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祝炎の英雄  作者:
第一章 炎の御子

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四 熱傷 弐

 祝融は回禄が消えた先を見つめたままだった。しかし、思考は目まぐるしく動いている。違和感の正体が何か――何故違和感を感じたのか、そればかりを考えてしまう。


 ――いや、違和感にしようとしているだけか?


 祝融は自分の心の内にあるもの全てがもどかしくてたまらない。儀式で何かがあったことは確かで、その何かから助けてくれたのは回禄だ。それこそがもう、祝融にとっては違和感――とも思ったのかもしれない。

 回禄はいつも祝融の後ろをついてきた。「一歩後ろにいる方」、なんて揶揄もそのせいだろう。それが突然、祝融よりも前に出て、先に行ってしまった。先ほどの余裕の笑みも、そう感じて――だとすれば、と祝融は自身に腹が立ってくる。


 ――俺は無意識に回禄を下に見ていたということではないか。


 後をついてくるばかりだと思っていた存在がそうでなくなっただけ。回禄の言葉の通り、今は身体を万全にすることが先決だろう。祝融は未だ胸の内を燻るもどかしさを誤魔化すように、空になった右手を握りしめると、諦めたように寝台に横になった。

 どちらにしろ、肉体も体力を取り戻そうとしているからなのか、微睡が祝融を襲う。


 ――もう少しだけ休もう……もしかしたら次に目が覚めた時には、何か通達があるかもしれない。


 今は待とう。そう自分を納得させて、祝融は瞼を閉じた。



 ◆◇◆◇◆



 だが、現実はどうにも思うようにいかないらしい。祝融の目覚めから三日が過ぎようとしているのに、依然として父からも神農からも通達がないままだった。内朝でもないため、朝廷の状況も読み辛い。

 こういった場合のために、人脈や諜報の人材を作っておくのだろうが、祝融はまだこれからだった。が、ふと思い立つ。


 ――いや、何人かいるじゃないか。


 祝融にも、回禄や親族以外の知り合いが朝廷内にもいる。それは、つい最近まで祝融と回禄と共に学友として過ごしていた者たちだ。というのも、祝融と回禄は皇族のため通常の貴族たちが通う学校には行けない。そのために、講師や指導者が用意されるのだが、数名の同じ年頃の貴族の子供も同じように同じ授業を受けるのだ。それは、祝融や回禄の成人の後のことも考慮されたことでもあり、単純に人との関わりや上下関係を学ぶための場でもあった。

 常に皇族としての振る舞いを試される場でもあったが、祝融としては単純に友人と過ごす時間とも考えていた。

 もちろん、相手方は貴族として皇族への壁があるのは祝融も重々承知の上だ。それを踏まえた上で、既に官吏として働き始めているであろう学友の誰かに文を届けようと考えた。


 ――誰にするか……。


 悩みながらも祝融は起き上がる。昨日あたりから、痛むが堪えれば歩けるようになっていた。医官には絶対安静にしているようにと執拗に注意されているが、祝融自身がじっとしていられない性質だ。剣を振らないだけまだ良しとでも思ってもらうよりない。

 寝台の直ぐそばには文机があり、備え付けの引き出しには紙や筆、硯や墨が入っている。あとは水差しから硯へと水を注いで墨をするだけ……そうこうやっている間に準備は終わる。だが肝心の相手が決まらない。


 ――鸚史(おうし)が同年代であれば即刻決まっていたな……。


 浮かんだ人物は、祝融が眠っている間に見舞いに訪れたうちの一人だった。風鸚史は祝融の学友の一人でもある。風鸚史の父は、祝融の父とは対極に位置する左丞相(さじょうしょう)を担う男だ。その子供だからなのか、鸚史は妙に頭が切れる上に、周りをよく見て、状況を把握することに長けていた。祝融が知らぬ話も、大概は風鸚史が拾ってきたものだったりもした。頼りになるのだが――いかんせん、年齢はまだ十二歳である。祝融が成人した後は、貴族の学校に通うか、家庭教師か、まだ何年かは勉強に勤しむはずだ。内朝の現状にまで耳を(そばだ)てているとは思えない。

 あとはもう一人の見舞いに来たと思しき、朱家の男も浮かんだが、祝融の思い違いでなければ現状に関わり合いになりたいとは考えないだろう。見舞いに来たのは家の付き合いだと考えている。ともすればだ、他にも頼れるのは――と、悶々と文机の前で腕を組んで睨めるように紙を見つめていた――そんな時だった。


「祝融殿下、」


 部屋の外から聞こえたのは、家令の声。

 寝台が置かれたこの部屋は、祝融の私室だ。ある程度、祝融が自由に動いてしまうため、心配しながらも家令達は呼ばれない限りは家の中の仕事に専念するようになった。

 わざわざ声をかける時は食事時や何かしらの用意、または用事がある時だ。それか、来客でもあった時。

 祝融が返事をすれば、「風鸚史様と朱雲景(うんけい)様がお見えになっております」と返ってくる。丁度良い、と考えると同時に妙だとも思った。風鸚史はともかく、朱雲景という男が再び現れたことは疑問だったのだ。

 この朱雲景という男こそが、先の思考で協力は仰げないと考えていた男だ。男――と言っても、祝融の一つ下。まだ未成年ではあるが、朱雲景はいつも一線を引いたように祝融には近づこうとしなかったのだ。とりわけ、回禄とは話をしていたような――そんな覚えがあった。だから、風鸚史と共に見舞いに訪れるということは不可解でもあるのだ。しかし、来たのなら迎えるまでである。家令に通すように伝えると、静かだが急いで遠のく足音がしてしばらくの後、再び扉の外に気配があった。回禄の時とは違い、今度は複数で。

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