のぞく
「超常現象の存在は必要だが何も超常現象は起きない小説」を書くために2011年頃に書いた習作です。
当時、同条件でこの他四作ほど書きましたので、明日以降順次投稿していきます。
UFOと思春期直前の少年少女のマリアージュっていいですよね?
※pixivに掲載済みのものを加筆修正して投稿しています。
裕くんはUFOが大好きな小学4年生です。
小さい頃に、テレビでミステリーサークルを作るUFOの衝撃映像を偶然見てしまって以来のUFO好きです。
どの位好きかと言うと、お小遣いを貯めてコンビニで大人が買うようなオカルトの本を買ったり、新聞のTV欄を毎朝チェックして、そこにUFOの文字があればその日は一日興奮しっぱなしになる程です。
だから、UFOを本当に見てみたい、と裕くんが思うのも当然でした。
アメリカで撮影されたヘリコプターの横を飛び去っていく猛スピードのUFOや、ブラジルやチリに現れた巨大UFOのような物を見たいと、痛切に思っていたのです。
裕くんはいつも空を見上げていました。
ですが、UFOは一向に現れません。
ひょっとして明るいと見つけにくいんじゃないか。
裕くんはそう考えました。
でもそう簡単に夜中外出出来る訳がありません。
だって裕くんは小学4年生なのですから。
そこで裕くんは考えました。
考えて考えて、とうとう完璧な作戦を思い付いたのです。
夏休みの自由研究、それを夏の星座をテーマにしよう。
それならお母さんもお父さんも夜に出かけるのを許してくれるだろう。
作戦は、まあ大体成功しました。
一人で出かけるのは危ないからと、お父さんがついてくる事になりましたが、それは当然と言えば当然でしょう。
その代わり、自転車でも行けない程遠い、動物園の近くの公園まで車で連れていってくれる上、お父さんの大きな双眼鏡も貸してくれると言うのですから、文句を言ってはバチが当たります。
裕くんにとって、大体成功、となった理由。
それは加奈ちゃんが付いてくる事でした。
加奈ちゃんはご近所さんで幼稚園以来の幼なじみです。
三年生頃までは結構二人で遊んでいましたが、ここ最近疎遠になっていました。
お年頃ですもの、仕方ありません。
ところが昨日、偶然会った加奈ちゃんに、裕くんはつい自由研究の話をしてしまいました。
作戦成功が嬉しかったのでその勢いでした。
すると、加奈ちゃんは直接裕くんのお母さんにお願いして、一緒に天体観測に連れていってもらう約束を取り付けたのです。
お母さんは加奈ちゃんがお気に入りでしたし、お父さんはそれ以上にお母さんがお気に入りですから、お願いは裕くんの意見は一切聞かずに成立しました。
だから、夕飯の後ワクワクしながら助手席に乗り込んだ裕くんが、後部座席にちょこんと座ったタンクトップ姿の加奈ちゃんを見つけた時の驚きと言ったら。
文句の一つも言おうかと思った裕くんでしたが、お父さんを怒らせて作戦が台無しになってしまうのは避けたいところでしたし、久しぶりに加奈ちゃんと出かけるというイベントに何処となく心が動いてしまったので、黙って助手席に座りました。
車は公園に向けて出発します。
お父さんと加奈ちゃんは楽しそうに話しています。
裕くんはじっと窓から外を眺めています。
ちょっと混ざりたいな、と考えなくもなかったのですが、自分から切り出すのは恥ずかしく、どちらか話を振ってくれないものか、とか思っている内に、車は公園の駐車場に到着してしまうのでした。
お父さんは裕くんに双眼鏡を渡すと、早速煙草を吸い始めました。
家で吸ってはいけないとお母さんと約束している、というか、させられているので、お父さんはこれが楽しみだったのです。
あまり遠くにいくんじゃないぞ。そう言うお父さんに生返事で返し、裕くんは一番高い場所、展望台を目指して走り出します。
加奈ちゃんが慌てて着いていきます。
