2.いざ、研究発表
案内された王宮内の会議室には、王族と宰相だけでなく、神官長や王立学園長など錚々たる顔ぶれが集まっていた。
「光魔法の使い手、モニカ・ウォーカーと共同研究者が参りました」
モニカが代表して挨拶をすると、静かな会議室にその声はよく響いた。一介の魔塔職員であるモニカは緊張していた。
「大丈夫だよ、モニカ」
小声でジャレッドはモニカに話しかけ微笑むと、彼女を席へエスコートする。モニカは心臓が飛び出しそうなほど緊張していたが、ジャレッドのお陰でなんとか落ち着いていた。友人たちは笑顔を湛え、背筋を伸ばしてモニカたちの後に続く。やはり高位貴族は違うなと、モニカは感心した。
モニカはウォーカー男爵家の娘だ。祖母グレースは平民で魔導具師。彼女は魔塔での水晶を媒介とした通信や、移動手段の発展に貢献した功績により、男爵位を叙爵した。それまでは、移動手段は徒歩か馬車。通信は手紙が主だったらしいので、相当な発展を遂げたと言える。
オリビアたちは伯爵位以上の爵位の子息子女だ。金持ち喧嘩せずとはよく言ったもので、彼女たちは爵位の下のモニカにも親切だった。そして、モニカが魔塔に就職してから取り組む研究内容を伝えた際、彼らは快く協力を承諾してくれた。『私たち、友達でしょ?』と笑ってくれた彼女たちに、何度助けられたか分からない。
そんなことを思い出しながら、モニカは聖女リンジーと隣国ソアの王子イアンの駆け落ち事件の顛末を聞いた。
「今朝、聖女リンジー様は、水晶に魔力を注がれた後、いつも通り学園へ向かわれました」
立ち上がった宰相が淡々と手に持った調査書を読み上げていく。
「しかし、一限目の授業が始まり、担当の教師がリンジー様が不在なことに気付き、神殿へ連絡。学園内の転移水晶に聖女リンジー様の魔力を感知。転移水晶を調査した結果、行き先は隣国ソアの国境付近と判明」
室内はシンと静まり返った。隣国ソアの国境付近へ向かうには、かなりの魔力量を消費する。聖女リンジーは魔力切れを起こしていないかモニカは心配になった。
「直ちに学園内の男性舎へ王宮の者を向かわせましたが、イアン殿下の姿はなく、寮の殿下の部屋はもぬけの殻でした」
宰相は苦々しい顔で調査書を読み上げる。
「聖女リンジー様の神殿の私室を調べましたところ、イアン殿下とソア国へ向かう旨の手紙を発見。二人は駆け落ちしたものと思われます」
室内の全員が小さくため息を吐いた。宰相は、近くに控えていた部下に通信水晶を自分の前に置くように指示する。部下は静かに通信水晶を机上へ置いた。
「そして先程、隣国ソアより通信がありました。『この度、貴国の聖女リンジー様を保護した。イアンより聞いた貴国の聖女様に対する仕打ちは惨憺たるものである。日々、魔力を水晶で吸い取り、神殿での貧しい生活を強い、好いてもいない王子との婚約を結ばせ国に縛り付けるなど非道である。また、学園では子女たちにいじめられたとも話されている。聖女様はイアンを心より愛しており、真実の愛を貫くとのこと。聖女様のお望み通り、我が国への永住を認めよ』とのことです」
ピクピクとこめかみに青筋を立てながら、宰相はソア国から届いた通信内容を読み上げる。おずおずと神官長が手を上げた。
「発言の許可をいただけますか?」
陛下が頷いたので、神官長は気落ちした様子で立ち上がると、聖女リンジーの神殿での暮らしぶりを語り始める。
「聖女リンジー様が神殿で貧しい生活をされていたとのことですが、全くの事実無根でございます。防犯のために設置しております、映像記録水晶を提出いたしますので、ご確認いただけますと幸いです」
そう言って神官長は頭を下げて着席した。次に学園長が挙手をして発言を求め、国王に了承されると立ち上がり話し始める。
