尾高
「夏休みで帰省されると聞いて楽しみにしてたんですよ。
本当に噂通り綺麗な方ですね。」
春と別れた後の莉夏も最悪な目に遭っていた。
尾高とマンションの前で会ってしまったのだ。
そして、あのバラは尾高が莉夏宅に持ってきた物だったと。
死霊に取り憑かれた男がニコニコしてる。
背筋がゾワゾワする。
一刻も早く逃れたい!
有間が自分だけにげようとしてるので、しっかり腕を掴んだ。
「お花、ありがとうございました。
でも、お世話が大変なんでヤメて下さいね~」
引きつりながら笑顔で話す。
「すみません、お菓子の方が良かったですか?
今度から気をつけます。」
「いえ、わざわざ要らないです。お家賃いただいてるので。」莉夏なりにハッキリと拒絶しているのだが…
「いえいえ大家さんなんで!また改めてお菓子を
持って参ります。」と深々と頭を下げる。
「急に深夜用事もないのに家に来られるのは
迷惑なんで!
ウチの母に渡して置いて下さい。」
有間が庇う。
「うん?君、誰?」有間を訝しげに見る。
年下と見たら急に態度を変えるタイプか?
「秋津不動産に一任してるので、そちらへお願いしますね〜
彼は私の従兄弟で婚約者で秋津不動産の息子なんですよ〜
帰ろ!有間!」
莉夏がカチーンと来たのか?
そのまま、有間の手を引いて自宅に入った。
「俺ん家、あっちだよ〜」
「一人で家戻ったら、なんか付いてきそうじゃん、あの人!
イヤだから、しばらくこっち居て!」
莉夏がプリプリしてる。
「あ〜っ、ああいうの予想してなかったよ〜
家族向けに中作っといたのに〜!」
髪をクシャクシャにしてイラついている。
「まあ、就職したら帰省もほとんど出来ないし、
あっちも宅地が全部売れたら大阪戻るでしょ。
今年だけの辛抱だよ。」
有間がなぐさめる。
「アンタは一応許婚なんだから、もっと強めに出てよ!」
「え〜っ、やだよ〜婚約は便宜的なもんだし。
俺にも結婚を夢見る権利があるよ〜ガフッ!」
どうも玄関の置物で殴られたようだ。
「チッ、噂ほどじゃないじゃん!
男いるし!」
尾高が舌打ちする。
爽やかイケメン風な顔が一瞬で歪む。
上場企業のリーマンらしく建前と本音を見事に使い分けているようだ。
「でも、この広大な平地は魅力的だよ。
3年前本部はなんで諦めたのか?謎だな。」
死霊が周りを囲み男を食い殺そうとするが
男には何の効果も無いようだった。
「え〜っ、じゃあの死霊男がこのバラの人だったんだ。」
帰宅し春と莉夏でご飯を食べながら話しを聞く。
バラは母の栄子が鴨居の取手に逆さまに吊るしていた。
今夜は栄子は遅いらしい。
「急に家にオバケ連れて来られたらイヤだね〜」
昼間はあのクソガキにボロクソ言われたが、
莉夏を長年見てて羨ましかった事は、一度もない。
言い寄ってくる男は、ろくでも無いし!
本当にビックリするくらいだ。
もう、この頃では選考した科目で新しい教室入ると
誰か近付いてくるか?
春でも分かるように。
ちょっとでも感じ良い容姿良い子は、絶対来ない!
ブ男か容姿良いのはクセ強ナルシストか?
不憫な境遇しか無かった。
ではなぜ、莉夏は男達を払わないのか?
それは天然の防波堤になるから。
男達は牽制しあって、誰かが前に出るのを許さない!
外から来る男なぞ、速攻はじく。
SPを無料で引き受けてくれているのだ。
しかし、ココにはその防波堤もSPもない。
有間は便宜上婚約者だが、それは本当にポストに
入る気持ち悪いラブレターや急な縁談話や
田舎のスケベ親父ども除け用だ。
美人のメリットなんてほぼ無い!
そして今また、死霊男にどうも目を付けられたらしい。
「ねえ、春。今からでもボディーガードのバイトしない?有間より絶対頼りになるし!」
「えっ、でもバイトの契約あるし、シフトもう決まってるし〜」春が困惑する。
「だよね〜ごめん」莉夏がガックリする。
男みたいとかチビとか言われてる方が人生楽な気がする。
本当に素敵な男性は、そういうの全く気にしないし。
有間も山背も莉夏にも春にも態度変えなかった。
なのに、あのクソガキ…