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旧友

 第一学年 五月二十三日 水曜日

 宝塚新大橋下 武庫川河川敷


 五月も半ばだというのに夜風が冷たい。

 一文字はコンクリートで舗装された土手に座り無意味に小石を川に投げ込んでいた。


(俺は弱いのか・・・)


 川本のことを考えた、オリエンテーリングから一週間、以前と彼女はなにも変わらない。

 あれ以来、月光に照らし出されたあの表情は一度も見せない。

 今となっては夢だったのではないかとさえ思う。


(もし、川本に告白されたとしたら俺はどうする?)


 俺は彼女を受け入れることは出来ない。

 なぜか・・・それは、俺に力量がないから、違う、俺には好きな人がいるからだ・・・


(お前は村瀬が好きなのか?)


 好きだ、嫌でも自覚させられた。川本を傷つけた俺は、川本の気持ちより村瀬のことを気にしていていたのだから・・・


 村瀬の事を考えた、オリエンテーリング以来、気軽に話が出来るようになった。

 それでも普通の友達に過ぎない・・・


(俺と二人で話をしているとき、村瀬の様子は他の奴と話している時と何か違わないか?)


 違わない、いや違うかも知れない。


(村瀬がお前を意識しているのか?)


 そうかもしれない、でも俺が意識しているから勝手にそう思っているだけかも知れない・・・


(男なら、勝負に出てみろ!)


 そんな簡単にできるか!

 一文字は街灯に照らされて輝く川に向って思いっきり石を投げつけた。ぽちゃんと音がして波紋がゆらりゆらりと広がっていく、


(俺は弱いのか?)


 今は弱い、いつか強くなればいいんだろうが・・・


 一文字が家路に着こうと宝塚市役所通りを歩いているとアメリカンタイプのバイクが一文字を少し抜いたところでハザードを点滅させながら停車した。

 バイクから降りたライダーはやけに背が低く、そのわりに胴が長かった。


 ライダーはヘルメットを外しながら一文字のほうにずかずか歩いてくる。

 ヘルメットが外れると坊主頭とでかい顔が現れた。

 こいつの名は小林銀平、武庫川第一工業高等学校の一年生で一文字とはうぐいす台中学の頃からくされ縁ってやつで繋がっている。

 銀平は片手を挙げた。


「よう!一さん元気か」

「おお、銀ちゃん!そのバイクどないしてん?」


 よくぞ聞いてくれたとばかり、ニコニコしながら銀ちゃんは言った。


「こいつか!僕ちゃん、もう十六やからバイクの免許とっちゃったんよ!このバイク新車やで。中学の時からこの時のためにお年玉とかこつこつ貯めてきてんぞ!まあ、半分は親の脛かじっとんねんけどな」

「すげえな~、そういえば家族以外誰も祝ってくれんかったけど、俺も十六の誕生日迎えたからな、そろそろバイクの免許とるかな~」

「とれとれ、とったらどかんとツーリングとしゃれこもうぜ」

「そうやな、親父に相談してみるわ。そう言えば、高校入ってからも柔道続けてるんか?」

「おう、部活でやっとるで、しかも俺、団体戦のレギュラーに抜擢されてんぞ!」

「なんや、部員五人しかおらへんのか? なんてな、ものっそすごいやん!」


 一文字がそう言うと銀平はうつむき、含んだような笑いを顔に浮かべた。


「なんや? どないしたんや? まさか・・・」


「先鋒、次鋒、中堅、副将、大将、以上三学年合わせて五人の部じゃ!文句あるんか!」


「まじで!」


 一文字にとっては、銀ちゃんがバイクに乗っていたこと以上に驚きであり笑いであった。


「一さん、立ち話もなんやから、俺はそろそろ帰るわ」

「おう、そうか、じゃあ家まで乗せていってや」

「すまん、一つしかメットが無いからあかんわ。じゃあ、いい夢見ろよ!」


 銀平はそう言うと、一人、愛車にまたがり颯爽と走り去った。


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