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祝炎の英雄  作者:
第一章 炎の御子 第二節 不撓不屈

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六 人が消えた村 参

 祝融は走った。

 前を行く薙琳の足は更に速くなっていた。なのに、何度と祝融や毛将軍を(おもんぱか)る余裕すらあった。

 今はまだ、敵は姿を見せていないが、いつ何時何が起こるとも予測がつか無いのだろう。祝融はただただ必死に、薙琳の背を追うようにして、全速力で逃げるように村へと駆け込むだけしか出来なかった。

 村へと入れば森は遠く、辺りを見渡せる。そうなると、途端に森の空気の異様さが嫌でも肌に感じた。何かがこちらを監視しているような……生々しい視線。それが薙琳の言う山神の領分の何かなのかまでは不明だ。よく判らない何かであるはずなのに、思わず肌が粟立つ。そうなると、あそこへと霍雨を見捨てて逃げてしまったような気がしてならなかった。薙琳に言われるがまま逃げ出してしまったと、嫌な後悔が胸を過ぎる。あそこにそのまま残ったとしても何も出来なかったことだけは理解できるのに、何故こんなにも苦しいのか。ギリギリと心臓を締め付ける居心地悪さばかりが心を占拠して、気鬱にでも陥りそうだった……のだが、薙琳はさらりと言った。


「戦略的撤退というやつですよ」


 祝融の姿を見かねて声をかけた、と言うには口調は軽い。

 それまで森にばかり目を向けていた祝融は、思わず薙琳を見た。彼女の姿は状況の重さを感じさせない。あっけらかんと言うものだから、祝融は気が抜けそうだった。しかし、先ほどの事象を思い出すとそうもいかない。


「だが、俺があそこに行こうと言わなければ……」

「何言っているんですか、行動しなければ何も判明しません。人が消えることは事前にわかっていましたが、これで、神怪の仕業であることははっきりとしましたし、山神が領分を広げていることも判明しました。あとは対処法を考えましょう」


 薙琳はさっぱりとした性格のようだ。何をするにも動じていない。


「気楽だな、慣れているのか」

「慣れてますよ。まあ、軍人さんと違って自由にやらせてもらってますけど」

「傭兵か」

「さあ、どうでしょう」


 毛将軍の嫌味な言い方を気にする様子もない薙琳は、悠々と答える。そして、濁したかと思えば、「さて、」と話題を切り替え、いささか瞳は獰猛さを携えたようにも見えた。その目は祝融を捉えている。


「殿下、私は殿下をお守りするように言われておりますし、殿下の邪魔をするなとも言われております。だからと言って、殿下が二の足を踏むようであれば私は単身でやらせて頂きます。何かご意見は」


 祝融は薙琳の瞳を真っ直ぐに見つめ、そして今度は己の右手に目を落とした。手中には、なんとなしに握ったままだった、霍雨の抜き身の剣がある。


「それとも霍雨さんがいないと何も出来ませんか」


 嫌な言い方だと思った。しかしそう見えても仕方がない。霍雨の力添えもあって此処まで来れたのだ。だからといって、何も哀愁に浸っていたわけではない。


 ――霍雨は戦おうとしたのだろうか。


 元武官であった霍雨の強さはよく知らない。しかし気の強い彼女のことだ、さぞ勇猛だったに違いない。きっと、泣き言など口にしないだろう――であれば、祝融の手は自然と強く剣を握りしめていた。


「戦略的撤退と言ったのは薙琳だろう。俺は神怪との戦いからをまだよく知らない。何をすれば良い、教えてくれ」


 祝融は薙琳の鋭い目に応えるように、真っ直ぐに見やる。獣然と獰猛だった瞳は、じっと祝融と視線を交えていたが、ふっと鋭さが消えた。


「では、作戦を考えましょう。現状までに判明していること、それと互いの手の内を見せ合いましょうか。宜しいですね、毛将軍」

「……ああ、俺も神怪に対して歴戦といえるほどの実力はないからな」


 どうにも、毛将軍は昇格したばかりで、早々にこのような事件の担当になってしまったらしい。だからこそ皇軍からも人が来るとなった時の期待は大きく、祝融の姿で落胆もしたのだろう。


「兎に角、一旦どこかの家に入りましょうか。多分、見られてますし」


 薙琳が再び森へと視線を向ける。祝融も自然とそちらに視線は流れるが、不気味さは変わらずだ。どうにも、恐怖からの勘違いではなかったようだ。

 

「やはりそうなのか」

「最初から見られていた可能性もあります。獲物の動きをじっと見て、隙を窺っているのでしょう」


 相手は神怪。だのに、薙琳の口ぶりは、獣でも相手取っているようだ。何より、薙琳自身が獣のようでもある。しかし、知識や知性は獣どころか、祝融や毛将軍よりも上。獣と人を兼ね備えた姿――それこそが獣人族の本懐なのか。


「宿屋に行こう。食い物もあるはずだ」

「そうですね。竈門で火を起こせば、こちらに対しての守りにもなりますし」


 火と言われ、祝融は思わず反応した。


「……火がか?」

「そうです。獣は火を恐れます。火を起こせるのは神か人だけ。山神も神の一種ではありますが、どちらかと言えば獣に近い。ま、火を畏れないものもいるので、慎重に判断せねばなりませんが」


 薙琳は「さあ行きましょう」と祝融を促す。遠回しに言った理由を告げるように、目線は森を睨んでいる。そして、祝融を見た。常に警戒しろ、そう告げているような目だった。

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