尊敬される人
第一学年 六月二十八日 金曜日
宝塚ゆずり葉高等学校 一年五組教室
この日はどんよりとした曇り空だが、一文字の心はここのところ、快晴が続いていた。
一緒にカラオケに行ってからであろうか、村瀬が一文字達にしきりに話しかけてくるようになったのだ。
優しい村瀬は気を遣って永嶋や棚橋にも話掛けているが、狙いは俺だろうと一文字は察していた。
「なに一人でニヤついとるねん」
春の陽射しのような暖かい妄想を冷たく汚れきった声が打ち砕いた。永嶋のやろうだ。
「ニヤついとらんわ、なんの用や?」
「昨日のポーカーの負け分、二百円、払えって」
奴の濁りきった欲望のために一時の幸せが台無しにされたかと思うと、親から貰ったこの人差し指と中指で目潰しをかましてやりたかった。
「百円に負けて」
「あかん、一円たりともまけるつもりはないからな」
金に汚い永嶋の決意を見届けた一文字は、しぶしぶと百円の裏に五十円を重ねて渡した。
「小細工はええから、後、五十円払えって!」
シャレのわからん奴だ。そんな時、村瀬と川本がやってきた。
「また、二人でしょうもないことやってるん?」
「しょうもなないわ!」
嬉しそうに言った川本のでこ(額)に一文字はツッこんだ。
「きゃっ、痛い、痛い、もうなにすんの~」
そう言いながら額をさする川本は、ツッこまれて嬉しそうだった。
営業時間を過ぎた近所のスーパーの駐車場は広く、静かだった。
一文字はバイクの教習所に通う前に少しでも慣れておこうと、銀平のバイクに乗せてもらっていた。
ぎこちない半クラッチながらもなんとかエンストをおこさずに走行することができたし、
「筋がいいで」という銀平のおだてにも乗り、それなりに自信をつけることができた。
バイクの練習が終わり、一文字おごりのコーラを二人は飲んでいた。
欲張ってお徳用500ミリリットルサイズを購入した銀平が言った。
「一さん、なんか寒なってきたな、コーラは失敗やったな」
「ほんまやな。まあ、俺のおごりや、ぐーっとやってくれ」
「そうか、ありがとう」
礼を言う銀平は辛そうだ。そんなことには気づかぬ素振りで一文字は銀平に尋ねた。
「なあ、銀ちゃん、尊敬される人ってどんな奴と思う?」
「突然やな、そうやな・・・」
腕を組み、少し考えて銀平は言った。
「例えば、あそこに落ちてるゴミ。あれを人が気づかん所で、そっと拾う人かな」
「人に気づかれんかったら、尊敬されへんのちゃうか?」
「いや、そういう人は、自然と尊敬されるオーラがでるんや。一さんには少し難しかったかもしれんな」
「すまん、まじで難しいわ」
「そうか~、じゃあ、スタンダードでもっと自然なやつをやってみようか」
言うなり、銀平はクシャクシャで汚い鼻くそが付いてそうなハンカチを一文字に手渡した。
「くさっ、なにこれ」
「ええから、それを歩きながらさりげなく落としてくれ」
一文字は、先が読めたような気がしてうんざりしながら言葉に従った。銀平が言いやがった。
「お嬢さん、ハンカチ落としましたよ」
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