「聖女リンジー様が女生徒たちにいじめられたとのことですが、事実と異なります。我が学園はほとんどが貴族の子息、息女が通っておりますので、聖女リンジー様のマナーについて注意をしたご令嬢たちがおります」
緊張しているのか、学園長はジャケットのポケットからハンカチを取り出すと、額の汗を拭った。そして、小さく息を吐いて話を続ける。
「しかし、いじめとは程遠いものです。彼女たちが、聖女リンジー様にそのことをやんわりとお伝えしております所を、学園内に設置しております映像記録装置で確認しております。我々も映像記録装置を提出いたしますので、ご確認いただければと思います」
そう言って学園長は椅子に座り、忙しなく額の汗をハンカチで拭った。次に発言の許可を求めたのは第三王子シリルだった。直ぐに国王は発言を許可する。
「確かに私と聖女リンジーとの婚約は政略的なものです。しかし、彼女にはこの婚約は無理に続けなくてもいい旨は伝えてあります」
三代前の聖女様が王族との婚約を重荷に感じ、精神に変調をきたしたことがあった。現在、婚約証明書に、王族との婚約は聖女からの申し出で、解消出来る旨の記載がある。
「それに、二日前の茶会でも変わった様子はありませんでした」
しょんぼりと俯いたシリル王子に、席に座るように国王は促した。彼は沈んだ顔で椅子に腰を下ろす。
宰相が咳払いをして手を上げたので、国王は頷いた。宰相は言葉を発する。
「ソア国の狙いは、まだはっきりとしていません。一番最悪な事態は、我が国の結界が崩れ、魔人や魔獣たちの侵入に混乱しているところに、聖女を蔑ろにしたと大義名分を掲げ攻め込んでくることです」
宰相の発言を聞いて、モニカはふむと顎に手を当てて考える。
ソア国は社会的、文化的な背景から、魔法使い狩りを行った過去があり、魔法使いの数が極端に少ない。その為、結界を張らずに国境付近に防壁を建設しているが、飛行型の魔物の侵入を防ぎきれていない。
スッとモニカは挙手した。直ぐに国王は発言を許可する。
「聖女リンジー様は、結界を張る水晶を持ち出されていませんか?」
モニカの言葉に、神官長は目を見開いた。モニカは神官長に話しかける。
「予備の水晶が無くなっていないか確認を。また、可能であれば残っている水晶を、この場にお持ちいただけませんか?」
神官長が頷いて離席すると、モニカは小さく気合を入れるために深呼吸する。
「ソア国は飛行型の魔物の侵入を完全に防ぎきれていません。聖女リンジー様と結界を張るための水晶を手に入れ、国を覆う結界を張ることが一番の目的と考えられます。なぜなら、真実の愛を貫くとしたら、聖女リンジー様は手紙に『隣国へ向かう』とは書かず『真実の愛を貫く』と書かれると思います」
聖女リンジー様は正直な性格の方だとモニカは聞いていた。その為、手紙にソア国に向かうと書かれているのは、魔物の侵入で疲弊している民のために、結界を張ってほしいとイアン王子に請われて、一緒にソア国へ向かったとモニカは考える。
結界が張られるとしたら早くて明朝、そしてアルフレッド国の結界が崩れるのも同じ頃だろうとモニカは睨んでいた。会議室はざわざわと騒がしくなってきたので、モニカは腹から声を出した。
「ご安心下さい。リンジー様という人物の代わりはいませんが、聖女様の代わりはいくらでもいます!」
彼女の大声に、会議室は静まり返る。やり過ぎたかしらと顔を赤くして、モニカは咳払いすると話を続ける。
「正しくは“結界”を張ることです。ここで、その方法を二つ、ご説明させていただきます」
モニカは緊張を誤魔化すために、にっこりと微笑んだが、その手は酷く汗ばんでいた。
会議室内は再び喧騒に包まれる。
