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記事

 第一学年 九月三十日 月曜日

 宝塚ゆずり葉高等学校 一年五組教室


「おいおい、すごいな~、ほんまにお手柄やん」

 そう言いながら一文字が記事を読み続けると記者と上原のやり取りがQ&A方式で記載されていた。


 記者「犯人を捕まえたときに使った技はなんですか?」

 上原「小手返しという合気道の技です」

 記者「合気道はいつから初めたのですか?」

 上原「3歳頃からですが、正直、記憶にありません。物心ついた頃にはやっていました」

 ・・・・・・・・・・

 記者「本題ですが、犯人が迫ってきたときどんな心境でしたか」

 上原「恐怖でいっぱいでした」

 記者「犯人と戦ったときはどうでしたか」

 上原「戦っているときは必死で覚えていませんが、相手を抑えてから警察の人が来るまで恐怖でいっぱいでした」

 記者「犯人を捕まえれたのは、正義の心があったからですか?」

 上原「相手にも正義があると思いますので、私の行いが正義といえるかはわかりません。場合によって正義の定義は変化しますから。例えば家族が飢えたりしたら私だって同じことをするかも知れませんし・・・」


 ・・・・・・・・・・


 記者「今回の事件を通して何か感じたことはありますか?」

 上原「自分の信念を振りかざすことは相手を傷つけることがあることを常に認識して行動しなければならないことを再認識しました」

 ・・・・・・・・・・


「な、この佐那の返しが中学生とは思えんやろ?この独特の返しと佐那の可愛いさが芸能プロダクションの目に留まってな、女優にならへんかとスカウトが来たんよ、そん時、佐那がなんて言ったか知ってる?」

 嬉しそうに問いかけてくる林に一文字は「いや、わからん」としか言いようがなかった。

「岡君は想像力が乏しいな~、なんか来んと張り合いがないわ」

「芸能界って、こわいとこ・・」


 返しがつまらないことを見越して林は遮った。

「ありがとうございます。ですが私は全力で武の高みを目指したいのでお断りしますって言ってんで、半端やないと思わへん?」

「確かに半端やない・・・」

 (ある意味、お前もな)



 六限目の英語の授業は夢うつつの中で過ごしているうちに終わっていた。

 この日は九月と言えど、やけに寒く中庭掃除の順番が周って来た一文字は

 ひどく憂鬱な気分に襲われていた。


 とはいえ、現実には逆らえず竹箒を握り締め、落ち葉を掃く己の姿に、

 所詮は俺も社会的な動物の一員なのかと一文字は思わざるを得なかった。


「ほらほら、岡君、ポケットから手出して、両手でしっかり掃きや」

 川本に背中を突付かれた一文字は、寒気の中に泣く泣く手をさらし、

 大して落ち葉も無い地面を形式的に掃いた。


 そんな一文字にさりげない様子で川本が訊いた。

「そう言えば岡君、三組の林さんと知り合いなん?」

「なんで?」

「いや、なんか最近、よく話してるみたいやから」

「まあ、知り合いといえばそうかも知れんけど、俺のというよりは永島の知り合いやな」

「永島君の?」

「林さんは永島の中学からの友人みたいやで。

 俺はこの前、永島と総合の練習しに市民体育館の道場に行った時に、

 そこでちょっと話しする機会があってな、

 まあ、それからちょくちょく話するようになったくらいやな」

「ふ~ん、そうなんや」

「そうや」


「そう言えば、上原さんって子は知り合いなん?」

 そう問うた川本の声は秋の夕暮れのような物寂しさを含んでいるような感じがした。

 だがそれよりも上原という固有名詞の突然の出現に一文字の鼓動は高鳴った。


 寒さと動揺をごまかすようにせっせっと竹箒を動かしながら一文字は言った。

「ああ、その道場に行った時に林さんと一緒にいた子やで、その時、少ししゃべっただけやな」

「ふ~ん、そうなんや~」

 気の抜けたように応じた川本の声はいつもの元気な口調だった。


 一文字は川本の微妙な口調の変化が気にはなったが、

 上原の話が途切れたことの安心感で心がいっぱいになり、

 それ以上の詮索はしないことにした。


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