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祝炎の英雄  作者:
第一章 炎の御子 第一節 有為転変

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第一節番外編 弐 父の苦悩

 炎居には子が四人いる。

 長子・道托、次子・阿孫(あそん)、双子の三子・祝融と四子・回禄だ。その双子の成人の儀式で問題は起こった。

 祝融と回禄は生まれた頃から、何かと心配事が尽きない子供達でもあった。

 新しい妻を迎えて最初の子供だったのだが、双子であったため、生まれて直ぐは不吉と言われたものだ。しかしそれも、神農が諫めれば直ぐに静かになった。

 だが、二人に神力が宿っていることが知れ渡ると、今度は一転して、神に使命を与えられたのだと期待を向けられた。

 勝手なものだと炎居は思う。炎居にしてみれば、神力があろうがなかろうが、実子であることには変わりない。使命などというものに関われば、子供達の命運はどうなることやら……できる限り、平穏な人生であって欲しいと願うばかりだった。

 既に、長子も次子も、軍部で活躍する軍人だ。不死という性質故に、衰えを知らない肉体のおかげで引退も遠いだろうし、本人たちにもその気はない。だからせめて、双子のうちのどちらかは手元に残したいとすら考えていたほどだった。

 とは言え、そんな考えは長子と次子にはお見通しだったらしく、可愛いがっている素振りは簡単に露見した。別家庭で暮らしているとはいえ、それぐらいはお見通しと言わんばかり。長子からは厳しく何度も、「甘やかすべきではない」と叱咤が飛んでいた。もちろん、皇族の一人として最初は軍部に所属する仕来り自体を曲げるべきではないとは考えている。だが不死の人生は長い。十年、二十年の後の先は文官職を選ぶかもしれない――そんな淡い期待を抱いていた。

 そんな炎居の可愛がりようを叱咤しながらも、腹違いでこそあったが、道托、阿孫の二人もまた、親子以上に年の離れた弟二人を可愛がっていたのも事実。

 お陰で、三子は確実に軍人気質な異母兄達の影響を強く受け、きっと軍部からは退かないだろうことは目に見えていた。四子は三子を真似るように後を着いて回るが、先のことはわからない。

 さてどうなるやら……そんな呑気な気構えで迎えた儀式の当日。

 炎居にとって、人生最悪の日と言っても過言ではない大事が起こってしまった。

 華々しい日になるはずはずだったのに、何故。

 炎居はただ、頭を抱えるしかなかった。

 祝融が神聖なる炎で火傷を負った瞬間、炎居の頭は靄がかかったかのように動かない。しかし、回禄が祝融の名を叫ぶ声が聞こえて、ようやく何が起こっているかを理解して身体が動いた。

 祝融へと燃え移った火は回禄の神力によって消され、残されたのは左上半身の熱傷だけ。焼け爛れた肉はあまりにも無惨で、炎居は駆け寄りながらも目を閉じてしまった息子の名をひたすらに呼び続けた。


「祝融! 祝融‼︎」


 ああ、助けを呼ばねば。誰か動いているだろうか。動転する気を鎮められないまま、炎居は顔を上げる。目の前には同じく祝融の傍で膝をついて、名をを呼んでいたはずの回禄がいた――いたはずだった。だがその顔は、兄の突然の事故に絶望する顔でも、心配する顔でもない。


 ――何故……回禄は笑っている。


 祝融に向けて薄ら笑っているのだ。回禄はこのような顔をすることが今までにあっただろうか。轟々と燃ゆる炎に照らされて、影が湾曲しているだけ……炎居は何故か無性に恐ろしく感じて、思わず回禄から目を逸らし、今度は周りを見渡した。道托や、阿孫も同じく参列している。だのにどうして、弟の惨事に何故直ぐ駆けつけないのか。道托達だけではない。誰もが立ちすくんだまま――まるでまだ儀式が続いているかのようにしじまの中にある。

 儀式の張り詰めた空気とはまた違う異様な気配。炎居は縋るように、神農を見上げる。神農の顔は炎を背後にしているからか、陰ってしまいはっきりと見えない。恐る恐るも「陛下、」と声をかけると、何事もなかったかのように口を開いた。

 

「直ぐに医官の手配を」


 神農が一言命じれば、場は動き出す。一族の末席の者が一目散に外へ駆けていくのが見えた。しかし、同時に騒めきが起こる。そして、誰かがぽつりと言った。


「呪いだ」


 誰が言ったかはわからなかった。だがその言葉は炎居の心を騒つかせる。遅れて、怒りのような何かが込み上げそうだったが、続く場の言葉に声は出なかった。

 

