奇跡の子
小夜子さんに確かめたが3階の住人に小学生が居る
家庭は無かった。
「やっぱりあの子も幽霊?」有間がかき氷機で削った氷に
莉夏がシロップを掛けながら皆に渡す。
「ありがとう〜冷たい!
でも足あったよ、あの子は?」
春が滲みたのか頬を押さえながら言う。
「顔だけの男はオジサンじゃなかったよ!
全然知らないオッサン」
一気にかきこんだ有間も冷たかったのか両頬を押さえる。
「でも、幽霊に住み着かれると困るよね〜
どうしょう?」
これ以上噂が広がるとマンションの経営にも支障が出る。
どうしたものか?
「やっぱりお祓いか…」長い黒髪を指に巻きつけながら悩む。
「霊能者とか知ってるの?」春が質問する。
「いや〜全然!
でも母が噂でスゴい霊能者が現れたらしいとか言ってたんだよね〜最近」
「すごい!シャーマンじゃん!」有間が面白がる。
「古代はここらでもシャーマンが政治司ってたらしいよ。
政治の事、政って言うのもそのせいだし。
平安時代も陰陽師とか権力者の横には必ずシャーマンがいたんだ。」
「へ〜っ」春と莉夏が感心する。
「じゃあ、お母さんにそのシャーマンに会えるよう
頼んでみるか?」
莉夏がスーパーに居る母に電話を入れた。
意外にシャーマンは近くに居たみたいで、母に頼まれたと
その婦人が程なく莉夏の家に来た。
「大家さんのお宅って、こうなってたんですね〜
スゴいお屋敷!」
ニコニコしながら、細身で顔も細長い女性が微笑んでいる。
「あの…マンションの方ですよね?」
莉夏が聞く。
「はい、307号室の畑中です〜はじめまして」
なんと!
村民マンションの賃貸部屋の人だった!
「あの、じゃ、幽霊の噂、知ってるんですか?」
「私は見たこと無いですが、噂は聞いてます〜」
何とも間延びしたのほほんとした女性だ。
「でも霊の気配とか分かるんですよね?霊能者って?」春が聞く。
「あっ、私じゃないんですよ!うちの子なんです〜」
手をひらひら振りながら、その婦人が答える。
「まだ駅の反対側の大学病院に入院してるんですが、
検査が済めば、来週には退院できると思います〜」
「そういうことなんですね〜」莉夏まで話し方が伝染してる。
「ずっと5年間植物人間だったんですが、大阪の大学病院がこちらに移動するので、
うちも一緒に奈良に来たら、息子が突然目覚めて!
ビックリしました。」
北部建設が自然公園の1部となってる莉夏の家の山を
買い取ってニュータウンにしょうとしたが、県からやはりなかなか許可が降りなかったようだ。
そこで、大阪の有名な大学の医学部と大学病院が手狭で困ってる話を聞きつけ、
奈良の開発したニュータウン内に医学部と大学病院を
誘致したのだ。
おかげで地域医療で穴が空いていたこの地区に地域医療支援病院が出来ることに。
北部建設は行政とうまく折り合いを付けたらしい。
そして、ずっと5年間植物人間だったこの女性のお子さんもタウン内の大学病院に入ったら!
突然、目覚めた!
そして、病院内の不思議を次々と言い当て、そのほとんどを解決してしまったと言うのだ。
スーパーを利用する病院関係者から、その噂が莉夏の母、栄子の耳にも入ってきたのだ。
「息子が言うには、ずっと彼らと身体から離れて遊んでたんだそうです。
不平不満を人間に伝えたいがうまく伝わらなくて
怒っていたそうで。
だから、起きたら最初に解決してあげようと思ってたみたいです。」
「なぜ、急に目覚めることが出来たんですか?」
莉夏が聞く。
「それが本人も不思議らしいんです。
こちらでも皆と浮遊してイタズラしたりしてたら
光る浮遊体を見つけたらしくて。」
「光る浮遊体?」春が首をかしげる。
「触れたら身体の中に入ってきたそうで。
そしたら、目が覚めたみたいです。」
「不思議な話ですね〜漫画みたい」有間が失礼な言い方をする。
「ちょっと〜」莉夏が有間をにらむ。
「いえ、子供なのでそういう例えになるんだと思います〜気にしないで下さい〜」とニコニコしていた。
退院してきたら、また会わせてくれると約束して
その女性は帰った。
「どう思う?」春が莉夏に聞く。
「う〜ん、不思議な話だよね〜でも、私も光るフワフワしたもの…なんか見た気がするんだよね〜昔」
「ヘ〜ッ、でどうしたの?」
「それが記憶が無いんだよ。前後記憶が無い。」
莉夏が少し不安そうだ。
「有間は?そんな経験ないの?」
「ないね〜」なんか憮然とした顔をして答えた。
機嫌悪そう…