、目の前の光景が昨日と何一つ変わらない事を認識した瞬間に睡魔が無事帰還した。
『ちょ、脅かすなよなー。まったく(チラッチラッ)、なんだよ昨日と一緒じゃねーか(チラッ)、寝るべ寝るべ』みたいなノリだ。
睡眠は大事だ、それ以上に俺は寝る事が好きなのだ。
だから寝るんだ、好きだから寝るんだ。これはもはや趣味と言葉言い換えても良い。
睡眠は俺の趣味だ。
しかしその貴重なプライベートタイムを毎日のように脅かそうとする輩がいるから困っている。
ろくに睡眠も出来ぬ日々を強いられているんだッ!!
だから困っているのだ。
今まさに第一の刺客が、死角から俺の部屋に忍び込み、四角いベッドの前で横たわる無防備な俺を攻撃している状態だ。
日々思う。
『きょ、今日こそは動じたりしないんだぜぇ……』
しかし現実は思うようにはいかないように出来ているようで、刺客は何が何でも俺を学び舎に連れていこうとするのだ。
そして俺は負けるのだ。
だから、今日こそ……俺は……!!!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
熱湯!?
俺とお前の熱闘ならまだしも熱湯!?
ちょ、それ反則。火傷。
「まったくもぉ、あんたが起きないのがいけないんじゃない!! まったくもぉ……」
こうして、今日も俺は、第一の刺客に敗北を期したのだった。
「里ぉ見ぃ君!! 何してるの?」
学び舎に足を運んだ俺なのだが、やることは決まっている。
睡眠だ。
睡眠は俺の趣味だからな。
『勉学以上に大事な事ってあると思うんだよね(爽やか)』そう心の中の好青年が髪をなびかせ、白い歯を覗かせながら言っている。
「もぉ~、里見くぅん、何かしようよぉ~暇だよぉ~」
俺はいつ、どの態勢からでも寝る事が出来るのが特技だ。
幕藩体制であろうと俺の睡眠は妨げられないってことだな。
「こらぁー!! お姫様が機嫌を損ねるぞぉー!!!!」
無敵だろう? 魅力的だろう?
俺はたかが枕が変わっただけの事じゃノーダメージに等しいんだぜ、合宿だろうが、旅行だろうがなんでもきやがれ、という構えなのさ。
趣味を最大限に生かすことのできる特技、それはもう天から授かったギフトだ。
神聖にして真正の才能。
この不貞寝状態の俺を、誰が起こそうというのか。
神でさえもこの俺の領域を犯すことなど出来はしないのだ――――
「いえやー」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」
「おはよぉ、里見君」
俺の椅子は!?
椅子から落ちちゃったんだけど、頭とか打ったらどうする気なの!? 危ないよ!?
「にひひー、遊ぼっ」
底の見える、机の上に腕を置いた第二の刺客が不敵な笑みを浮かべていた。
椅子から転がり落ちた俺は、そのまま天井を見上げて…………寝た。
「起きろっ」
「おふッッッッ!!!!!」
頬を叩かれて……やっぱり今日も俺、「里見健一郎」は第二の刺客に敗北を期した。
「里見、ぼーっとするな!! ほらボール行ったぞ!!!!」
体育……忌々しい。
なぜに午前の内から体を動かさなきゃならんのだ。
「里見、聞いてるのか!! これ勝ったら平常点プラスされるんだ、気合入れていけ!!!!」
しかもバスケットなどというスポーツをなぜ男女混合でやらされるんだ。
どういう結果を招くか教師は己が学生時代の内に学ばなかったのか……呆れる。
俺は中学生の時にその辺りはよぉーーーーーッく学んだ。
『と、ととと、とととととりあえずボール持ったけど……女子にパスした方がいい……よね?』
『え、パスが強い? んんん、じゃぁ優しくパス……します』
『え、あ、ちょ……ゴール前だけどなんか誰もディフェンスしないから……女子にパス』
『あーハズしたー……リバウンド取って……女子にパス』
『あーまたハズした……リバウンド取ったけど……何このもう1回的な雰囲気……え、なんで道開いてんの? じゃぁ、もう1回?』
『何これ、入るまで?』
『もうやだ、相手のシュートミス取って速攻してみっか…………うらぁ!! くらえレイアップ――――――白けた!?』
だから嫌なんだ、やりにくい。
まぁ、俺に言わせれば、体育は睡眠だ。
立ったままでも容易に寝る事が出来るからだ。
さっき言っただろう? どんな態勢でも寝る事が出来るって。
立ち状態など、造作もない。
「里見!! パス!!!! こら里見――くッ、スペース埋められたか……」
体育館の床でシューズが鳴る音というのも、中々に眠気をそそられるというものだ。
心地良き、大自然が生むヒーリングミュージック。
自然な不規則が俺を包む……敵と味方などという概念が非常に馬鹿らしい物に思えてくる。
目をつぶれば、敵も味方もない。
寝るという行為は、自分一人による物だ、生まれたての赤子でさえ行う事のできる個人種目。
神から与えられし単独競技。
睡 眠 。
今俺は、無の境地に達しようとしている……イメージが歪み、心地よい脳波が分泌されている最高の状態。
あと60秒もあれば、俺は世界の向こう側に行く事が出来るのだろう。
58、57、56、55、54…………。
時計の針が俺だけの為に存在するかのようなカウントダウンを想像するんだ。
ピーター○ンも、ドラ○もんもでさえも行く事の出来ない世界に、俺は羽ばたくんだ。
寝るということ。
そしてそれが俺にもたらすもの。
測ることなど出来はしない。
目に見えない個人の価値観を測る物差しは無い。
それが俺にとってどれほど大切かなど、測ってほしくもないんだ。
32、31、30、29、28…………。
じゃぁ俺はそろそろ行くよ、あの虹の向こうに。
体を浮かせて、飛び立つイメージ。
まるでそこは無重力、大地と海が織りなす大自然の星へ。
9、8、7、6、5、4、3、2、1―――――!!!!
