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帰国

お読みくださりありがとうございます。


 ヨハネスは侍従のルートリアを女装させて近くにおくことにした。アリアには知らせてあるので問題はない。

 

この学院は制服が無いので都合が良かった。

首の詰まったワンピースを用意したらしい。


胸には詰め物が入っている。あまり喋らないで大人しくしてもらうことにした。

寮に帰る前に、一週間に一度連れだって歩くと、いつの間にか恋人ではないかという噂が流れ始めた。


例の公爵令嬢がわざとらしく近づいて挨拶をしてきた。

「ごきげんよう、ヨハネス様。そちらの方は」


「友人ですよ、それが何か?」


「そうですの?今度我が家で夜会を催しますの、招待させていただくので御一緒にいかがですか?」


「それは改めてお返事を差し上げます、では」


「ええ、お待ちしておりますわ」


「いよいよ動いてきましたね、行かれますか?」


「ああ、みすみすあっちの思うようにはならないさ。お前のドレスを作らないといけないな」


「出来合いのものでいいですよ、この頃は随分といいものが売られているので」


「そうなのか、知らなかった」


「知る必要はありません。お嬢様が着られることは一生ないでしょうし」


「そうだな、早く会いたいな」


「そのためにも戦わなくてはなりません」


夜会の日はやって来た。ヨハネスは正装に身を包み、ルートリアはパートナーとして完全な女装をしていた。どこからどう見ても華やかな美人としか見えない。

「お前そっちの才能もあるのか。凄いな」


「ヨハネス様、からかうのはやめにして下さい。全て貴方のためなのですから」


「すまない、悪かった。どんな形にせよ襲われる可能性は二人共高い。充分気をつけてくれ。守護魔法はかけたので、何があっても大丈夫だと思うが。まあ狙われるのは俺だろうが」


