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転生しても戦場 ~餓島で死んだボクは、死神の気まぐれで東部戦線に送られた~  作者: じゃんご


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第一話 死神と蝋燭

戦争の中には、誰にも気づかれずに消えていく命がある。

名前も、記録も、帰る場所もなく、

ただ静かに終わっていく人生がある。


ボクも、そのひとつになるはずだった。


貧しい家に生まれ、十四で軍に売られ、

ガダルカナルという地獄に放り込まれた。

飢えと病と砲撃の中で、

人として扱われた記憶なんて、ほとんどない。


十五年しか生きていないのに、

もう人生が終わるなんて、誰が想像しただろう。


でも――

ボクの物語は、そこで終わらなかった。


死の間際、

“死神”がボクの前に現れたからだ。


死んでも地獄。

転生しても地獄。

それでも、生きたいと思った。


ガダルカナルで死んだ少年兵が歩む、“もうひとつの人生”の物語である。


歴史改変はありません。


ボクは洞窟に転がる、やせ細った戦友の背中を見ながら、走馬灯のように十五年の人生を巡らせていた。


貧農に生まれ、十四のときに軍に売られたこと。

家の土間で、父が笑いながら軍属の男に判を押した光景が、いまでも焼き付いている。

母は泣きもせず、ただ「行ってこい」とだけ言った。

あのとき、ボクは“家族”というものを失った。


軍に入ってからも、ボクはずっと“物”だった。

飯は足りず、殴られ、怒鳴られ、名前より番号で呼ばれた。

そして、ガダルカナルに送りこまれた。

そこは、地図の上では南の島でも、実際は地獄の底だった。


……なんか、人として扱われたことがなかったなぁ。

せめて、人でいたかった。


洞窟の奥で、戦友の背中がゆっくりと冷えていく。

つい昨日まで一緒に腐った芋を分け合っていた男だ。

笑い声も、愚痴も、全部、もう戻らない。


ガダルカナルの乾いた風が、頬をなでた。

外では飛行機だろうか?何かの音が遠く響いている。

それすら、もう現実味がない。


痛みも、空腹感も、なにも感じない。

いや、正確には“感じられない”のだ。

体が限界を超えると、飢えすら消える。

腹は、皮が骨に貼りついたみたいに薄くて、

息をするたびに肋骨が浮き上がった。

自分の体なのに、どこか別の生き物のように思えた。


喉の奥は砂を詰められたみたいに乾いていて、

息を吸うたびに肺が軋む。

指先は氷みたいに冷たく、

握ろうとしても力が入らない。

死ぬって、こういうことなんだな……と、ぼんやり思った。


……ああ、終わるんだ。


そう思った瞬間だった。

足元に、影が“立った”。


洞窟の暗闇よりも濃い影。

黒い外套。青白い顔。

ひょろりとした体つき。

まるで、闇そのものが形を持ったようだった。


「おいおい、坊主。足元に死神が立ってるのに、のんきに寝てる場合かい」


声は軽い。

この地獄には似つかわしくないほど軽薄で、逆に不気味だった。

洞窟の空気が一瞬だけ冷たくなった気がした。


「……死神……?」


「そうさ。人間は死ぬとき、必ず死神がそばに立つ。

ただし――立つ場所が決まってる」


死神は、ボクの足元をつま先で軽く叩いた。

その仕草が妙に人間臭くて、余計に怖かった。


「足元に立ったときは死ぬ。

枕元に立ってるときは死なない。

まあ、あんたは足元だから“こっち側”だ」


淡々とした声。

けれど、その目だけは、ボクの顔をじっと観察していた。

まるで、ボクの絶望を味わうために細部まで見逃すまいとしているようだった。


「……怖くないのかい?」


「……もう、怖がる力も残ってない」


死神は、ふっと息を漏らした。

笑いとも、ため息ともつかない音だった。


「最近は余興が無くてつまらなくてねぇ。私の趣味は人の絶望する顔を見ることさ。だから死神になったんだよ」


その言葉に、背筋がぞくりとした。

この世のどんな鬼よりも、目の前の存在のほうが恐ろしい。


死神は蝋燭を二本取り出し、並べて見せた。

一本は、今にも消えそうな弱々しい炎。

もう一本は、完全に消えてしまった燃えさし。


「この消えそうな蝋燭が“お前さんの命”。

で、こっちが“遠い西の方で死んだ坊やの命”。

あっちはまだ死ぬ予定じゃなかったんだけどな。

順番より早く消えちまった」


死神は炎を見つめながら、静かに言った。

その横顔は、どこか退屈そうで、どこか楽しそうだった。


「順番が狂うと、あれこれ面倒なんだよ。だから調整する機会を与えよう」


そして、ボクの顔をもう一度見た。

ほんの少しだけ、優しい声で。


「お前さんの火を、この燃えさしに移せたら、生かしてやるぜ。

もっとも……できたらな」


その声を聞いた瞬間、ボクの胸の奥で何かが弾けた。


生きたい。

生きたい。

生きたい――!


ボクは震える手で、必死に火を移そうとした。

けれど、指が言うことを聞かない。

冷たくて、痩せ細って、骨みたいに軽くて。

触れた瞬間、火が消えそうに揺れる。


「頼む……頼むよ……!」

声が勝手に漏れる。涙で視界が滲む。


何度も、何度も、何度も挑む。

火は移らない。

焦りで呼吸が乱れ、胸が痛い。

時間がない。

火が小さくなる。

小さく、小さく……。


「やだ……消えるな……消えるなよ……!」


震える手が、最後の一押しで火を潰した。


――ふっ。


蝋燭の火が、音もなく消えた。


その瞬間、世界の色が全部落ちた。

ボクはその場に崩れ落ち、項垂れた。

もう、何も残っていない。

生きたいという願いすら、どこかへ消えていく。


「良い顔だったねぇ。不幸の中で育った子は、絶望する顔もステキだね。ここ数年で一番……ん?」


死神が燃えさしを見ると、僅かな火種が映っていた。


「あれま?素知らぬふりをしてもいいんだけど、しゃーないねぇ。仕事の都合と……まあ、良い顔を堪能させてくれた謝礼だ。次はもっと面白い地獄に行きな」


死神がそっと息を吹きかけると、小さな火種は一つの大きな火になった。


その瞬間、

洞窟の景色がぐにゃりと歪み、

光が弾け、

世界が裏返ったようにひっくり返った。

第一話を読んでくださって、ありがとうございます。作者です。


本編がだいぶ暗いので、あとがきくらいは明るくいきます。

いきなりガダルカナルで死にかけてる十五歳から始まるという、「なろう」としてどうなんだという導入でしたが、書きたかったので仕方ありません。


死神は落語の「死神」がモチーフです。

軽薄で、仕事はするけど趣味が悪い、あの感じが大好きなんですよね。


主人公は第一話で死にましたが、物語はここからです。

死んだのに終わらない、むしろ始まる。可哀想だけど頑張れ。


気に入っていただけたら、第二話もぜひ。

主人公の新しい地獄が、静かにあなたを待っています。

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