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祝炎の英雄  作者:
第一章 炎の御子

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六 状況 弐

「俺が……呪われている?」

「儀式で何があったかは知らされておりませんが、それとなく何かあったと暗示するように噂が広まっているように思えます」

「それは……」


 何よりも、悪い知らせだった。誰かの悪意ある発言程度に済ませられる状況ではないだろう。現状、儀式の後に祝融は軍部への配属もなく、宮に籠ったまま。怪我のこともそのうち知られるだろう。その状況で、「神の呪い」など全てが儀式に関連づけられる。しかも、父親である右丞相どころか神農すらも事態に沈黙したまま。さらに最悪なことは、噂の出所は親族以外考えられない、ということだ。


「炎帝陛下からの箝口令が敷かれている状態で、誰かが話をした……と?」


 祝融はわかりきったことを口にしてしまったと思いながらも、頭は混乱していた。神農の親族――つまりは、子や孫は神農に対して絶対的な忠誠を誓っている。祝融もそう教えられて生きてきた。だから成人して軍部へ入ることは当然であり、突発的な事件の所為とはいえ入れなかったことを恥じてもいる。

 何より、姜家は神農を中核とした強い絆がある――そう信じてもいた。

 儀式では皆、面布をしていたとはいえ、参加できる親族は限られる。

 まず、神農――祭主である。そして、第三皇子である父・炎居(えんきょ)。第二皇子――叔父の燐楷。第一皇子は既に故人である。その親族も亡くなっているまたは、遠方の住んでいるため此度は参加していないはずだ。あとは、異母兄や従兄弟の第二・第三皇子の子供達である。そして、双子の弟・回禄。

 祝融は人数までは数えていなかったが、あと参加しているとなると異母兄や従兄弟の子供達。子供といっても、もう成人済みで、その上、皇族は孫の代までとなるため、高名な官や栄誉ある身のはずである。しかし、ここまでくると、顔と名前の把握はしきれていない。だが、全て親族であることに変わりはない。

 一体誰が――痛みで気を紛らわせるように、祝融は傷口を握りしめていた。 

  

「殿下、どうされますか」


 ふと、まだ幼く感じる声が湧いた。祝融の視線は鸚史へと向く。いつもなら澄ました顔をして、子供らしさが残っているが、今日の顔はやけに大人びている。澄んだ目が祝融を真っ直ぐに見つめて、何かを訴えかけていた。

 どうとは、何か。言われずともわかる。動かねば、時間が経てば経つほど状況は悪くなる一方だ。


「先ほど雲景が申し上げた通り、今、誰かに手紙を送るのは悪手でしょう。この不明瞭な状況では、誰がどう出るかはわかりません。右丞相は何と申されておいるのでしょうか」

「何も、手紙どころかこちらの様子を伺うための人を手配する様子もない。何か考えがあるのか、それとも……」


 父に関しても、違和感があった。父は、とうの昔に成人をした長男にまで手や口を出そうとする人だ。そのことに関しては長男にいい加減にしてほしいと嗜められるほど。伯父からは構いすぎだと注意を受けているのを見たことがあった。これまでならば、祝融に何かあれば飛んできただろう。今回は父の影すらないのだ。

 祝融にはわからないことだらけだ。どう動くかも見当がつかない中で、ふと目の前の二人に目がいった。二人はどうして、ここに訪ねてきたのだろうか。

 鸚史の父は、祝融の父・右丞相とは対極の左丞相である。元々、左丞相が年の離れた鸚史を祝融の学友に加えたのは、後々の縁を繋ぐためである。他の貴族もそうだ。皇族と縁を作っておいて損はない、という考えがほとんどだ。中には、そこらの家庭教師よりも余程優秀な講師から授業を受けられる――という目的もあったりするが、鸚史は恐らく前者だろう。何より、姜家に次ぐ家である風家、左丞相という立場、情報はどの貴族よりも拾いやすいはず。鸚史の年を鑑みて、左丞相が祝融の状況を危険視した場合は、ここに来なかったはずだ。


