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紙の書籍の良さについて

作者: 遺書

電子書籍と紙の書籍、どちらにもそれぞれの良さがあります。

電子書籍は目に悪いので紙の本を購入しようと思っている。いや、これは半分嘘だ。

半分嘘の半分の本当の部分は、もちろん目に悪いという部分であるのだが、実際画面を見続けることによって気がつかないうちに随分目が疲れ切っていたらしく、時折開けられないくらい痛むので今まで人生で使い切ったことのない目薬をわざわざ買って、それを差し続けているくらいには乾き目が酷い。


そもそも今まで手を出してこなかった電子書籍、それも漫画でない小説に手を出したのは、人生で五度挫折した夢野久作のドグラマグラを成人記念(遅!)に今度こそ!と読み始めたからである。ちなみに六度目の挫折を経験した。序盤の蝿が飛び回る音の部分だけを何度も読んでいる。

難しい文章に嫌気がさして、折角日本人に生まれたのだからと今度は夏目漱石に手を出した。Appleのブックアプリで文豪の名作が無料で読めるのだが(Appleの、というのは俺がiPhoneを使っているからであって、Androidの本のアプリでも無料で読めるのかもしれないが、生憎俺はAndroidを使っていた頃は専ら紙嗜好主義で電子書籍でわざわざ小説を読もうと思ったこともなかったし、Androidに既存の本のアプリがあったかすらも記憶していない)(書籍の著作権は著作者の死後70年で切れるため、文豪と名を連ねる著者の作品は大抵無料で公開されている。本当に良い時代に生まれてきた!)、選びたい放題の中夏目漱石のこころを選んだ。

ちなみにこれを選んだのは、昔読もうとして一度挫折したからである。挫折しすぎではないか?いや、ポジティブに考えよう。この厭世でポジティブに考える力というのはこれからの時代いちばん大切になっていく、と思う。恐らく多分きっと。学生の頃何度も挫折を経験するほど、俺はたくさんの活字に触れられていた、ということだ。よし。

そうしてリベンジのつもりで読み始めたこころ、これがどうにも面白い。いや、話の大筋はそれほどまで面白いということもないのだ、どこにでもあるような話なのだが、文章が綺麗で惹き込まれるようで、不思議と頭に入ってくる。この文章をもっと読みたい、ずっと読んでいたいと、長編小説は病気で頭を悪くしてから嫌厭していたのだが、ついに半分まで読んでしまった。


そこで止まっているのは先程書いた目の痛み、それからもうひとつ、これは半分嘘の部分である。携帯でこつこつ読み進めていたのだが、どうも携帯で読んでいると気が逸れる。というのも、携帯というのは本来の用途の通り通知が来る。もちろん、切ってしまうこともできる。のだが、やはり気になってしまう。甲斐性無しなのだろう、これは今に始まったことではない。

と、気が逸れ、逸れ続けた結果、読んでいたところを忘れてしまう。それに途中でアプリを閉じるとどういうわけだかいちばん初めに戻っていることもある。これは本当に腹が立つし、それが読み始めるのに俺の腰を重くする。時折その重い腰を上げて読もうと取り掛かることもあるのだが、結局気が逸れて2、3頁かそこら読んで閉じてしまう。そうして初めに戻る。その繰り返しで、とうとう1ヶ月は読んでいない。

といったところ、太宰治の斜陽を読んだ。紙の書籍で、そして2日で読み終わってしまった。こちらも特に話が面白いというところもなかったのだが、いやこれは嘘だ、時折目頭が熱くなったし、だが夏目漱石に比べて読みづらいところも確かにあった。そうして紙の書籍の没入感、それから匂いが良いことに気がついて、せっかくなら金を払って購入して読むのも良いな、と思った。電子書籍は読んだ後残らないが、紙は読み終わった後も保管しておけるし。

そうだ、読んだ太宰治だってもう5年も部屋の本棚に入ったままだったのに、変わりなく読めたのだから、読まなくたって買っておけばいつか読むのだ。


20代も後半に差し掛かる頃に俺はもう一度太宰治を読むだろう。そうして30代の折にも、きっと思い出して読むだろう。俺の悪い頭はその度に忘れるのだろう。そうして思い出して、感性の違いに感動するのだろう。今からそれが楽しみで仕方ない。

ああ、死ねない。せめて30いや、40を超える頃までは。同じものを繰り返し見る癖も、たまには面白いこともあるのではないか。何だ、思い悩むことでもない。まず買うばかりで読まずに溜まっていく朝井リョウを読もう。最新作も欲しいのだ、面白そうな本ばかりを出して来るのだからお金は出て行くばかり。

明日、また金を少しばかり無くして、代わりに俺の本棚には新しく夏目漱石のこころが入ることだろう。楽しみばかりが増えて行く。これほどまでに心が躍るのは、やはり文章のみだ。逃げられないのだろう、きっと。

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