「承知しております、お気をつけて。では参りましょう」


公爵邸は広大だった。権力の大きさを見せつけるように絢爛豪華な城だった。

前もって見取り図を手に入れ、場所を把握しておいて良かったとヨハネスは思った。公爵邸の目立たない所にヨハネスの護衛も潜伏させてある。

数では到底負けるとは思うが何事も用心が大切だ。


夜会の客は大勢で賑わっていて公爵一家が何処にいるのか見当もつかなかった。

しかし挨拶をして帰らなくては礼儀を欠く。まあ向こうが放っておいてはくれないだろうが。

そう思っていると令嬢の声がした。


「おいで下さって嬉しいですわ、ヨハネス様。お父様の所へご案内しますわ、どうぞこちらへ」

とルートリアを完全に無視してフローラルは先に歩き出した。

高いヒールを履いて歩きにくそうにしているルートリアをエスコートしながら、ヨハネスはゆっくり進んだ。

「お父様この方が隣国から来られたヨハネス様ですわ」


視線の先にはでっぷりと太りずんぐりとした中年の男性がいた。

「ヨハネス・ハバミネロと申します。留学できて光栄です」


「この国は気に入ってもらえたかな、娘と仲良くしてもらっているそうで何よりだ。じゃあゆっくりして行ってくれたまえ」


「国に婚約者がおりますので何かの間違いかと。お嬢様もよくご存知かと思いましたが」


「そうか、まあそれならそれで構わない」


むっとした公爵はヨハネスの連れているルートリアをじとっとした目で舐め回してから去って行った。


寒気のしたルートリアは見えないように手を握りしめた。


「それではロンサム公爵令嬢失礼をいたします」


「あら、ダンスを踊ってはいただけませんの」


「今夜は彼女から離れない約束なのでどなたともダンスはいたしません」


「でも、唯のお友達ですわよね」


「無理を言って来てもらいましたので」


「ではワインでもいかがかしら、そちらの方もどうぞ」


ルートリアに目をやったフローラルが言った。

二人は仕方なくグラスを持った。口をつける真似をしたルートリアが小さな声でヨハネスに言った。


「少し疲れたからテラスに出ない?」


「ああそうしようか、ではロンサム公爵令嬢失礼をいたします」


諦めてはいない目がヨハネスを見つめた。

自分たちの周りだけに防音魔法を張ってから

「やれやれ疲れたね、このワインの中に媚薬でも入っているのかな。それならそれで証拠を見つけられて嬉しいんだけど。でもお前と引き離してから媚薬は盛るだろうな」




「そうですね、でも暫くして効いてくるものもあるかもしれませんので、一応この小瓶に少し頂いておきましょう。トイレに行くふりでもいたしましょうか」


「いいけどヒールでは歩けないだろう、無理をしなくていい。もしかしたら暴力の可能性が強いかもしれない。気をつけよう」


「このまま帰れるとは思えません。さっきの視線鳥肌ものでしたよ」


「そうだな、変態としか思えん。顔は見せたし帰ろうか。転移しても良いけど」


「大丈夫です。緊急の場合になったらお願いします」


「分かった、では帰ろう」


帰りの馬車が半刻程走った頃馬のいななきが聞こえて、御者の怯えた声がした。来たかと思ったヨハネスたちは馬車を降り後を追ってきた強盗と対峙した。もちろんヨハネスの護衛も戦いに加わった。勝負はものの五分で決まった。ヨハネスたちの勝ちだった。

縛り上げて誰に頼まれたのかと聞いても白状をするはずもないので、騎士団まで連れて行って、後は任せることにした。

この国の騎士団が公正であることを願いながら。


後日、フードで顔を隠した男にお金をもらって襲ったと白状したと連絡を貰ったが、首謀者の名前を知らない、と言っていると騎士団から報告があった。自白剤を使ってもそれ以上の事は出てこなかったらしい。

騎士団の使者が悔しそうに言うので信用することにした。

何かを掴んでいても漏らす事はないだろう。


例のワインも検査したが何も出なかった。





数日後、第三王子から城に招待された。

侍従としてオーレリアを伴うことにした。

応接室に通された。落ち着いた上品なテーブルと椅子が配置されていた。

侍女がお茶を出してさっと下がった。

「先日、公爵の夜会の帰りに強盗に襲われたらしいね。我が国で危険な目に遭わせて申しわけ無く思っている」


「いえ、殿下に謝っていただくことではないかと存じます。お気になさらずともよろしいかと思いますが。そのためのお呼び出しでございますか?」


「まあ、それもあるのだがこれを見て欲しい」

そう言って殿下が取り出したのは出国証明書だった。


「今の我が国はきな臭いところがあって、どこぞの貴族が何やら企てているようなのだ。そのために貴公を利用しようと企んでいるようで困っていた。身に覚えがあるのではないか」

学院で会った時とは違う王族のオーラを出しながら言われる言葉に納得がいった。

「この部屋に防音魔法が掛けられているのはそういう事なのですね。そのような大事なことを私ごときに話されて良かったのですか」


「君が一番の当事者になる可能性があるのだ、残念なことに。

この国の事は自分たちで何とかしなくてはいけない事だ。他国の君を巻き込んで大変申しわけないと思っている」


「そういうことでしたら、速やかに母国へ帰りたいと思います。戦争にでもなれば大変ですから。王子殿下が平和主義で良かったです。この証明書は大切に使わせて頂きます」


その後ヨハネスが聞いた話はこうだ。

ロンサム公爵は今でも大きな力を持っている。更に王族に取り入って王太子の妃か側室に自分の娘をあてがい裏から操ろうとしたらしい。

だが王太子には心から愛する妃がいて、王子二人と王女一人が出来ている。そこに隙などなかった。


第二王子にも政略で結ばれた妃がいて、そこに自分の娘が入り込むように画策したそうだ。しかし第二王子は外交官として夫妻で各国を飛び回っていた為、国に居ることが極めて少なかった。第二王子妃は元騎士で語学も堪能、艶やかな美人とあって、王子の心が他を向くはずもなかった。




そこで狙われたのが第三王子だった。いい加減うんざりしていた王家は筆頭公爵家に白羽の矢をたてた。十五歳の令嬢だという。現王の姪だそうだ。

流石に手が出せないと踏んだ公爵の最後の相手が隣国の侯爵令息のヨハネスだった。

調べさせれば膨大な魔力を持っている。国を滅ぼすことが出来るくらいだ。

婚約者はいるが地味な娘だ。我が娘を与えれば婿になるだろうと愚かにも考えたそうだ。




話を最後まで聞き終えたヨハネスはぐったり疲れてしまった。

本当にギリギリのところで戦争が回避されたのだと実感したからだ。

帰国の際の父親への説明は自分がするが、流石に他国の恥とも言えるゴタゴタを陛下にお伝えするのはできないので、外交官である第二王子殿下に、お願いしたいとヨハネスは頼み込んだ。


