第一章 グラスタ村①
イカです。
第八話
真っ白な空間。
寝ているような立っているような不思議な感覚。
温かな陽の光のようであり、どこか意志のある光りのようでもある。
何も考えれない。
何も考えたくない。
何か大事な事をしていた気がする。
何か大事な事をしないといけない気がする。
でも、このまま此処に居たいと思ってしまう。
・・・・・・
・・・
誰かが呼んでいるような気がする。
俺の奥底に直接入り込んでくるような。
不思議と不快な感じはしない。
むしろそれが当たり前に思える。
・・・・・・
・・・
「・・・・・・ちゃ・・・!」
「・・・と・・・ちゃん!」
「とうちゃん!」
重たい瞼がゆっくりと開かれる。
焦点が合わずぼんやりとする視界が徐々にクリアななってくる。
最初に映ったのは真っ黒な瞳に大粒の涙を浮かべる小さな少年。
…しょうま、か。
(・・・俺は、一体・・・)
直ぐには思考する事が出来ず、ボーとその顔を眺めている。
「とうちゃん!ねえ、とうちゃんがおきたよ!」
するとしょうまが俺から離れて部屋の外へと飛び出して行った。
静かになった部屋の天井を未だにボーとする頭で見つめていた。
此処は何処だろうか。
古びた木で作られている天井から視線を外し部屋の中を顔だけ動かして見渡す。
十畳くらいの広さの部屋の真ん中に布団が敷かれておりそこに俺は寝ている様だ。
布団のすぐ横には背の低い小さな机が置かれており、上にはコップやら乾燥した草の様なものなどが置いてある。
部屋の端にはタンスのような大きな棚が鎮座し、反対側には引戸となった木の扉がある。
その扉の向こう側から、ドタドタドタと騒がしい足音が近付いてくると、シャカっと勢いよく扉が開かれた。
「とうちゃーんっっ!?」
そのままの勢いでしょうまが俺に飛び込んできた。
抱き止めようとしたが上手く腕を動かす事が出来ず、そのまま俺の胸へダイブする形となって、
「ぐふぅ!」
肺の中の空気をすべて強制排出される事となった。
「ゴホッゴホッ!・・・しょうま。ちょっと痛かったぞ。」
「とうちゃーんっ!うわぁぁーーん!」
そんな俺の言葉など全く聞いていない様子で思いっ切り泣き喚き始めた。
その泣き声で此処が現実であると認識させられ、徐々に思考が加速されていく……。
「っ!?しょうまっ、お前大丈夫か!何処か怪我していか!?というかあのイノシシは!?あれからどうなった!?それに此処は何処だ!?」
一気に現実に引き戻され、今のこの状況が俺の記憶に無い状況の為混乱する。考えが纏まるより先に思った事が次々と口に出される。
まだ5歳の子供に応えられるはずも無いのに、今の俺にそんな余裕は無かった。
つい先程まで死を覚悟していた身としてはこの状況は異常である。
「うぅっ、うぅっ、うぅぇ。」
しょうまは泣くばかり答えようとしない。
そもそも答えを持ち合わせていない。
そんなしょうまに更に声を発しようとした所で、
「起きたようだな。調子はどうだ?」
「!?」
突然聞こえてきた渋く貫禄のある声。
驚いて咄嗟に身体を起こそうとして、
「っゔ!痛ー。」
身体中が軋みを上げ、激痛が襲ってきた。
まるで全身が筋肉痛になり更に全身を殴られたような痛み。
それにまだ手足が痺れているようで思うように動かせない。
「あまり動くでない。死にかけだったんだぞ。無理をすれば本当に死ぬぞ。」
痛みに顔をしかめながら声がした扉の方へ顔を向ける。
そこには短髪白髪の初老の男が立ってこちらを見下ろしていた。
瞳は焦茶色で、顎には髪と同じ色の立派な髭が生えている。
顔は東洋人ぽい出立ちだ。
紺色の着物の様な服の所々から覗かせる盛り上がった筋肉。
とても初老とは思えない体つきである。
「・・・あんたは・・・?」
「いろいろ話した事はあるが、まずは自己紹介だな。儂はダン。この村の長をしておる。して、お主らは何者だ?」
「村?え、と、俺は藤沢かいとって言うものです。この子は息子のしょうま。村って言ってましたけど、何処の村です?」
まだ俺の胸の上で啜り泣いているしょうまの頭を撫でながら自己紹介をしたが、混乱だらけの状況に更に新たな疑問が生まれてもう何が何だかわからなくなってきた。
「此処はグラスタ村だ。・・・ふむ。どうやらお互いに情報交換が必要なようだな・・・。」
そう言ってダンと名乗った男は俺から少し離れた所にあぐらをかいて座り真っ直ぐ俺を見つめてきて、目を見開き硬直した。
「っ!?その瞳!まさかっ!・・・・・・いや、すまない。話しを続けよう。」
一瞬声を荒げたかと思うとすぐに平常心に戻ったようで話しをする態勢になった。
すると今度は扉の奥の方から早足で迫ってくる二つの足音が聞こえてきたかと思うと、
「父上!」
「お父様!」
勢いよく扉が開かれ二人の男女が飛び込んできた。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
いろいろとご都合主義です。どうかご理解下さい。
藤沢家の名前は全て平仮名です。読みづらいかもしれませんがご了承下さい。
別視点からではカタカナになっています。
投稿は不定期ですが温かい目で見守ってくれると助かります。
では、次回もお楽しみに。