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原初の弟  作者: 浅葱
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EPISODE.1 初めての朝、始まりの夜、いつもの朝

連続投稿となります。初めのほうは、わざと改行や段落をつけていません。読みにくくて嫌だなと感じる方には、おすすめ出来ないかと思います。



 そこには、男があった。清潔感などとは無縁の、酷く汚れた男だった。男は、科学者だった。煤にまみれてはいたが、白衣を着ていた。男は、一つの大きなフラスコの前に立っていた。その周りには、溶岩のようなものやヘドロのようなものたちが、あーあーと呻いていた。男はそれに興味も示さなかった。男の視線にあるのは、大きなフラスコだけだった。いや、フラスコではない。その中身、黄緑色の液体の中に浮かぶ少年だった。少年は裸だった。その四肢には大量の管がくっついていた。いいや、刺さっていたというのが正しいかもしれない。少年は目を覚ました。怠惰な速度で目を覚ました。それはまるで、朝日に起きた朝の一幕のようだった。男は歓喜した。少年の目覚めに歓喜した。少年は言った。フラスコの中で。「おはよう、お父さん。」男は再び歓喜した。少年に言った。「あぁ、おはよう。いい朝だね。」男の腕時計は、壊れていた。今が何時で、何曜日で、何月で、何年かなんてわかりはしなかった。それでも、男にとっては朝だった。初めての、朝だった。少年は管を引き千切った。少年はフラスコを砕いた。少年は外を知った。少年は空気を吸った。空気は澱んでいた。少年にそんなことは、わからなかった。男は少年を抱きしめた。少年は男の肩越しに、溶岩のようなものやヘドロのようなものと目が合った。少年は尋ねた。「あれは何?」と。男は答えた。「疑問を持ってはいけないよ。」少年は再び尋ねた。「何故疑問を持ってはいけないの?」男は再び答えた。「必要がないからさ。」少年は頷いた。必要ないなら仕方がないと。二人は、二人きりの生活を始めた。あーあーと響く部屋で、少年は幸せだった。とても幸せだった。男も幸せだった。でも、まだ足りなかった。二人は遊んだ。たくさん遊んだ。男は少年の為に、薬を作った。少年は男の為に、体を差し出した。毎日毎日、そうやって二人は遊んだ。月日は流れた。短いような長いような。そんな月日が、いつの間にか流れた。少年は、相変わらず幸せだった。男も、とりあえずは幸せだった。ある日、男が一人で出かけてしまった。「けっしてここから出てはいけないよ。怖い人たちが、お前を食べに来てしまうからね。」少年は強く首を縦に振った。男の言うことに間違いはない。食べられてしまうのは、きっと怖い。少年はその日、ずっと一人きりだった。少年は一人で遊ぶことにした。男が置いていった、素敵な薬で遊んでみた。何だか、男と遊んでいるようで楽しかった。「ねぇ。」と声がした。少年の足元だった。そこにあったのは、頭は一つで体は三つのミミズだった。少年はそれを見つめた。ミミズは少年の言葉を待たずに、話し始めた。「辛いんだ。とっても辛いんだ。寒いんだ。とっても寒いんだ。」少年は答えた。「辛くないよ。寒くもない。」ミミズは言った。「君はおかしいよ。とってもおかしいよ。」少年にはわからなかった。おかしいなんて、思ったこともなかったから。少年は子供だった。大人だった。老人だった。赤ん坊でもあった。だからわからなかった。ミミズは続けた。「君は変だよ。とっても変だよ。君は悲しいよ。とっても悲しいよ。君は辛くて、寒くて、おかしくて、変で、悲しいよ。とっても、とっても。」少年が「何故?」って問いかけようと、口を開こうとしたときだった。ミミズは汚れた靴に、ぐちゃりと踏まれて潰れてしまった。少年は言った。「おかえり、お父さん。」男は言った。「ただいま。」そして続けた。「疑問を持ってはいけないよ。必要がないからね。」少年は頷いた。「必要がないなら仕方がないね。」と頷いた。でも少年の頭には、あのミミズの言葉が響いていた。それからの月日は、あまり流れはしなかった。男はある日少年に言った。「今からお祭りに行こう。」少年は何も言わずに、男について行った。お祭りには、たくさんの人がいた。少年は男と自分以外の人を初めてみたから、とっても驚いた。男は少年に教えてくれた。「やつらを殺しておいで。それがお祭りさ。」少年は言いつけどおりに殺し始めた。いともたやすく死んでいった。少年は、ミミズのことを思い出していた。あっけなく潰れた、ミミズの言葉を思い出していた。少年は幸せだったのだろうか。疑問を持った。男は幸せだった。この上なく、幸せだった。全てが終わり、雨が降った。血を洗い流すように大地に流れ、少年に沁み込むように打ち続けた。男はあの歓喜の朝のように、少年を抱きしめたかった。少年はあの初めての朝のように、抱きしめられたかった。でも、叶わなかった。少年にはわからなかった。どうしても。気づけば男はいなかった。あるのはその体だけ。男の最後の疑問は、少年に疑問を与えてくれた。何故?どうして?教えて?少年は懺悔した。それが疑問を持ってしまったことに対してなのか、男を殺してしまったことに対してなのかは少年にもわからなかった。少年は、二人きりで過ごした部屋をあーあーと呻くものたちもろとも焼き払って、壊して、潰した。そして、少年は目を瞑った。なんだか、とっても幸せなような気がした―――――――――。