今まで、聖女にしかできなかった国を守る結界を張る方法が、モニカは二つもあると発言したからだ。
会議室に戻ってきた神官長は、騒がしい室内に驚きながら、結界を張るための水晶を携えた神官たちと共に入室した。
「神官長様。その水晶、お借りできますか?」
「あ、あぁ……」
モニカの申し入れに、神官長は首を縦に振る。彼女は水晶の前に立った。
「この国に聖女と名乗る光魔法の使い手が、結界を張るための水晶を携えて現れてから、聖女一人にしか、水晶に魔力を注げないと言い伝えられていました」
静かにモニカは語る。室内にいた者全員が、その言葉に耳を傾けた。
「しかし、魔導具師マリー・クラーク様の解析により水晶の複製が可能になりました」
現在、魔導具師マリーのお陰で、結界を張るための予備の水晶が三つ作られている。初代聖女の持ち込んだ水晶は最近小さなひび割れが見つかっているので、四つをローテーションしながら、結界を張っていた。
「私の研究用に、マリー様に小型の水晶を作成いただきましたが、その実験では同時に二人以上が触れても支障はございませんでした」
モニカとその共同研究者たち以外は息を飲んだ。今まで、結界を張ることが出来るのは、膨大な魔力を有する、光魔法の使い手の聖女のみとされていた定説が覆されたからだ。神官長は驚きながら立ち上がった。
「な、何を……!」
「初代聖女様はどこかの国を追われた、もしくは逃げ出した光の魔法の使い手だったと考えられます」
真っ直ぐにモニカは神官長を見つめると、その身体はビクリと震えた。
「初代聖女様はご自身を守るために“聖女以外は結界が張れない”とおっしゃったのだと思います。替えがきくとなれば、水晶を奪われて、自分は用無しですからね」
何と無礼なと神官長は小声でつぶやいたが、モニカは気にせず話し続ける。
「魔人や魔獣の襲撃に疲弊していたアルフレッド国は、聖女を信じることにした。そして現在に至ります」
ふうとモニカはため息を吐いて、王族席に声をかけた。
「シンディ殿下、ご協力願えますか?」
第二王女のシンディは、モニカの呼びかけに頷いて立ち上がる。彼女は光魔法の使い手で、聖女リンジーの次に魔力量が多い。ゆっくりと水晶の前に立つと、シンディ王女はモニカに微笑んだ。
「私の魔力量は五万、シンディ殿下の魔力量は七万です。二人合わせると、十二万になります」
モニカの手が水晶に触れた。続いてシンディ王女の手が水晶に触れる。
「シンディ殿下、イチニのサンで魔力を注ぎます」
「えぇ、分かったわ」
シンディ王女が柔らかく微笑んで頷いたので、モニカの緊張が少し和らいだ。実験では上手くいった。大丈夫とモニカはすうと息を吸い込んだ。
「イチニのサン!」
モニカの合図で二人は水晶に魔力を注ぐ。真っ白な煙が水晶内に満たされ、次第にキラキラと輝き始める。モニカが安堵でへたり込みそうになるのを、シンディ王女が腰を支えて防いだ。意外に力持ちなのねとモニカは考えながら、シンディ王女に目礼する。
「ば、馬鹿な……」
呆然とする神官長に、モニカは窓の外を指を揃えて指し示した。
「外をご覧ください。結界が二重に張られています」
モニカとシンディ王女、共同研究者たち以外は呆然と外に張られた二重の結界を眺める。やったわねとシンディ王女が小さくモニカに声をかけると、彼女は頷いた。
「これが一つ目の方法です」
静かだった室内に拍手が起こる。呆然としている神官長以外は、国を守る結界が張られたことに安堵し、歓喜していた。
「モニカ嬢、二つ目の方法を教えてもらえるかな?」
拍手が響く中、嬉しさの滲む声で国王に訊ねられ、モニカは頷いた。
「はい、陛下。二つ目は、黒魔法の使い手、火魔法の使い手、水魔法の使い手、風魔法の使い手の四人で魔力を注ぎます」
