動物園
セミの声だけがシャンシャンと響く部屋の中、
アキラの話に春も莉夏も有間も戦慄したまま声が出ない。
「そんなことが可能なの?西成って」
生粋の関東育ちの春が口火を切る。
「あそこなら可能なんだよなあ〜おかしいけど」
有間も莉夏も目線を落とした。
まさか大阪府警の試験後、皆でお茶した時の話が!
莉夏のマンションの幽霊話と繋がっていたとは…
「キレイなお姉ちゃんのおかげでマンションの幽霊話は解決したけど、
事件は解決してないんだよね〜」
両膝を抱えてソファに埋もれながらアキラが唇を尖らせている。
「幽霊達は、まだ苦しいままみたい、かわいそうなんだよ。多分シアン化合物だと思うんだよね〜」
「うん、シアン?」3人共文系なんでキョトンとする。
アキラがため息ついて首を降る。
「青酸カリだよ?知らない?」
「ああ〜それなら聞いたことある!でも、そんなに簡単に手に入るもんなの?」
春が聞く。
「う〜ん、西成ならヤクザもいっぱい組事務所あるから…金積めば、誰かしら用意してくれると思うなあ〜」有間が頬杖を付きながら話す。
「ハァ〜日本じゃないみたい!」春は天井を仰いだ。
しかし…いくら病院で浮遊霊していたにしても…アキラは薬品まで詳しいのか?
「ねえ、アキラくん、薬の知識ってやっぱり病院に長く居たから?」
アキラが一瞬大きく目を見開く。
「普通じゃないの?小さいお姉ちゃんがバカなだけだと思った。」
「オイっ」思わず立ち上がる。
「私は春!で、キレイなお姉ちゃんは莉夏、キレイなお兄ちゃんは有間!
特徴で呼ばなくて良いから!」言いながら悲しい。
「アキラくんは、人間世界は久しぶりなんだから〜
同世代とはこれから仲良くなるよね?
春は子供じゃないんだから〜もう、ねっ?」
莉夏が子供の挑発に乗ってる春をいさめる。
「でも、警察にこんな話しても信じてくれないし。
証拠も無いよね〜
どうしたものか?」莉夏が腕を組んで首をひねる。
「僕、毒饅頭作ってるとこ分かるかも知れない。
皆から聞いたんだ。
でも、1人で行けないからお姉ちゃん達に連れて行って貰えないかな?」アキラが3人の顔を見ながら提案する。
「もし見つけたら、そこで警察に連絡するのも有りだよね?」有間が乗る。
「ここで、手をこまねいていても人がどんどん亡くなるだけだもんね!」
有間と春が莉夏の顔を見る。
「う〜ん、西成かあ〜アキラ君連れてか行くならお母さんの許可貰わないといけないけど…」
首をさっきよりもっとひねる。
「わーい!動物園♪動物園♪」
アキラが無邪気に喜ぶ。
「本当に良いんですか〜?動物園ならあやめ池でも〜」
「やだ!僕オオカミ見たいんだ!オオカミ〜」
アキラがピョンピョンはねる…わざとらしくないか…
春はドキドキしてる。
苦肉の策で近くにある四天王寺動物園へ連れて行く…
と言うかなり苦しい案をひねりだした。
307号室の玄関でアキラを届けるついでに相談してみる。
畑中さんは心配そうだ。
アキラが思いっきり上目遣いで母におねだりする。
「明日、お姉ちゃん達大坂遊びに行くんだって!
僕も行きたいよ〜で、動物園も連れて行ってくれるって!
絶滅したはずのオオカミもいるんだって!」
「私達は、春を大坂観光に連れて行くんですが、話聞いたアキラ君も行きたいって。
通天閣見るついでに四天王寺動物園寄っても良いですよ?」
あくまでアキラ主導で。
莉夏がギリギリの攻防を続ける。
「ずっと夏休み、家の中は退屈よね〜?
ついお母さん心配で〜そうよね〜外行きたいよね〜」
畑中さんが悩んでる。
アキラが下を向いてションボリする。
(演技スゴいぞ!この子!)
とうとう涙が目から溢れ出した!
「4歳の頃のこと全然覚えてないんだ。動物園も良く分からないんだよ。どんなところか?
行ってみたいよ…」
お母さんも感極まって泣く。
「お父さん、お盆までお休みないし、お母さんは心配症で1人で連れて行く自信ないし。
分かった!お姉ちゃん達と行っておいで!
何かあったら、すぐ電話するのよ!
お母さん、一日電話の前で待ってるから!」
畑中さんの愛が重い!重いぞ!アキラ〜大変だ!
春は熊も居る山へ水汲みに1人で行かされてた小学生時代を思い出した。
『私の親って!』
「お母さん、大丈夫だよ。僕絶対元気に帰ってくるから…」母を抱きしめながら、こっちを向いて親指を立てた。
恐ろしいクソガキだ…アキラ…