「…酷い夢だ。」


 まだ朝日も昇り切らないような時間。青紫の部屋に、冷蔵庫の機械音がやけに響いている。冷蔵庫のことを意識したからか、喉の奥が嗄れているのに気が付いた。まだ若干の眠気は残っているものの、二度寝をする気にもなれなかったので、喉を潤しにかかった。


「うげ、眩しっ。」


 暗闇に慣れた瞳に、冷蔵庫の光は酷く痛かった。軽く目を細めながら、お茶を探す。


「あれ、茶がねぇ。…仕方ねぇ、牛乳にすっか。」


 寝起きに牛乳。コップに移すのも億劫で、そのまま飲み干す。まぁ、普段からあまりコップは使わないけれど。一人暮らしだからこそ、出来ることではある。

 牛乳のパック片手に、テレビをつけてみる。こんな早朝では、あまり自分が面白いと感じる番組はなさそうだ。1チャンネルずつ変えていき、一回見たことのないCMに目を奪われただけで、案の定面白いと感じるものはなく、テレビの電源を切る。牛乳を冷蔵庫に戻し、仕方がないから二度寝でも…と思いベッドにダイブしてみたものの、いつもすぐに眠気をくれるはずの枕も布団も、今朝はまるで役には立ちそうもなかった。

 そうしてベッドの上で天井を見上げながら、ふぅ。とそれらしく溜息をついてみたり。


「…知らない天井だ。」


 いや、普通に知ってる天井です。ときどきくだらないネタに走ってみたりしながらぼーっとしていると、いつの間にか朝の日が差すくらいには明るくなってきたようだ。

 そういえば今何時だろうか。


「確か枕の下に携帯が…っと!ふむ、5時ちょいか。」


 二度寝するには微妙な時間だ。まぁ、一向にその眠気とやらは襲って来ないわけだが。だからといって、出かける準備をするにはかなり早い時間でもある。どちらにしても、微妙な時間だと言うわけだ。


「あぁ、億劫だ…。」


 時間を潰すことでさえ億劫とは、これいかに。

 暇である。と訴える体をうつ伏せに、最近気に入って買った、少し硬めの枕に顔を埋めると、全く来ないと思っていた眠気が一気にやってきた。


「…む、やば…ね、る…。」


 おい、誰だ。寝る瞬間がわからないなんぞ言いやがったのは。




 今度はもう少し、いい夢を見れたらいい。あと、遅刻しないように起きれたらいい。というか、頼むから誰か起こしてくれ。などと、案外はっきりした思考の中、俺こと大野木雅人は爆睡中である。


 本当に、誰か起こしてくれ。えっと、7時くらいに。




はい、主人公です。口癖「億劫だ。」です。駄目人間…。かなり見切り発車なこの作品。あ、あとセミが網戸に止まってミンミン五月蠅いです。今度五月蠅くしたらツクツクホーシで対抗しようかと思います。

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