第一章 始まり⑥
イカです。
第六話
草原と違って森には枯枝や石などが多く落ちている。
普段裸足でこんな所を歩くはずもない俺はかなりの過酷を強いられていた。
足の所々から出血し、その傷口に土や砂などが入り込み激痛と戦っている。
だからといって足を止めれるはずもなく唯ひたすらに歩いて行く。
しかし悪い事ばかりでは無い。
目印をつけるものを探さなくても等間隔に木にキズを付けるだけで良いのだ。
それに水は無くとも食べる事が出来そうな葉や実が少なからずある。
サバイバルな知識など皆無な俺にはどれが食べられるの物なのか全然わからないのだが、息子が飢えてしまうくらいなら毒味でも何でも出来ると思えるようになり、とりあえず試しまくった。
初めて口にしたのはサクランボみたいな木の実だ。プリプリしていて甘いだろうと思い込んで食べてみたら、物凄く酸っぱくて思わずぺっとしてしまった。こんな物は息子に食べさせれない。
キノコ類もたくさん生えていたが流石にそれらは食べるのに抵抗がありやめた。
そうして毒味を続けてようやく食べられそうなものを発見した。
拳程の大きさで見た目はココナッツみたいだが感触は柔らかい。
少し力を入れると簡単に皮を剥く事が出来て、食べるととても甘い。
何より水々しくて軽い水分補給にもなる。
我ながら大発見だなと一人でドヤ顔になっていた。
すぐにしょうまにも食べさせたら、
「おいしい!」
と好評だった。
食料探しに夢中になっていて気付けば辺りは既に暗くなり始め足元も見えづらくなっていた。
仕方ないと、引き返すのは諦めて森で一夜を過ごす覚悟を決めた。
先ずは寝床の確保からか。
少ない知識を絞り出しながら暫く歩いていると他の所よりも少し高台の場所があり、直感で此処に決めた。
その高台を囲む様に等間隔に枯れ枝や大きめの木を地面に突き刺し蔦のような長い植物で繋ぎ更に小さな枝などをくくり付け、それらを隠すように大量の枯れ草をてんこ盛りに敷き詰めて簡易的な鳴子のようなものを作った。
しょうまも一生懸命に手伝ってくれたのでご褒美に最後のチョコレートをあげた。
その高台の中心に俺としょうまで座り、水筒の残り僅かな水をしょうまに飲ませていた。
「いよいよヤバいな。しょうま明日本格的に水を探そう。」
「わかった。」
「眠たかったら寝て良いからな。」
「まだねむくない。とうちゃはねないの?」
「父ちゃんも眠たくなったら寝るよ。それより夜は冷えるかもしれないから上着を着ておきなさい。」
正直眠たい。普段なら仕事が終わる頃だが、ひたすらに歩いた疲れと非現実的な状況が身体と精神を疲弊させていた。
しかし暗い森の中で気を緩める事は出来ない。遠くから遠吠えのような声も聞こえるし、風で木々がガザガサ揺れる度にドキっとしてしまう。
比較的大きめの綺麗な葉をかき集めてベッド代わりにしてその上に俺のジャンパーを敷いてしょうまを寝かせる。だがついさっきまでぐっすり寝ていたのですぐには寝れないようでゴロゴロと寝返りを打っている。
しょうまが寝るまでリュックの中身でも確認しておこう。
一つ一つ取り出して何か使える物がないか考えを巡らせる。
まずは水筒。
水源があればまた補充が出来るな。
ハンカチと汗拭きタオルが一枚づつ。
これは何かと使えるだろう。だがここまでで何度か使用したので洗いたいところだ。
ビニール袋が大小一枚づつ。
今は二つ共先程調達した食べられそうな木の実などが入っている。
スマホと充電器。
これは何故か電源すら入らない。一番最初にコレに頼ったが、使い物にならなかった。充電器に挿しても反応無しだ。
筆箱。
中身は3色ボールペン、シャーペン、消しゴム、定規、ハサミ。
これも何かに使えないかな。今のところ思い付かないな。
折り畳み傘。
雨が降れば使うだろう。
以上だ。
(ん〜・・・)
これから生き残る為に無い知恵を振り絞って考えを巡らせる。
なんかフワフワしてきたな。考えすぎたか。
軽い眩暈のような感覚に陥ったので思考を停止してフゥーと息を吐き出す。それに手が少し痺れるような感覚。
少し横になろう。
取り出したものをリュックにしまい込んでそれを枕代わりに寝転がる。
横に目を向ければしょうまがウトウトしている。
流石は子供だな。それか子供なりにこの状況に疲れているのか。
視線を目の前に向ければ木々の間から見える輝く星々。
(これが家族旅行で見る景色なら最高だっただろうな。)
(帰ったらキャンプでも挑戦してみるか。)
そん事を思っていると、
ガサガサガサ
風で草木が揺れるのとはまた違った音が遠くの方から聞こえてくる。明らかにこっちに近付いてくる音にすぐに飛び起きた。
(・・・なんだ?)
緊張で体が強張りなら片膝立ちになりながら荷物を纏めリュックを背負い、しょうまに向かってシーっと人差し指を口に当てて静かにするようにジェスチャーし、俺の胸に抱き寄せた。
ガサガサガサガラガラ
すぐ近くまで来ている方向へ身体ごと向けて何がいるのか目を凝らす。
すると枯れ草を蹴散らしながら姿を表したのは、
(!?)
大きな四足で歩く獣だった。
木々の間から漏れる光りしか光源が無い為はっきりと見えないが3mくらいありそうだ。
俺達を視認したからか、その足を止めたようだ。
色は暗いからよくわからないが茶色っぽい。
黄色に光る獣特有の瞳が真っ直ぐ俺達を見据えていた。
その距離約20m。
「とうちゃんこわい!」
しょうまが思わず口にしてしまった言葉にその獣はピクリと反応した。
「シっ!」
とっさにしょうまの口を塞ぎ絶対に動かないように強く抱き締めた。
少し様子を伺っていたイノシシの様な獣がついに足を動かし始め、一気に駆け出してきた。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
いろいろとご都合主義です。どうかご理解下さい。
藤沢家の名前は全て平仮名です。読みづらいかもしれませんがご了承下さい。
別視点からではカタカナになっています。
投稿は不定期ですが温かい目で見守ってくれると助かります。
では、次回もお楽しみに。