ep.47 なんでお前が
第二学年 七月十六日 土曜日
永平寺武道場
蒸しっとする曇り空、こういった天気は一文字をうんざりさせる。
重い体を引きずって道場にやってきた一文字は、そんな気だるさを吹き飛ばすものを目撃した。
武道着に身を包んだ永嶋さんが道場にいたのだ。
「おいおい、永嶋、なんでお前がいるねん?」
「岡か、今日から合気道をはじめることにしたから、まあ、よろしくな」
「それはええねんけど、お前、俺が誘っても断固として拒否しとったやんけ」
「まあ、ええやんけ、時間は流れとんねん」
「なんじゃそれ」
「一、ええやんけ、そいつもそいつなりの考えがあって始めたんやろ、それでええやんけ」
一文字の背後から飛んできた野太い声の主は白山正輝だった。
「正輝か、まあ、お前を道場で発見した時の驚きに比べれば、今日のはまだまっしやな、永嶋、今日のところはそっとしといてやるわ」
(今日は?ということは後日、質問攻めにあうのか?)
永嶋は思ったことを口にはしなかった、賢明な判断であろう。
その時、武道着に着替えた佐那が道場に入ってきた。
「あ、永嶋君、練習来てくれたんや」
「よろしく」
「なんや、佐那は知っとったんか?」
「うん、永嶋君から聞いとったからね」
「永嶋、なんで親友の俺にまず言わへんねん?」
「別にお前に言う必要はないやろ」
相変わらず冷たい言葉を投げかけやがる。
一文字が応じようとしたとき、師範が姿を現したので断念し、挨拶のため列に加わった。
手を合わせながら二回礼をして、手を二度打ち、また礼をする合気道の練習の始まりと終わりの時の挨拶だ。
挨拶がすむと、哲彦が永嶋に自己紹介をするよう促した。
永嶋は哲彦の隣に進みでて言った。
「永嶋です。合気道は技の向上だけではなく、精神的な鍛錬にもなると思い始めました、
今までやったことはないですが、頑張りますので、ご指導お願いします」
毅然と自己紹介をする永嶋に、おどおどすることを期待していた一文字は、期待はずれで正直がっかりした。
なにはともあれ永嶋が道場に入門したのは事実だ。
永嶋には佐那がついて受身やら転換やら、基本的なことを教えている。
憎らしいことに初めての練習の割には動きがいい。
(俺がが今まで鍛えてやったのだから、当然と言えば当然だ、感謝しろよ永嶋)
無理やりという言葉をあえて省き、一文字は自己陶酔にふけっていた。
正輝の太い声が飛んできた。
「おい、一、なにをぼさっとしとんねん!」
「別にぼさっとしてへんわ」
言いつつ、正輝の側面に入り身し、腕で首を刈り後方に投げ倒した。入り身投げである。
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