「どのような原理か、教えてもらえるかな?」
国王が顎髭を撫でながら、モニカに説明を求めると、室内は静かになる。皆、モニカの話を聞き漏らすまいといった様子だった。
「はい。これは光の三原色からヒントを得ました」
モニカは淡々と説明を始めるが、心臓が口から飛び出しそうなほど、緊張している。隣に立っていたシンディ王女が、緊張を解すようにポンポンと腰を軽く叩いて席に戻った。その後ろ姿に、モニカは感謝しながら頭を下げる。頭を上げると、モニカは口を開いた。
「暗い部屋で赤・青・緑の三色の光を混ぜると白い光になります。光の魔法は、火・水・風の魔法の三つを混ぜたものだと考えました」
魔力属性診断器は黒い水晶で、手をかざすと、赤・青・緑・白のうちのいずれかに輝く。輝かない場合は、黒魔法か属性魔法を持たないかのどちらかだ。
「そこで、こちらの四人に協力をいただきます」
モニカは共同研究者たちに声をかけた。四人は立ち上がり、自己紹介を始める。
「黒魔法の使い手、ジャレッド・ギタレスと申します」
「風魔法の使い手、オリビア・ジョンソンと申します」
「水魔法の使い手、ローガン・フランシスと申します」
「火魔法の使い手、エルム・ロバーツと申します!」
四人は挨拶を終えると、モニカの元に集まった。そして、まだ魔力を注いでいない水晶の前に彼らは立つ。
「ジャレッド様の魔力量は十二万ございます」
モニカの言葉に、会議室内にいる者は、ギタレス伯爵家の魔物狩りのジャレッドだと認識した。
光魔法は結界を張り、魔物から身を守るが、黒魔法はそれらを弱体化させる効果がある。ジャレッドは豊富な魔力を使い、魔物を弱らせ、刀剣や槍で大量に駆除することで、学生時代から名を知られていた。本人は表に立つことを好まないため、その顔はあまり知られていなかった。
「そして、こちらの三人は四万ずつ魔力を持っております。合わせて十二万になります」
モニカの説明を、室内にいる者は聞き逃すまいと静かに耳を傾けている。
「まず、黒魔法で水晶内を満たします。ジャレッド、お願い」
「あぁ、モニカ。任せて」
柔らかく微笑んで、ジャレッドは水晶に魔力を注ぐ。水晶内は黒く染まった。室内がにわかに騒がしくなるが、モニカは気にせず話し続ける。
「次に三人に同時に魔力を注いでもらいます。オリビア、ローガン、エルム。イチニのサンでいくわよ」
モニカの呼びかけに、三人は頷いた。大丈夫、絶対成功すると、モニカは息を吸い込んだ。
「イチニのサン!」
三人は魔力を黒い水晶に注ぐ、ややあって、モニカとシンディ王女が魔力を注いだときと同じように、水晶内は白い煙で満たされ、キラキラと輝き始めた。
「なんと……」
国王の漏らした驚きの声が、室内に響く。他の者たちも奇跡を目にしたように、呆けた顔をしていた。
「皆様、外をご覧下さい」
モニカに促され、室内の人々は再び窓の外に目を向ける。そこには新たに結界が張られ、三重になっていた。
「奇跡だ……」
誰かが呟いたが、モニカは首を振った。
「いいえ。これは前魔塔主であり、私の祖母グレースの意志でございます」
意外な人物の名前に、共同研究者以外の視線がモニカに集まる。
「聖人テオドール様は祖母の弟です。テオドール様は幼い頃に家族から離され、神殿で生活をされています」
モニカは静かに、聖人テオドールを思い浮かべながら言葉を発する。慈愛と威厳に満ちた様子だが、どこか寂し気な雰囲気を、モニカは聖人テオドールから感じていた。
「祖母たちが住んでいた場所から、神殿との距離は馬車で半日かかることもあり、なかなか会いに行けなかった。聖人テオドール様から届いた手紙に、寂しいと書かれていたことがあったと祖母から聞きました」
