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狂気

 第二学年 四月二十日 月曜日

 今津駅周辺 喫茶店『チャチャ』


 喫茶店チャチャは、正輝のチームの溜まり場だった。

 この日の夕暮れ時、チームの方針を決めるため海老沢をはじめとするチームの幹部が集まっていた。


 カランカランとドアを鳴らし、最後の一人、白山正輝が入って来たのである、

 副リーダーである坊主頭の前川が正輝を見て不思議そうな様子で声を掛けた。

「なんや白山、今日は走らんぞ、どっかにちょっかいでも掛ける気かい」

「そうや、お前は黙ってろ」


 正輝のふてぶてしい態度に、日頃から苦々しく思っていた前川は脅すような口調でけしかける。

「なんや、えらい口きくのう、誰に向って臭い息、吐いとるねん!」

「やかましい、坊主は、寺で念仏でも唱えてろや!」

「なんやと!殺したら!」

「やめんか前川!」

 掴みかかろうとする前川を、ソファーに腰を掛けた海老沢が手を挙げて制する。

 さすがに前川もぐっと堪える。


 海老沢は冷静な調子で正輝に問いかける。

「で白山、どこにしかけるつもりやねん」

(何、とぼけとんねん!)

 正輝の目が、殺気を帯びて細まった。


「海老沢、おのれじゃ、覚悟せい!」

「わしやと?相変わらず狂犬やのう、なんでわしじゃ」

「人の女とって、寝ぼけたこと言うな!」


「口の聞き方きいつけんかい!」

 烈火の如く憤る正輝の背後で前川は怒号を上げ、殴り掛かかる。

 とっさに振り返った正輝の顔面に拳がめり込んだが、正輝は怯みもせず、

 前川の顔面に拳をめり込ませる。

 ゴッと鈍い音がすると同時に前川は後方に吹っ飛び机と椅子をなぎ倒した。


「おんどれ!」

 折れた前歯を吐き捨て、吠える前川を無視して、正輝は海老沢に向き直り、

 ポケットからバタフライナイフを取り出すと、殺意に光る刃を向けた。


「白山、本気か?」

「本気や」

 二人を取り囲む周りの連中は、しびれるような緊迫の中で硬直する。


 海老沢は暗く笑うと、支配者の持つ威圧と冷徹を帯びて言った。

「浅岡は、素直なええ女や、のう白山~」

「ああああああ!」

 抑え切れない激情とナイフを手に、正輝は勢いに任せて突進する。

 殺気と共に繰り出された刃が海老沢の腹に突き刺さるか否かの瞬間、

 海老沢が鋭く足を突き出し、ナイフを持つ正輝の腕を蹴り上げた。

 その重い衝撃にバランスを崩した正輝はコーヒカップをぶちまけながら肩から地面に激突した。


「くそが!」

 叫びつつ、すぐさま立ち上がろうとする正輝の目の前には海老沢がいた。

(こいつ、いつの間に・・・)


 戸惑う正輝の顔面に、海老沢は、強力な蹴りを叩き込んだ。

 ガッと鈍い音がすると、鼻から血を噴出しながら正輝は再び地を這った。

「くそが・・」


 再び立ち上がろうと地面に手をつけた時、

 海老沢がナイフを握った正輝の拳を容赦なく靴の踵で打ちつける。

「んぐ!」正輝の声にならない呻き声と共に、ナイフは手からこぼれた。


 海老沢は転がったバタフライナイフを蹴って遠くにやると、

 鬼のような形相で顔、腹に関係なく怒涛のような蹴りを正輝に叩き込んだ。

 蹴りの嵐の中、なすがままに蹴り上げられる正輝、

 ・・・・・・

 どれくらい蹴られたのか分からない、疲れたからか?

 それも分からない(ただ、はっきりしているのは海老沢の足が止まったことだ!)


「うらあああ!」

 反撃の狼煙、正輝はボロ雑巾のような体で、海老沢の足元に執念のタックルをかました。

「ガキが!」叫んだが、さすがの海老沢も意表を突く正輝の反撃に対応しきれず後方に倒れ込んだ。

 正輝はすかさず海老沢に馬乗りになり、一発、二発と顔面を殴りつける。


「死にさらせ!」

 三発目を叩き込もうとしたとき、「おんどれ!」と声がしたかと思うと正輝の後頭部に激痛が走った。

 前川が椅子で殴りつけたのである。


 正輝は悶絶し、転がる。

 とどめとばかりに前川が、何十発も蹴りを叩き込む。

 芋虫さながらに転がる正輝は、なすすべなく打ちのめされると、

 熱い血潮に塗れ、水袋のように動かなくなった。


「さっきのお返しや!」

 言うや、前川は正輝の髪を掴んで顔を上げさせると、

 手にした鉄製の灰皿を思いっきり前歯に打ちつけた。

 歯が二、三本ねじ折れ、口からどろっとした血が流れ出た。


 さらにもう一発叩き込もうとした時、「もう、勘弁してやってください」と幹部の一人が言った。

 正輝の中学時代の先輩の男だった。


 嘆願する幹部の顔を海老沢が立ててやる。

「前川、そのへんにしといたれ」

「リーダーがそう言うなら、」

 前川は血の付いた灰皿を投げ捨て、ゆっくり立ち上がると、腹に渾身の一蹴りして正輝から離れた。


 先輩の幹部が言った。

「正輝、今からお前は俺らの仲間やない、チーム脱退や。

 ええな、もう二度と俺等に関わるな。

 これでいいっすよね?海老沢さん」


 海老沢は、幹部の男の心中を察して、提案を受け入れることにした。

 いや、どこかに白山正輝という男にこれ以上関わりたくないと、気持ちがあったのかもしれない。

 躊躇なくナイフを突き立てようとする、あの狂気の目に。


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