EPISODE.3 学園とわかってない奴ら
『異能教育第一機関』、通称『異能学園』。
世界中のあらゆる人物が、今やすべて『能力者』であるため、教育もまた変わらなければならなかった。この異能学園は、日本においてその最先端を行くトップ校であった。多くの子供たちに可能性を、をモットーに作られたこの学園は、能力の高さや強さに関係なくすべての子供を受け入れており、小中高一貫の今では生徒数5万人を超えるマンモス校である。
機関、と冠するだけあって異能に対する研究も幅広く行われ、学生を主体とした独創性の高い研究成果が出されているのも特徴だ。中には個人的な趣味に走っているものも多々、見られるのだが。
これだけの生徒数があれば、当然敷地も広い。学園都市、と呼んでも過言ではないだろう。学園の全容をすべて記憶しているのは、【完全記憶能力】とか【全容把握能力】だとかの数少ない者だけだろう。
前も言ったが、能力は個人で違う。自然の力を操るのや、今何時何分何秒なのかが時計を見なくてもわかるとか、ピンキリだ。だからこそ、研究する度合い・箇所・期間も違ってくる。異能学園では、それがクラス分けの基準になる。自然の力ならば「緑」、肉体に関する力ならば「赤」、物質系ならば「青」、芸術系ならば「黄」、技術系ならば「紫」といった具合に分けられる。まぁ、他にも細かく分類されるが、ここは割愛しよう。そしてさらにレベル分けがされ、上はSまでで下はEまでだ。例えば、水の力が使える奴が二人いたとして、片方は津波を引き起こし、もう片方はスコールを引き起こすだけならば、どちらが強いかなど明白だ。つまり、前者はSで後者はE。こういった具合で、レベルが与えられる。レベルは一種のステータスではあるが、それが優秀である証明とは限らない。あくまでレベルは危険度や希少度。レベルが高ければ高いほど、その能力は制限を受けることになるし、研究対象にもなりやすい。
「のだが…。」
はぁ。それがわからん奴も、中にはいるらしい。悲しいことだ。
「どした、雅人。」
「…あれ。」
「ん?」
午前の授業が終わり―――あの後ずっと寝ていたらしい―――俺と多岐は食堂を目指していた。俺が示した方向には、この学園の白の制服の左肩から「青」のラインが五本入った男子生徒が一人と、同じく「青」が三本入ったのが二人。そして、おそらくそいつらに絡まれているのであろう「緑」の一本ラインの少年がいた。「青」のラインのうち、一番ライン数が多いのがリーダー格だろうが、どう見ても三下だな。野次馬も集まり始めているし…。
「億劫だ。帰るぞ。」
「雅人!ちょっと見に行こうぜっ!」
「はぁ!?ちょ、多岐、ひっぱんな!」
ちくしょう、このアホ!
アホに連れられて騒ぎの中心に近づくと、どうやら「緑」の少年がリーダー格の男にぶつかってしまったようだった。その程度で、と誰もが思うだろうが、結局いいカモだったのだろう。
「キミィ、僕は青組のAランカーなんだよ?このラインの数をみなよ。キミは見たところ、最低ランクのEじゃないか。EランクがAランクにぶつかっておいて、謝罪もないってどうなのさ!」
「だ、だから、先ほどからすみませんと何度も…。」
「誠意ってものがあるだろう?キミも知っているとは思うけど、僕はキミより強いんだよ?その気になれば、キミなんて簡単に潰せるんだ。僕の言ってること、わからないとは、言わないよね?」
土下座でもさせようってか?悪趣味だねぇ。後ろの二人もニヤニヤしてるし。そりゃ見た感じ、「緑」のほうは気弱そうな雰囲気だし、ラインから見てもたいしたことは出来ないだろう。野次馬して傍観してるだけの俺が言えることじゃないが、虫唾が走る。
「うっわ、悪趣味~。あの「緑」っ子どうするかね?」
「さぁ。土下座なりなんなりするんじゃねーの。」
要求されれば呑むだろう。それはここにいる誰もが思っていたこと。AとEの差は、それほどに大きいものだからだ。ま、それが本物であるならば…なのだが。
野次馬は時間がたつたび多くなる。まして今は昼時。さて、言っている意味が分かるか?と問われた少年がいつ土下座をするのか、と思っていたら。
「…わ、わかりません。」
「は?」
少年は小さな声だったが、はっきりわからないと答えた。つまり、土下座をする気はない、と言ったわけだ。
「うっそぉ…。」
隣の多岐も、かなり驚いたようだ。もちろん俺や、他の野次馬も。相手も、予想外すぎて目を丸くしている。だが、見たところ一番驚いているのは、発言した本人のようだ。顔がもはや、青を通り越して白だ。
そうしていると、相手のほうも落ち着いたようで、次には顔に怒りを滲ませた。
「自分が何言ってるか、わかってんのか!」
「う、わ。」
「青」の男の右手に魔法陣が光る。能力の発動。やばい、と誰もが思った。あのまま能力が施行されれば、「緑」の少年はただではすまない。そして、Aランクの攻撃の余波がこちらまで来ないとも限らない。場がパニックになる、その瞬間。
「何の騒ぎだ。」
静かな声が響いた。現れたのは、二人の女生徒。一人は、濡れ羽色の長く真っ直ぐな髪を白のリボンで高く結んだ、『高潔』そんな言葉がよく似合う美人。もう一人は、くすんだ灰色の髪を肩口で揃え、大きなヘッドホンを付けた眠たげで小柄な少女。二人とも、他の生徒とは違う黒の制服に身を包んでいる。ラインは「白」の六本線。
「生徒会…。」
誰かが呟いた。黒の制服に白の六本線は、生徒会の証。この学園にいる者なら誰もが知ること。濡れ羽の彼女の真っ直ぐ伸ばされた背筋や、射抜くような強い視線は、あまりにこの場においては浮きすぎていて、そして何より相応しかった。能力発動の一歩手前で、思いもがけない人物に遭遇した「青」の男子生徒は、明らかに動揺していた。理由は明白。
「学園内での能力発動は、授業などの監督官がいる場合のみ許可されている。まして、人に向けてなど言語道断だが?」
「い、いえ…僕はべ、別に…っ!こ、こいつがわ、わざとぶつかってきたから…!」
はい?うわ、事実を改変しやがった。ほら、副会長さんも眉間にしわ寄せちゃってんじゃないか。というか、墓穴掘ってんだろ。ぶつかってきただけで能力発動しようとしてたのがバレバレだ。…馬鹿なのか?
「…発動を止めろ。今すぐその手を下し、即刻立ち去れ。後日話を聞くのでな、覚悟しておけ。」
「…っく。」
おぉ、おぉ。美人が怒ると怖いねぇ。でもま、これで一応の収拾はついたわけだし、生徒会万歳ってことで。
生徒会に打ちのめされた「青」の奴らは、苛立ったように俺たち野次馬を押しのけ進む。ちょうど俺たちの目の前を通り過ぎる。…ふむ。虫唾が走ったのは本当だし、「緑」の少年も頑張ったしな。これは俺からのサービス。
「『底上げ』はルール違反だぜ?おにーさん。」
「!」
男子生徒達は一瞬立ち止まり、その後逃げるようにして走り去った。ま、これで悪さは出来ないだろう。
なんとなくいいことをした気分になった俺は、そのままその身を翻す。まさかこれがきっかけで、あの連中に付きまとわれることになるなんてことは知りもしないで。過去の俺には一言言いたい。
「やめろ。後悔するぞ。」
と。
生徒会登場。やっぱりなんといっても黒髪。