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ep.46 武庫川のうなぎ

 第二学年 七月五日 日曜日

 武庫川河川敷


「もうすぐ期末テストやっていうのに、私らええ度胸してると思わへん?」

「それは違うぞ佐那、テスト勉強に向けて鋭気を養ってるんや、大事なことなんや」

「それやったら岡君の場合は、テスト直前まで鋭気を養い続けてるやん」

「やかましいわ!」

 一文字は川本のでこにピシッとツッこみを入れた。

「優子、岡君がいじめる~」

「甘えるな!」

 林も川本のでこにピシッとツッこんだ。

「ひどい優子まで~」

「ごめんごめん、ついおもろかったから」

 林は両手を揃えて謝りながら大笑いしていた。

(いいツッコミだ)

 一文字は感心して何度も頷いていた。


 もう夏だなと思えるほど暑い日だった。

 この日、一文字、永嶋、佐那、林、川本の五人は、うなぎを捕まえるために仕掛けた魚篭を確認しに来たのだ。


『武庫川にうなぎがいる』林が持ってきた胡散臭い情報からはじまったこの計画、予定ではこれからうな重パーティだ。


 仕掛けのポイントに近づいたとき、林が異変に気付いた。

「仕掛けんとこに誰かいるで!」

 林の指先には、一文字達が仕掛けた魚篭を覗き込む胡散臭い男がいた。

 その男は坊主頭でやけに胴が長かった。


 林が男を指差して叫んだ。

「うなぎ泥棒や!」

「え、ほんまに!」

 川本が応じるのと同時だった、「アンタ何してるん!」と叫びながら林が男の方に走っていった。

 その後を仕方ないといった様子で佐那と永嶋が追いかけて行く。


「ちょっと、アンタ、何してるんよ?それ、ウチらが仕掛けてんで!」

「え、別に見てただけやで、」

 林にまくし立てられて、胴長男はおどおどした様子でいた。


 一文字は男の正体を知っていた。

 その上で、面白いからしばらく傍観しようと思った。


 勢いよく責める林に困惑していた胴長男は、視線の端に知った顔を捉えた。

 男に希望が芽生え、藁にもすがる思いで叫んだ。

「一さん!」

「誰やお前?」

 と返してやろうかとも思ったが、さすがに気の毒なので、応じてやることにした。


「銀ちゃん、こんなとこで何してるん?」

「いや、うなぎ捕まえるやつがあったから、中に入ってるんか気になって見とったら、急にこの人にどやされてもうて、」

「そうか、ついてなかったな、」

 と言いつつ銀ちゃんのしょぼくれた様子が、たまらなく笑いであり、正直、必死に堪えた。


「なんや、アンタ、岡君の知り合いなん?」

「一さんとは、中学からのクサレ縁で繋がっとるねん」

「そうそう、ほんまにクサレ縁やな。

 こいつは小林銀平、おませなハニカミやさんや、銀ちゃんと呼んでやってくれ」


「まあ、ええわ、ところでハニカミやさんの銀ちゃん、もう中見たん?」

 林に問われた銀平は、坊主頭を撫でながら少し興奮気味に応えた。

「おお、なんかぶっといのが入っとったで!」

「ほんまに!ほんまに!すごいやん!」

 林が一人率先して大はしゃぎするので、他の皆は妙に冷静だった。

 が、皆嬉しいのは嬉しいものだ。


 一騒ぎした林がふと銀平に言った。

「もう、私が見る前に言わんといてや」

 てめえが訊いておいて、ややこしい女だ。


 ともあれ中が気になる。

 一文字が魚篭を川から拾い上げて地面に置くと、皆の視線が魚篭に注がれる。

 エイエイと魚篭を振るとにゅるっとぶっというなぎが姿を現した。


「太!」

「これが天然うなぎか、すげえな」

「妙に腹のあたりが黄色いな」

「やっぱ養殖のやつとは味違うんかな~」

「それにしても、ほんまに武庫川にうなぎがいるなんてね」

「あ、涼子、うちの話、疑っとったん?」

「そんなことないよ」と言いながら手を横に振る川本をよそに、林は永嶋の方を見やった。


「そうや、永嶋君、写真、写真!それと銀ちゃん、うなぎ持って!」

「え、俺が・・・」

「つべこべ言わずに早く持つ、佐那、涼子、早くこっちに来て」

「永嶋君、準備まだ?」

「今、タイマーセットしとるから、ちょっと待てって、」

「ちゃんと、岡君の顔が半分切れるようにフレーム合わせてや」

「あほか!そんなんするなよ!」

「よっしゃ、準備できた」

 カシャ、シャッターがおりた。後日気付いたのだが、写真の中、浮かれる人々の真ん中で、生命力を失って力なく首をだらりと垂れるうなぎには、どことなく哀愁があった。



 入道雲が紅く染まりはじめ、それは夏の夕暮れを象徴するような光景であった。

 岡家でうなぎパーティで盛り上がった後、永嶋と林は家が同じ方向だったので二人で帰路についていた。


「それにしても天然うなぎって、なんかもそもそと言うか、

 なんか味気ないような感じがせえへんかった、凄い伝説の味みたいなんを期待しとってんけどな」

「そうやな、養殖のとは違って、よう動いとるから余分な脂がないからやろうな、

 林さんには少し早い、大人の味やったかな」

「あ、言うたな、そう言う永嶋君はどうやったん?」

「まあ、微妙やったな」

「なんやそれ!」

 二人は妙に大袈裟に笑いあった。


 それからしばらく沈黙が訪れた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「そ、そう言えば、今日は、七月五日やな」

「そうやね、もしかして覚えてたん?」

「さすがにあの日のことは忘れへんやろ、」

「まあ、そっか、」

 林は夕日に視線を向けながら、両手を広げておどけた様子で言った。


「約束まで一年、どんな感じや?」

「それを私に聞くか?」

「そうやな、確かに変な話やな」

「そうそう変な話や、でも助言だけはしたげるわ。

 頑張ってるとは思うで。でも・・・」

「でも?」

「でも・・・まあ、私が言えるのはこれくらいかな・・・」

「そうか、助言ありがとう、まあ、俺は俺でやるだけやってみるわ」

「諦め悪いね、でもそういうのはええと思うわ、後はどう動くかやね」

「どう動くか、か・・・」


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