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漆黒の女生徒

 第一学年 六月十一日 火曜日

 宝塚ゆずり葉高等学校 生徒用玄関


 高校最初の中間試験が終わった晴々しいこの日は、梅雨らしく雨が降っていた。

 この日、一文字、村瀬、川本、永嶋の四人はカラオケに行く約束をしていた。

 なにかの用事で職員室に行った女子二人を待つため、一文字と永嶋は玄関でぼけっと突っ立っていた。


「岡、ちょっと鞄持っといてくれ、トイレ行ってくるわ」

「なんや大か?」

「おぉ、そうや」


 永嶋はお前などまともに相手しとらんぞばりの涼しい笑みを浮かべると一文字に鞄を突き渡し、そのままトイレに向った。


 大方の生徒は既に帰宅したのか、玄関には一文字一人きりだ。

 やけに静かだ、しとしとと雨の音だけが耳に響き渡ると、一文字はなにか言い知れぬ寂しさを感じずには居られなかった。


 ガタン、金属製の靴箱を閉じる音がした。村瀬達が来たのかと一文字は音がしたほうに振り返った・・・


 そこには、腰までもある光を孕んだ黒髪が印象的な女生徒が立っていた。

 黒髪の中には透き通るような白く整った顔があり、純粋な漆黒の瞳は気高さを湛えているようであった。

 漆黒で潔白な美しい女生徒は、見慣れた黒色のセーラー服に映え、どこか神秘的な存在に思えた。


 じっと見つめる一文字に気がついたのか女生徒の黒い瞳が一文字に向けられた。

 一文字は目を逸らすこともできず、女生徒の瞳をじっと見つめ返した。

 訳もわからず鼓動が高鳴り、全身が凍てつくような感覚がする、呼吸も上手く出来ない。

 それはほんの一瞬の出来事であったが、一文字にはとても長く感じられた。


 女生徒は不思議そうな表情で軽く頭を下げると、床に置いた黒い革靴を履いて玄関を出て行った。

 紅い華がぱっとひらくと女生徒は雨の中に消えていった。


(誰だ? あんな女子いたか? 上級生か?)


「ごめ~ん、待った?」


 村瀬の声がした。考えるのを中断し、目線を上げると、思ったより近い所に村瀬と川本、そして永嶋がいた。村瀬がなにやら心配そうに聞いてきた。


「どうしたん、恐い顔して?幽霊でもみたん?」

「え、そんな顔してるか?」

「してる、してる。あっ、さてはカラオケ行くの、緊張してるん?」


 可愛らしい笑顔を湛える村瀬を見ていると、さっきの女生徒のことが少しずつ薄らいでいくような気がした。


 カラオケも終り家路に着く。一文字と永嶋は御所川に沿って歩いていた。

一文字は思い出したように永嶋に言った。


「そうや俺、バイクの免許取りに行くねんけど、永嶋はとらへん?」

「バイクか?俺、原チャ(原付き)の免許あるからええわ」

「お前いつの間に、俺に無断でそんなん取っとんねん!」

「すいませんした!」


 永嶋はわざとらしく、頭を下げやがった。


「それにしてもみんなでカラオケってのは、ほんまにおもろいよなあ」

「村瀬とデュエットした時の、お前のはしゃぐ様が、俺はおもろかったけどな」

 思い当たる節があるため、一文字は一瞬大きく怯んだ、その上で永嶋は言った。


「それ以上に、」

(それ以上? こいつ如きが俺の何を知っているというのか!)

「上等じゃ!それ以上があるなら言ってみんかい!」


 いきり立つ一文字に、永嶋は冷徹に言い放った。


「学校の玄関で、女子に見入って硬直しているお前が、それ以上におもろかった」


 それ以上はあった。


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