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ep.48 癖

 第二学年 七月二十三日 木曜日 

 宝塚ゆずり葉高等学校 二年三組教室


 指先に長い髪をクルクルと巻きつける、これが佐那の癖だった。


 授業中に何度となく繰り返す。

 特に何か考えているとき、巻きつけては解き、巻きつけては解く、

 これを何度も何度も繰り返し、何か閃いたらしき時には髪をかきあげるのだ。


 キーンコーンカーンコーン、チャイムが授業の終わりを告げる。

 佐那は小さく伸びをすると手早く教科書やノートを片づけていたが、ふとその手を止めてこっちを見つめてきた。


「一君、ちょっと聞きたいねんけど」

「な、何?」

 一文字は己の妄想がこぼれて拾われたような気がして冷っとした。


「手による打撃についてやねんけど、」

「は?」

「手による打撃についてやねんけど、ボクシングやったら相手を打ったらすぐに手を引くのが基本やんか。

 それに対して中国武術の拳は、打ったらその衝撃を相手に伝えるため一定の時間留めるのがいいっていうねんけど、一君はどう思う?」


「そ、それは判断が難しいな。

 確かにどっちにも利はありそうやけど、こと打撃に関してだけ言えば、近代闘技であるボクシングの方がええような気がするな。

 やっぱり実戦では一つの技は出来るだけコンパクトな方がええからな。

 空手の正拳突きとかもあたったら効くやろうけど、ボクサーにあてるのは至難の業とちゃうか」


「じゃあ、中国武術はボクシングに劣ると思う?」

「いや、リング上の戦いじゃなければ、投げようが極めようが、オーケや、そうなったら勝負は分からへんな。

 まあ、俺が思うには打撃はボクシング技術で、後、関節や投げ技は合気道なり柔道なり中国武術なりを身につけるのが実践的にはいいんとちゃうか」


「う~ん、ボクシングか・・・」

「おいおい、悪い事は言わへん、やめときや、」

「え、いや、別にやらへんよ、」

「だとええけど、佐那の場合は、やりかねんからな」

「確かにそうやね・・・」

「自分で認めんな」


「ごめん、あ、そうそう話し変わるけど、一君は夏の合宿には参加するん?」

「合宿って?」

「あ、聞いてへん?二年に一度、一泊二日で小豆島の山にこもって稽古するんやけど」

「山ごもりか、なんや少林寺の荒行みたいやな」

「そ、そう?」

「おう、なんかええ響きや。で、佐那は参加するん?」

「うん、私は行くで。

 あそこは、景色は綺麗やし、空気は美味しいし、私は大好きやねん」

「そうか、それじゃあ、俺と永嶋も行くとするか」

「勝手に決めんな!」

 クレームと後頭部へのツッコミが同時に一文字を襲撃したのだった。


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