体育祭
第一学年 六月十六日 日曜日
宝塚ゆずり葉高等学校 第一グランド
雲一つない青空とまではいかないが、天気は快晴でまさに体育祭日和であった。
数日前の出場種目決定の日、一文字は走るのがかったるかったので走り高跳びを選択したのだが、
走り高跳びの選手は皆、背面跳びでありベリーロールで挑むのは一文字だけだったのだ。
当然ながら結果は最後尾であった。
敗北の二文字を背負った一文字は自クラスの席に座り、目の前で行われているトラック競技を無関心に眺めていた。
男子五百メートル走という誰も関心を持たない競技をそこそこの成績で終えて戻ってきた永嶋は一文字の隣に座るや、声を掛けてきた。
「お疲れ、カッコよかったわ」
永嶋はそう言うと一人で勝手に大笑いしやがった。
『いつか殺す』
を胸に一文字も一緒に笑ってあげた。
「おい、岡! あそこにお前が見とれとった子がおるで」
「あほか、別に見とれてへんって!」
永嶋が指差す先には雨の中に消えた、あの髪の長い女生徒がいた。
走りやすくするためか女生徒は髪を後ろで束ねていた。
胸のゼッケンには『一―三 上原』と書かれている。
「お前の見とれとった子、上原っていうみたいやなあ、今から百メートル走の決勝に出るみたいやぞ」
「だから見とれてへんって」
一文字達がそうこう言っている間に上原をはじめ、百メートル決勝に残った六人の女子がスタートラインに並んだ。
一文字は上原の隣に並ぶ日焼けした絞られた体格の女子を発見して叫んだ。
「おい!あいつは速そうやな、どないやねん?」
「どないって、あいつは俺と同じ中学出身で陸上部の瀬田っていう奴や。中学の時は女子の中で一番速かったなあ」
「反則やろ!」
ピストルが鳴ると六人は一斉に大地を蹴りだし走り出した。
舞い上がる砂埃の中、抜き出たのは瀬田と上原だった。
走るには少し邪魔なようだが、風に乗って波打つ上原の髪は、漆黒の気高き龍のようにも見えた。
ラスト十メートル、瀬田が、最後の加速を敢行する。
それまで負けじとくらいついていた上原だが、さすがにそれ以上はスピードが出せず、おしくも負けてしまった。
敗れはしたが、その顔には全力を出し切った者の満足の笑みがあった。
その笑顔が異常なほどに綺麗で、もはや順位など、どうでもいいことだと一文字には思えた。
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