「里見!!」
「ってッッッッ!!!!!」
「ナイスリターン……ヘディングだけど。 まかせなさい、決めるわ!!!!」
両手打ちからの3ポイントシュート……
ブ―――――!!!!!
弧を描いたボールは、リングに触れることなく、乾いた縄だけを通過し……ブザービータ―が綺麗に決まった。
俺はというと、大自然の星に頭から墜落してしまったかのような、鈍い痛みで目の前には星が散っていた。
「里見、あなたのおかげね。良いパスだすじゃない」
なんかゆってる。そんなふいんき。
「ちょっと、見直したわ……ちょっとだけ、ね」
こうして、俺は第三の刺客に敗北した。
「あ、赤いウインナーちょうだーい。もぐもぐ」
人の三代欲求。
食欲、睡眠欲、性欲。
「あ、冷凍コロッケ半分ちょうだーい。もぐもぐ」
残念ながら俺の中の三代欲求の内、睡眠が占める割合は8割ほどだ。
「あ、ゆかりおにぎりちょうだーい。もぐもぐ」
それほどまでに体が睡眠を欲しているわけだ。
「あ、梅干しちょうだーい。もぐもぐ」
体ってのは正直で、悪い時は直ぐどこかしらに違和感が出てくるものだ。
おれの場合、その違和感というのが「寝たい」に直結する可能性が高い。
「あ、蜜柑ちょうだーい。もぐもぐ」
ただ、やはり食欲というのも当然ある。
朝・昼・晩の3食は必ず取るようにはしている。
食べたくない時ももちろんあるのだが、最高の睡眠を取るためには食事はかかせない。
空腹というのお俺の刺客に違いないのだ、きっと。
では、食事としよう。
「…………………………」
「もぐもぐもぐもぐ」
「……………なぃんだけどぉ」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
「ねーよ」
「ごちそうさま!!!!」
「おいコラ!! 食ったな!?」
「うん、だって何も言わないから食べちゃったよ、えへへ」
「えへへ、じゃないんだよ!! えへへじゃ!!」
「えー、美味しいんだもん」
「くそっ、この食いしん坊め……」
「ごめんってぇ……これあげるから、許して?
こうして、俺の弁当はポテトチップうす塩味になってしまった。
パリっと一口食べると、芋の風味と程良い塩味が口いっぱいに広がりちょっと幸せな気持ちになった。
「美味しいよねぇ、やっぱりポテチはうす塩に限るよねぇ……ぱりぱり」
「おい、くれるんじゃなかったのかよ!?」
「一緒に食べるんだよ? ぱりぱり」
「こいつめ……」
コイツはきっと、食欲で8割程埋め尽くされているんだろうな、と思った。
ある意味同類で、嫌いじゃない。
それに、恥じらいなく、ただ幸せそうに何かを食べる彼女の姿は少し魅力的に感じた。
「はぁ……美味しかった」
「全部食っちまったんじゃねーか!!!!」
やっぱり嫌いだ。
こうして俺は第四の刺客に敗北した。
チャイムの鐘の音と共に、下校時刻となった。
落ちかけた日の光がまた絶妙で、この時間帯は絶好の――睡眠時刻である。
「ぁのぉ……さとぉみぃ先輩ぃは………ぁ、はぃ、わたしぃ1年の……ぶかっのことぉで…………」
この時間帯の昼寝は凄く気持ちが良い。
しかもこの時間に昼寝をする事で、体調もかなり変わって来る事を俺自身が良く知っているのだ。
だから寝る。
夕方以降にすっきりとした気分になるためにも、この時間の睡眠は大事なのだ。
「ぁのぉ……さとぉぃ先輩……き、きょぅは、ぶかっに来てくれぇますぅ……か?」
俺は寝た。
「はぅぅぅ……どぉしたらぁ…………」
ついに寝た。
毎日この時間の刺客には勝利を収めている。
ある意味コイツは俺の味方だ。
「ぁのぉ…………ぶかつ…………」
安心して眠る事が出来る。
「ぁ、はぃぃ……ねてますぅ………」
足音が遠ざかっていく気がした。
勝った。
まだタコ糸一本ほど手放していない意識の中でそう確信し……俺は完全にその最後の糸を手放したのだっ――――
「ほら、起きなさいな」
スパーン、という芸人顔負けのスリッパでの叩きにまだ残っていた生徒たちが一斉にビクリと驚いた。
「せ……せんせぇ……校内暴力は……」
スパーン!!!!