幼い子供が家族から引き離され、いくら親切にしてくれるとはいえ、知らない人だらけの中で生活することは辛く寂しいものだろう。そう考えながら、モニカは床に視線を落とす。
「聖人ではなくとも、テオドール様という人物は、祖母にとって唯一無二の存在です。祖母は奮起し、直ぐに会いに行けるよう、言葉を伝えられるよう、転移水晶と通信水晶を開発いたしました」
前魔塔主グレースの想いを、モニカは語る。
「あれらは、祖母の愛の結晶です」
ふうとモニカは大きく息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。
「幼い頃、祖母の開発した水晶に光が当たると、様々な色の光が見えました。私はそこからヒントを得て、この研究を始めました」
白い煙で満たされた、光り輝く2つの水晶をモニカは見つめる。室内は静かなままだった。
「祖母は、聖人や聖女に替わり結界を張る方法が見つかれば、聖人テオドール様のような思いをする人が減るかもしれないと私に期待してくれました。私にとっても、テオドール様は祖母の弟、親族で代えはききません」
グッと涙を堪えながら、モニカは語る。
「聖女リンジー様が居なくなり、再び高齢のテオドール様が負担を強いられるのは、親族として抗議します」
モニカは国王を真っ直ぐに見つめて、キッパリと言い切った。国王は、安穏に顎髭を撫でながら頷いて口を開く。
「モニカ嬢。きみの言い分は分かった。聖人テオドール様に、魔力の提供は依頼せず、モニカ嬢の考えた方法で明日から結界を張るとしよう」
その言葉に、モニカの表情は明るくなる。ジャレッドは優しくモニカの肩を撫で、オリビアとエルムは小さくガッツポーズをし、ローガンはホッと胸に手を当てた。
「神官長。光魔法を使える神官たちを集めて、明日から対応を始めてくれ。魔力を提供した者が偏らないように、署名をさせて王宮に提出すること」
「承知しました」
国王からの命に、神官長は頭を下げる。
「宰相。後ほど魔塔の魔法使いたちに結界を張る魔力を提供出来ないか通達を」
「御意に」
宰相は国王に深々と頭を下げると、近くに控えていた部下に指示を出した。部下は頷くと一礼して退出する。
モニカがそっと手を上げると、国王は首を傾げながら発言を許可した。
「陛下。聖女リンジー様がもし戻られたら、捕らえたりせずに保護してください。そして、何故ソア国へ向かわれたのか理由をお聞きいただきたく存じます」
モニカの発言に、シリル王子は弾かれたように手を挙げる。国王は小さく頷いて発言を許可した。
「私からもお願いします!リンジーは、心根の優しい子です。きっと、そうせざるを得ない理由があったはずです」
シリル王子の言葉に国王が頷くと、室内はホッとした空気に包まれる。宰相が次に手を挙げて発言を求めた。
「陛下。結界に関してはモニカ嬢の研究で対策は取れました。しかし、ソア国からの侵攻の可能性が残っております。国境付近に兵を配置してよろしいですか?」
国王は顎髭を撫でながら、少し考え込んでいる。そして、ニヤリと笑って宰相を見た。
「宰相。ソア国と内通している国はあると思うか?」
その発言に、宰相は目を細める。悪い大人たちの笑顔を見て、政治の話は余り聞きたくないと、モニカはキュッと口を一文字にした。
「そう……ですね。我が国とソア国と隣接しておりますズーハオ皇国辺りでしょうか?」
「仕方あるまいな。ソア国とズーハオ皇国に隣接している領地へ、武装するように通達。そして、兵を向かわせ防衛を。他の領地にも一応武装するように通達を出せ。魔塔にも協力するように要請を」
「御意に」
出来れば戦争になって欲しくないとモニカは願うが、それは誰にも分からない。不安気なモニカの肩を、ジャレッドは再び元気付けるように撫でた。