3.次の研究についてと、ご褒美は遠慮したい
その後、会議は解散となり、出席者は退出していく。モニカたちも退出しようと立ち上がると、国王から声をかけられた。
「モニカ嬢、少しいいかな?」
モニカは慌て頭を下げて返事をする。
「はい。何でございましょうか」
「次は何の研究をする予定かな?」
穏やかな声に、モニカは頭を上げるとジャレッドを見上げた。そして、視線を国王に移す。
「黒魔法を解析しようと思います」
「ほう?」
片眉を上げて、国王はモニカに話の続きを促した。
「光魔法のように、黒魔法も三種の属性が混ざったものと考えています」
「ふむ。何が混ざっていると考えておる?」
国王の問いに、モニカは答える。
「色の三原色をご存知でしょうか?赤、青、黄色の絵の具を混ぜると黒色になります」
モニカは説明を続けた。
「属性魔法を持たない平民は沢山いますが、魔力は持っています。神話の中で、神は人間を土から作り、命を吹き込んだとありますので、属性を持たないのではなく、土属性の魔法を有しているのではないかと考えています」
「確かに、属性魔法を持たぬ者でも、魔力は持っているな。稀に魔力量が多い者もいる」
国王はそう言うと、顎髭を撫でる。モニカは頷いた。
「はい。土魔法が存在するとすれば、国の発展に役立つ可能性は高いと思います。まずは土魔法を診断できる水晶、または用紙を開発したいと考えています」
モニカの話を聞いて、国王は満足そうに微笑んだ。
「モニカ嬢は何故、研究を続けるのかな?」
国王の問いかけに、モニカは少し考え込む。
「私は、国の安寧のために研究をしています。私個人の代わりはいないと思います。でも、私の役割の代わりはいて、この国の安寧を維持することは出来ると考えています」
「そうだな。王も代わりはいるものだ。モニカ嬢、此度は国の危機を救ってくれて感謝する」
モニカの答えに満足したように微笑み、国王は頭を下げた。室内には、王族とモニカたちだけとはいえ、一国のトップに頭を下げられ、慌てて口を開く。
「へ、陛下!過分なお言葉、感謝いたします。これからも、国の安寧のために精進して参ります」
「我々も精進して参ります」
モニカがそう言って頭を下げると、共同研究者である四人も頭を下げた。満足そうに国王は頷くと、モニカに訊ねる。
「して、モニカ嬢。褒美は何が欲しい?」
「褒美、ですか?」
国王の問いかけに、モニカは顎に手を当てて、おずおずと口を開いた。
「半年後に、こちらのギタレス伯爵家のジャレッド様と結婚する予定ですので、祝報をいただけると嬉しいです」
モニカの意外な返答に、国王はキョトンと二人を見つめ、わははと豪快に笑い声を上げる。
「ははは!何と無欲な。モニカ嬢、必ず式の当日に届けさせよう」
国王の返答に、モニカは笑顔で礼を述べた。そして、退室の挨拶をすると、急ぎ足で転移水晶の安置されている部屋へ向かう。無事に魔塔に着いた五人は、ヘナヘナと転移水晶の周りに座り込んだ。
「上手くいって良かったぁ〜」
泣きそうなモニカの頭を、ジャレッドはポンポンと撫でる。オリビアは苦笑いを浮かべて、ローガンと頷き合っていた。
「なぁ〜!褒美は祝報で良かったのか?研究費の増額とかさぁ〜」
エルムが不満気にモニカに訊ねると、彼女は首を左右に振る。
「今回の研究はお祖母様の太鼓判があったから、自信があったけど、次の研究は全く自信がないのよ。それに過剰な報奨を頂いたら、一生飼い殺しになりそうだもの」
うぅと唸るモニカに、ジャレッドは笑顔で声をかけた。
「モニカになら、俺の身体をくまなく調べてもらっても構わないよ?」
「ちょっと。モニカと二人きりの時にやってよジャレッド」
オリビアの呆れた声に、四人は笑い声を上げる。モニカはこの日常が明日も続くことを祈りながら、ジャレッドに手を貸してもらい立ち上がった。