裏の街
ーねえ聞いた?また出たって。あの『狐』が
ー聞いたよ。次は私らかもね?なんせ…よく裏に行くし…
ーやめてよ、怖いこと言うの。で、今日はどの辺で…
アカリ「ふぅ…」
煙草の煙とため息が交じり少し不味い。
アカリ「『狐』か…むしろ会ってみたいものだけど…」
私の住む世界には表と裏がある。
表はごく普通の街並み。
太陽が反射するビルが何本も建つ。
美味しいレストラン、オシャレなカフェ、最先端のアパレルブランド。
キラキラしたものがいっぱい並ぶ。
それに、みんなが平等に。尊重し合い。みんなに笑顔が咲き、夢と希望が喧騒となりまるで花火のよう。
それに比べ裏。
使い古した積み木のように歪なアパートやマンションが所狭しと詰め込まれ、路地裏に行けばそこは狩場となっている。
病をおかずに虫のだしがよく染みてるお粥を流し込む。
女は男を見下し。男は女を見下し。金に溺れ欲に塗れ、片足でも突っ込んだら純粋に笑う事などは二度と出来ないような。そんな街。
アカリ「表と裏か…」
いつからか。この世界はおかしくなってしまった。
平等にと。みんなに希望をと。頑張った政治家がいた。
貧しい者には富を分け与え、努力が実らない者には功績を与え、弱い者が世界を作っていくと謳った。
ただ。それが逆効果だった。
力無き者に1度与えられた希望という蜘蛛の糸は、忘れられない呪いとなり、やがてそれを求め暴走した。
俺らがお前らを支えているのだと。
私たちが世界を良くしてるのだと。
そう言い放ち、力を持つ者を次々と殴り、蹴り、物のように扱った。
そうして自分の居場所を広げていった。
力持つ者は自分の立場がある。家族がいる。守るものが何も無い者に対し、守るものがありすぎるがあまり、何もやり返すことが出来なかった。
それらは社会問題となり政府もほぼ壊滅状態となった。
そして逃げるように元いた綺麗な街を捨て、新たな首都を作りそこに街をを作り力無き者を隔離した。
そして、前にいた街を「旧首都」とし、戒めの対象として残された。
だが「新首都」で落ちこぼれになった者は旧首都へ送還される。失敗なんて許されたものじゃない。強者だけが住む街。
そんな束縛された地獄にになっていった。
こうして生まれた表と裏。
まともじゃないこの世界をまともじゃないと気づいた人は裏で稼ぎ表で生きる。
そうやって生活する。
この方法が1番楽に稼げて1番楽しめる。
アカリ「ほんと、どっちも地獄だな。この世の中。」
ここ最近。裏には妙な噂が囁かれている。
決まって日曜日の20時に『狐』が現れ、
表と干渉する者を拐っていくという。
裏の人間からすると、それを『選ばれた』とも表現するのだとか。
で、『選ばれる』とどうなるのか。
それは…さあね?
まぁ、独り言は置いといて。
私は『裏』に入り込む。それも頻繁に夜に。
女と言う2分の1を引き当てた私に出来る最悪だけど儲かること。
男「あ、君があかりちゃんかい?」
アカリ「はい、そうです。」
男「写真よりずっと可愛いじゃん。ほら、行こうか。」
アカリ「うん。」
そう、儲かること。
裏と行ってもまだマシな所もある。表から落ちてきた人達が集まって出来た小さな区域。強者の意思が消えていない、理性のある人が集まる。
私はそこに稼ぎに行く。
男「でね〜実は僕さぁ。新都市でもバリバリ活躍してたんだよねぇ、ほら!有名配信者のレミちゃん!あの子とも知り合いなんだよ!まぁ、レミちゃんよりもあかりちゃんの方が可愛いかな?」
アカリ「へぇぇ。そうなんですか。」
つまらない話。下手くそな褒め言葉。下心丸出しの顔。
さいあく。ハズレだ。
いつも通り、適当に話して。目を盗んで薬でも盛ってお金盗んで表に帰ろう。
けど、いつもと違う嫌な予感がする。
ふと口を開く。
アカリ「おじさんさ、狐の話知ってる?」
男「お?あかりちゃんから話してくれるの、僕嬉しいなぁ〜」
アカリ「聞いてない。で、知ってるの?」
男「そりゃぁ、もちろん知ってるよ〜。日曜の夜8時に出てきて人を拐っちゃうんだよね〜。しかも、あかりちゃんみたいな可愛い子しか拐ってかないとか…うへへ」
死ね…は、置いといて…
