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相談

 第一学年 七月二十五日 木曜日

 須磨海水浴場 


 むーっとする夏の暑さが、海水浴場ではありがたい。

 一文字、村瀬、川本、永嶋の四人は、海の家で借りたレジャーシートに並んで座り、寄せては引く波を眺めていた。


 一文字がそっと横目で隣を見やるとフリルのある白い水着姿の村瀬がいた。

 純白の肌が白い水着に映え、その姿は一文字に天使を彷彿させた。

 反対側を見やると紺の海パンを履いた、薄黒い冴えない男がいた。

 男は波に翻弄される海草たちを見ながら、その容姿に引けをとらないほど冴えないことを言ってきた。


「相変わらずここは海草まみれやな」


 かったるかったので、一文字がほったらかしていると優しい村瀬が永嶋に相槌を打った。


「ほんまやね、私も小さい頃からよくここに来てるけど、いつも海草だらけやね」

「まあ、あの海草も子供にとっては色々と使いようがあってやな、」

 一文字が村瀬に話しかけている途中にも関わらず永嶋が口を挟みやがった。


「あんな風にやろ」

 永嶋の指差す先には、海パンに海草を突っ込み「はみ毛、はみ毛」とはしゃぐ小学生達がいた。

 一文字は昔の自分を見ているような気がして少し暗い気持ちになった。


「な~んや、岡君もああやって使ってたんや」

「あほう、俺は育ちがいいからな、あんな低俗なことはせん!」

 人をなめきった口調の川本に一文字は反論したが、その言葉はどことなく説得力に欠けていた。

 一文字を庇ってか、村瀬がみんなを促す。


「浜辺は暑いから、そろそろ海に入らへん?」

 みんな異存はなかった。

 焼けるような熱い砂浜を駆け、一斉に海に飛び込んだ。

 青い水は冷たく、ほてった体に刺激と快適を与えてくれる。


 村瀬と川本はきゃーきゃー言いながら二人で水を掛け合っている。

 一文字も低い声できゃーきゃー言いながら、永嶋に水を掛けると生意気にも応戦してきた。

 一文字は足早に永嶋に近づき強引に背後を取ると、この野郎とばかり力任せにバックドロップを決めてやった。


「川本、受けろよ!」

 一文字は永嶋をそのままに持っていたゴムボールで女子達とキャッチボールをはじめた。


「ほったらかしか!」


 いつの間にか態勢を立て直した永嶋が、女子とボール遊びに興じる一文字の頭を泣く子も黙るほどの勢いでひっぱたいた。


 難しいボールを如何にかっこよくキャッチするかというファインプレー合戦で盛り上がった後、海の家で昼食をとっていた。

 一文字がラーメンをすすっていると永嶋の注文した焼きそばを日焼けした金髪の兄ちゃんが運んできた。

 兄ちゃんは一文字達の対面に座る女子の胸元をちらちら見やるとニヤつきながら去っていった。


 一文字は永嶋に焼きそばを食べさせてあげようと箸でとって口のほうに運んであげた。

「はい、永嶋君、あ~んして、あ~ん」

「もう、ええって、」

 永嶋が嫌がれば嫌がるほど、一文字は燃える。


「ほら、ほら、ふう、ふう、してあげるから」

 ふーっ、ふーっ、一文字は焼きそばに息を吹きかけ、冷ましてあげた上で永嶋の口に持っていってあげる。

「はい、あ~ん、ぐう!!」

「ええって言ってるやろ!」

 永嶋は思いっきり一文字の頭をひっぱたいた。その様子を見ていた女子二人はおかしそうに笑っている。


 なにを思ったのか川本が永嶋の焼きそばを箸で掴むと永嶋の口に持っていった。

「はい、永嶋君、あ~ん」

 こともあろうか、あれほど一文字の愛情を拒み続けた永嶋が川本の差し出す焼きそばには素直に食いつきやがった。

 一文字はどうゆうことやと永嶋を問い詰める。

 永嶋は人が人を見下すにときに浮かべる冷たい笑みを湛えた。


「当然やろ、お前の箸が付いたもんなんか、食えるか」

 ひどい、あまりにもひどい言葉だった。一文字は大きなショックを受けた素振りで、

「俺の永嶋をとるな!」と叫びつつ、川本のでこにツッこんだ。


 午後は海水浴とビーチバレーを満喫し、遊び疲れた一文字達は帰りの電車ではみんな眠りこけてしまい、乗り換え駅を乗り過ごしたりもした。


 一文字と川本と別れた永嶋と村瀬が二人並んで歩く頃、太陽は赤みを増し、ようやく一日の役目を終えようとしていた。

 永嶋は赤く変色した自分の腕を眺めながら村瀬に話しかけた。


「それにしても、今日は陽射しがきつかったから結構焼けたな、岡なんかオイルとかなんにも塗ってへんから真っ赤になっとったな。あれは痛くて今晩は風呂に入れんやろうな」

「うん、そうやね」

「村瀬さんもちょっと赤くなってるなあ、痛ない?」

「うん、大丈夫」

 岡と別れてから、どうも村瀬の返しに元気がない、どことなくそわそわしているようにも見える。

 永嶋は気になって尋ねた。


「どないしたん? 疲れたん?」

 少しの間、村瀬は沈んだ表情でうつむいていたが、緊張した面持ちで静かに言った。

「あのね、永嶋君に、相談に乗ってほしいことがあるんやけど・・・」

「え、なに・・・」

 そのあまりに深刻な村瀬の様子に永嶋は思わず生唾を飲み込み、次の言葉を待った。


「あ、あのね・・・」

 永嶋を見つめる村瀬の瞳は明らかに躊躇と動揺があった。

「私、今ね・・・、ごめん、やっぱりもうちょっと整理できてから相談するわ、ごめんね」

「おっ、おお、ええで、俺で力になれるんやったら、いつでも相談してや」

 その後、お互いになんとなく気まずく、別れの挨拶をするまで無言だった。


 永嶋は一人になってから、村瀬が何を言おうとしていたのか考えてみた。

(村瀬は、さっき何を言おうとしたのか? あの様子と男の俺に相談となると俺の周りに好きな奴でもいるのか?そう考えるのが普通や)


「それは誰か?」

(俺か? まあ、そんなわけはないか、)

 永嶋は一人で想像して、勝手に照れてニヤけた。


「じゃあ、誰や?」

(川本あたりなら何か知っているかもしれない。でも村瀬が相談していなかったら、相当の勇み足ということにもなる。ここは自分で考えるしかないか)


 夕焼け空を見上げながら考え深げに腕を組み、首を振る。

(パッと周りを見渡して思い当たるのは、岡か? 実際、最近、俺達との関わりが増えているのは確かだ。だとすれば? あいつら両想いになるな)


 永嶋は一人で勝手に納得し、場合によっては出来の悪い友人の肩を押してやることもあるかな、などと考えていた。

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