二度目のスリッパ攻撃が、少しだけ顔を挙げた顔面を抉った。
「せっかく、可愛い可愛い小春峰ちゃんが呼びに来てくれたというのに、あなたったら酷い有様ね。ねぇ、マイベストシスター小春峰ちゃん?」
「ぃぃぇぇぇぇ、そんなぁ…………」
「んまっ、なんて良い娘なのかしら小春峰ちゃんは、帰りに先生の家に寄って行きなさいな。良い事してあ・げ・る」
「ぃ、ぃぃぃぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。おそくなると、りょうしんに怒られるのでぇ………」
「じゃぁ今度ね、先生も予定開けておくからね!!」
「ふぇぇぇ………」
「で、そこのゴミ屑は何逃げようとしているのかしら? か・し・ら?」
「ふぇぇ、僕もパパとママと怒られちゃうので、早くお家に帰ろうと――いてっ!! 先生、ちょ、まった、その痛い、鞭とか止めて先生、いや、たんまたんま!!!!」
「おだまりッ!!!! 小春峰ちゃんを困らせた罪は重いは、体にその罪の重さを刻み込んであげる!!!!」
「ひゃああああああああああああ!!!!!」
「ほら、もっと鳴け!! 豚のように鳴きなさいな!!!!!!」
こうして、俺は第五の刺客の陰謀にハマり、第六の刺客に殺られたのだった。
散々だ。
散々な一日だった。
下校中、俺は深くそう思った。
俺には休息が与えられないのか……不平等である。
寝たい、帰って寝たい。
その想いよりも、擦り切れた心が痛かった。
家までの帰り道は、近所の公園を突っ切るのが近道だった。
今日もそうしようかなと思ったのだが、なんか、今日は、ちょっと、寝たいよりも、歩きたい気分だった。
「……歩こう」
わざと遠回りして帰ろうと思い、公園ルートを外れ住宅街に入った。
外灯に体当たりする虫を無視しようと思った矢先、外灯の下に制服姿の女子が立ち止まっていた。
「ちょ、ちょっと……遅いじゃない!! 何やってたのよもぉ……」
いやいや、そんな約束してませんがな。と言う事が出来ず2人は無言で歩き始める。
なんだか、心が満たされた気がして少し嬉しか――
「ちょ、ちょっと!! 人がせっかく待ってあげてたのになんかないの!? なんか!?」
良く分からないが、恩着せがましさ120%だった。
「結局今日も寝てないんでしょう!!!! どうせ!!!!!!!!」
良く分かったな、と言おうと思ったが、この俺のどんよりと疲れ切った空気をしっかり読んだようだ。
「まったくもぉ、まったくぅ……」
なんだかいつもイライラしてるな、カルシウム足りてねーな。と思ったのでコンビニでパックの牛乳を買ってあげたら「ちょ、誰が貧乳よ!!!!!!!!」と言ってぶん殴られたので、余計に疲れた。
「明日の朝はシリアルだな」
「それを言うならシリアスでしょ、まったくぅ」
言葉が通じない!?
何処に明日の朝シリアスになる伏線を敷いたのか分からない俺はすっかり、この、コイツ、第一の刺客もとい幼馴染のペースだった。
しかしまぁ、悪い気はしない、そんな気分にさせてくれる良い奴だ。
好きか嫌いかでいうと、好き……なのかな。
「明日の朝、シリアスにならないように、今日は一緒に寝てあげてもいいわよ………ちょ、勘違いしないでよねッ!!!!! 一緒に寝るって言っても添い寝までなんだからねッ!! その先は……まだ早いっていうか!? 的な!? ふざけんじゃないわよ!!!!!!!!!!!!!」
殴られて気づいた。
やっぱり好きじゃない。
「じゃ、夕飯作ってやるからこの後家に来いよ」
「えッッ!? いや、そんな、突然、ちょ、いや、まっ、え、う、あ、お――――」
うん、まぁ今日はぐっすり眠れそうだ…………なんとなく。
中身が無いなー。何か書きたかったわけではないんですけど。
ラブコメ書きたいな、なんてこっぱずかしいんで言えねぇってもんよ、てやんでぃ。
コミュニケーションの要素が全くないから逆にね、こんなタイト……はい。
さて、最近色々と書きたいのですが全く書けない日々に悶々としております。書いては消して、書いては消して。
どうしたら良いのでしょう、何も書けませぬ。困ってますコイン100枚。
『ベストアンサー』
辞めれば……いいと思うよ。