アカリ「それは聞いたことある。私みたいな若い女の人が良く拐われていく…なんか共通点とかあるのかな…」
男「さ〜ね〜。けど、裏に住む子でなかなかいないじゃん?あかりちゃんみたいな可愛い子。最近は増えて来てるけど…まぁ、表だと失敗なんて1回も許されないからねぇ…ほんと可愛そうだよ…」
アカリ「そうだね。」
お陰様で裏に落ちないようにとても苦労してますよ。
男「そういえば、今日ちょうど日曜だね。もしかしたらあかりちゃん可愛いからホントに拐われちゃうかもよ〜?それか、僕が拐っちゃおっかな〜?なんちゃって」
アカリ「はいそうですか。」
下手な褒め言葉とつまらないジョークに少し腹が立ち早歩きになる。
はぁ…むしろ、裏で住んだ方が楽なのかな…実際の所…
アカリ「早く歩いてよ。遅いよ、おじさん。」
男「はぁ、せめてお兄さんが良かったな…」
空はまだ明るく、14時くらいだろうか。
こんな時間にやるなんて。
この世界では当たり前の事だけど。
狐の噂もあるし今日は早めに切り上げるか。
そう思いながら男の部屋に入り、シャワーを浴びる。
アカリ「上がった。次入って。」
男「え〜このままでもいいよぉ。」
アカリ「私が嫌なの。はやく。」
男「も〜。しょうがないなぁ…待ってる間テレビとか自由に使ってもいいからね〜」
アカリ「うん。」
行ったか。
性格のキモさに比べたら凄く清潔感のある部屋だ。
ベッドもしっかりと整えられてるし、ゴミも分別されてる。おまけに表でしか見ないようなアロマもちゃっかりある。
元々表に居たのだと一目で分かる。
金だけ盗んで帰ろうかと思ったけど…
顔もブサイクではない…
アカリ「はぁ…色々溜まってるし、まぁいいか。」
テレビを付け、冷蔵庫にあった缶ジュースを飲み待つ。
男「フゥ〜。お待たせ〜。」
アカリ「ん。ありがとね、ジュース。」
男「もう、勝手に飲んで〜。ちゃんと後で代金貰うからね?新都市の飲み物、高いんだからさ〜?」
アカリ「分かった、サービスするから。」
男「ホントかい?ならいいけど〜。」
テレビを消す。
アカリ「する前に、1本だけ吸ってもいい?」
その後、久しぶりに満足した快楽を得た私はシャワーを浴び、元の服へと着替える。
アカリ「じゃ、お金。10でいいよ。」
男「は、はい。」
アカリ「ん。」
財布から取り出された万札を受け取り数える。
だが、明らかに多い。
いち、に、さん…
アカリ「ねぇ、30もあるけど。どういう事。」
男「僕からの気持ちだよ。ま、今後もご贔屓にということで。いつかあかりちゃんの狐に慣れますようにっ。なんちゃって…」
キモすぎる。
アカリ「あ…ありがとう…けどあんたには拐われたくないな。」
男「えぇ?…そうかぁ…つ…次さ、お話だけでいいから会いたいな。」
アカリ「…まぁ、そうだな…2で。」
男「それもお金取るのかよ…まぁ…いいけど」
アカリ「こっち来るのに抜け穴使うのも高いからさ。ジュース買ってきてあげるからそんくらいいいでしょ?」
男「えっ、いいの?てことは…次も…」
アカリ「いいよ、気に入った。おじさんのこと。」
男「ほ、ホント!?…。」
いいカモが出来たな。
男「もうすぐ8時だし…送ってくよ、狐出るかもだし。」
アカリ「いいよ、別に。狐とかどうせ噂だし。」
男「そう?…まぁいいけど。」
そう言いながらもアパートの前までは見送りに来た。
アカリ「じゃあね。」
背中におじさんの気をつけて帰ってねという少し高い声を浴び、帰り道を進む。
つづく
どうもなまこです。最初は電脳世界に連れてこられた少女が箱庭の中で異能力バトルするのを書きたかったのですが、考えてく内に「電脳バトル」との紐付けが出来なくなってしまったので不幸な女の子を書くのにシフトチェンジしました!
まだ街の作り込みとか、アカリ以外の登場人物の作り込みとか、狐の設定とか、この世界の設定とか、弱者が暴走を始めたキッカケとか…etcが浅いのでまた煮詰まったら完全版出したいな〜…なんて大層な事考えてますw
とりあえず途中まで書いて完結させない病なんで、それを克服するためにも!内容が薄くても!最後まで書きたいと思います…(実際、脅されてるので…恐)