とても賢い子と勇者
あるところに、魔王を倒すために旅をしている勇者がいた。
そんな勇者は、とても賢い子と出会った。
その子はとても頭がよく、色々な事を質問したらすべてに答えることができた。
勇者が出会った子は、見た目は子供だけれども、子供らしくない子供だった。
我儘も言わず、礼儀正しい。
まるで大人のようだった。
だから勇者はあやしんだ。
ふつうと違うものは、警戒すべき事かもしれないと。
だから、勇者はその賢い子の保護者となり、一緒に旅をする事にした。
賢い子には、親も友達もいなかったため、旅をすることに障害がなかったのが幸いだった。
旅の中で、賢い子はさらに賢くなっていった。
元から色々な事を知っていて、何でも答えられたが、さらに物知りになっていった。
一般的な事じゃない事まで覚えていき、様々な分野の専門家とも名乗れるようになった。
勇者はそんな賢い子に助けられたが、警戒すべき心も忘れなかった。
旅は順調に進んでいき。
勇者は魔王を倒すための戦いに臨んだ。
勇者はたくさん傷ついて、魔王もたくさんの傷を負ったが、最後に立っていたのは一方。
勇者の方だった。
世界は魔王に大変困らされていたため、これで皆平和に暮らせる。
勇者はそう思って安堵した。
そうしたら、賢い子が勇者の目の前でキラキラと光になって消えていくところだった。
目の前の光景を見た勇者は、これはどういうことかと狼狽する。
賢い子は、魔王が勇者に勝ってしまった時の保険だった。
魔王が世界を滅ぼしてしまった時、その世界の人々が紡いだ知識や歴史を無駄にしないための「生きる図書館」だった。
しかし、勇者が魔王に勝ったため、存在する理由がなくなったのだった。
そこにいたって勇者は賢い子に名前を付けなかったことを後悔した。
危ないかもしれないからと、必要以上に仲良くならなかった事を悔やんだ。
けれども、時は戻らない。
勇者の目の前で、賢い子はみるみるうちに消えいってしまう。
涙を流す勇者に賢い子は初めて嘘をついた。
「僕は何でも知ってるから、天国がある事もわかってるよ。だから死んでもゼンゼン不幸なんかじゃないから大丈夫」
勇者はその言葉に安堵しながら、消えていく賢い子に名前を付けて、最後に消えていくまで見奥ったのだった。