可愛らしく唇を尖らせ、不満を表していますが、勿論裕くんは気付いていません。
小高く土を盛り上げた山の頂上に手摺りとベンチが置かれただけの展望台は、周りに街灯が立っていて本当なら天体観測に不向きな場所ですが、裕くんはそんな事お構いなしです。
ベンチにまで跳び乗り、裕くんは双眼鏡を覗きます。
この為に自由研究まで決めたのですから、裕くんは夢中で空を見上げます。
晴れた夏の夜空に星は瞬き、自分をまったく無視する裕くんに機嫌を甚だしく損ねた加奈ちゃんも、思わず息を呑んでしまう美しさでした。
しかしそれは裕くんにとって一切関係ない事で、何処かに動く光が無いか、あわよくば視界にくっきりとUFOの一つや二つ入ってくれないか、そればかりを狙っていました。
どれ位そうしていたでしょう。
裕くんは突然脇腹に走った痛みに声を上げました。
犯人は加奈ちゃんです。
Tシャツごと裕くんの脇を思い切り抓ったのでした。
抗議しかけた裕くんでしたが、こちらを見上げる加奈ちゃんの表情に記憶が警戒信号を発します。
この顔になった加奈ちゃんとはかなりの確率で喧嘩になったものですし、その喧嘩に勝った覚えはありません。
貸して。手を伸ばした加奈ちゃんに大人しく双眼鏡を渡すと、裕くんはベンチに座りました。
流石に首の後ろが突っ張っている気がします。
早速加奈ちゃんも空を眺めますが、裕くんと違ってベンチに乗るような行儀悪い事はしません。
綺麗。
そっと呟いた加奈ちゃんの声に、そう言えば二人きりだ、と裕くんは今更のように思いました。
隣に立っている加奈ちゃんの存在を急に意識してしまい、意味も無く辺りを見回したりしていた時です。
斜め上を何気無く見た瞬間、裕くんは見てしまいました。
サイズが大きかったのか、洗濯の末に少々伸びたのか、両腕を上げて双眼鏡を見ている加奈ちゃんのタンクトップの脇の下が、大きく開いていたのです。
日焼けした顔や腕とは、まるで別の生き物のように白い肌でした。
その肌は、ほんの少し、本当にささやかながらも確かな曲線を描いていて、薄桃色に染まった先端が、加奈ちゃんの呼吸に合わせて、小さく上下しています。
これは見てはいけないものだ。
裕くんはそう直感しましたが、目が離せません。
小さな頃は一緒にお風呂にも入ったものですが、そんな思い出など役に立たない破壊力です。
その時、不意に加奈ちゃんが双眼鏡から目を離し、裕くんを見下ろしました。
タンクトップの中を見つめていたのがばれたのか、と一気に恐怖が襲いかかってきた裕くんでしたが、加奈ちゃんはにっこりと笑います。
来て良かった。
ありがとね。
そう言って双眼鏡を手渡す加奈ちゃんに、裕くんは曖昧な笑顔で返す他ありませんでした。
結局UFOを見る事も無く、その夜は終わりました。
帰りの車の中でも加奈ちゃんとの会話は無く、家に彼女を送り届けた時も別れ際に軽く会釈っぽい物を交わしただけでした。
裕くんも家に帰ってお風呂に入ると、すぐに自分のベッドに潜り込みます。
いつもなら、広大な宇宙を飛び交うUFOを想像しながら裕くんは眠りにつきます。
ですが、今日だけはどう頑張ってもその絵が出てきません。
目を閉じると、あの時の加奈ちゃんだけが、あの白い膨らみだけが浮かんで仕方が無いのです。
眠いんです。
凄く眠いはずなのです。
でもその日、裕くんは明け方まで眠る事が出来ませんでした。
何故でしょうね?
2024年12月1日に東京ビックサイトで開催される文学フリマ東京39で、UFOや超常現象など、我々の世界をささやかに彩る事象を、肯定/否定などの立場を越えて慈しむサークル「Spファイル友の会」(G-59)から『UFO手帖9.0』が頒布されます。
小説ではありませんが私も「UFOと漫画」というエッセイで参加していますので、ご来場の際はぜひお立ち寄りを。