アキラ
「北部建設のエリートサラリーマンね〜401号室の尾高さんは。」
翌日有間の母の小夜子さんのお店に行くと
401号室の尾高さんの契約書見せてくれた。
「なんで奈良に住んでるの?」有間が聞く。
「今、ニュータウンで住宅販売やってるのよ。
どんどん大阪から家買って人が入ってるからね〜
307号室の畑中さんも縁起が良い病院の近くに住みたいから
家買うかも?と言ってたわよ♪」
店子が減るのに小夜子さんは嬉しそうだ。
「やっぱり自分の城って感じるじゃない?戸建ては。」
「でも尾高さん、帰りが遅いんですが、そんな遅くまで販売してるんですか?」
春が聞く。
「あら、変ね〜現地販売所は6時に閉まるし。
あっ、もしかしたら大阪支社に行ってるのかもね〜
分かんないわ。」
小夜子さんが明るくいい加減に笑う。
有間の大らかさはお母さん譲りみたいだ。
「販売店は閉店6時なのに帰宅はいつも10時過ぎだ。
どういう事なんだろね〜?」
有間が首をひねる。
昨夜は幽霊に囲まれたらしいが、塩撒いてお帰りいただいたらしい。
「あの変な子の言う通り、ゴキブリ見たみたいに
去っていったよ〜」
なぜかちょっと得意気だ。
「畑中さん家の子ね。ずっと入院してたから世帯欄に
名前が無かったんだね。」莉夏が納得する。
「無事にアキラ君と書かれてたし、良かった!
生きた人間で。」少し安心してる。
「でも、浮遊霊歴の方が長いからなあ〜」春がガクブルする。
「つまり、私達が最初に4階で会ったのは浮遊霊の
アキラ君ってことかな?」莉夏が理解しょうと苦しんでいる。
「俺は信じないぞ!そんな簡単に身体から出たり入ったり出来たらオカシイだろ!
そういう非現実的な話は信じないよ〜」
有間がオバケのポーズをしながらフザケている。
『まず、貴方が訳分からんが…』心の中で春が呟く。
竹藪で見た顔は誰なんだろ?
莉夏も知らない人だった。
秋津島の庄屋屋敷は不思議がいっぱいだ。
『そりゃ、神武天皇もわざわざ来るよ、九州から。』
また心の中で呟いた。
バイトがあるので、単線電車で帰る2人を見送り、
春は町中のドーナツ屋へ。
制服に着替えて店頭のレジに入る。
夏休み中なので、店内は子供連れでにぎやかだ。
ふと視線を感じ奥の席を見るとあの子が座っている。
今日はどっちだ?
遠目だと分からない。
近付くと息使いやら体温か?生身かどうか?
辛うじて分かる気がするが…
オーダーの品物届けるついでに声を掛ける。
「今日は、どっち?」
「変な聞き方。僕は畑中アキラ。小学5年生だよ。
こわいお姉ちゃん。」
「あなたの方が、ずっと怖いわよ!1人でこんなとこ
居るわけ無いからオバケね?」
「さあ〜それはどうかなあ?」また不敵な笑みを浮かべている。
「あの〜うちの子に何でしょう?」後から声がした。
「あっ、すみません!畑中さん!
お子さんが1人だったので気になって!」春は大急ぎで取り繕った。
ふう、今日は生身だったのか!
ややこしい!
畑中さんは、怪訝な顔をしてる。
「お母さん、大家さんのお友達の小さなお姉ちゃんだよ!
大家さんと従兄弟さんが大きくてキレイだから目立たないけど。
小さいお姉ちゃん、居たよ。」
アキラがすごいトゲのあるサポートすると、
「ああ〜大家さんの横に居た小さい男みたいなお姉さんですね〜
失礼しました〜」
畑中親子、キライだ!
春の中で決定した。
「どうぞ、ごゆっくり…」引きつりながら会釈だけしてその場を去った。
アキラが心底面白そうに口元だけで笑ってる。
『あんのクソガキ!』
レジに戻った春は、足元の要らないレシート入れを
蹴った。