それはそのつもりだと言われ胸を撫で下ろした。

第二王子夫妻は先触れを出して、ヨハネスが帰った一週間後に訪問する事になった。異例の早さである。





さて、全ての悪の根源の公爵だが、、ヨハネス達を襲わせた後、屋敷で拐ってきた女性を襲おうとしていたところを出席していた騎士団長に見つかり逮捕され、人身売買、違法な薬の売買、密輸と様々な罪が見つかり貴族用の牢に入っているとのことだった。

家族も捕まえられ、一族は連座で処分されるだろうと言われている。



ヨハネスは無事に帰国した。会いたいのはアリアだ。

アリアの元へ駆けつけた。

玄関で迎えてくれたアリアを抱きしめた。


「ただいまアリア、とても会いたかった、君のいない日々は暗がりの中にいるようだった」


「お帰りなさいヨハネス、私も会いたくて仕方がなかったわ。さあこちらに入って、ゆっくりお茶を飲んで」


「お茶より君を堪能したい、もっと抱きしめさせて」


「二人になってからね」


真っ赤になったアリアの周りには侯爵夫人や兄達がニヤニヤしていて、使用人達は無表情を貫いていた。


「申し訳ありません、ただいま帰りました」


「良いのよ、アリアが朝からソワソワしていて大変だったのよ。無事に帰って来れて良かったわ。あなた達のいちゃいちゃが見れて日常が帰って来た気がするわ」


「お母様ひどいです、そんなにいちゃいちゃしていませんわ」


「はいはい、まあ積もる話もあるでしょうから、応接室でも行きなさい。お茶は用意させるから」


応接室で隣り合って座ったヨハネスは首に頭を預けアリアの匂いをすんと嗅いだ。

「ああ、アリアの香りだ、最高に癒やされる」


「ヨハネスの香水の香りがして安心するわ」


サラサラの髪を撫でながらアリアが呟いた。


「もう一生離れたくない、この想いは誰にも邪魔させない。愛してるよ」


「私も愛してる、心配で心配でたまらなかった。怪我をしていないか、病気になっていないか、誰かに取られるんじゃないかって」


「取られないって前にも言ったよね、結婚したらわからせてあげるから覚悟しててね」

そう言って見つめるヨハネスの目に熱があるのを自覚したアリアだった。

そこへトントンと扉を叩く音がしたと思ったアリアは返事をした。

侍女のアンがお茶を運んできた。


「お邪魔かと思いましたが、持って来させて頂きました」


「ありがとう、邪魔なことはないわ、いい香りがしてる」


お茶を入れ終わるとさっと退出していった、出来る侍女である。


そこでゆっくりお茶を飲みながら隣国での出来事を話すヨハネスだった。

アリアは目を丸くして聞いていた。


「もうすぐ卒業して本来の姿に戻らないといけないんだけど、君の変身魔法は国家機密くらいに凄い秘密だと思うんだよね。利用されると大変なことになるし、方針を話しあっておきたいと思っている、僕が守るのはもちろんだけど。アリアはどうしたい?」


「友達もできたから出来るなら素の姿に戻りたい、不自然じゃなく少しずつ。あれこの人こんな顔だったってくらいなスピードで。でも結婚式の時は素の私達がいい。神様の前で嘘はいけないから」


「それはそのつもりだったよ。こんな綺麗な花嫁さんが僕のものだよって見てもらいたいし、ご家族にも見て頂きたいからね。

花嫁衣装出来てるんだよね、楽しみだな。宝石はもう選んであるんだ、楽しみにしててね」


「ヨハネスの衣装も出来てるっておばさまがおっしゃってた、きっと素敵よ」


「じゃあ少しずつ元の顔に戻すっていうことで頑張って。

微妙な調節が必要なんだろうな。皆びっくりするだろう。いっそ僕の魔法で地味にしてたって事にする?」


「それもいいかも、大魔術師さん。卒業したら王宮の魔術師になるのよね」


「君は僕の奥さん、なんて甘い響きなんだろう。朝は見送ってくれて帰りは出迎えてくれて、夜は甘い時間を過ごす。旅行にも行こう。転移魔法が使えるようになったんだ。好きな所へ行けるよ。まだ国内くらいだけど」


