早口な女子
第一学年 九月二十七日 金曜日
宝塚ゆずり葉高等学校 一年五組教室前廊下
昼食を早々に切り上げた一文字は、バスケの誘いを無下に断り教室前の廊下の窓から景色を眺めていた。
いや、正確にはある人が通り掛かるのを待っていたのである。
窓の外を眺めていたかと思えば、横目で辺りを見回すといった胡散臭さである。
バシッ、景気よく一文字の背中が叩かれるとやけに早口な声がした。
「岡君やん、こんなところで一人でなにしてるん?」
振り向くとそこにはショートカットで丸顔の林がいた。
はずれガチャを引いた時の衝動を一文字は感じたが、
幼げな丸い瞳をじっと向けてくる林は、これはこれで可愛らしく思えた。
それにしても昨日の今日でこの挨拶とはなかなかに社交的というべきであろうか。
「よお、林さんやったな、昼食はもう食べたん?」
「そうやで、友達の中で私より早く食べれる子はいいへんから」
(早口だけに早食いか・・・)
「そう言えば今日は、昨日の二人とは一緒やないん?」
「なんや、佐那がいないから残念?」
本心を見抜かれたような気がして、正直、ぞくっとした。
「まあ、佐那はちょっと変わってるけど、性格いいし、可愛いし、気になるんは仕方ないわな。
まあ、そのぶん人気もあるから気いつけや」
「おいおい、俺は何も言ってへんで」
「さっき、私しかいいへんの見て、はずれ引いたみたいな顔してたし、
昨日だって、私らそっちのけで佐那ばっかり気にしてたやん。
アンタは分かりやすいから無理せんほうがええよ」
この女がすさまじい洞察力を有しているのか、それとも昨日今日あった奴に心を見抜かれるほど俺が単純なのか、一文字は困惑せざるを得なかった。
それにしても、会って間もない人の心中に、土足で踏み込んでくるとはいささか失礼な奴だと一文字が思ったときだった。
「ごめん、ごめん、気に障った?私、思ったことをすぐに口に出してしまう性分やねん、その辺は大目にみたって」
ぽんぽんと自分の頭を叩きながらおどける林は、なぜか憎めない。
いや、それ以上に、どうあがいても勝てないような気がした。
「そうそう、お詫びついでにすごいこと教えてあげよっか?」
「すごい事って?」
「聞きたい?」
「聞きたい」
「佐那のことやねんけど~」
「おう、」
「でも言ったら怒られるかな~」
「誰にも言わへんって」
「実はな、佐那ってちょっとした有名人やねんで、知ってた?」
「実は女優とか?」
「安易な回答ありがとう、でもその道もあったかも・・・」
「その道も?まったく見えてこうへんねんけど、」
「佐那が中二の時やねんけど・・」
事が明らかになろうとしたその時だった、
「おい岡!」
教室の入り口から顔だけ出した棚橋が、一文字を大声で呼んだのだった。
「なんや?」
「カード麻雀やるから、面子に加われや!一人足りへんねん」
「分かった、後で行くから少し待っててくれ」
「はよせえや!」と叫び棚橋は顔を引っ込めた。
改めて林に話を聴こうとしたときだった、当の林はどこか遠い目をしていた。
そして普段の倍の早さで言った。
「岡君、ごめん!五限目の宿題やんの忘れてたから、写させてもらわんと、それじゃ、また!」
呆然と立ち尽くす一文字は、バタバタと賑やかに走り去る林の後姿を見送るしかなかった。
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