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距離

 第一学年 十月十四日 月曜日

 宝塚ゆずり葉高等学校 一年五組教室前廊下


 紅葉や銀杏が秋色に彩りはじめる頃、二学期の中間テストが、

 刻々と迫り一文字の心に焦りを産み付けていた。


 そう、確かに焦りはあるが、試験前日になるまで勉強に手がつかない、

 これが一文字の悲しい習性であった。


 五限目の別教室での授業を終えた一文字が自分の教室に向っていると、

 向こうから上原が歩いて来る。


 二人の距離が数歩になったとき、一文字は手をあげて挨拶をした。

「よお」

「こんにちは」

 すれ違いざま小さく頭を下げながら控えめな声で上原は応じる。

 そしてそのまま二人はすれ違う。


 これで五回目だった。二人は九月二十六日に初めて声を交わしてから、

 同じ挨拶を五回繰り返しただけで何も変わらなかった。


 ただ、すれ違う際に上原が残す凛とした清楚な香りだけが、

 一文字の感性に刻み込まれていくことを除いては・・・


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