「鸚史、左丞相は何と」

「父にできることは今は何もない――と」

「今は、か」


 左丞相は厳しい人物だ。鷹のように鋭い目で、皇城どころか国中を見ているかのように多くを知っている。しかし、語りすぎることはない。右丞相はどちらかと言えば、人当たりの良い明朗な人物だ。それとは対照的に静かで、その目つきは人を遠ざける。感情の起伏を表に出すことはなく、何を考えているかは全く見えてこない人物でもあった。

 鸚史が伝えた左丞相の言葉は、突き放したようにも聞こえる。しかし、左丞相自身は下手に動くことを避け、鸚史を遣いにやることで遠回しに、これからも協力はすると告げていると考えて良いだろう。姜家との違いを表しているようでもあった。

 そして、もう一人。祝融は雲景をまじまじと見た。

 雲景の家――朱家は姜家に仕えていると言っても、それは他の家とは一線を画す。

 朱家は、遥か昔――それこそ神農が国主になるよりも前に、神農に跪いた一族と云われている。姜家と一蓮托生のようにして生きる一族の一人を、今の状況でどう考えるべきなのか。

 雲景は元々、祝融のことを慕っていたわけでもない。それでもここにいる理由は何かを問わねば始まらないだろう。正直に話すかどうかは別として――が、ふと、先の話を思い出し、妙に回禄に対しての言及であったようにも思う。それこそ、悪意でもあるかのように、雲景は回禄の口ぶりを『祝融様のことを憂いている……皆はそう見えたようです』と、言った。雲景には違う姿に見えていた――ということだ。


「雲景、お前は回禄に違和感を感じたのか?」


 祝融の問いに、雲景の表情が初めて変化した。目を伏せた姿こそ、憂いを帯びている。


「違和感……と言いますか、祝融殿下に何かあったこと口を閉ざすこともできたはずなんです。あれは――祝融殿下を心配しているようにみせかけながら、貶めているとしか思えなかった」


 そこへ、呪われているなどといった噂だ。雲景は不安感に動かされた――のかもしれない。


「朱家御当主何と?」

「噂は耳にしているかもしれませんが、直接は話をしておりません。祖母へも連絡したのですが、返事はまだ」


 朱家に関しては、今はまだ回答を出すべきではないのだろう。祝融は背凭れに背を預け、再び頭を抱える羽目になった。


 ――風家は鸚史をよこした時点で、俺に味方だと主張しているようなものと考えて良いだろう。だが、それだけ今回のことを大事と考えているとも取れる。慎重に行きたいが、動かなければならないことは事実。でなければ、左丞相は鸚史に大人しくしていろとも伝えていただろう。問題はどう動くか……そこが決まらない。

 父・弟・異母兄・伯父……頭の中でそれぞれの顔が浮かぶ中、祝融は一人の人物に辿り着く。


 ――……陛下か。


 何よりも肝心な、神農の存在である。祝融は宮中の内情を知ったところで、状況を変化させるのであれば神農の決定が必要になる。どうせ動かねばならないとなれば――祝融は何かを決意したと同時に、右手は筆を取っていた。


「どなたに手紙を?」

「陛下だ。話を聞く限り、回りくどいことは意味をなさんだろう。悪辣な噂を余計に根付かせてしまうかもしれない。だとすれば、陛下に直談判する方が早い」


 祝融の手に迷いはない。上奏文(じょうそうぶん)(したた)めるのは初めてだが、それとなく書き方は知っている。何度と父の姿を見てきたからだ。とはいえ、身内であってもそう易々と文を送れるわけではない。

 託す手合いが必要であるが――。


「殿下、その手紙を父に預けては」

「……それもそうか」


 左丞相ならば神農に会う機会は多いが、直接渡すとなると不審に思われるやもしれない。上奏文に紛れ込ませるのか、はてさて。なんにせよ、祝融の決断は早かった。


「任せる」

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