「楽しみがたくさんね、それもヨハネスが無事に帰って来てくれたからよ」


「このまま離れたくないけど、父上に報告しなくてはいけないから今日は帰るよ。寝る前に通信機で連絡するからね」


「ええ、待ってるわ」


ヨハネスはアリアをもう一度抱きしめキスをした。額、瞼、頬唇に。段々深くなっていくそれはアリアの身体の力を抜けさせた。


「ヨハネス、お見送りができなくなるわ」


「そうだね、今日はこれで我慢するよ、キスの続きはまた明日ね」

赤い顔をしたアリアが可愛すぎる。理性よ頑張ってくれとヨハネスは思った。



ハバミネロ邸に帰ったヨハネスは着替えて父の執務室に向かった。


「ご苦労だった。話は聞いている。隣国の王政に絡んだ事情なのか知らないが、迷惑な事だ。第三王子殿下が話のわかる方で良かった。

どうやって帰って来るのか楽しみでもあったのだが、どうするつもりだったのだ?」


「侍従のルートリアを女除けに女装させて近くにおいておりましたので、噂を聞いた両侯爵家が、陛下に帰国を要請するという形で収めて下さると計算しておりました。

王子殿下のお陰で必要は無くなりましたが」


「甘いがまあいいだろう、お前を隣国などに取られてたまるか。目にもの見せてくれると思っていたのでな」


「ありがとうございます、父上」


「まあ、ゆっくり休みなさい、下がっていい」


廊下へ出ると母と弟が待っていた。


「お帰りなさい、ヨハネス。貴方の部屋で話を聞かせて頂戴」


「お帰りなさい兄上、ご無事で何よりです」


「ただいま帰りました。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。続きはサロンでゆっくり」


隣国であった色々のことを話すと驚きながらも黙って聞いていた。これが極秘事項だと言うと二人共頷いていた。


それと共にアリアの変身魔法を自分の物として知らしめることも。

全ては誘拐の危険から守る為だと言うと、大いに賛成してくれた。


あれから三ヶ月後、卒業式の日になった。

アリアに贈ったドレスは白いタフタ生地に金色の薔薇の刺繍が首回りとスカート部分の裾に施してある美しい物だった。

それにダイヤの散りばめられたチョーカーと金色のイヤリング、指輪はブルーがかったダイヤモンドである。髪はハーフアップに編み込まれていた。


「アリア僕の女神、なんて美しいんだ、絶対に離れないでね」


「ヨハネスも凄く素敵、貴方の隣は渡さないわ」

ちょっと気の強いアリアも可愛いとでれるヨハネスだった。



ヨハネスはオフホワイトの上下のスーツ、上着の襟にはアリアとお揃いの薔薇の刺繍が施されていれている。耳には金のピアスが煌めいている。服の上からでもわかるくらい鍛えられた肉体になっていた。身長も高くアリアをすっぽり包み込める。


二人が現れると生徒たちがざわめいた。あんな素敵なカップルいたのか?という声が聞こえてきた。アリア様ってきちんとお化粧されればあんなに綺麗な方だったのね、という声は女性から、ヨハネス様がいない間に声くらいかけておけば良かったという声が男性から漏れていた。


ヨハネスは変身魔法ありがとうと心の中で叫んでいた。

それと同時にヨハネス様あんなに素敵な方だったのねという女性の声も聞こえたので


「アリア、僕と踊っていただけますか?」


「はい、喜んでヨハネス」


と微笑むアリアが可愛くてダンスを三曲続けて踊った。


「もうすぐ僕たちの結婚式だね、待ち切れない、可愛いアリア。愛している」


「私もよ大好き」

周りできゃあという悲鳴に近い声が聞こえて来たが二人の耳には入ってこなかった。


二人の結婚式は後ひと月後である。



誤字脱字報告ありがとうございます。

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