遠足
第二学年 四月二十八日 火曜日
奈良県 興福寺周辺
春、うららかな陽気、それはまさに遠足日和だった。
新しいクラスの親睦を深めるための遠足だそうだが、
そんな目的など、白山正輝にはまるで関係のない話だった。
(我ながら、なんでこんな遠足なんかについてきちまったのか、)
くだらねえなと思いながら、ベンチで一人、傷だらけの顔で空を見上げていると、雲の動きと共に暗い記憶が浮かんでは消える。
・仲間、お互いに鎖で縛りあって、それを断ち切ろうともがけば制裁という蜘蛛の牙
青い空に雲がゆっくりと浮かぶ。その合間を飛行機が浮かび、尾を引いていく。
・裏切り、頼り、助けを求めた者を、指を咥えて見捨てた己
太陽は日を照らし、また、雲に隠れる。繰り返し繰り返しのかくれんぼだ。
・折れた支え、唯一残されていた光さえ、負け犬には惜しいということか
目を閉じると瞼の中に雲がゆらりゆらりとのんきに浮かびやがった。
・仲間も愛情も全て幻想みたいなもんだ、全てがうざくて、ぶっ壊したい
賑やかな声が聞こえてくる。
「正輝さん、一緒に走りましょうや」
「ほんと強ええなあ、やっぱ正輝はすげえ奴だよ」
「正輝の事が誰よりも大好きやから」
・・・・・
・・・・・
「やっぱ大仏はでかいわ!」
「ほんまやな、それにしても、あの鼻の穴をくぐるのはなかなか厳しかったわ」
「林さんは、ちょっとふくよかやからな」
「へえ~、永嶋君、言うようになったやないの、後でお仕置きが必要やな」
「林さんのお仕置きってなんなん?」
「そりゃ~勿論、鉄拳制裁!なんてね、佐那じゃあるまいし」
「そ、そんなんせえへんよ私!」
「どうやろな~」
「一文字君まで、なに言うてんの。そんなんせえへんよ」
手をブンブン振りながら必死に否定する佐那を林が抱き、頭を撫でながら言う。
「佐那は、ほんまに可愛いなあ~」
林がちらっと一文字を見やり、フッと笑いやがった。
奴め、俺の心を見透かしているというのか・・・
なんとか林を振りほどいて佐那が言う。
「もう、優子はほんまに~。
まあそれより、ここの宝物館に行こ、
すごいもんばっかり展示してあるねんよ」
「すごいもんて?」
「阿修羅像とか、山田寺の仏頭とか、阿吽像とか、
教科書で一度は見た事があるようなんがいっぱいあんねんで」
寺育ちの佐那の好きそうなもんやな、しゃあないから付き合うかと、
一文字達は宝物館へと足を向けた。
(あいつらどこかで見かけたことあるな)
正輝は少し考えて思い出した。
去年の夏ごろだろうか男同士で抱き合い、そして壊れたように笑っていたイカれた二人組だ。
それにしても目の前でチャラチャラやりやがってうざい奴らだ。
重要事項
『面白い』『続きを読みたい』と思って頂けたら、ブックマークの登録や星の評価を入れて頂けるととても勇気を貰えます!
著者のモチベーションアップに繋がりますので宜しくお願いします!
本書を読んで頂いている方には本当に感謝しています。




