第一章 始まり①
はじめまして。イカです。
さあ、始まります。
第一話
「ハァ、ハァ、ハァ…もう、勘弁して、くれ…」
11月に入ったというのに半袖で、額から汗を垂らしていた。
太陽は西へ傾き始め、気持ちよく感じる北風が少し茶色く変色し始めた芝生を大きく揺らしている。
ゆっくり息を整えながら素早く周りを見渡して...
「…いたっ!」
すぐさま体を180°回転させ腰を少し墜として前傾姿勢になりながら両足に力を入れると一瞬で駆け出す。
前方に見える二つの小さな影が慌てて別々の方向へ逃げ出した。
俺はその内の一人へと徐々に方向修正しながら走っていく。前方の真っ黒な腰ほどまである長い髪をわっしゃわっしゃにしながら俺から逃げている。が、徐々に近づいていき手を思いっきり伸ばして肩に触れようとしたその時、視界から長い髪が消えた。
「なっ!?」
「ハァ、ハァ、…残念、父さん…!」
俺は前傾に体勢を崩してしまいそのまま芝生へダイブしてしまった。今日何度目かもわからない芝生との熱い抱擁を感じながら少し後ろからしゃがんだ体制のまま黒髪の少女は、その真っ黒な瞳で俺を見て勝ち誇った顔をしていた。
そういう事か。
手が触れる直前にしゃがまれたんだな。いや、でも、俺も若い頃はそれなりに運動には自信あったんだけどなぁ....。8歳の子供に負けるとか、なんか悔しい!
まぁでもそんな事より、
「ハァ、ハァ、負けだよ、ゆかり。てか、もう父ちゃん限界だ...」
「ふふっ!やった、私たちの勝ちー!しょうまっ、勝ったよー!」
「え、もうおわりー?とうちゃんよわー!あははー!」
「勘弁してくれ。父ちゃん今から仕事なんだぞ。」
〈ゆかり〉と呼ばれた女の子。そう俺の自慢の娘だ。特徴的なのは腰まで伸びてる真っ黒な綺麗な髪だろう。サラサラのその黒髪は結ってるわけでもなくそのままストレートにしている。まぁ今は汗でベトベトだが。今年で8歳になった小学2年生。口数は少ないがしっかり意見を言ってくる。お姉ちゃんという自覚が強いのかよく弟の面倒をみてくれる。あとは運動神経が凄く良いって事か。俺が本気でやっても今日勝てなかった…。
そして〈しょうま〉と呼ばれた男の子。ゆかりの3つ下の5歳の俺の息子だ。髪は俺と一緒でショートウルフで黒髪。瞳は姉と一緒で真っ黒だ。
好奇心旺盛ですぐにどこかに行ってしまう普通の男の子。
ゆかりがとても可愛がっている事もあってお姉ちゃん子だ。今日もお姉ちゃんの指示でいろいろ動いていたみたいだし、兄弟仲が良いのは良い事だ。
そんな今日は俺の仕事が夜勤の為、天気も良いし早く帰ってきた子供達と公園で遊んであげようと軽い気持ちで誘ってしまったのが事の発端。家から10分程の所に公園がありその園内にはかなりの広さの芝生広場がある。その公園に到着するなりいきなりゆかりが、
『あ、ちーちゃんと、いっちゃんがいる。』
と言って友達を見つけた様で駆け寄って行ったと思えばすぐさま友達を引き連れて戻ってきた。
『『おじさんこんにちわー!』』
『どうも、こんにちわ。ゆかりのお父さんです。いつもゆかりと遊んでくれてありがとうね。』
そんなやり取りの後に、みんなで氷鬼という遊びをやろうという事になったのだが、その鬼役は当然のように俺になった。
初めてやる遊びだったが鬼というくらいだから鬼ごっこぽいんだなって簡単に考えてたら、けっこうハードだった。
それから一時間くらいやったかな…。肺が痛いよ…。久しぶりにこんなに走った気がする。
子供の体力すげー。
ようやくみんな休憩するっていってお菓子タイムになった所に、ちーちゃんといっちゃんの保護者の方が迎えにこられてそそくさ帰っていった。
のは良いんだが、うちの子達は不完全燃焼だったようで、そこからのおかわり時間が始まり、冒頭へと繋がったわけだ。
「さぁ、ゆかりもしょうまも水分しっかり取って、汗吹いたら、帰るよ。」
汗で肌に纏わりつく芝をはたき落としながらゆっくりと起き上がり子供達にそう伝える。
この公園はなかなかの大きさで、芝生広場、陸上競技場、野球場、さらに体育館もある複合施設だ。近所にこんな公園があるなんて恵まれてると思う。そのおかげで時間がある時は気軽に遊びに来れるので大変助かっている。
「「はーい」」
「父さんこれからお仕事なもんね」
2人仲良く返事をし、ゆかりが気を遣ってくれてたのか、しょうまがまだ遊びたそうな顔していたので論すような目でしょうまに言っていた。
「そうそう、父ちゃん今から夜勤なんだ。ごめんな。また明日時間があったら来ようか」
俺、父ちゃんこと、〈藤沢かいと〉。
髪はしょうまと同じショートウルフの黒髪で瞳は子供達と同じで真っ黒だ。
ただ一つ違うのは左目は真っ黒だが右目は少し青っぽい黒。
そして今から仕事なのだ。
隔週で昼勤夜勤があるごく普通の工場勤めのサラリーマンである。
夜勤の週はこうして出勤前に少し遊べるが、昼勤の週はなかなか太陽が顔を出している時間に帰れない。
なのでこうした時間は俺の中でとても貴重で体が辛くてもなるべく子供達と一緒にいたいと思う。
そうこうしているうちに2人共準備ができたみたいで、みんなで家に向けて足を進めるのだった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
いろいろとご都合主義です。どうかご理解下さい。
藤沢家の名前は全て平仮名です。読みづらいかもしれませんがご了承下さい。
別視点からではカタカナになっています。
投稿は不定期ですが温かい目で見守ってくれると助かります。
では、次回もお楽しみに。