DOGEZA
「あなた方は、大人の本気というものを、見たことがあるだろうか?
大人が、自分よりも小さな者に向かって、本気を出しているところを、見たことがあるだろうか?
人は、それを大人気ない、というかもしれない。
そんなことは、プライドに懸けて出来ない、という人もいるかもしれない。
そんな大人、尊敬できないかもしれない。
だが、考えてほしい。果たして、自分よりも小さな者に、本気で接することの出来る大人は、そう多くいるだろうか?外面なんか取り繕わず、自分の半分も生きてないような子供に本気で接する大人が、この世界に果たして何人いると思う?
私は思う。子供相手に本気になれないような大人が、ここ一番で本気を出せるはずがないと!!
何か大切なものを守るべき時に、本気で立ち向かえるはずがないとッ!!!
だから私は立ち向かう!!大切なものを守るために、心から溢れ出でる激情を抱いて、本気で立ち向かってやるのだッ!!!!!!」
「で、その結論が娘へのその土下座か。」
「はい、その通りでございます」
私は今、父に土下座されている。
もはや40を過ぎた父は、18程度の娘に土下座の姿勢で大演説を行っていた。父の背中というものを見て子は育つらしいが、後頭部を見た場合どうなるのだろうか。
「お前の心から溢れ出でる激情は土下座で表れるのか。」
「ご推察、痛み入ります」
正直、父親に向かってお前というのもどうかと思うが、こうも頭を地面に擦り付けられていては、相手が卑しい身分のものとしか思えない。
「大切なものを守るために、お前は本気で土下座が出来るのか。」
「イエス アイ マム」
父はこちらに一切顔を向けず、ただ地面に顔をつけ、動こうとはしない。
「実の娘に、威厳ある姿を見せようとは思わんのかね?」
「yes I mom.微塵もございません」
「………………………………………………………」
「いい加減にしろやあああああああああああーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!」
私は爆発してしまった。
「お前ッ!父親だろう!?私の親なんだろう!?なんでそこまで綺麗な土下座が出来るんだよ!?」
我が父の土下座は、江戸時代に行っても、切腹を免れるであろう土下座だった。
それほどまでに、その土下座は、自らのプライドなどをドブに捨て、相手の哀れみを誘い、惨め極まりないとまでいえるものだった。
「仕方がないだろう!俺にだって、守りたいものがある!!」
「なんっでそれが美少女フィギアなんだああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
力強く言ってくる父がバカに思えて仕方がない。
私だって、生活に切羽詰った父が土下座をしてきたのであれば、まぁ分かってたであろう。土下座なんかする前に助けてたさ。
でも、フィギア。フィギアだぜ?それも美少女。
「なんでフィギアのことで娘に土下座してんだよ!?」
「なんでもなにも、それ以外に何がある!?後、フィギアじゃなくてフィギュア、だ」
「どうでもいいんじゃボケーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
父が無駄な反論をしてくる。ボケって言っちゃったけど、もうどうでもいいよね。
「早くしないと駄目なんだ!早くしないと、リカたんの限定フィギュアが売り切れちゃうんだよ!!リカたんが他の野郎の手に渡っちゃってもいいのか!?」
「全然いいわ!!!」
なんだリカたんって!誰なんだよ!
そもそも今回、父がなぜ娘に土下座をしてきたかというと、それは美少女フィギュア『リカたん』の限定版の発売に端を発する。
美少女フィギュアの『リカたん』は、一部の層の方々から絶大な人気を誇っているキャラのフィギュアらしい。当然父もその層の方で、絶対に買うつもりだったらしい。。
だが、今回重要なのは、それの限定版、というところらしい。
限定版、というからには数量も少なく、値段も高い。その分、コレクター心をくすぐりまくるのだ。
で、それを父が買おうとしたところ、お金が足りなかった。で、母さんにお小遣いをもらおうとしたところ『あなた、いつまで馬鹿なことやってるの!!いい加減に仕事なさい!!』って言われたらしい。
で、困った挙句に私に土下座、ということである。金を貸してくれ、ということである。
「俺は、リカちゃんを守りたいんだ!!汚い男の手にいってしまう前に、なんとしても俺が助けなければならんのだ!わかるだろう!!」
「わかるかッ!!!」
ちなみに、ここに至るまで、父は一切顔を上げず、微動だにせず話している。
「くそうっ、実の父親がこんな醜態をさらしているというのに、なんとも薄情な娘だ。金の無心くらい許してくれたっていいじゃないか。一体誰に似たんだか」
「少なくともお前だけは嫌だ」
「ぐふぅっ!」
父がうめき声のようなものをあげる。もちろん、顔はしっかり地面を向いている。
「お前は…お前は!父のこの思いが分からないのか!!!ただ穢れなき少女を、あらゆる汚れから守り通してやりたいと願う、この父の純粋な気持ちが!!」
「なら、まず実の娘をお前という穢れから守りやがれ!!!」
いつまでたっても押し問答、堂々巡りというか、なんというか、とりあえず一向に終わらない。
「いい加減、情が湧いて来ただろう!?哀れになってきただろう!?」
眼下で父がわめいている。そこまでしてフィギュアがほしいのか。
「ところで父さん、このまえのモエちゃんはどうなったの?」
「ぇ?」
「いや、この前もモエちゃんを守り通すとか言ってなかった?」
「え、いや、あの、それは…」
なんかめっちゃ冷や汗かいてる。床に水溜りが出来てる気がする。
「なに?もしかしてもう飽きちゃったとか?」
「嫌、違うんだ、そうじゃない、そうじゃないんだ、これはだな、っその、」
「もういい、どうせリカちゃんもすぐあきちゃうんでしょう。」
「ガッ…」
なんか変な音を立てた後、我が父は完全に固まった。
ふぅ、ちょっと甘やかしたらすぐこれなんだから。
ほんと、あの人はフィギュアのことしか頭にない。
昔は私に彼氏が出来たってだけで大騒ぎしてたってのに。
最近のあの人の尊敬できるところなんてフィギュアへの真っ直ぐ過ぎる愛情ぐらいだろう。
普通、あんなに綺麗な土下座を微動だにせずにやり続けられないだろう!?
まったく、その愛情を少しぐらい娘に向けてくれたっていいじゃないか。
お読みいただきありがとうございます。
今回は他の方の小説に触発され、勢いと夜のテンションで書きました。
正直何書いてんだろう、とか思いながら書いていました。
まぁこんな小説ですが、もしよろしければ感想や批評をしていただければ嬉しいです。