「神の怒りを買った」

「これはもうだめだ」


 騒めきの中で幾度と繰り返されるその言葉は、とても皇孫に向けられるものではない。その最中、誰かが強く言った。


「殺すべきだ」


 それは、甥である――第二皇子の長子である縉雲(しんうん)から発せられたものだった。


「神の怒りに触れたのならば、これはこの国の脅威だ」


 面布越しで表情は見えない。しかし、祝融を睨めるような目で見ているような気がしてならなかった。その上、同調する冷ややかな声が上がる。


「同意だ。あれは危うい」


 少し枯れ始めた男の声音――炎居にとって兄である第二皇子のものだった。

 炎居には、兄や甥が何を言っているかが理解できない。だのに、「そうだ、殺すべきだ」と、同調する声は増すばかり湧く。空気はより殺伐として、炎居は震えそうなまでに困惑は増すばかりだった。

 そこに、一つの声が上がる。


「……時期尚早だ」


 雄々しい、人一倍体格に恵まれた男から発せられた声だった。炎居はようやく安堵した。長子である道托の声だった――のだが、直ぐに炎居の顔は青ざめることになる。


「あれも、曲がりなりにも神力を宿している。暫く幽閉して様子を見るべきだ」


 実弟の話をしているとは思えないほどの沈んだ声音に、もはや炎居は黙ってはいられなかった。


「何を言っているのだ! 祝融はお前の弟だろう‼︎」


 炎居の叫びは虚しくも、こだましては消えていく。誰も、炎居の声には応えない。そればかりか、殺意にも等しい冷たい眼差しが炎居の横で気を失っている祝融へと注がれている。


 ――何が……どうなっているんだ……。


 炎居はもう一度、神農――父へと目を向ける。陰りで見えない顔は、何を考えながら孫を見つめているのか。何も発しないことこそが、何よりも炎居の恐怖を助長するばかりだった。


 ◆◇◆◇◆

 

 儀式が終わった後、炎居は慎重に動かねばならなかった。

 神農からは箝口令が敷かれ、炎居は妻・禹姫と共に接触を禁じられてしまった。神農が姜一族の不和を恐れたのか、それとも別の考えがあるのか。

 しかし、何もしないままではいられなかった。

 姜家は下手に頼れない為、風左丞相へと秘密裏に話をした。争できる限りで良いから、祝融を援助して欲しいと頼み込んだ。

 官職としても、炎居の身分は右丞相であり左丞相と争うようなこともない。何より頭の切れる男だ。物事を一番客観視しながらも祝融に力を貸してくれるだろう。

 一日と待たず「呪い」などという言葉が広まったのもあり、左丞相も懸念を示し、祝融に友好的であった子息へと言葉を託した。

 あとは神農がどう出るか。炎居は事の次第を見守るしかない。


 だが、ふと自分の行動が不可解にも感じる。

 何故、息子が病床に臥しているというのに、会いにいかないのか。

 神農からの命令があったとはいえ、何故無理にでも会いに行こうとしないのか。

 命令に反してはいけない――それだけではない不穏があるような気がして、炎居は思うように動けないのだ――そう自分に言い聞かせた。

 代わりに、道托や阿孫と話をしようとぢたが、今は様子を見るしかないとしか言わない。回禄は祝融を心配する素振りこそあるが、噂を助長するような事を触れ回っていると報告があった。

 家族のあまりの変貌に、誰もが祝融を同じ一族ではないとでも言っているようで――兄弟などではないと否定しているようで、炎居は益々不安の渦へと飲まれていく。

 ただ一人、妻の禹姫だけが祝融が死んでしまったかのように日々泣き濡れている。嘆く妻を慰めている時には、自分と同じく祝融の今後を憂い嘆き悲しむ者がいるのだと、不思議と安堵した。

 なのに、独りになると途端に胸の内に騒めくものがある。


『あれは本当に、お前の子か?』


 誰のものとも思えない声で、尋ねられているような気がしてならない。

 それは、祝融に面と向かっても同じだった。

 神農からの通達で、祝融が動くとの報せがあった。それから間も無くして、本当に祝融は現れた。火傷の具合は衣に隠れていてわからない。しかし、立って歩いている。それだけでも心配は一つ消えた()()()()

 ようやく祝融の顔を見れたというのに、募るのは不安ばかり。何度と繰り返し、『あれは誰だ』と尋ねる声があるのだ。


 祝融の去り際、炎居は祝融を見送ることも出来なかった。それどころではなかったのだ。

 一人取り残されたそこで、ただ頭を抱え、自身に刻むように呟き続ける。


「祝融は私の子だ。私の子は四人。三人目の子が祝融、祝融、祝融、祝融は私の子」


 己に刻まれた呪いを上書きするように、炎居は息子の名を呟き続けたのだった。



 第一節番外編 弐 父の苦悩 【了】

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